─企業価値を高める「攻め」の新戦略とは─
人口減少・市場成熟・人的資本経営の時代に、企業は不動産をどう活かすべきか。
これまで日本企業では、不動産は安定的な資産として自社保有され、長期的な経営の象徴とされてきた。しかし、人口減少や働き方の多様化、地政学リスク、DX※1・GX※2対応など、企業を取り巻く環境は大きく変化している。国内市場の成熟により、企業は成長機会を海外や他業種に求め、資本提携やM&Aが活発化。2023年には東京証券取引所による「資本コストや株価を意識した経営」への要請もあり、企業価値向上に向けた取り組みが加速している。こうした中、不動産は単なる資産ではなく、企業価値を左右する経営資源として再定義されつつある。そこで注目されるCRE戦略は財務効率化に加え、人的資本や環境対応など非財務価値の向上にも貢献。企業は遊休地の売却、拠点整理、オフィス環境改善などを通じて、戦略的に不動産を活用している。所有から活用へと意識が変化する中、持続的成長と競争力強化の鍵として不動産戦略が注目されている。
本企画では、業種の異なる4社の実践を通じて、変革に挑む企業の不動産戦略に迫る。
※1:デジタル・トランスフォーメーション、IT技術を活用した業務やサービスの革新
※2:グリーン・トランスフォーメーション、脱炭素社会への移行に向けた構造的な変革
上場企業の不動産売却面積は、大型取引が増加し、前年の約1.6倍
東京商工リサーチの調査によると、東京証券取引所の上場企業3,826社のうち、2024年度に国内不動産の売却を開示したのは85社で、前年度の97社から12社減少した。コロナ禍においては、手元資金の確保や働き方の変化による不動産売却が多く、2020年から2022年にかけては不動産を売却する上場企業は増加した。2023年以降、このような動きは落ち着き、2年連続で社数が減少している【図1】。
また、2024年度の不動産譲渡損益の総額は2,918億5,500万円だった。2022年度の東証の市場再編で集計基準が変更されたことから、単純比較はできないが、譲渡益は2001年度以降の最高額を記録した前年度の5,774億5,600万円から大幅に低下した【図1】。
一方、売却地の総面積は47万5,074坪(157万494㎡)で、前年度の30万1,520坪(99万6,760㎡)から約1.6倍に増加した【図2】。
M&Aと資本提携で企業成長加速、2024年には過去最多、取引総額も増加傾向
日本の国内市場の成熟に伴い、新規事業・海外市場への展開を目的としたM&Aが増加している。また、中核事業に経営資源を集中させるため、非中核事業の売却や買収による再編を進めている企業もある。M&Aを通じて、人材・技術・ブランドの獲得を図るなど、人的資本経営の一環として活用しており、企業価値向上につながる動きとなっている。
2024年の日本企業に関係するM&A件数は4,700件と過去最多を更新、2025年1~6月のM&Aの取引総額は約21.0兆円に達し、すでに2024年の総額約20.4兆円を超えている【図3】。
企業は単独での成長が難しくなる中、他社との協業によるシナジー創出を目指し、資本提携の件数も増加傾向にある。
人的資本経営の実践を支える指標、WELL認証の広がり
2023年から上場企業に対して人的資本情報の開示が義務化されたが、人的資本経営を実践する上で、その基盤となるのが健康経営である。健康経営とは、従業員の健康を経営的視点から捉え、戦略的に健康の保持・増進に取り組むことにより、生産性やエンゲージメントを向上させ、企業の競争力を高める手法である。経済産業省は、健康経営に対する企業の取り組みを制度・評価・情報・社会的評価の面から積極的に支援している。
また、健康経営の取り組みを評価する国際的な指標として、日本国内において「WELL認証」への関心が高まっている。WELL認証とは、働く人の心身の健康と快適性(Well-being)を重視した、米国発の建築・空間評価制度である。
人的資本経営の実践を支える有力な手段として、WELL認証の取得・登録件数は日本国内でも着実に増加しており、企業価値向上の新たなスタンダードとして注目されている【図4】。




