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日本水産株式会社

ケーススタディ

2015年4月6日

50年ぶりの本社移転を改革のチャンスと捉え、生産性の高いワークプレイスを構築。
今後100年の発展を見据え、空間創造にチャレンジ。

ライブラリー

“ニッスイ”の名で知られる水産物製造加工大手の日本水産株式会社が、2014年8月、オフィス環境整備による業務効率の改善を目的に、本社を港区西新橋に移転した。50年近くを過ごした大手町の地から、最新の新築ビルへの移転に対し、同社はどのような戦略と道筋によりプロジェクトを推進していったのか。突然の移転を変革のチャンスと捉え、新オフィスを構築した同社の取り組みをレポートする。

突然の本社機能の移転話 条件を絞り物件探しに奔走

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1911年、山口県の下関においてトロール船1艘で創業されて以来、100有余年の歴史を誇る日本水産。“ニッスイ”の名のもとに、水産業はもちろん水産資源を利用した缶詰などの加工品や冷凍食品事業、さらに今日ではファインケミカル事業や物流業にまで、その事業領域を拡大している。これに伴い、仙台・名古屋・大阪・広島・福岡の販売拠点のほか、生産拠点や物流拠点、グループ企業が全国各地に広がっている。さらに、北米、南米、中国やタイなどのアジア諸国、オランダ、フランス、デンマークといったヨーロッパ諸国や、ニュージーランドにも多数の関連会社を持つ一大グローバル企業である。

その中枢である本社は、1966年以来、約50年間の長きにわたり東京は大手町の日本ビルに所在していた。経営、営業、管理の各部門に加え、首都圏の販売部門が集約された、約700人の大所帯だ。日本ビルは築年数こそ経ていたものの東京駅に隣接し、客先や国内各拠点へのアクセスに恵まれたロケーションであり、特に不満を感じていたわけではなかったという。それにも関わらず本社移転の話が持ち上がったのは、東日本大震災直後の2011年4月、大手町再開発事業の一環として、2016年3月に日本ビルを閉館するとの連絡があったことによる。「当社にとってはまさに寝耳に水の話であり、急遽、ビルオーナーや不動産業者、仲介業者などに協力を依頼して、物件の情報集めを始めたのです」。同社の総務法務部部長である鈴木洋氏は、当時をそう説明する。

新たな拠点を探す上で、まず課題となったのは規模、コスト、ロケーションの3点だった。日本ビルの当時は、共用部なども余裕があり、加えて、地下には倉庫スペースも確保していた。半面、フロア内には柱が点在し、いくつもの小部屋に区切られ、それを事業部ごとに割り振っていたため、部門によっては窮屈だったり逆にスペースが余っていたりと、人員数とスペースのバランスがマッチしていなかった。このため、今日では一般的とも言える、ワンフロアを間仕切りなく利用できるビルでスペース効率を高めること、これにより専有面積を減らしてコストを削減すること、また社内コミュニケーションを高めるためフロア数は少なくすること、さらに社員の通勤や、来訪客に不便にならないロケーションであることが、新本社探しのポイントとして掲げられた。加えて、一般のオフィスビルでは設置しづらいが、食品会社にとっては必要不可欠である厨房施設を設置でき、これに伴うガス設備の導入が可能であることを要件に、新築・既存を問わない物件探しが行われた。

そして、これらの条件をクリアする、現在の西新橋スクエアに移転を決定したのは、竣工を1年後に控えた2013年4月のことであった。

これから100年の発展を目指した オフィスづくりプロジェクト始動

エントランス

オフィスづくりを踏まえた移転プロジェクトが、本格的に始動したのは同年6月。まずはコンセプトづくりから始まった。「当社は2011年に設立100周年を迎えたこともあり、本社移転を単なる引越に終わらせず、新たな100年に向けた働き方の変革につなげようという決意が全社的に高まっていきました。その機運が成功に向けての原動力となっていたことは言うまでもありません」(鈴木氏)。

