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エア・ウォーター株式会社

ケーススタディ

2011年3月8日

オフィス移転プロジェクト事例 / エア・ウォーター株式会社 / エントランス

国内の産業ガスメーカー大手であるエア・ウォーターが、2010年12月、実に45年ぶりに本社を移転させた。

これまでの賃貸ビルから、通りを挟んだ向かいに建ち上がったオフィスビルを購入。この売買契約からわずか5ヵ月間という超短期間で本社移転を実現させた。「スピーディかつ高いコストパフォーマンスで、より満足度の高い本社オフィスに」をコンセプトとした移転プロジェクトは、どのようにして実現したのか、そのプロセスを追ってみた。

グループのシンボルたるべき本社ビル探しがスタート

オフィス移転プロジェクト事例 / エア・ウォーター株式会社 / サインボード

大阪に本社をおくエア・ウォーター。製鉄所の高炉で使われる酸素ガスや、半導体や液晶などのエレクトロニクス関連製品の製造工程で使われる窒素ガスなど、産業系分野が中心だが、それだけではない。医療事業やエネルギー事業、エアゾル事業、食品事業などの生活系分野も幅広く手がける多角化を実現している。

その基盤となっているのが、この10年の間に積極的に推し進めてきたM&Aの実践による、独自の多角的経営モデル「全天候型経営」である。このため、同業他社と比較すると産業ガス関連事業に対する依存度が低く、同社では多角化の恩恵により、どの業界が落ち込んでも対応できる企業体質を確立。その結果として、この10年のGDP成長率が約1%と極めて厳しい経済状況の中で、売上高、経常利益ともに飛躍的な成長を遂げてきた。

その同社に、本社移転の話が持ち上がったのは2000年。今から10年以上も前のことである。「副資材メーカーの位置付けである当社では、オフィスなどの間接部門に大きなコストをかける文化はありません」と語る総務部課長中井氏の言葉どおり、同社では1966年以降、同じ賃貸ビルのフロアを借り増して、業務拡大・増員に対応してきた。

しかし、事業の拡大に伴う手狭感に加え、いくつもの問題点が顕在化してきたのも事実。具体的には、

  • 築年数を経たビルであるため、大規模な災害発生時には本社機能の維持・継続面で課題が残る
  • 120坪のワンフロアは60坪ずつに分割せざるを得ない仕様で、しかも中心に柱があるため拡張性が低い
  • ビルのスペック上、セキュリティの運用が実質的にできない
  • 拡張性がないため会議室や打ち合わせスペースが十分に確保できない

などだ。また、いくつかの主要な関連会社が同拠点に入りきらず、市内に分散していたため、これを統合したいという思惑もあった。

オフィス移転プロジェクト事例 / エア・ウォーター株式会社 / 入居ビル外観

新本社の"器"探しでこだわったのは、1棟で使用できるビルであること。先にも述べたとおり、同社はM&Aによって事業、および子会社を拡大、既存事業とのシナジー効果を追求する一方、独立採算性によって収益を把握するという手法によって急成長してきた。同社でいう「ねずみの集団経営」だが、そのため、当然ながら異なる企業文化の集合体にならざるを得ない。本社ビルはこうしたグループ全体のシンボルであるべきものと考えた。だが、思うような物件がなかなか見つからず、計画はなかなか進まなかった。

状況が一変したのは2009年秋のこと。「10年後に売上高1兆円達成」という成長ビジョンを掲げた同社の中期経営計画のスタートを翌年(2010年)4月に控え、その節目として、長年の懸案事項であったオフィス環境を刷新し、グループ全体の社員の意識向上を図ることが強く求められた。折しも、リーマン・ショック以降、不動産価格が大幅に下落。金利も安いことから、投資効果も考慮し、従来の賃貸オフィスに限らず、取得も視野に入れての物件探しが本格化していったのである。交通面のリレーションに優れていること、視認性が高く大通りに面して いること、ブランディングを考え品格のあるビルであること、など新たな条件が加わったが、取得という選択肢が増えたことで、春先までにいくつかの候補が挙げられた。

なかでも興味を引いたのが、竣工後テナント募集を予定していた新築の賃貸ビル。立地は旧ビルと大通りを挟んだ向かい側。しかも、ビルの規模も、本社と分散している2拠点の合計とほぼ同じと、同社のニーズにぴたりと合うものだったため購入のチャンスと判断。その後の価格交渉を経て、7月に売買契約、9月に引渡と、短期間のうちに極めてスムーズに新本社ビルの確保が進んでいった。

期間4ヵ月の移転プロジェクト大掛かりな仕様変更を実施。

数百人規模の本社移転にもかかわらず、社内プロジェクトチームを編成せず、完全に総務部主導で実施された今回のプロジェクトだが、大変だったのは、むしろここからだろう。先にも触れたとおり、社内的には中期経営計画の初年である年内には移転を済ませ、新年からは新オフィスでスタートしたいという思惑があった。この時点で、残された期間は3ヵ月もない。

ここで掲げられた移転のコンセプトは「スピーディかつ高いコストパフォーマンスでの、より満足度の高い本社オフィスづくり」だ。具体的には、

オフィス移転プロジェクト事例 / エア・ウォーター株式会社 / MTGスペース
  • 分散している関連会社を集約しての効率的経営の実施
  • グループ全体のシンボルとしてふさわしい本社ビルの仕様
  • 来客対応ゾーンの集約化および来客と社員の切り分けによるセキュリティ強化
  • ECOに配慮したオフィス構築
  • ユニバーサルプランを導入した合理的なレイアウト
  • 社員間のコミュニケーションゾーンの確保

