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イケア・ジャパン株式会社

ケーススタディ

2014年11月10日

都内初の立川出店で東京圏、全域をカバーしたイケア。
2020年までの店舗倍増で、全国制覇の足掛かりに。

スウェーデン発の家具専門店やキッチン、ベッドなどの家での暮らし全般に関する商品を展開するイケアは、今年4月、東京都立川市に国内7番目となる「IKEA立川」をオープンさせた。3万㎡以下の敷地面積や「電車でイケア」と銘打った公共交通機関利用誘導などこれまでにない試みと、地中熱利用や太陽光発電など、グローバルに進められる環境への取り組みの中には、同社が掲げる「2020年までに国内店舗を倍増させ14店舗体制に」という成長戦略の一端が垣間見える。エポックメイキングとなる同店舗開発を紹介する。

世界統一基準の採用でブランドイメージを確立するイケア

イケアの歴史は、1943年スウェーデン南部にあるアグナリッドという小さな村で始まり、以来、自社で企画・製造・販売までをまかなうホームファニッシング企業として、現在のビジネスモデルを確立した。70年余りを経た今日、「より快適な毎日を、より多くの方たちに」提供することを企業理念に、家庭内にあるあらゆる家具や雑貨をお手ごろ価格で提供するホームファニッシングとして、世界26ヶ国で300超の店舗を展開するまでに成長している。

イケアの店舗は、遠目からでもすぐに分かる。スウェーデンの国旗をモチーフにした鮮やかな青地の外壁に黄色のロゴを配した「ブルーボックス」と呼ばれる外観は、同社のワールドワイドの統一基準であり、ブランドイメージを最大限にアピールする。世界統一基準はこれだけではない。店内のコンポーネントも同一で、例えば、売り場に置かれた9,500余りのアイテムも、その国民に合わせて家具の高さを調節するといったマイナーチェンジはあるものの、すべてが世界共通となっている。

広大な売り場内の構成も同様で、順路を記した通路の左右には、「ルームセット」と呼ばれるキッチンやリビングなどの家庭内の各スペースに合わせた商品が、所狭しとレイアウトされている。これらを実際に触れながら、試しながら、実際の生活を具体的にイメージできるようにしているのだ。商品は全世界共通のものとなっているが、畳や押し入れのある部屋など、日本のライフスタイルに合わせた提案もなされている。従来のホームセンターや家具店とは一線を画したこの陳列方法は、さながらテーマパークのアトラクションのよう。家族連れがあれこれ検討しながら、長時間にわたって店内を見て回る姿が目に付く。

この一方通行型のゾーンニングは、特定商品の目的買いで来場した購買者には必ずしも買いやすいとは言い難い。しかし、「快適な生活の提案として様々な商品を単に見ていただくだけでなく、暮らし方に関する様々なアイデアを体感いただき、少しでも多くの方たちが暮らしに快適さをもたらしていただければと思います。その思いを反映したのがこの展示方法。お客様には、当初は戸惑いがあったようですが、今はご理解いただき快適な買い物体験を楽しんでいただいています」と、イケア・ジャパンのプロパティ&エクスパンション 立川プロジェクトマネージャ宮永健氏は説明する。

同社の最大の魅力はその価格の安さにある。店内は高級な雰囲気が漂うが、建物にコストはかけない、その分はお客様に使うべきというのも同社のコンセプトで、事実、よく見れば必要最低限の装飾しかしていないのが分かる。「当社では毎年商品の価格の見直しを図り、人気をいただいている商品ほど低価格に変更していく仕組みになっています。その原資はオペレーション費用のコストダウンなど小さなことの積み重ね。販売ボリュームが増えることで生産量が増え、より良い品質のより手ごろな価格の商品提供を行う努力をしています。また、無駄なコストを削減していく努力を全コワーカーで日々行っており、この結果、利益が大きくなり、それが再投資につながるという考え方なのです」(宮永氏)。