プロジェクトオーナーの専務の下に、ボードメンバー、事務局、プロジェクトマネージャー(PM)を置き、PMが「情報管理」「デザイン・レイアウト・オフィスサービス」「ネットワーク」「キッチン」「人事」「表示変更・アイテムカット」の6つのタスクフォース(TF)を束ねる体制で検討が始められた。ではどのようなオフィスにするのか、その議論に生かされたのが2010年度から3年間、部署を横断するメンバーで業務効率化に取り組んだTFである。ここでは、オフィスの効率化と働きやすさの追求、ITの活用や会議のあり方、リフレッシュと集中のための空間づくり等がかねてから検討されており、その議論が新しいオフィスづくりに具現化された。

移転プロジェクトのTFの具体的な活動例だが、例えばデザイン・レイアウト・オフィスサービスTFは移転コンセプトや設計コンセプトの策定と3つのフロアのあり方、共用スペースに必要な機能の抽出やルールづくりなど、キッチンTFは社員専用のキッチンラボと、顧客との共同作業ができるキッチンスタジオという2つの厨房施設及び、プレゼンテーションルームのあり方といったところになる。なかでも大きな課題を抱えていたのが、情報管理TFであった。日本ビルでは、執務室外の廊下や地下倉庫を除いても1,900坪近い面積を借りていたが、新オフィスは1,600坪程度と約300坪も減少する。貸室側の廊下部分を含めると、実質的にはさらに使用可能スペースが減少すると言えるだろう。これにより、年間のファシリティコストは削減されるが、書類などを入れるキャビネット類は約半分にしなければならない。その保管と破棄の分類の方法と管理の遂行を同TFが担い、プロジェクトは進められていった。それぞれの検討にあたっては、他社オフィスの見学会で参考となるモデルを取り入れたり、社内アンケートの実施により、不満を吸い上げる取り組みも行われたという。

体制づくりでもう1つ特筆すべきなのは、社外の専門家を事務局に入れていたことだ。「PMは、コンペによりCBREにお願いすることとしました。工事の進捗からスケジュール管理、コスト管理、引越のノウハウなどに外部のアドバイスが必要だろうと判断。50年ぶりの引越であり社内に経験者がいなかったため、内部の各プロジェクトのリード役として、具体的にいつ何をしていけばいいのかの水先案内にも期待していました。もちろん外部に任せきりにするのではなく、社内の人間も積極的に参加したことで、より良い方向が見い出せたと思います」(鈴木氏)。

こうしたメンバーたちの議論を通じて、2013年9月には新本社と移転に向けたコンセプトが決定した。移転の統一テーマは、「Brand New Nissui」。移転を次の100年につなげる変革のチャンスと捉え、生産性の高い働き方とそれを実現するオフィス環境を作るという思いが込められている。また、設計コンセプトを「Port to the Future  未来への活力ある結節点」として、創造性と生産性を最大限に発揮できる、ITを活用したシンプルで機能的なオフィスをイメージした「創るオフィス」、部署間の垣根なく情報共有でき、世界中の顧客やグループ各社との結びつきを意味する「つながるオフィス」、誰からもニッスイの活力が感じられる、多様性のあるオフィスを目指す「高めるオフィス」を、新しいオフィスのあるべき姿として掲げたのだ。

応接室

こうしたプロジェクトの進捗状況は、移転メリットや書類整理のノウハウなどと合わせて、「本社移転プロジェクト通信」として、移転が実施された2014年8月までの計12回、随時、社員に発信され、理解と啓蒙を促していった。また、移転直前には引越で認められる個人の荷物の制限から入退館方法、OA機器の使い方など、新オフィスで必要になる情報を提供する「オフィス使用説明会」を実施するなど、社員に対しても万全の配慮を施している。

顧客の快適性を優先させた 接客フロアのレイアウトの妙

オフィス

実際のオフィスを見てみよう。5~7階の3フロアのうち、真ん中の6階を顧客接点エリア、その上下階を執務室エリアとして明確に区分けしている。執務室は当然、社員のみしか入室できない。これにより、1階オフィスエントランスからのエレベータ前と合わせて、2ヶ所のICカードによるセキュリティが確保されることになる。

