賃貸オフィス・事務所の記事

Vol.9 キュービーネット株式会社

ケーススタディ

2007年3月1日

徹底した時間効率主義と。"駅ナカ"展開で市場を開拓

髪を整えるだけでなく、髭剃り、マッサージ等、様々なサービスを提供する理容・美容室。来店客をリラックスさせるための付加価値を提供する一方、忙しいサ ラリーマンにとっては、その拘束時間から、利用しづらい面もあった。その不便利さに応えるべく、「10分の身だしなみ」をキャッチフレーズに、ヘアカット のみに特化したサービスを提供するのが「QBハウス」。短時間かつ安価ながらも上質なカットは、忙しいサラリーマンにとどまらず、幅広い層から好評を博し ている。これを展開するキュービーネット株式会社・代表取締役社長CEO岩井一隆氏から、顧客の生活に密着した多店舗展開と、その運営手法をうかがった。

キュービーネット株式会社
代表取締役社長 CEO 岩井 一隆

1995年、現名誉会長の小西國義氏により設立。現代表の岩井氏は、(株)日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)を経て、2001年に同社へ参画。主に株式公開や、アジアを中心とする海外店舗に携わり、2004年現職に就任した。同社が展開する「QBハウス」は、駅ナカや商業施設をはじめとする展開により、2007年2月現在、国内353店舗、海外29店舗まで拡大。理容・美容業界では最大規模を誇る。2008年には株式上場も見据え、さらなる店舗拡大を目指す。

創業のきっかけは、 日頃感じていた不満から

まず、「QBハウス」のコンセプトはどこから生まれたのでしょう。

来店客に無駄な待ち時間を与えないように設置された、赤、黄、緑の順で混雑度合いを知らせる信号機と店内

岩井当社創業者の小西(現名誉会長)は、とあるホテルの理容室に通っていたのですが、予約して行っても待たされ、時間がかかると、日頃から不満を抱いていました。そんな彼がふと気付いたのは、理容室にいる間は、シャンプー、髭剃り、マッサージ、理容師の電話応対による待ち時間がほとんどで、肝心の髪を切っているのはだいたい10分だということ。もっと短い時間でヘアカットに特化すれば、商売になるのではないかと考えたわけです。

自身が抱いていた不満をもとに、ビジネスを思いついたと。

岩井普通の高級理容室なら、シャンプー、髭剃り、マッサージなどを含めて、だいたい1時間で4,000円くらいでしょうか。10分という短い時間に、安価ながらも、しっかりとしたヘアカット。これなら、どんなに忙しいサラリーマンでも、気軽に整髪してもらえると考えたのです。

既存の理容・美容室との棲み分けも考えられた。

岩井でも、他のお店と同じようなつくりでは、設備や家賃などのコストを考えると、1,000円という単価では儲からない。それに、10分という短い時間で上質なヘアカットを提供するには、スタッフがカットに集中できる環境も必要です。

そこでまず、既存の理容・美容室にあるもので、いらないものは何かを考えた結果、残ったのは、はさみ、櫛、タオル、電気、椅子だけ。カットした髪は、洗わずに吸い取れば、給排水設備も不要です。加えて、予約は受け付けないことにすれば、電話もいらないし、料金も一律1,000円にして、カードを発行する券売機を置くことで、レジの代用になる。これなら、お店も5~6坪程度あれば十分で、あまりお金をかけなくて済みます。余分な作業もなく、ヘアカットに専念できるわけです。

「駅ナカ」「トイレ前」等、 想定客の生活に密着した店舗展開

出店はどのようなロケーションで考えたのでしょう。

岩井最初に考えたのは、忙しいサラリーマンでも、気軽に立ち寄れる場所はどこかということ。通勤で毎日のように駅を使うわけですから、改札の目の前にあったら便利だろうと考えました。でも、当時はまだ駅という施設が持つ集客力や、利便性がそれほど認識されておらず、"駅ナカ"という概念もなかった時代です。出店しようにも誰も取り合ってくれませんでした。それなら、まずはビジネスエリアの駅近くで出店し、実績を作ろうと考えたのです。

