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オフィス移転プロジェクト事例 /りそな銀行 / 受付

金融機関の本社といえば、東京・大手町などのビジネス街に立地するケースが多いが、りそな銀行は2010年5月、大手都市銀行として初めて東京本社を金融ビジネスの中心街から下町である江東区木場へ移転させた。この取り組みの背景には、「真のリテールバンクの確立」を目指し、移転を機に本社業務改革を推進しようとする同行の強い意志があった。とはいえ、サービスの根幹を担うシステム移転を伴う本社移転は、大きなリスクを内在するデリケートな作業でもある。明確なコンセプトと綿密な実施計画で本社移転を成功させた同行のケースを検証する。

市況好転を捉え旧本社売却 大手町から深川への本社移転

オフィス移転プロジェクト事例 /りそな銀行 / サインボード

まず本社移転に至るまでの経緯をみてみよう。りそな銀行の旧東京本社(大手町)は築30年以上が経過した自社ビルで、設備の老朽化が進んだことによって、近い将来、空調・電気・通信系統等の機能維持のため多額の再投資が必要であることが課題とされていた。また、社内の組織改変のたびに大掛かりなレイアウト変更工事が必要になるなど、非効率なオフィス運営も問題だった。こうした内部要因に加えて、銀行という公器のインフラとしてBCP(事業継続計画)への対応強化が求められていたことや、2003年に約2兆円の公的資金の注入を受け、財務基盤の一層の強化が求められているといった外部要因もあった。折りしも2008年当時は不動産市況が好転し、売却益が見込めるタイミングであったこともあり、旧本社の売却と、新たな移転先探しを同時に進めることになったのである。

オフィス移転プロジェクト事例 /りそな銀行 / 受付

同行は、移転先の物件仲介と移転のプロジェクトマネジメント(PM)業務を、シービー・リチャードエリス(CBRE)に委託する。今回の物件探しは旧本社の売却と同時進行で行われたが、売却公表までは厳格な情報管理が必要だったからだ。「移転計画を事前に外部に漏らさないために最も必要なことは、情報統制だと考えました。CBRE1社に窓口の役割を担ってもらい秘匿性を高めたことで、移転に関連する多種多様な業者にも大きな混乱なく対応することが出来ました」と、東京本社移転推進室室長の石原照久氏は話す。

「移転先は大手町にこだわる必要はない」との意見が役員から出されていた。セキュリティ確保や生産性向上の観点から、本社機能は1ヵ所に集約させるのが望ましく、1万坪程度の大型物件が検討されたが、これだけの大型物件は数も限られている。結果的に2010年に竣工予定の「深川ギャザリアW2棟」(江東区木場)への移転を決定したが、東京駅や羽田空港へのアクセスもよく、監督官庁をはじめ取引金融機関にも至近であることが決め手となった。また、バランスシートへのインパクトを考慮し、土地購入による自社ビル建設ではなく賃貸物件とした。

 本社スタッフ約2,500人のうち、深川へ移るのは約2,000人。この時点ではまだ、営業部門・センターを中心とする約500人の移転先は決まっていなかった。営業部門については、賃料の二重払いを避けるため、新本社への移転時期である2010年5月以前に入居可能な物件であり、かつ、約400人を収容可能な規模であることや、取引先へのアクセスの利便性などを考慮し、山手線内の中心に位置する飯田橋の物件を選定した。その他、手形交換センター等のバックオフィス機能は、既存の自社所有物件へ移転させることとなった。

移転を機にインフラ強化と業務改革を推進 生産性を向上させるオフィスを模索

2008年4月、旧本社の売却および移転の公表に伴い、同5月に東京本社移転推進室が発足。2年後の移転に向けたプロジェクトが本格始動した。

オフィス移転プロジェクト事例 /りそな銀行 / 社員食堂

移転推進室のメンバー5人が事務局となり、関連部署の代表者から成る東京本社移転推進委員会を運営、ここで毎月協議を重ねながらプロジェクトを進めていくこととなる。経営陣からのオーダーは、対外的な資金決済等の重要業務を担う本社機能の安全かつ円滑な移転に加えて、「移転を機に"創造性に富んだ金融サービス企業"へ進化するための本社業務改革を実行せよ」というものだった。オフィスのインフラ強化や環境改善により、社員のモチベーション向上を図るとともに、業務の生産性や品質の向上、スピードアップに繋げようというわけだ。移転推進室が中心となり、若手・中堅社員によるワーキンググループを組成し、議論を重ねながら、社員の意識や"働き方"を変えるオフィスづくりに着手した。

オフィス移転プロジェクト事例 /りそな銀行 / 社員食堂

新しいワークスタイルを象徴する「わかりやすいキーワード」として同社が掲げたのは「ペーパーレスの推進」。紙をなくすことでコスト削減と、新本社でのスペース効率向上を実現するとともに、省資源にも配慮する。さらに新本社では、会議や打合せ全般をペーパーレス化することで会議準備等にかかる工程・時間を圧縮し、業務の大幅な効率化・スピードアップも狙う。そのためのインフラとして、全面的な無線LAN環境の整備や、会議室内のプロジェクター設置、テレビ会議の導入などで、紙を使わない働き方への改革を進めた。

オフィス移転プロジェクト事例 /りそな銀行 / プロジェクター

働き方を変えるもう一つのキーワードが「社内コミュニケーションの活性化」。各階のフロア両端に、多目的スペースとしてバラエティに富んだタイプの"コミュニケーションエリア"を新設し、パントリーや文房具コーナー等の共有機能を集約することで、人が集まりやすい環境をつくった。社員食堂と喫茶室のトータル席数を旧本社に比べ減少させたため、その代替スペースとしての工夫でもある。