6階にある受付に入ると、正面には「NISSUI」と、アルファベットで表記したデザインロゴが掲示されている。社内ルールではカタカナで「ニッスイ」と表記するべきだが、これからのさらなるグローバルな活動展開に対する“思い”を込めた選択だという。受付前には、日本ビルにはなかった来訪者の待ち合わせスペースを用意し、事業内容を説明するVTRを流す70インチの大型モニターや、商品サンプルが設置されている。社員はここで来訪者をもてなし、応接室に案内することになる。

ストックルーム

6階には、10の会議室と6つの応接室、3つの商談コーナー、2つのキッチンとそれに隣接する3つのプレゼンルームに加え、ストックルームと冷凍室が設けられている。キッチンエリアには、部外者が入れないようにチェックポイントを設け、セキュリティコントロールで入室可能者をセグメントしており、利用のための講習を受けた社員のみが使えるようにして安全性も高めている。ストックルームは、以前は各部署がそれぞれ身近に持っていたサンプル用冷凍庫をキッチンのそばに集約するためのものであり、これによりスペースの削減と作業効率の向上につながっている。また、室内にプレハブ冷凍室を設け大きな水産物をそのまま冷凍保存できるようにした。一方、ビルの3面をガラス面が占めることから、応接室やプレゼンルームは、できるだけ窓側に配置するような配慮もなされている。さらに各会議室にはPCと接続できる大型モニターやプロジェクターを用意しており、ペーパーレス化に効果を発揮しているという。

面積減少でも個人スペースは拡大 効率性を高めたユニバーサルデザイン

チャートルーム

執務室エリアである5階と7階は、以前の事業部ごとの部屋割りから区画割りに変更し、5階には主に事業推進・支援部門が入り、7階には水産事業、食品事業、首都圏販売など、扱い品目が異なる部署も交流ができるよう、多くの営業部門が入っている。

ユニバーサルレイアウトを採用し、机も椅子もすべて新調した。営業部では部長職も島の中に机があり、ひな壇は役員のみ。組織替えがあっても、机は一切動かさないで対応可能だという。プリンターやファクシミリなどのOA機器は、両フロアとも2ヶ所設置場所を設けた。さらに、懸案事項であった書類も50%削減が実現されたことで、個人の机周りのスペースは、以前よりも広く取れるようになった。

フロアを見渡すと、目に付くスペースが2つある。1つは船の海図室を意味する「チャートルーム」と名付けられたオープンな打ち合わせスペース。可動式のテーブルを採用することで、使用目的や人数に合わせてフレキシブルに対応できるもので、「つながるオフィス」を具現化したスペースだ。

もう1つは、船のデッキをイメージして名付けられた「プロムナードデッキ」と呼ばれるコラボレーションスペース。飲料や軽食の自販機があり、こちらもリラックスしながら、部門の垣根を越えたコミュニケーションができるように配慮されている。

こうしたネーミングだけでなく、オフィスのいたるところにニッスイという企業ブランドを具現化する仕掛けが施されている。例えば、応接室の入口の室名板には魚の一部分をシルエットで表示し、部屋内にはその魚のパネルが飾られている。すべてはニッスイの商品に用いられている魚種で、来訪者を案内する際にクイズのように問いかければ、話が広がることだろう。こうしたところにも、「水産資源から多様な価値を創造する」というニッスイの遺伝子を社内外にアピールするという、オフィスづくりの心意気がうかがわれる。

プロムナードデッキ

「執務環境が変わったことで、社員の意識も変わってきたと感じています。実は物件選定後に分かったことですが、当社はかつて現在のビルの隣にあった日産館というビルに1937年から7年間入居していました。当時は芝区田村町でしたが、今の住所で言うとまさしく港区西新橋であり、不思議な縁を感じます。先達が培った歴史を踏まえつつ、新たな世紀に向けて変わっていくニッスイの姿を、このオフィスを通じてより多くの方に見ていただき、感じ取っていただきたいと思っています」。最後に鈴木氏は、このように決意を語ってくれた。

プロジェクト詳細
企業名 日本水産株式会社
拠点部門 本社
所在地 東京都港区西新橋1-3-1
施設 西新橋スクエア
移転時期 2014年8月
CBRE業務 本社移転プロジェクトマネジメント

 

上記の記事の内容は オフィスジャパン誌 2015年春季号 掲載記事 掲載当時のものです。

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