再生医療の拠点を横浜・新子安に。
治療困難な疾患と向き合い、日本発の再生医療を世界に届ける。
再生医療に特化したCDMO(受託開発製造機関)のミナリスアドバンストセラピーズ株式会社(以下、ミナリス)は、横浜・新子安地区にアジアの製造拠点を構え、アメリカ、ドイツと並ぶグローバル3拠点体制の中で、再生医療の産業化促進を加速させるべく戦略的な取り組みを進めている。今年6月には脳損傷再生治療薬「アクーゴ」の製造設備を初公開し、治療困難とされてきた疾患への挑戦が本格化。同社は経済産業省が、2030年に25兆円規模になると予測する再生医療市場において「日本発の医療革命」を世界に届けることを目指している。急成長する業界で日本の技術を海外市場に展開する、野心的な挑戦の舞台裏に迫った。
25兆円市場への挑戦、細胞治療CDMOの可能性
ミナリスは、細胞治療・遺伝子治療に特化したCDMOとして、アメリカ、ドイツ、日本の3拠点でグローバル展開を行う企業だ。その前身であるProgenitor Cell Therapy(以下、PCT)は、1999年にアメリカ・ニュージャージー州で設立された、再生医療分野のパイオニア的存在である。現在は、患者自身の細胞を用い、がんと闘う高度に個別化された治療法である、CAR-T細胞療法をはじめとする細胞治療製品の製造実績を持ち、製薬企業やベンチャー企業に代わり、品質管理基準GMP/GCTP※1に準拠し、製造・開発支援を提供している。
※1:厚生労働省令で定める医薬品・再生医療等製品に関する製造管理・品質管理基準
再生医療市場は急速な成長を続けている。同社の代表取締役社長、坂東博人氏は「経済産業省が2015年前後に発表した資料では、2030年に再生医療関連市場が25兆円規模になると予測されています」と話す。坂東氏は業界の現状について「ブルーオーシャンだったこの分野に、市場規模予想25兆円という経産省の資料を見て、多くの企業が参入してきました」と説明する。多くの企業が参入したものの「細胞製品はそう簡単に作れるものではないので、愚直に誠実に取り組み、確実に実績を積んできた我々の会社が見直されている」(坂東氏)状況だという。また坂東氏は「CAR-T」と呼ばれるがん免疫療法について「その有効性はすでに確認されており、今後は一般的な医薬品と同様の発展を遂げると考えています」と期待を示した。
羽田への近接性を重視、新子安立地の意味
ミナリスが日本にアジア製造拠点を設ける契機となったのは、2017年の旧日立化成によるPCT買収だった。製造拠点は自社施設内で建設されるのが一般的とされるが、細胞治療の特性が立地選定を左右した。「細胞は生き物なので、患者の血漿サンプルをもらって、凍結せずに運搬する場合は24時間以内、作った細胞も温度管理をした上で、24時間から48時間以内に届けなければならない製品もある」と坂東氏は説明する。このような制約や海外顧客の利便性も考慮し、羽田空港への近接性が重要な立地条件となったという。
最終的に選ばれたのが、横浜市神奈川区の澁澤ABCビルディングだった。倉庫会社や運送会社が1〜3階を占め、上階フロアが研究開発(R&D)をメインに募集されていたことも選定要因の一つだったという。さらには神奈川県の政策的支援も影響した。2011年に京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略特区が国の指定を受け、2013年には新子安地域も特区に指定された。「神奈川県が細胞治療に関する特区に指定されていて、黒岩知事も日本再生医療学会にパネリストとして参加されるなど、県全体で力を入れています」と坂東氏。それにともない、県や市からの補助金支援も拠点構築の後押しとなった。
新子安という立地には、特別な意味がある。坂東氏は地域の歴史について「新子安はイノベーションが生まれるまちと言われており、ビデオテープの規格の最終的な議論(VHS vs ベータ)が、高架下の居酒屋で行われたそうです」と紹介する。当時のVHS開発責任者が、町工場の社長たちと酒を酌み交わしながら、VHS開発への思いを説いた結果、1976年に世界規格となる家庭用VHSが発売されたという逸話だ。坂東氏は「そのようなパラダイムシフトが起こることを期待している」と語り、地域に根ざしたイノベーション創出を目指している。実際に「澁澤ABCビルディングの向かいに、後に親会社となる昭和電工※2が偶然にもあったので、これは何かが起きると感じて横浜市役所へ行き、ここを再生医療の先進地域にしましょうという話をしました」(坂東氏)と、積極的な啓蒙活動を行っている。
ミナリスは今年1月、親会社がレゾナックから米・投資会社Altarisとなり、現在の社名に変更した。ミナリスの社名は「未来(ミライ)」という日本語と「奇跡(Miracle)」という英語を組み合わせた造語で、「未来の奇跡を創造する」という企業の使命と希望が込められている。
