消費税は、平成元年4月にそれまで贅沢品に対して課税されていた物品税の廃止とともに導入されました。
当初の税率は3%でしたが、平成9年4月に5%へ、平成26年4月に8%へ、令和元年10月には10%へと改正が行われると同時に、外食を除く食料品等に対して消費税導入以来初となる軽減税率8%が導入され、現在に至っています。
また、軽減税率の適用から3年後をめどにインボイス制度を導入することが平成28年度税制改正大綱に定められており、政府は令和5年10月の導入を予定しています。
このように消費税が注目される状況ということもあり、今回は消費税の対象となる取引の要件、不動産に関連して生ずる取引の消費税区分についてご説明します。
1.消費税の対象となる取引
消費税の対象となる取引は「国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等及び外国貨物の輸入」です。この要件を満たす取引は消費税の課税対象となり、要件を満たさない取引は課税対象とはなりません。
1)事業者が事業として行う取引
「事業者」とは、事業を行う個人と法人をいいます。
「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡等を反復、継続、かつ、独立して行うことをいいます。
したがって、個人の不動産業者が行う建物の売買は事業として行う取引として消費税の課税対象となりますが、給与所得者のような事業を行っていない人が自宅建物を売買するような取引は、事業として行う取引ではないので消費税の課税対象とはなりません。
なお、法人が行う取引は全て事業となります。
2)対価を得て行う取引
「対価を得て行う」とは、資産の譲渡等に対して反対給付を受けることをいいます。例えば商品を販売して代金を受け取るような取引です。したがって、寄附金や補助金などは、一般的には対価を得て行う取引ではないため、消費税の課税対象とはなりません。
3)資産の譲渡等
「資産の譲渡等」とは、商品や製品などの販売、資産の貸付け及びサービスの提供をいいます。
しかし、上記の要件を満たす取引であっても消費に負担を求める税としての性格から課税対象としてなじまないものや社会政策的配慮から、課税しない非課税取引が定められています(土地の譲渡、住宅の貸付、保険診療など)。
2.不動産の売買に関する消費税
不動産の売買に関連して生ずる主な取引の消費税区分は以下のようになります。
なお、「事業者が事業として行う取引」を前提とします。

1)土地と建物を一括で譲渡した場合
土地と建物を同一の人に同時に譲渡した場合において、土地と建物の代金が区分されていないときは、それぞれの資産の譲渡の対価について以下のような方法により合理的に区分する必要があります。
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譲渡時における土地及び建物のそれぞれの時価の比率による按分
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相続税評価額や固定資産税評価額を基にした按分
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土地、建物の原価(取得費、造成費、一般管理費・販売費、支払利子等を含みます)を基にした按分
なお、それぞれの対価につき、所得税又は法人税の土地の譲渡等に係る課税の特例の計算における取扱いにより区分(建物の譲渡金額として相当と認められる価額を全体の収入金額から控除した金額を土地の譲渡による収入金額とする方法など)しているときは、これらの規定により区分した金額を基に計算することになります。
2)固定資産税等の分担金
土地建物の売買が行われる場合、売主と買主との間で土地建物の固定資産税・都市計画税(以下「固定資産税等」といいます)を分担するケースがよく見受けられます。
しかし、固定資産税等の納税義務者は、その年度(4月1日から翌年3月31日)の初日の属する年の1月1日に土地建物を所有していた人であって、その後その年度中に土地建物の所有者が代わったとしても納税義務者が代わるわけではありません。
つまり、公租公課の分担として買主が売主に支払う固定資産税等の分担金は、固定資産税等ではなく土地建物の売買代金の一部になります。
したがって、固定資産税等の分担金のうち土地の売買代金に相当する部分は非課税となり、建物の売買代金に相当する部分は課税対象となります。
3.不動産の賃貸借に関する消費税
不動産の賃貸借に関連して生ずる主な取引の消費税区分は以下のようになります。
なお、「事業者が事業として行う取引」を前提とします。

1)建物の賃料
事務所などの建物を貸し付ける場合の賃料は課税対象となります。この場合、家賃を土地部分と建物部分とに区分している場合でも、その総額が課税対象となります。
なお、住宅用としての建物の貸付けは、貸付期間が1か月未満の場合などを除き課税の対象とはなりません(ただし、契約において住宅用であることが明らかにされているものに限ります)。
2)土地の賃料
土地を貸し付ける場合の賃料は、消費税の課税対象となりません。なお、土地の貸し付けのうち、貸し付けに係る期間が1か月未満の場合及び駐車場などの施設の利用に伴って土地が使用される場合は、課税対象となります。
3)敷金・保証金に償却部分がある場合
敷金・保証金は建物の賃貸借契約に伴い建物の賃貸人が賃借人から預かっている金銭であり、建物を賃貸したことの対価ではないため消費税の課税対象とはなりません。ただし、敷金償却など敷金・保証金のうち賃借人に返還を要しないものについては建物を賃貸したことの対価となるため、その建物の賃貸が住宅の貸付の場合には非課税となり、住宅用以外の場合には課税対象となります。
4)司法書士への報酬
司法書士へ報酬を支払う場合には、報酬以外に登録免許税や印紙税を一緒に支払うことが多いと思いますが、これらの支払いのうち、司法書士への報酬は消費税の課税対象となり、登録免許税や印紙税は消費税の課税対象とはなりません。
5)建物の原状回復工事を賃貸人が行った場合
建物の賃貸借契約において建物退去時の原状回復工事を賃借人が行うことになっていても、賃貸人が原状回復工事を行い原状回復費用のうち賃借人が負担すべき金額を敷金等から差引いて精算するケースがよく見受けられます。しかし、原状回復工事は本来賃借人が行うべきもので、賃貸人が賃借人に代わって行う原状回復工事は賃貸人の賃借人に対する役務の提供に該当します。
したがって、賃貸人が賃借人から受け取った原状回復費用は、建物の賃料ではなく役務提供の対価として消費税の課税対象となります。
4.今後の税制改正等
令和5年10月よりインボイス制度(適格請求書発行方式)が開始される予定ですが、これにより不動産に関係する消費税にも大きな影響が出てくることが考えられます。
消費税の課税事業者(適格請求書発行事業者として事前に登録が必要)は公表されてインボイスの交付が義務付けられることになります。適格請求書発行事業者以外の者に支払ったものは、たとえ消費税の課税対象であったとしても消費税が課税されないことになりますので注意が必要です(宅地建物取引業を営む者が適格請求書発行事業者以外から建物を購入する場合は除く)。
なお、インボイス制度の導入後も適格請求書発行事業者以外に支払った消費税については、仕入税額控除を受ける際の経過措置があります。
著者プロフィール
加藤 智彰(かとう ともあき)氏
EXIAパートナーズ株式会社/東京IT会計事務所
1983年11月18日東京生まれ
2007年3月中央大学商学部 卒業
2007年9月KPMG税理士法人 入所
2013年12月税理士法人プログレス 入所
2014年9月税理士登録
2015年1月東京IT会計事務所 開設
2017年10月EXIAパートナーズ株式会社 設立 同社代表取締役就任
※免責事項
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なお、本稿に記載されている事項については令和2年7月に施行されている税制及び同時点で一般的に妥当と認識されている事由に基づき執筆しており、今後税制その他の事由に変更があった場合には記述内容が変わることがあります。
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