来店まで1時間を商圏に店舗を展開する出店計画

同社の日本法人であるイケア・ジャパンが設立されたのは2002年7月のこと。2006年には千葉県船橋市に本社オフィスを備えた1号店である「IKEA船橋」、同年9月には神奈川県横浜市に「IKEA港北」がそれぞれオープンした。さらに2008年には兵庫県神戸市に「IKEA神戸」、大阪府大阪市に「IKEA鶴浜」、埼玉県三郷市に「IKEA新三郷」が相次いで営業を開始。約2年半の間に5店舗を関東・関西の大都市圏に集中出店した後、2012年には福岡県糟屋郡に「IKEA福岡新宮」を開店して、九州進出を果たしている。福岡進出までに約4年の期間を要したのには理由がある。1つはイケアのコンセプトを浸透させる従業員教育に時間が必要だったこと。もう1つは用地取得のためだ。日本進出から1号店オープンまでも約4年を要している。同社では、基本的に土地・建物を自社で購入し、地元に根づいたうえで商圏を発展させていくという考え方がある。しかも、企業としてのバリューを高め、市場への浸透率を重視するため自社イメージの向上は不可欠であり、それ故に他企業の“色”がつくことを好まない。そのため販売的には一見魅力的なショッピングセンターや駅ナカへの出店は、当初行わないという考え方で拠点戦略は進められてきた。また、売上や販売量が拡大するなら投資はいとわないという企業風土があり、そのため長期スパンで立地を検討し有望であれば積極的に購入している。ただし、同社の店舗開発のフォーマットとして、商業用途で45,000㎡以上という広大な土地が必要であるため、候補地を見つけるのは決して容易なことではない。かつての神戸や鶴浜の出店でも、用地取得には苦労したという。

日本を有望なマーケットと認識する同社が出店の候補地とするのは、言うまでもなく大都市圏。しかも自動車での来場が前提で、1時間以内での来店可能範囲を商圏として認知している。その範囲内にどれだけの人口があり、どれだけの売上が想定できるか、何年で投資の回収が可能かを独自のグローバルなマーケットシステムを利用して算出し、候補地を絞り込む。つまり、4年の間に従業員教育と、新規出店のための用地を取得していたのであり、いずれも、新たな出店攻勢を見越しての準備期間だったと言える。

満を持しての東京初出店新たな試みで集客力を高める立川店

そうした中、今年4月に国内7店舗目となる「IKEA立川」がオープンした。同社としては初の東京都内への出店となる。場所は西東京で最多の乗降客数を誇るJR立川駅から1km、多摩都市モノレール高松駅から600mの駅近立地で、また高速道路へのアクセスも利便性も高い。東京圏と言われるエリアは、東京が1200万人、神奈川900万人、埼玉700万人、千葉800万人、計3600万人の人口を擁する巨大商圏である。これまで、東の船橋、北の新三郷、南の港北に出店してきた同社にとって、弱かった西を埋めるピースが誕生したことで、この巨大商圏を手中にしようとしているのだ。

この「IKEA立川」では、大きく3つの点でこれまで行われてきた国内の店舗開発とは異なる手法がとられている。まず1つ目は用地の面積。2011年に取得した同地は27,000㎡と、従来店舗や同社フォーマットである45,000㎡に比べ、かなりダウンサイズしたものとなっている。2つ目は、都の景観条例によりトレードマークであるブルーボックスの全面ブルーの外壁が認可されなかったこと。この点は行政との話し合いにより、ブルーの配色を外壁の一部に留めることで折り合いをつけている。3つ目は交通渋滞に対する対応。こちらは地元と協議を重ねた結果、サスティナビリティにも考慮して公共交通の利用を促進することとし、既存店では無料だった駐車料金を有料化した。「公共交通の利用を促したことで、かえって平日にも多くの方々が来店してくれています。商工会の方からは、イケアができたことで街の人の流れが変わった。かつては閑散としていたモノレール下の通りが賑やかになったと喜ばれています」(宮永氏)。

また、公共交通利用者に配慮して、会計方法も変更した。従来、ホームデリバリーサービスを受けたい購入者は、通常の会計のあとにもう一度、配送手続き用のスキャンを受けなければならなかったが、ここではワンストップで対応できるようにしている。

