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建物賃貸借契約の「解除」と「解約」の違いとは?

お役立ち

2020年7月28日

※2020年7月28日更新

今回は、建物の賃貸借を前提に、契約期間中に賃貸借契約を終了させることのできる根拠について、基本的な解説を行います。

解除と解約

解除とは、契約が締結された後に、その一方当事者の意思表示によって、契約関係を遡及的に解消することをいい、解除をしようとする当事者に解除権がある場合に認められるものです。

もっとも、契約関係が長期にわたって継続する賃貸借契約では、今までの賃料や使用収益関係等を遡って精算することは無意味であるため、解除の遡及効は認められておらず、解除の時から将来に向かってのみ契約関係が終了するとされています(民法第620条)。

他方、解約とは、賃貸借契約のような継続的契約関係において、解除権の有無とは無関係に、一方当事者の意思表示により契約を将来に向かって終了させることをいい、一方当事者の意思表示により、一定の要件の上で契約が終了することが認められるものです(解除と解約については、法令上は、解約のことを解除という場合も多くあります。上記と異なる用法で用いられる場合もあると思われますが、ここでは実務上も用いられることが多いと思われる用語法に従い、上記のような意味で使用させていただきます。)。

賃貸借契約においても、契約の期間が満了しない間に一方当事者が賃貸借契約を途中で終了させる場合、大きくわけて[1]賃貸借契約を債務不履行等により解除する、又は、[2]賃貸借契約を解約するという手段があります。

典型的には、[1]の例としては、賃貸人又は賃借人に、賃貸借契約の契約違反等があるときに、他方当事者がそれを理由として契約を終了させる場合があり、[2]の例としては、賃貸人にも賃借人にも賃貸借契約の契約違反がないにも拘わらず、一方の当事者の都合によって契約を終了させる場合があります。

これらは、要件や効果が異なるものですので、上記[1]又は[2]のどちらに該当するのかを区別して対応することが必要です。 なお、終了させる時点において賃貸人及び賃借人の両当事者が合意すれば、契約上賃貸借契約を終了させる権利がなくても賃貸借契約を合意解約することは可能ですが、以下では一方的に契約を終了させる場合を中心に説明します。

賃貸借契約の解除

  • ビルオーナーからの解除

    テナント(以下「賃借人」といいます。)に賃貸借契約の債務不履行(例えば、建物の無断転貸をしたり、契約において定められた用法に違反したり、賃料を支払わなかったりする場合が考えられます。)がある場合には、ビルオーナー(以下「賃貸人」といいます。)はこれを理由として、賃貸借契約を解除することができる可能性があります。

    ただし、賃貸人からの債務不履行解除については、実際に建物を利用している賃借人を軽微な契約違反で追い出すことは酷であることから、判例上、違反行為が賃貸人と賃借人の信頼関係を破壊する程度のものであることが必要とされています。

    例えば、賃貸借契約書において、「賃借人が1回でも賃料の支払いを滞った場合には、賃貸人は、催告を行うことなく、本契約を解除することができる。」と規定があっても、その通りに、一回の不払いで解除できるとは限りません。

    具体的には、差し入れられている敷金の額、想定される原状回復工事の額、賃借人の賃借物件に対する投下資本の額、賃借人の態度や賃料の支払能力等を考慮の上で、ケースバイケースで、信頼関係の破壊の有無は判断されることになりますが、一般的には、賃料の滞納が3か月程度に達した時点で、賃借人に対する「催告」を行ってから解除するのが安全な場合が多いという考え方が実務では有力であるように見受けられます。

    賃借人の債務不履行により信頼関係が破壊されるに至った場合には、賃貸人の賃借人に対する解除の意思表示により賃貸借契約は終了し、賃借人は建物から退去しなければならないことになります。

    さらに、賃借人の契約違反によって、賃貸人に損害が生じた場合には、これを賠償しなければならない可能性もありますのでご注意下さい。

  • テナントからの解除

    賃貸人に賃貸借契約の債務不履行(例えば、建物の修繕義務を履行しなかったような場合が考えられます。)がある場合には、賃借人はこれを理由として、賃貸借契約を解除することができる可能性があります。

    解除が有効になされた場合、賃借人の賃貸人に対する賃貸借契約の解除の意思表示により契約は終了します(なお、賃貸借契約書中に債務不履行解除に関して、治癒期間、催告等の一定の手続的要件が規定されている場合には、原則として、かかる規定にも従う必要があります。)。

    さらに、賃貸人の債務不履行により、賃借人に損害が生じた場合には、賃貸人に対して債務不履行に基づく損害賠償請求をできる場合もありますので、このような場合には損害が生じた事情を証明する資料等を持参して、専門家に相談することが有用です。

賃貸借契約の解約

賃貸借契約の解約については、契約で期間を定めた場合とそうでない場合で異なりますので、以下場合をわけて説明します。

(1)期間の定めのない賃貸借契約

  • ビルオーナーからの解約

    期間の定めのない賃貸借契約であっても、賃貸人は、いつでも賃貸借契約を解除できるわけではなく、当事者双方の建物を必要とする事情その他種々の事情を考慮して、解約についての正当な事由がある場合にのみ、賃貸借契約を解約することができます(借地借家法第28条)。この場合、賃貸借契約は解約の申入れから6ヶ月を経過することにより終了します(借地借家法第27条第1項)。

