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社内コミュニケーションの活性化と多様な人材の働きやすさを考慮した、
グローバル本社構築プロジェクト。

エントランス

印刷インキで世界トップシェアのDIC(ディーアイシー)は、2013年、東京・日本橋の本社ビル建て替えに伴い一時移転後、2015年5月、日本橋に完成した新社屋に本社移転した。フロア内の横連携とフロア間の縦連携による社内コミュニケーションの活性化を図るとともに、多様な人材にとって働きやすい環境にも配慮。国や地域、文化の境を超えてグローバルに発展していくための、グローバル本社構築プロジェクトを取材した。

老朽化に伴う本社ビルの建て替え、日本橋からは離れないという決断

ロゴ

DICは、印刷インキの製造販売で創業し、その基礎素材である有機顔料、合成樹脂の事業を拡大するとともに、関連するコア技術をベースにいくつもの製品を世界トップレベルにまで育てたグローバル企業である。創業100周年を迎えた2008年、旧来の大日本インキ化学工業から社名変更した。

同社は2013年、東京・日本橋の本社ビル建て替えに伴い、お茶ノ水・ワテラスタワーに一時移転。その後、2015年5月、日本橋に完成した新社屋「ディーアイシービル」へ本社移転した。世界63の国と地域に176のグループ会社を持つDICグループのグローバル本社として、グループ関連会社の社員を含め約1,300人がこのビルで働く。

新社屋「ディーアイシービル」

旧本社ビルは竣工から40数年が経っており、ビルオーナーから老朽化による建て替えの話がDICにあったのは2010年のこと。これを機に別の場所に移転するという選択肢は最初からなかったという。「DICといえば日本橋、というイメージが業界内で定着していたこと、加えて東京駅に近い立地は利便性に優れており、日本橋の立地バリューは当社にとっても大きなものでした」と同社総務人事部長の生嶋章宏氏は語る。日本橋で他にこの規模で一棟借りできるビルを探し出すのは困難でもあり、建て替え後のビルに引き続き本社を構えることを決めた。

この決定がなされたのが2011年5月。本社移転のプロジェクトマネジメントは、コンペの結果、CBREに決定した。「この規模の本社移転は会社として初めてのこと。外部専門家の力は不可欠」と本社移転で中核的な役割を果たした総務担当課長の北川貴一郎氏は話す。移転を推進するに当たっては、専任のスタッフは置かず本業の傍ら推進役を担うことになった。一時移転の推進と並行して、新しいビルの基本設計に沿い、新本社のコンセプトやオフィスの基本仕様を検討。経営企画や広報、情報システム、人事など管理部門から集められたメンバーを加えて要件整理を行った後、2012年3月、本社オフィス設計にかかわる基本事項を決定した。

各階を縦に、フロアを横に、社内連携しやすいオフィス

カフェテリア
カフェテリア

グローバル本社に相応しいオフィス機能の構築を、本社移転のゴールに設定した。戦前から進出する中国をはじめ世界各地に拠点を広げてきた同社だが、「確かに海外進出の歴史は長く海外拠点の数も多いのですが、世界的なネットワークが構築され、それが当社の競争優位性になっていたかというと必ずしもそうではありません。本社を中心としたグローバル経営に向けた組織改革を進める一方で、ファシリティの整備も進めていく必要がありました」と生嶋氏は話す。

新本社のコンセプトは、「Universality(グローバルな運用基準を満たす)」「Diversity(国籍・文化・考え方の違いを包含する)」「Agility(変化に素早い対応ができる)」の3つを柱とした。そこから、オフィススタンダード、コミュニケーション、バリアフリー、レスペーパー、セキュリティ、BCPなど具体的な施策に落とし込んでいった。旧本社ビルは、フロア面積が狭いうえに、18階建という階数の多さから社内コミュニケーションが取りにくいという課題があった。新本社は12階建でフロア面積も約500坪と広く、社内コミュニケーションの活性化は特に注力すべきテーマであった。

まず頭を悩ませたのは、最上階である12階の使い方。同階は他のフロアより狭く設計されており、使い方が限定されるからだ。通常、最上階には社長室や役員室が配置されるケースが多いが、同社は「社員中心のオフィスづくり」の観点から社内カフェテリアを配置。ランチタイム以外の時間にも、ミーティングや気分転換など様々な用途で活用できる場とした。