ただし、グローバルでの従来型のストアコンセプトである“ショールーム”“マーケットホール”“セルフサーブエリア”“レストラン”の各エリアの保持や、販売アイテム数は、従来店のレベルを堅持しているという。グローバルの基準は守りつつ、今後は様々な規模や形態にチャレンジしていくという方針の表れだろう。

グローバル企業ならではの安全と環境に対する配慮

「IKEA立川」では、通常では目に見えない安全性や環境保護への対応にも力を入れている。例えば万一の火災に対して、日本の消防法の基準に加え、欧米基準であるNFPAまでもが導入されている。一例を挙げれば、スプリンクラーは通常なら天井から売り場に向けて噴射されるだけだが、延焼を最低限に食い止めるために、天井裏に当たる階間にも取り付ける2層構造になっている。しかも、開放型と呼ばれる強力なものだ。さらに煙への対応として、排煙ファンだけでなく吸気ファンを設置し、新鮮な空気が入るようにしている。

また、再生可能なエネルギーに対する長期的な投資も特筆に値する。太陽光発電は既存店舗でもすでに導入済みだが、一般の商業店舗では国内でも数少ない地中熱の利用にも力を入れている。地中の熱を熱交換して空調に利用するもので、その規模は東京スカイツリーの2倍の熱源容量を有している。イケア全体がこうした長期的な環境・省エネへの投資に積極的で、海外の店舗では、独自の風力発電を利用しているところもあるという。

店舗倍増で売上倍増を目指す今後の国内出店計画

イケアでは、2020年までにグローバルで売上を2倍にするという目標を掲げている。そのために店舗数を2倍にしようというシンプルな発想があり、イケア・ジャパンにおいても同年までに国内14店舗に拡大する予定だという。もちろん、この計画は絵空事ではなく、今年7月には8店舗目となる「IKEA仙台」がオープン。さらに、すでに愛知県長久手市、群馬県前橋市、広島県広島市の候補地の用地取得手続きも進んでおり、北海道札幌市などにも開発計画があるという。「今後は、店舗展開のスピードを上げるために敷地面積のダウンサイズに応じた、小さな店舗のフォーマットの開発などの新たな施策が生まれるかもしれません」(宮永氏)。

着々と進められる店舗展開とともに、日本全国に次々とイケア・ファンが誕生することは想像に難くない。

写真提供:株式会社 川澄・小林研二写真事務所 ※オープン時写真除く

永井 隆夫

郊外型店舗 マーケットの今



シービーアールイー株式会社
バリュエーション&アドバイザリー・サービス本部 アソシエイトディレクター 永井 隆夫

特に郊外型店舗に限った話ではありませんが、現在の店舗構築に重要なポイントは、「コト消費」「インバウンド消費」「シニアターゲット」の3つではないでしょうか。かねてから大型SCは、単にモノを売るだけでは均一化・同質化が避けられず、時間(コト)消費型への変貌を行ってきました。例えばペットショップ、家庭菜園が設置されるケースや、高いエンターテインメント性により買い物の楽しさを体験させるケース。SCの構成としてサービス業態の割合が増えていることは、それを端的に示していると言えるでしょう。また、観光地でのSC開発など、こうしたコト消費に加えて1.4兆円ともいわれるインバウンド消費を取り込む戦略で成功している事例も増えています。こうした大型SCとは別に、販売に特化した小型SCは、例えば家電とスーパーマーケットなど、相乗効果の見込める有力数社のテナントミックスで、極めて近隣の購買層をターゲットに構成されていくのではないでしょうか。東京都が実施した65歳以上へのアンケート調査では、同年代の消費行動は移動時間20分以内の割合が80%と非常に高くなっています。いずれにしろ、ここまで通販が市民権を得た今、実店舗はそこでは味わえない何かや、得られない利便性、異業種融合による新たな価値感を提示していく必要があります。大別すると、地域の特徴を活かしたコト消費型の大型SCと、戦略的にテナントミックスされた商圏の狭い小型SCとに、郊外型店舗は二極化し、それぞれが商圏の特性に応じて生き物のように鮮度を保っていくのではないでしょうか。

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上記の記事の内容は オフィスジャパン誌 2014年秋季号 掲載記事 掲載当時のものです。

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