1号店は、1996年に千代田区神田美土代町で開店されましたね。

岩井神田美土代町店のロケーションは、小川町駅、淡路町駅が近く、地下鉄3路線が利用できる。大手町からも徒歩圏内で、通勤動線が太く交わる場所です。狙いどおり、開店と同時に行列ができる盛況ぶりでした。しかし、喜びもつかの間、お客様の大半は偵察を兼ねた同業者だったのです。ただ、それは既存業者が脅威に感じていることの裏返しでもある。その後、この行列が逆に話題を呼び、客足が伸びていったのです。大手マスコミに取り上げられたこともあってか、とある電鉄会社から「駅の中に出店してみてはどうか」というお誘いをいただくことができた。まさに願ったり叶ったり。1998年に念願の駅ナカ店を出店することができ、予想を上回る集客で高い収益を上げることができたのです。駅ナカは人の目に止まることも多く、宣伝効果も高かったのか、それから次々に出店の話を持ちかけられるようになりました。当社のビジネスが花開いた瞬間だったといえるでしょう。

駅ナカや駅前一等地で順調に店舗を増やすことができたのですね。

気軽に立ち寄れるよう、主に駅ナカでの展開を図る「QBハウス」(写真は京急品川駅店)

岩井一方で、複数店を展開して気付いたのは、主婦層をはじめ、女性利用客が予想以上に多かったことです。ご夫婦一緒に休日にも利用して欲しいと、今度は郊外の商業施設へと展開を図りました。

でも、施設中央などの一等地は空きが少なく、賃料も割高。そこで目をつけたのが、施設内のトイレ前です。飲食店はもとより、多くのテナントが避ける場所ゆえ、物件が確保しやすい。また、トイレ前の通路は動線が太く、入ったら出る、という反復性もあります。洗面台の鏡を見て「ついでに髪もすっきりしよか」と考えるわけです。

また、単価が一定の当社のビジネスモデルにとって、お客様の回転は生命線。トイレ前に出店してわかったのは、通常店舗より月間平均来客数が約10%多かったこと。一等立地に比べ賃料もリーズナブルですから、通常既存店の約半分の期間でコストがペイできる、好業績店となるケースが多かったのです。

集客を望める新天地となった。

岩井しかし、集客力が高い店舗は混雑し、お客様をお待たせしてしまうことが少なくない。これを解消するため、人気店周辺エリアには、密集した出店形態であるドミナント方式で展開しています。例えば、集客力の高い港区・新橋駅周辺には、近隣で5店舗を出店しています。席数を増やし混雑を避けるだけでなく、各店舗の混雑状況に対応したスタッフの最適配置もできるわけです。

一つの広い店舗ではなく、あくまでも小さく多く展開するわけですね。

岩井そして、通常の「ハウス型」店に改良を加え開発したのが、1席だけの「シェル型」店。たったの1坪で、移動も容易な円筒形のユニットです。これなら、お客様の様々な生活シーンにもっと細かくお店を配置できる。例えば喫茶店の隣りなら、多少お店が混んでいても、コーヒーを飲みながら空き具合を見て来店していただけますし、銀行店舗の隣りや空港のロビー前などであれば、ちょっとした待ち時間にも利用していただけるといった具合です。

隣接テナントとの相乗効果も考慮したというわけですね。

岩井ところが、「シェル型」が完成し、いざ出店しようにも、許可が下りません。なんでも、店舗には間仕切りが必要で、待合スペースの設置が義務付けられており、美容師法上などの規制に抵触してしまうことがわかったのです。

国内という枠にとらわれず、グローバルに展開

新しいビジネスモデルゆえ、既存の法令の枠では許容できなかったと。

海外で日の目を見たシェル型店舗

岩井なんとか「シェル型」を展開できないかと考えていたその時、シンガポールのとあるディベロッパーから当社の業態に興味があるという打診を受けました。2000年のことです。調べてみたところ、シンガポールでは問題なくシェル型店舗を出店できる。ならば、ゆくゆくは日本への逆上陸も視野に入れ、まずは海外で実績を積もうと考えたのです。