    なお、賃貸人が6ヶ月前通知のみにより賃貸借契約を解約できる旨の規定を賃貸借契約に定めたとしても、正当な事由は必要となります。また、上記の6ヶ月間という期間についても賃貸借契約の規定によって短縮することはできませんので、留意が必要です(借地借家法第30条)。

    なお、賃貸人からの解約申入れがあっても、6ヶ月経過後、賃借人がなお建物の使用を継続する場合であって、これに対して賃貸人が遅滞なく異議を述べなかった場合には、賃貸借契約は更新されることになります(借地借家法第26条第2項第3項、第27条第2項)。

  • テナントからの解約

    これに対して、期間の定めのない賃貸借契約の賃借人は、いつでも賃貸借契約を解約することができます。しかし、賃借人が解約の申入れをした場合であっても、賃貸借契約が即座に終了するのではなく、原則として、解約の申入れの日から3ヶ月が経過することによって終了します(民法第617条第1項)。

    すなわち、解約の申入れから3ヶ月間分の賃料は支払わなければなりませんので、注意が必要です。

    なお、上記の3ヶ月間という期間は、民法上定められた原則的な期間ですので、賃貸借契約において別途解約予告期間が定められた場合には、それに従うことになります。

    なお、期間の定めのない賃貸借契約とは、当初の契約時に期間を定めなかった契約のほか、法定更新された賃貸借契約も含みます。

    つまり、期間の定めのある賃貸借契約であっても、賃貸人が期間満了の1年前から6ヶ月前の間に更新拒絶の通知又は条件を変更しなければ更新しない旨の通知をしない場合は、契約は更新されたものとされ、期間の定めのない賃貸借契約として扱われることになります(借地借家法第26条第1項)。

    また、この通知がなされた場合であっても、賃借人が契約終了後建物の使用を継続しているにもかかわらず、賃貸人が遅滞なく異議を述べなかった場合も同様です(借地借家法第26条第2項)。

    したがって、このような更新がなされた賃貸借契約の中途解約の場合にも、上記の説明が当てはまることなります。

(2)期間の定めのある賃貸借契約

  • ビルオーナーからの解約

    期間の定めのある賃貸借契約では、当事者がこの間賃貸借を継続させるという合意をしたのですから、原則として、一方当事者の事情によって、契約期間中に契約を解約することはできません。

    では、賃貸借契約に賃貸人が途中で解約をする権利を留保する特約(以下「解約権留保特約」といいます。)が付されている場合(民法第618条)はどうでしょうか。 この場合、借地借家法第27条において、賃貸人による解約申入れの予告期間が6ヶ月と定められ、また、借地借家法第28条において、賃貸人による建物の賃貸借契約の解約の申入れについては、正当な事由が必要であると定められているため、賃貸借契約において賃貸人の解約権留保特約が定められているとしても、上記の期間の定めのない賃貸借契約の場合と同様に、6ヶ月以上の予告期間及び正当な事由がなければ賃貸人が解約申入れを行うことはできないと考えられます(借地借家法第30条)。

  • テナントからの解約

    賃借人についても、期間の定めのある賃貸借契約において、解約権留保特約がない場合に、契約期間中に賃貸借契約を解約することができないことは、賃貸人の場合と同様です。

    なお、賃貸借契約に解約権留保特約を付した場合、上記の期間の定めのない賃貸借契約のテナントからの解約に関して記載したのと同様に、賃借人が賃貸人に対して解約の申入れをすると、原則として、その後3ヶ月が経過することにより、契約が終了することになります(民法第618条、第617条第1項)。

    もっとも、この期間についても当事者間で異なる特約を定めることは可能です。例えばビルの賃貸借においては、実務上賃借人が賃貸人に解約の申し入れをしてから6ヶ月を経過することで、契約が終了する旨の特約をすることが多いと思われますが、このような特約をした場合には、それに従い解約の申し入れから6ヶ月を経過することにより、契約が終了することになると解されています。

    なお、賃借人による解約権留保特約がない場合には、契約上は賃借人が賃貸借契約を中途解約する権利はないことになりますが、前述したように賃貸人との合意により賃貸借契約を合意解約することは可能ですので、どうしても自らの都合により中途解約する必要がある場合は、合理的な期間をおいた上で、契約を解約したい旨を賃貸人に申し入れてみることも一案です。

最後に

「解除」と「解約」は、一方当事者の意思によって契約が終了するという点で同じであるため、同じようなものであると思っている方も多いと思われます。しかし、上記で説明したように、問題となる場面もその効果も異なるものであり、区別しておくことが大切です。

著者プロフィール

西村 直洋(にしむら なおひろ)氏

長島・大野・常松法律事務所パートナー
1991年東京大学法学部卒業、1993年弁護士登録、1998年Harvard Law School卒業
1998年~1999年Davis Polk & Wardwell(New York)勤務

川口 裕貴(かわぐち ひろき)氏

長島・大野・常松法律事務所アソシエイト
2011年京都大学法学部卒業
2013年東京大学法科大学院卒業、2014年弁護士登録

※免責事項
本稿は、当然のことながら、建物賃貸借契約の解除及び解約に関する法律関係の全てについて説明したものではありません。 また、契約の内容や事実関係によって結論が異なってくる場合もありますので、実際の事案では、専門家に相談することが必要です。

また本稿の説明についても、判例、解釈、運用が確定していない部分も多くあり、本稿の説明は絶対的なものではありません。 執筆者及び当社は本稿の説明についていかなる責任も負うものではありません。

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