打ち合わせ室
会議室

執務フロアは、3面ガラス張りという見晴らしの良さを生かすため、役員室や会議室など間仕切りの必要な部屋はフロアのコア側に寄せ、社員の執務スペースは明るい窓側に配置するとともに、組織変更や人事異動に機動的に対応できるユニバーサルレイアウトを採用した。200人収容できるワンフロアには、関連する部署を近くに配置して部署間の連携を図るほか、人の往来の多い各フロアの出入口付近にタッチダウンやオープンミーティングテーブルを配置、出張者も活用できるスペースとした。加えて、細長いフロアプレートの両端に設置された非常階段はガラス張りの開放的な明るい作りで、一般的なビルの非常階段とは異なりフロア間の移動にも気持ち良く利用しやすい。このように、フロア内の横連携と、フロア間の縦連携を高めることで、社内コミュニケーションの活性化を図った。

ダイバーシティ経営を掲げるグローバル企業として、あらゆる社員にとって働きやすい職場環境にも配慮した。DICグループは、性別、国籍、障がいの有無、年齢の異なる多様な人材の積極的な雇用を行っている。

「障がいのある方、妊娠中の方にも使いやすい設備や、宗教上の理由から食事に制限のある外国籍社員や海外からの出張者も安心して食事ができるよう、カフェテリアでは料理を自由に選べるスタイルを採用しています」(北川氏)

PC中心のワークスタイルに向けて6割の書類削減を実現

オフィス

本社移転に伴い、紙の削減も大きなテーマだった。「移転前の調査では、社員の1人当たりの書類量は民間企業平均より大幅に多く、官庁並みという結果でした」と北川氏はふり返る。そこで、一律6割削減を目標にペーパーレスを実施。「まず、建て替え期間中の仮オフィスへの移転時に、不要な書類を徹底的に廃棄し、さらに新本社へ移転する段階で、必要書類のデータ化や電子データ保管のルール化など、レスペーパーを定着させるための仕組みづくりを行いました」(北川氏)。

レスペーパーは、ただ「紙を減らそう」という掛け声だけでは実現は難しく、パソコン中心のワークスタイルを可能にする環境整備が欠かせない。同社では全館に無線LANを導入、さらにすべての会議室にモニターを標準装備することで、書類無しでも会議ができる環境を整えた。「設備があれば、社員はそれを使います。レスペーパーをサポートする設備を使ううちに、今後さらに紙の利用が減ってくるのではと期待しています」と北川氏は話す。

エントランス
エントランス

新本社には、グローバル本社の“顔”に相応しい仕掛けも施した。エントランスは、建物の基本設計の段階で吹き抜け空間として設計されており、この開放的な空間をDICグループのブランド発信に活用することにした。1階にはDICを紹介するモニターや、同社が所有・運営するDIC川村記念美術館(千葉県佐倉市)の所蔵絵画の一部が閲覧できるタッチパネル式のデジタルサイネージを設置。2階には同美術館の所蔵絵画のレプリカを展示した。また、エントランスの壁面には3色のコーポレートカラーを使ったルーバーを採用した。来客を3階の会議室に案内する際に使用するプレートにも、DICならではのこだわりがある。プレートには会議室の部屋番号に加え、部屋ごとにコーポレートカラーやDICカラーガイド日本の伝統色をあしらい、色の由来についての解説も記した。こうしたアートやカラーを基軸とした空間づくりや表現により、洗練されたDICのイメージ訴求を狙っている。

オフィスのコンセプトに合った働き方を浸透させていく

階段

今回の本社移転は、建て替え期間中に仮オフィスへ一時移転しなければならないことに加え、ビルの竣工と同時に入居を完了させ業務開始を目標としたことで、オフィスづくりのスケジュール管理にも困難が伴った。例えば、建物本体の工事と並行して、フロアの間仕切りなどオフィスの内装についても、通常の設計スケジュールよりかなり早い段階で決定しなければならなかったり、各社の工事内容やスケジュールを調整する必要があったり、予想以上に大変だったという。「プロジェクト会議はいつも真剣勝負でした。プロジェクトマネージャーをはじめ設計・施工関係者がいいオフィスにしよう! という思いを共有してくれたことに感謝しています」と北川氏はふり返る。

本社移転を無事に終えた今、新本社ビルのコンセプトを社員に理解してもらい、コンセプトに合った働き方を浸透させていくことが今後の課題だと生嶋氏は言う。「ITの時代だからこそ、社員同士がフェイス・トゥ・フェイスでコミュニケーションする機会を増やし、社員やグループの一体化を図っていきたい」。新本社がグローバル本社として機能し、DICグループがさらに発展していくには、社員一人ひとりがハードに仕組まれた使い方を理解し、ハードに合った働き方を実現していくことがカギとなろう。

プロジェクト詳細
企業名 DIC株式会社
拠点部門 本社
所在地 東京都中央区日本橋3-7-20
施設 ディーアイシービル
移転時期 2015年5月
CBRE業務 プロジェクトマネジメント

 

上記の記事の内容は BZ空間誌 2015年秋季号 掲載記事 掲載当時のものです。

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