などを、限られたコストの中で実現することにあった。

ここでまず問題となったのが、購入したビルの仕様である。もともとファンド所有物件として、リーシング目的で建設されたビルであるため、機能的ではあるものの、1~2階は商業店舗を想定した仕様になっていた。これをブランディングを踏まえた本社ビルのエントランスに変えるための工事が必要となった。

この工事のためだけに設計事務所を起用するのは、コスト的に見合わない。また、施工元のゼネコンや什器メーカーから全体マネジメントの提案を受けたが、デザイン、施工能力、消防法など法規上の確認面で、両者の得意・不得意があるため、一括での依頼は不安が残る。そこで、設備工事はゼネコン、内装は家具メーカーと分離したうえでコンペを実施し、専門分野を活かした価格と品質の適正化を図ることにした。加えて、プロジェクト全体のマネジメントをシービー・リチャードエリス(CBRE)に委託。中立的な立場でアドバイスができる点を評価してのことだが、具体的にはコストセーブ、および付随する法的手続きの確認作業、スケジュール管理、工事の取り合いの調整といったベンダー管理が主な業務となる。

オフィス移転プロジェクト事例 / エア・ウォーター株式会社 / オフィススペース

エントランスについては、結果的に1・2階とも天井高3mのゆったりとしたオープンスペースに仕上げており、2階には会議室や応接室としての個室を7つ確保した。またビルの南側の窓に面しては、社員も含めて利用できるミーティングコーナーを設け、来客対応はもとより、出張などで本社に来社してくるグループ企業の社員とのコミュニケーションスペースとしている。

また、来訪者は2階までのアクセスに限定し、3階以上は完全に社内スペースとすることでセキュリティを強化。逆に3階以上には強固なセキュリティをかけていない。ワーカーの働きやすさに配慮してのことだ。

シビアな業績管理を可能にしたユニバーサルデザインの採用。

オフィス移転プロジェクト事例 / エア・ウォーター株式会社 / 会議室入口

これまで分散していた拠点の集約にも成功した。面積的には、旧本社ビルの910坪+分散拠点の150坪、140坪の計1,200坪であったのに対して、新本社は全フロア合計で1,250坪と50坪増えたに過ぎない。しかし、合理的な適正配置でスペースに十分な余裕ができている。

それを可能にしたのがユニバーサルプランの採用だ。同社は、各関連会社はもちろん事業部においても、シビアな業績管理を実施しており、社内の管理会計上のコストは、机一個、棚一つ当たりいくらという具合に、間接経費を原価として考える意識が定着している。勢い、各部門では無駄なスペースを極力排除したいのは当然であり、「この面積を削減するから、原価を下げてくれ」という要求も出てくる。

オフィス移転プロジェクト事例 / エア・ウォーター株式会社 / 会議室入口

総務部としても、それにできるかぎり対応しなければならない。その意味で、基準階となる4~8階の執務スペースは基本的にすべて同一レイアウトとし、面積の調整がしやすいように、間仕切りを一切排除して小面積でも有効に運用できるようにしている。また、各フロアの什器も統一することでレイアウト変更も容易。デスクはこの移転を機にすべて新調し、規格外の什器は持ち込ませなかった。「当社では、社員はもちろん執行役員、取締役から専務までみな同じデスクを使用し、オフィスレイアウトの最適効率を追求しています」と中井氏は語る。

移転に際しては、書類も約50%ほど破棄してきた。持ってくれば書類棚1つに対していくらとコストが掛かるのだから、社員が自主的に不要な書類をごみとして処分するのも当然のことだろう。引越は不用品を処分する最大のチャンスなのだ。こうして空いたスペースには、社員用のいくつもの打ち合わせスペースのほか、福利厚生にと、リフレッシュスペースや健康管理室、さらには防災備品庫などのスペースが設けられた。

また、環境面への配慮としては、省エネ対策としての1階部分のLED照明やトイレの人感センサー、電気の切り忘れ防止機能なども採用している。

総務部中心だから実現できたコストミニマムの移転プロジェクト

先にも触れたとおり、同社では総務部が主導する形で、本社移転のための部門横断的なプロジェクトチームはつくらなかった。経営層からの注文は「年内の移転」と「華美な装飾を排した機能的な空間づくり」の2点だけ。その分、コストを予算内に収められれば、あとは自由裁量で決められた。

オフィス移転プロジェクト事例 / エア・ウォーター株式会社 / 会議室

もちろん、反省点がないわけではない。設計事務所を使わなかったことで、現場において各業者の担当個所が不明確であったり、仕様上具合が見られたのも事実。そのためスケジュールが押し、内部工事の調整と、レイアウトの確認など移転直前の業務がオーバーラップしてしまった。引越が12月27日にもかかわらず、ビル側の最終工事が終了したのは22日。余裕はわずかに5日間しかなかったのだ。

だが、本社ビル移転の経験者が一人もいないという状況の中で、わずか4ヵ月でコストパフォーマンスの高いオフィスづくりを実現できのは、総務部門の献身的な働きと、外部スタッフとの信頼関係を築きながら専門性の高いアドバイスを素直に重視した結果といえる。

「将来的な拡張性といった機能面はもちろん、エア・ウォーターブランドを社内外にアピールできるオフィスに仕上がったと自負しています。社員も、このような新しく機能的なオフィスで働くことで、営業数字やコストといった目先の目標のみならず、企業理念や社会貢献のあり方を強く意識してくれるものと思います。今後の運用の中で、『横議横行』という社是にもあるとおり、縦の流れだけでなく、他部門やグループ会社との連携も高めながら、コミュニケーションを通じた新しい企業文化を醸成していけるようにしていきたいですね」(中井氏)

中期経営計画にある10年後の売上高1兆円企業実現に向け、新オフィスがその礎になることは間違いないだろう。

上記の記事の内容は オフィスジャパン誌 2011年春季号 掲載記事 掲載当時のものです。

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