東日本大震災後、2回目の冬を迎えました。エネルギー問題の抜本的解決をみない状況において、企業の節電・省エネに対する意識は急速な高まりをみせています。
節電・省エネの手法として注目されているのが「LED」照明です。LEDランプは従来の蛍光灯に比べ、消費電力が低く、寿命が長いという特長を持ち、節電・省エネに大きな効果をみせます。
普及が進むLEDランプですが、実は、設置方法の誤りなどによるトラブルも少なくありません。本コラムではQ&A形式で、「LED導入における注意点」をご紹介します。「普通の蛍光灯の交換と同じ」と考え思わぬ問題を招かないよう、参考にしていただければと思います。
Q1.省エネの取り組みとして、オフィスの蛍光灯をLEDランプに変更したいと考えています。購入予定の直管型LEDランプは既設の蛍光灯照明器具にそのまま設置できるようなのですが、取り替えて大丈夫でしょうか?
A.発売初期の直管型LEDランプには以下のような問題点も多かったのですが、最近の製品はこれらの不具合を改善し、質問のように既存の蛍光灯器具にそのまま設置できる、いわゆる「工事不要タイプ」と呼ばれるものが増えてきました。
初期の直管型LEDランプの主な問題点
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LEDランプ一本当たりの重量が重く、既存蛍光灯のソケットの耐荷重(500g程度)に適合できず、落下事故が発生したケースが報告されていました。
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LEDランプの熱を逃がすために、ランプ背面に放熱フィンが取り付けられているケースがほとんどでした。そのためランプ全体から光が放射されず、蛍光器具の反射板で反射される光が少なくなる等の理由から、交換前より取り付け後に室内が暗く感じられることがありました。
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前述の問題とからめて、LEDの光の直進性の問題から、室内で照度ムラが発生するケースが多く見受けられました(器具の下は明るいが、器具間は暗くなる等)。
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青みがかった光を発するものが多く、そのため交換後、執務環境に違和感を感じることがありました。
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LEDランプの特性上、既存蛍光灯器具の安定器等を取り外し(電源直結工事)、別途LEDランプ用の直流電源装置を設置する必要がありました。直流電源装置をランプ本体に内蔵しているタイプもありましたが、一般にはLED素子の寿命より直流電源装置の寿命が短いことが多く、直流電源装置内蔵タイプの場合、当初の予想期間よりも早い時期にランプ全体を交換する必要がでてくるケースがありました。いずれのタイプにしろ、LEDランプ以外に電源直結工事の費用を確保する必要がありました。
現在のLEDランプは、上記の問題を改善し、軽量で、光の配光特性を改善し、光の色も自然光に近く、電源直結工事を不要(そのまま、既設の蛍光灯器具に取り付けられる)とする、いわゆる「工事不要タイプ」のものが、多く流通してきています。
質問は、そのまま取り付けられるということに魅力を感じての内容と思われますが、既存蛍光灯器具の安定器等をつないだまま利用することから、以下の点に注意する必要があります。
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現在使用している蛍光灯器具のメーカー、型番、製造年代を、図面だけではなく、現物で確認し、導入しようとしているLEDランプとの相性を確認する。
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電源直結工事を必要とする製品も比較検討の対象とする。
これは、LEDランプ製品により、適合できない蛍光灯器具があるケースが存在するからです。
蛍光灯の点灯方式には大きく分けて(1)グロースタート型(2)ラピッドスタート型(3)インバータ型の3つが存在します。
(3)には適合できても、(1)(2)には適合できないケース等があります。また、(3)のケースの場合でも、インバータの種類も多数あるため、あるメーカーのAというインバータには適合できても、Bというインバータには適合できない場合もあります。また、同メーカーの同方式のインバータにおいても、製造年代により蛍光灯を使用する場合には問題がなくても、工事不要タイプのLEDランプを取り付けると焼損事故が起こったという事例も報告されています。
工事不要とするために、ランプ本体の中に直流電源装置以外の様々な小型電子回路が組み込まれているために、蛍光灯器具種類によりどうしても相性の悪いものが存在するのです。
また、工事不要タイプのLEDランプを製造しているところは、大手の照明器具メーカーではなく、いままでLEDの電子制御回路を製造販売していたベンチャー企業が多いのが特徴です。前述のようなリスクを十分把握したうえで、詳細に既存の照明器具との相性を確認しておく必要があると考えます。
現在のところ、LEDランプを導入する場合、システムとして一番安全・確実性が高いのは、電源直結工事を行ったうえで、LEDランプ本体と電源装置を別置する方式であることにもご留意ください。工事不要で導入費用が安くなるからという理由だけで導入を決定するのではなく、電源直結工事が必要な製品とも比較検討を行う必要があると考えます。
Q2.賃借オフィスに入居しています。執務エリアの照明をLEDランプに切り替えるにあたり、ビルオーナーにどのようなことを事前確認・相談等しておくと良いでしょうか?
