さらなる業容拡大を目指し居慣れたビルからの転出

ライオン商事の設立は1941年。来年には70周年を迎える歴史ある企業である。創業以来、主に親会社であるライオンの商品を販売する事業を担ってきたが、近年、ライオングループが関連会社の担当事業分野を再編成する中、2004年以降、相次いでノベルティ商品、業務用厨房品等の事業をライオン及びライオングループ会社に移管していった。2007年春以降はペット用品を中心に扱う会社に転換し、この結果、要員が減少。入居していた親会社の4階建ビルの使用フロア数も4から1に減少した。さらに、この時フェイスtoフェイスのコミュニケーションを重視し、ワンフロアに多人数が入ったため、手狭な状況となっていた。
このような状況下、まず移転先候補となるはずのライオン本社ビルは、ライオンの全国の本支店の管理機能が東京に集約されたため手狭となっており、移転を受け入れる余裕はなかった。狭く、使い勝手の悪いオフィス環境に対して社員から改善を求める声も多く、移転について幾度となく社内で議論になったが、「"狭さの解消"だけでは、移転コストをかけてまで親会社のビルから転出する必要性を親会社に説得できず、昨年までは移転が実現することはありませんでした」と移転プロジェクトを推進した社長付の土井眞一氏は振り返る。

ライオン商事は今年1月、小森衛・新社長のもと、ペット事業専門会社として新たなスタートを切った。これが移転の引き金になる。小森社長はこう話す。「ペット事業の専業体制で私にバトンタッチされたからには、私に課せられた仕事は"攻めの体制"をつくることです。人員を増やし、自社内で研究開発できる設備も整備したかった。しかし、当時の器では業容拡大しようにも手狭だったため、私の社長就任を機に思い切って外に出ようと決めました」。
小森社長は、現在の本社社員40名体制から60名体制への増員を中長期目標として掲げるとともに、業容拡大のための移転を表明。親会社の了解を取り付けるとともに、土井氏に対しては年内を目標とした移転準備を指示した。土井氏は話す。「私が社長から呼ばれたのは3月でした。私は『年内に移転するなら、10月か11月の三連休を目指しましょう』と申し上げました。これだけの短期間で準備ができたのは、実は前社長の時代から移転の検討指示を受けており、私なりに情報収集を行っていたからです。新社長が就任して、60名体制を目指すという方針が明確にされたことで、移転話は一気に具体化していきました」。
関連会社と同一ビルへの入居でコスト削減とインフラシナジー効果を期待

物件探しについては、関連会社を通じて紹介されたシービー・リチャードエリス(CBRE)に依頼。条件としては、親会社のインフラが活用しやすい両国に近く、関連会社とのシナジー効果が発揮できること、そして将来的に60名体制に耐え得るだけの面積(200坪程度)であることを重視した。移転前のオフィス面積はわずか約70坪しかなく、会議室や打ち合わせスペースもなかった。「来客との打ち合わせの際には、親会社や関連会社のビルまで出向いて場所を借りなくてはならず、また執務室では椅子を引くと後ろの人にぶつかってしまうような状態でした。こうしたオフィス環境の改善も、移転の大きな狙いでした」と土井氏は話す。

最終候補に残ったのは、両国と錦糸町の二つの物件。最終的に錦糸町駅前のランドマークビル「アルカセントラル」に決定したのは、関連会社が先にこのビルに移転していたことも大きな理由の一つだった。同じビルに入居することで業務のシナジー効果はもとより、例えば関連会社を回る連絡便が新たなルートを作らずにすむことや、WAN、セキュリティ主装置を共有できるなど、イニシャルコストを削減しながらサービスの向上が可能となり、様々なメリットが期待できる。
「新たな設備投資が不要だったことが我々にとっては大きな魅力でした」と土井氏。立地面でも両国から1駅しか離れていないこと、また交通アクセス面ではむしろ両国よりも優れているため、来客のアクセスしやすさ、営業に出る際、社員の通勤を考慮しても錦糸町のほうがメリットが高いと判断した。社員食堂が使えなくなることが懸念材料だったが、給食施設がない場合は外食代を補助する制度があり、駅前には多数の飲食店だけでなく、郵便局、消防署、警察署、広域避難所も近いことから普段の利便性が向上するうえに、防災も充実していることから、特に反対はなかったという。こうして6月後半の取締役会において錦糸町への移転が了承され、7月後半には賃貸借契約締結の運びとなった。
社内外へのホスピタリティ強化とコミュニケーション活性化しかけづくり

