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建替え等に伴うテナント「立退き」の法律知識

お役立ち

2011年11月22日

本年3月11日に発生した東日本大震災以後、建物自体に倒壊の危険が生じたり内部配管が破損したために建て替えたいとか、地震の影響はなかったが旧耐震基準で建築された建物なので耐震補強工事を行いたいといった理由で、建物の所有者・賃貸人(以下「オーナー」といいます)から退去を要求されるケースが関東圏を中心に増えているようです。また、今回の震災とは関係なくとも、建物の老朽化に伴い建替えを行いたいという理由でオーナーから立退きを請求される場合もあります。
建物の賃借人(以下「テナント」といいます)はそのような立退き請求に従わなければならないのでしょうか。

まず、法律的には、立退き請求と言った場合、[1]オーナーからテナントに対して賃貸借契約の解約申入れ(更新拒絶)がなされ、賃貸借契約の終了に基づき立退き請求がなされるケースと、[2]現在の建物賃貸借契約は継続したまま、オーナーからテナントに対して建替え工事等のために一時的に退去請求がなされるケースの2つが主に考えられますので、借地借家法が適用されることを前提に、これらについてお話しします。なお、想定事例のような場合、オーナー側に修繕義務違反が認められ、これに伴い賃料減額や損害賠償が可能な場合もあるかとは思われますが、今回は、この論点については特に取り上げません。

※以下では、一時使用目的の賃貸借契約でないこと、テナントに債務不履行がないこと、罹災都市借地借家臨時処理法が適用されないことを前提にします。

1.上記[1]のケース

1)建物の滅失

建物が「滅失」した場合には、賃貸借契約は当然に終了し、貸室を明渡さなければなりません。基本的には立退料も支払ってもらえません。実際に建物が物理的に全壊しているわけではない場合、「滅失」に該当するかどうかは微妙な判断になります。建物の損傷の程度、修繕の費用、建物の耐用年数、老朽度及び家賃の額等も含めて、建物としての効用が失われているかどうか、総合的に判断されることになります。

2)正当の事由による解約

期間の定めのない賃貸借契約の場合、又は、期間の定めのある賃貸借契約においてオーナーからの中途解約を認める特約がある場合、「正当の事由」(借地借家法第28条)があればオーナーからの中途解約が認められる可能性もあります。

3)期間満了による終了

期間の定めのある賃貸借契約において、期間の満了をむかえる場合ですが、まず、定期建物賃貸借契約の場合には契約の更新は当然にはできませんので、オーナーと再契約しない限り、期間満了と同時に定期建物賃貸借契約が終了し、テナントは建物を明け渡さなければなりません(なお、期間一年以上の賃貸借の場合、オーナーは、期間の満了の1年前から6月前までの間に、テナントに対し終了通知をしなければなりません)。

他方、普通建物賃貸借契約の場合、更新拒絶につき「正当の事由」がない限り、建物賃貸借契約は更新されます。具体的には、期間満了の1年前から6ヶ月前までの間にオーナーから更新拒絶の通知を受ける(借地借家法第26条第1項)ことに加え、更新拒絶につき「正当の事由」(同法第28条)があってはじめて、建物賃貸借契約は終了することになります。

4)「正当の事由」

上記(2)(3)で問題となりうる「正当の事由」の有無の判断は、建物の使用を必要とする事情、建物賃貸借に関する従前の経過、建物の耐用年数・老朽度、建物の利用状況、建物の損傷の程度・修繕に要する費用、立退料支払の有無等によって総合的に決します。判断の上で、立退料支払の有無、金額の程度が非常に重要になりますので、立退料に関する交渉を検討しても良いでしょう。

具体例ですが、例えば、建物の朽廃が進んでおり、倒壊の危険、衛生状態の悪さ等の事情があれば、「正当の事由」が認められ易い傾向にあります。また、建物の朽廃が迫っていない場合でも、当事者間で建物の建替え後再度賃貸借契約を締結する合意がある場合には、「正当の事由」が認められ易い傾向があります。この場合、立退期間中のテナントの営業利益等の損失を立退料でどの程度補完できるかが主なポイントになると考えられます。

他方で、そのような合意がない場合に、「正当の事由」が認められるケースとしては、オーナーの自己使用の必要性がテナントの使用の必要性に優越する場合や、オーナーの使用の必要性それ自体ではテナントの使用の必要性に劣る場合であっても、立退料の提供等でテナントの不都合が実質的に填補されていると認められる場合等が考えられます。現実に訴訟になった場合には、賃借物がオフィスなどで、個人の生活の本拠となっていないようなケースでは、テナントの損害は経済的に補償できるものと判断され、その結果立退料の金額が焦点になることが多いと考えられます。