A.工事不要タイプと、電源直結工事が必要なタイプの2つのケースについてお答えします。
工事不要タイプ
既存照明器具の詳細を十分確認しておく必要があるのは前述の通りです。賃貸オフィスの場合、照明器具本体はテナント資産ではなく、オーナー資産であることがほとんどです。LEDランプ導入により、オーナー資産である照明器具本体(ソケット部分や安定器部分等)になんらかの障害が発生した場合の責任区分を明確にしておく必要があると思われます。
一方、LEDランプの導入により、ピーク電力が下がればオーナーサイドにとっても基本電力料金が下がる等のメリットも発生します。省エネルギー等を推進しているビルオーナーであれば、受け入れられる可能性は低くないと思われます。
電源直結工事必要タイプ
電源直結工事を行う場合、オーナー資産を改造することになるわけですから、工事実施の可否だけでなく、(1)B工事になるのか、C工事になるのか等の工事区分がどうなるのか、(2)退去時の原状回復仕様をどのようにするのかを事前に相談し取り決めしておく必要があります。
既存照明器具の安定器等を完全に取り外してしまう場合、その保管場所をどうするかにも留意が必要です。また、既存照明器具の詳細を十分確認しておく必要があるのは前述の通りです。
Q3.オフィスを退去することになりました。自費で設置したLEDランプの寿命がかなり残っているので移転先に持っていきたいのですが、可能でしょうか?
A.賃借オフィスの場合、退去時の原状回復基準の中には管球交換が含まれていることがほとんどです。
「工事不要タイプ」の場合、新規蛍光灯ランプの費用を負担すれば、拒絶するオーナーは少ないと考えられます。
「直結電源工事必要タイプ」の場合は、蛍光灯器具の安定器等をLEDランプ導入前の状態に戻し、新規蛍光灯ランプを取り付ける必要があると考えられます。
Q4.蛍光灯をLEDランプに切り替えると、電気代が下がり間違いなくコストメリットがあると考えて良いですよね?例えば200坪ほどのオフィスの場合、すべての天井照明(下面開放タイプ直管形)を蛍光灯からLEDランプに取り換えると、月々の電気料金は、おおよそどれくらい節減できるのでしょうか。
A.以下の想定の場合、約24,000円/月の電気料金削減になります。
LEDランプ導入の際には、初期投資と投資回収年を考慮してご検討ください。各メーカーから、様々な投資回収についての提案書が提示されると思われますが、上記2~5の設定条件を必ず確認し、実情と異なる場合は、条件を変更して算定し直していただくのがよいと思います。特に3に関しては、現地調査を行い実測結果にもとづいて検証するとより効果的です。
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オフィス面積:約200坪
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FL40W×2照明器具:140台
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照明器具1灯当たりの消費電力:蛍光灯 85W⇒LEDランプ 50W
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点灯時間:9時間/日
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稼働日数:236日(土、日、祝日、年末年始、お盆をのぞいた稼働日数)
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電気料金単価:27円/kwh
Q5.手間や初期費用のことを考えると、「工事不要タイプ」のLEDランプが魅力的に思いますが、何か注意点や落とし穴はありませんか?
A.Q1で回答したように、「工事不要タイプ」の直管型LEDランプを製造販売しているのはベンチャー企業がほとんどです。また、製品も様々なメーカーから新製品が発売されています。省エネ展などを見学すると前回出店していた会社が、もう存在していないというケースも見受けられます。
したがって、万が一なにか障害が起こった場合のリスク回避を検討しておく必要があります。たとえば、保証期間を長めに設定(2~3年が一般的)する、信用力のある商社等を通して、LEDランプを購入し、保証責任はその商社にもってもらう等が考えられます。
Q6.善は急げで、オフィスの全照明を一斉にLEDランプに切り替えるつもりです。作業環境によって、どのような影響が予想されますか。
A.前述のように、LEDランプは独自の配光特性、色を持つものがほとんどです。改良を重ねているとはいえ、最新の蛍光灯に追いつけていない部分も多々あります。照明環境は執務環境に大きな影響を与えるものですから、まずは一部の部署に先行導入して従業員の方の意見を聞いてみるのもよいでしょう。
良心的なLEDランプメーカーであれば、一部導入実験をローコストで対応してもらえる場合もあります。
Q7.照明の省エネと言えば、LEDランプへの切り替えだけを考えておけば間違いないですよね?
A.古典的な方法ですが、電気をこまめに消す。照明の省エネの場合これが非常に効果的です。昼休みの時間帯は照明器具を一斉消灯する。点滅回路を部署の配置特性に合わせて細かく分けて、人がいない場所の電気を消す等の方法があります。
蛍光灯から、LEDランプに変更した場合、消費エネルギーの削減効果は最大で40%程度と考えられますが、1日10時間従業員がオフィスに滞在すると仮定した場合、昼休みの1時間照明器具を消灯するだけで10%の消費電力削減になります。最新のオフィスビルの場合、照明スイッチの設定変更だけで、一つのスイッチで照明器具を全消灯、全点灯することが可能なケースがあります。昼休みの時間帯になったら総務の方主導で一斉消灯し、昼休みが終わったら全点灯を行う。
これにより、従業員の方への省エネ意識の啓発にもなりますし、初期投資もほとんどかからず省エネを行えます。
執筆者紹介
シービーアールイー株式会社
アセットサービス本部コンストラクションマネジメント部 上條・江口
※免責事項
本稿は、当然のことながら、LED照明について、その全てを説明したものではありません。実際の事案では、個別オーナーへの確認や専門家への相談が必要です。当社は本稿の説明についていかなる責任も負うものではありません。