移転のプロジェクトマネジメント(PM)業務も、引き続きCBREに委託した。慣例で依頼してきた家具メーカーではなく、ライオンでは実績のないCBREに依頼したのは、移転を機に新しい会社に変わっていこうとする決意表明でもあった。「長年居を構えていた親会社のビルから、せっかく賃貸ビルへと移転するのですから、これまでとは違ったオフィスづくりをしたいと考えました。一言でいえばライオングループ各社より、『ライオン商事さん、やっちゃいましたね』といわれるぐらいのオフィスをつくることが目標。さらに、これは単なる引越ではなく『市場を創造する商品を産み出す新空間づくり』をしようとしたわけです。CBREに期待したのは、コストセーブをしつつ、ライオンの企業文化を大切にし、将来を見据えた、柔軟性のあるオフィスづくりの提案です。その期待通り、斬新な提案をいくつもいただきました」と土井氏は話す。

「商売を優位に進めるには、多くの方に訪れていただき、多くの方とコミュニケーションを取ることが一番だ」という小森社長の考えのもと、オフィスづくりの最大のテーマは「人が集まるような会社にする」ことだった。製造・販売会社であるライオン商事には、多数の取引先と、全国のお得意先様との交流がある。来客に対するホスピタリティの強化と、来客との交流が図れる十分な空間の確保が重要課題であった。そのため、ゲスト用の応接個室を配置したほか、エントランスには、社員のペットへの熱い思いをお客様に伝えるため、社員が"家族の一員"であるペットを自ら撮影した写真を飾っている。また、会議・応接室のガラス間仕切り面や、部屋名サインにはペットのシルエットが多数あしらわれ、ペット用品会社ならではの、動物たちが元気にお客様をお迎えする雰囲気が伝わるしつらえとなっている。また、エントランスの待合スペースには、自社商品を陳列したショールームスペースを設けた。

オフィスづくりのもう一つのテーマは、「部門間コミュニケーションの活性化」である。その切り札ともいえるのが、販売店に向けた棚割り提案(商品陳列の提案)を検討するためのスペースを併設した会議室である。実際に商品を並べられるように棚を会議室に設置したのである。
「一般的に商品企画部門と営業部門とは視点が違いがちですが、両者が一緒になって商品陳列をシミュレーションすることで、商品開発にも生かせると考えています。もちろん、得意先をこの部屋に呼んでプレゼンテーションをすることもできます」と小森社長は話す。加えて、執務室の脇には、打ち合わせ、気分転換、ランチなどに自由に利用できるコラボ&リフレッシュスペースを設けた。
また、社員の執務環境を改善するため執務スペースを広く取るとともに、個人のデスクも従来の100cmから120cmに拡大。拡張性を考慮して将来の60名体制にもスムーズに対応できるよう、LANや電源などのインフラ整備も事前に行った。移転前什器の転用、カーペットを捨てずに福祉施設へ寄付、ペーパーレスな働き方の推進等、エコファースト企業としてのCSRを実践した。自社ビルから賃貸ビルに転出するにあたってはセキュリティ強化も課題だったが、ライオンの関連会社が共有するセキュリティ体制に加えて、監視カメラや電話の設置で対応している。
賃貸ビルへの入居を機にワークバランスを改善

賃貸ビルへの移転によって、社員の働き方にも変化が求められているという。「両国はいわば"ライオン村"ですから、ライオンだといえば許される部分もありました。また、自社ビルなら夜間の就業も無理を言えば何とかなったものです。しかし、賃貸ビルではそうはいきません。廊下に出れば公道と一緒です。仕事の仕方やライフスタイル自体も変えていかなくてはならないと社員には話しています」と小森社長。ペーパーレス推進による情報共有や、個人が業務内容に応じて、働く場所を選択できることによりメリハリのある働き方が可能になり、個人、会社全体の生産性の向上及び、残業時間の削減を目指している。これが社員の健康や、ワークライフバランスの向上につながればと小森社長は考えている。
未来を見据えたビジネスの器へ移ることで、そこで働く人の意識や働き方を変え、攻めのビジネスへと変革していくことを狙った今回の移転プロジェクト。新しいオフィスについて小森社長は、「業容拡大に向けた陣容は整ったと思っています」と手ごたえを感じている様子。あとは攻めるのみである。