しかし、物価が安い地域では、低価格が強みの御社の業態には厳しいのでは。

岩井シンガポールでは、駅や商業施設の中でも、より動線の太い一等立地に出店できたこともあってか、開店から盛況でした。料金については、物価水準を目安として750円ほどに設定していますが、人件費や家賃等のコストとの収支でみると日本と変わらず、収益も上々です。そして、この実績をもとに香港へも進出。ただ、香港の不動産の賃貸借では、日本とは比較にならないほどオーナーが優位で、入居施設の集客力が上がったことを理由に、3倍もの賃料を要求されることもあります。でも、「シェル型」店なら、1坪のスペースがあれば出店でき、設備も低コスト。厳しい条件下でも、十分利益を出すことができたのです。

多店舗展開とサービス品質の均一化

その後も順調に出店ペースを保たれていますが、サービス品質の維持はどのようにされているのでしょう。

岩井当社では主に業務委託によるフランチャイズにより、現在では国内353店舗と、創業時とは比較にならない規模になっています。また、美容師は職人気質の方が多く、個性も強いですから、これを尊重した上でサービス品質を維持する必要がある。そこで私が考えるのは、サッカーに例えて「選手がいいプレーをして、もっとお客さんにきてもらう。そのためにフロントである我々は何をすべきか」ということ。選手である美容師さんがばらばらにならないよう、当社の理念をできるだけ正確に伝えるしくみが必要だと考えたのです。

具体的にはどのようなしくみなのでしょうか。

岩井つまり、10分という限られた時間で、お客様の要求するヘアカットを忠実に再現するには、どのようにしたらいいかを教育するのです。このための統一マニュアルを作成し、東京・大阪・名古屋といった中核エリアのマネージャがヘッドになり、マニュアルに沿って全店スタッフの指導・研修を行っているのです。もちろん私自身も、エリアマネージャとのミーティングは欠かさず行い、常に意思疎通を図っています。

一度成功したビジネスモデルを、常に見直し、改良する

最近では新たなスタイルの店舗も取り組まれていますね。

原宿・表参道駅構内「Quatre Beaute」

岩井女性客をはじめ、自分の好きな髪型を伝えるには、10分では足りないという声が以前から多かった。適正な時間はとアンケートしたところ最も多かったのは20分という回答でした。このニーズを汲み、2005年12月、「20分2000円」という切り口で、原宿・表参道構内に「Quatre Beaute」(キャトルボーテ)をオープンさせたのです。

美容室の激戦区である原宿・表参道をあえて選んだのは。

原宿・表参道駅構内「Quatre Beaute」

岩井この業態のコンセプトは、いつも利用している美容室で整えた髪を、部分カットにより維持して欲しいというもの。競合を避け、棲み分けを狙ったのです。開店当初から盛況なのですが、予想に反し、フルカットを望む女性客も増えています。「20分2,000円」という価値は思った以上に反響が大きかったですね。

従来のハウス型店にも、改良を加えられています。

岩井「シェル型」の良いところを従来店に導入できないかと、開発したのが「ハーフシェル」。よりコンパクトで見た目もファッショナブルなだけでなく、備え付けの液晶パネルからは、ニュース、天気予報など様々なコンテンツを提供しています。「散髪中、意識せずに世の中のトピックスが頭に入ってくる」と、来店客にも好評。これをきっかけに、お客様とスタッフとのコミュニケーションも活発になり、要求されたヘアカットをより正確に汲むことができる、副次的な効果も得られたのです。

私たちは、限られた時間でもっと濃密な価値を提供していきたい。そして、お客様一人ひとりのプライベートな時間をもっと豊かなものにして欲しい。そのためにできることは何かを、QBハウスという業態を通し、追求していきたいと考えています。

次代を見据えた、新しいサービス業の形ともいえそうです。本日はありがとうございました。

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上記内容は オフィスジャパン誌 2007年春季号 掲載記事 です。本ページへの転載時に一部加筆修正している場合がございます。

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