オーナーから更新拒絶・解約申入れを受けたテナントとしては、継続使用を希望する場合には、自らがその建物を使用すべき必要性を主張し、他方、移転に応じてもいいと考える場合には、移転コスト等を十分カバーする合理的な立退料を得られるように交渉を行うことになります。

5)立退料

では、立退料の相場はどの程度なのでしょうか。
一般論としては、オーナーの明渡しの必要性・老朽化の度合いが低いほど立退料の額は高額になります。また、テナントが建物を営業用として利用している場合には、営業利益の喪失分が含まれるため、立退料の額も居住用の借家と比較して高額になる傾向があります。
立退料の算定要素としては、借家権価格、引越代等の移転に要する費用、新たな賃貸借契約締結のための費用(仲介料・礼金等)、代替店舗確保に要する費用、賃料差額分、営業補償(営業廃止補償・営業休止補償・営業規模縮小補償)、再開発の場合の再開発利益の配分額、転居による慰謝料(見舞金)、従前の賃貸借契約の期間、当該建物での年間売上額等があります(但し、上記要素の全てが考慮されるわけではありません)。

具体的な算定方式は、
(新規実際賃料-現行支払賃料)×一定期間(2~3年程度)+礼金等の前払金(※敷金は返還されることが予定されているため含まれません)
に加え、移転先で必要になる工作物・造作・動産に対する補償(撤去費・運搬費・設置費などが含まれます)、引越費用、営業補償(収入源補償、固定経費の補償、従業員の休業手当相当額の補償、得意先損失の補償などが含まれます)、現在の家賃が標準的家賃と比べ低い場合はその差額分の一定期間の補償などがプラスされる傾向にあります。

もっとも、これらの算定要素は場合によって考慮されないものもあり、また営業の種類、従前の経過(契約年数、賃料、建替えの合意の有無、地上げ目的の有無等)、建物の現況、建物の遵法性、地域の状況等の影響も受けます。取壊し・建替えの事案で、正当事由の判断に当たって立退料の額が問題になった裁判例には、立退料がゼロとされた事案もある一方で、数億円の立退料支払が必要とされた事案もあります。このように、立退料は個々の事例によって大きく変動しますので、上記の算定方式はあくまで一つの目安として参考にして下さい。

2.上記[2]のケース

民法606条第2項は、賃貸人が賃貸物の保存に必要な修繕をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができないと定めています。何が「賃貸物の保存に必要な」修繕に該当するかについてはあまり明確ではありませんが、例えば雨漏りの修理などがこれにあたるとされており、建物の倒壊の危険又は老朽化を理由として建替え工事等を実施することもこれに該当する可能性があります。
したがって、その場合には、オーナーがこのような修繕を行うために一時退去を求めてきたら、テナントはこれに応じる必要があります。テナントがこれに従わ ない場合には賃貸借契約の解除理由とされてしまうこともあるため、注意が必要ですが、他方で、当該修繕がテナントの意思に反する場合で、それによって賃借の目的を達成できないときには、テナントは賃貸借契約を解除できるとされています(民法第607条)(但し、オーナーの上記修繕義務やテナントによる解除権を特約で排除している場合もありますので、注意が必要です)。

もっとも、一時退去請求に応じなければならない場合であっても、修繕等をなすオーナーは、テナントの利益を害しないことについて周到な注意を払わなければなりませんので、テナントとしては、修繕等に必要な範囲を超えた一時退去請求でないかについて十分にチェックすることが必要です。また、契約書の内容にもよりますが、一時退去期間中は、使用収益できない部分に対応する賃料支払義務は負わないとされるケースが多いのではないかと思料されます。

著者プロフィール

西村 直洋(にしむら なおひろ)氏
長島・大野・常松法律事務所パートナー

1991年東京大学法学部卒業、1993年弁護士登録、1998年Harvard Law School卒業、1998年~1999年Davis Polk & Wardwell(New York)勤務

小泉 宏文(こいずみ ひろふみ)氏
長島・大野・常松法律事務所アソシエイト

2005年東京大学法学部卒業、2007年弁護士登録

吉良 宣哉(きら よしや)氏
2009年東京大学法学部卒業、2010年弁護士登録

2005年東京大学法学部卒業、2007年弁護士登録

※免責事項
本稿は、建替え等に伴う立退き請求に関する法律関係の全てについて説明したものではありません。また、契約の内容や事実関係によって結論が異なってくる場合もありますので、実際の事案では、専門家に相談することが必要です。また本稿の説明についても、判例、解釈、運用が確定していない部分も多くあり、本稿の説明は絶対的なものではありません。執筆者及び当社は本稿の説明についていかなる責任も負うものではありません。

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