※2:後に昭和電工と日立化成が合併して、総合化学メーカー、レゾナックが誕生する
十分な階高を備え、面積効率に優れた、澁澤ABCビルディング
澁澤ABCビルディングの建物仕様は、医薬品の開発製造施設として理想的な条件を備えている。施設課課長の諏訪浩太氏は、建物の特徴について「大型の荷物用エレベーターが完備されており、小規模な工事であればクレーン作業を要せず、荷物用エレベーターだけで搬入・作業ができるのが重要なポイントです」と説明する。
注目すべきは、7.8mという高い階高だ。諏訪氏は「日本の建物で8m近い階高が確保できる例はあまりなく、工場でも6~7mが標準なので、高さを生かしたレイアウト構築や機器配置ができるのが建物としての魅力です」と語る。面積効率の観点でも、「せっかく面積があっても、機械室にスペースを取られると横の面積が使えませんが、高さを生かして空調機器を部屋の上に配置するなど、面積効率の高い施設を構築することができます」(諏訪氏)とメリットを挙げる。
賃貸施設でありながら、設計の自由度が高いことも大きな利点だ。諏訪氏は「設計次第で多様な構築の仕方ができます」と説明する。現在の施設は、神奈川県横浜市神奈川区恵比須町に位置し、延床面積約1,300坪に約120人が勤務。GMP/GCTP準拠の6部屋のクリーンルームを備え、治験・商用製造、製法開発、製品保管(凍結)機能を有している。
建物からの景観も、社員にとって大きな魅力となっている。坂東氏は「富士山がとてもよく見えます。建物からは、冬場には雪化粧の富士山が見えることがあります。夏には花火も見えるので、そういう日にチームイベントをすると盛り上がります」と職場環境の魅力を語る。
サプライチェーン構築へ、戦略的パートナーシップ
ミナリスの事業は細胞を培養し、品質を保ってリリースするまでが範囲となる。この事業特性を踏まえ、同社は再生医療のサプライチェーン構築に向けた戦略的パートナーシップも積極的に進めている。注目すべき提携の一つが、医薬品卸大手のアルフレッサとの協業だ。坂東氏は提携の背景について「ミナリスは高品質なものを製造するところまでを担当していますが、病院から患者の血液サンプルを受けて温度管理しながら輸送し、必要であれば保管して、また病院に届けるという一連の流れで、アルフレッサの物流や病院とのリレーションの重要性が今後ますます高まってくる」と分析する。
輸送分野では、アメリカのクライオポートとも業務提携を結んでいる。坂東氏は両社の違いについて「クライオポートは細胞治療に特化しており、アルフレッサは病院へのアクセス面で優位性が高く、治療のスケジューリング調整に強みを持つ」と説明し、「単に競合企業として競争するのではなく、それぞれが持つ強みを掛け合わせて、『共創』すれば業界全体をもう一段高みに持っていける」という協業に対する独自の哲学を披露する。
ミナリスは今年6月、細胞製品の製造設備を初公開し、医療スタートアップのサンバイオが開発した脳損傷の治療薬「アクーゴ」の製造を発表した。坂東氏は「承認が取れれば、製品を日本の患者に届けることができます」と期待を込める。同社の使命の一つが、日本の技術を海外市場に展開することだ。坂東氏は「細胞治療は盛り上がっていますが、日本発の製品で、アメリカで承認取得したものは一つもない」と指摘した上で「今後は製薬会社と我々CDMOがどう協業していくかがカギになる」とビジョンを明かす。「グローバルに事業展開している我々は何ができるのかというところで、必ずしも日本だけを考えているわけではありません」と語る。その上で根底にあるのが「ミナリスから、日本発の再生医療をともに創製していく」という思いだ。
ミナリスは経済産業省の令和6年度補正予算「再生・細胞医療・遺伝子治療製造設備支援事業費補助金」に採択されており、今後も患者に寄り添い、そして新しい治療の選択肢を提供できるよう、製造技術の高度化および生産能力の拡充に努めていくとしている。坂東氏は最後に、事業への思いを込めてこう語った。「治らないと言われている患者に、新しい治療手段を提供することが我々の使命の一つです。健康に生きていれば使用することはありませんが、いつ自分の家族や身近な人が病気にかかるかはわかりません。その際に『あの時がんばって、本当によかった』と思える、そういう会社にしていきたいと思っています」(坂東氏)。
ミナリスのアジア製造拠点は、日本発の医療革命を世界に届ける拠点として位置づけられている。世界有数のCDMOとして「ミナリスから日本発、世界初の再生医療をつくっていく」という坂東氏の言葉通り、治療困難な疾患に挑む患者に希望を届ける拠点として、その役割はますます重要性を増している。
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作成:2024年8月