「社員の意識や働き方は、オフィス移転を機にインフラごと変えない限りそう簡単に変えられるものではない。本社移転と本社業務改革を同時進行させた今回のプロジェクトでは、社員の働き方をどのように変えていくのか、また、そのためにふさわしい器はどのようなものか、この二つを平行して議論し、決めていかなくてはならないところに難しさがありました」と移転推進室グループリーダーの和田康二氏は振り返る。

ユニバーサルレイアウトの導入でスペース効率向上を図る

さらに、オフィスづくりでこだわったのが、「ユニバーサルレイアウトの導入」である。執務エリアは原則オープンスペースとし、部署間の壁は設けないことで、組織改変にも弾力的に対応できるオフィス空間を実現した。また、役職者用のひな壇席も原則廃止。役員を含む全社員のイスや机の規格を統一し、一人当たりの執務面積を均一化することでスペース効率の向上が図られた。このように、パート社員と役員が机を隣に並べる光景は、伝統的な日本の金融機関では画期的なことに違いない。このように圧縮・効率化して生み出された新たなスペースは、従来不足気味だった会議室や打ち合わせスペースとして適正に再配分された。

ワンフロアの面積が550坪から880坪に増えたことで、部署の配置には苦労もあったようだ。法令遵守や情報管理の観点から厳格なセキュリティと情報遮断等の措置を講じつつ、いかにフロア内のスムーズな動線を確保し、関連部署を各フロアに効率的に配置するかがポイントとなった。

また、移転推進室では、旧本社の業務インフラ等への不満や要望に関する全社的なアンケートを事前に行っている。オフィスに壁を設けない風通しのよさや、会議室や打ち合わせスペース不足の解消などは、こうした社員の声に対応するものでもある。

オフィス移転プロジェクト事例 /りそな銀行 / オフィス

これらのオフィス環境の改善に加えて、公共性の高い金融機関として特に重視されたのが、BCP対応のインフラ強化であったが、非常用発電を始めとする電気設備や通信設備等の安全対策を、テナントビルという制約条件がある中で建物建築工程にうまく織り込むことで実現させた。

経営陣を巻き込んだ体制構築と徹底した移転リスクの洗い出し

これまでオフィスづくりについて述べてきたが、今回の本社移転で最も細心の注意が払われたのが、安全かつ円滑に移転業務を遂行することである。対外的な資金決済等の重要業務を担う銀行の本社移転だけに、事故によるシステム停止などという事態は許されない。同行では本社移転は今回が初めてだが、これまでに経験した合併やシステム統合といった大型プロジェクトの手法を本社移転向けにカスタマイズして、移転に関わる各種基本計画ならびにマスタースケジュール等を策定した。

まずは体制づくりである。前述の移転推進室が推進役となり、移転推進委員会で協議した内容や進捗状況を、随時、経営会議や取締役会に報告する体制を整えた。経営陣の了承のもと進めていくプロセスをとったことで、例えばユニバーサルレイアウトの導入等のオフィスの大きな変更やひな壇の廃止など、現場から反対意見が出そうな事案についても比較的スムーズに進めていくことができたという。

まずは体制づくりである。前述の移転推進室が推進役となり、移転推進委員会で協議した内容や進捗状況を、随時、経営会議や取締役会に報告する体制を整えた。経営陣の了承のもと進めていくプロセスをとったことで、例えばユニバーサルレイアウトの導入等のオフィスの大きな変更やひな壇の廃止など、現場から反対意見が出そうな事案についても比較的スムーズに進めていくことができたという。

プロジェクトの進め方については、実施項目を全て洗い出し、各項目の重要度やリスクの大きさに応じて管理レベルを設定し、そのレベルに応じてスケジュール管理する手法をとった。例えば、移転基本計画、新本社の基本設計・実施設計、危機管理計画など経営レベルでの判断が必要な項目についてはマイルストーンとして管理。その他、膨大な調達作業や移転に伴う対外的な届出などの細かい項目も、徹底的なスケジュール管理を行った。こうした実施項目は実に3,000以上に上ったというが、実施項目をいかに網羅するかが、移転作業におけるリスク管理の最大のポイントになったと和田氏はいう。「移転に際してどんな課題があるのかをすべて洗い出し、対応策をあらかじめ決めておくことが大切です。引越作業といえども、これほどの大規模になると実施段階で様々な問題が発生することが想定されます。可能な限り事前に対応策を決めておくことで問題発生時にも迅速な対処が可能となります。最大のリスクは、挙げた項目に漏れがあること。それを防ぐためには、社内に加えPM会社や協力パートナーの関係者全員が情報を共有し、フィードバックするという流れを繰り返す必要がありました。その中で、社内外・部署間の連携や調整が移転推進室の重要な役割でした」。

移転本番前にはリハーサルを実施して、協力パートナーを含む全ての関係者の動きを一通り確認するほど慎重を期した。本社移転の前年には、センターと営業部門の移転をすませており、そこでの教訓から、物量の半分を事前に搬送するという対策もとった。移転作業も三度目となると、スタッフの動きもこなれてきて、ゴールデンウィーク期間を利用した約2,000人規模の一斉移転作業は比較的スムーズに進めることができたという。「移転本番が成功するかどうかは、事前準備で8割方決まってきます。移転当日は、計画通り作業が進んでいるか管理するとともに、イレギュラーな突発事象に適切に対処することに全力を挙げました」と和田氏は話す。

下町情緒豊かな立地で地元に密着した銀行を目指す

オフィス移転プロジェクト事例 /りそな銀行 / コミュニケーションエリア

新本社に移転して、オフィス環境の快適性は格段に高まった。新設されたコミュニケーションエリアの使い方については、「いまだ社員の中には戸惑いが見られますが、新しい本社機能やインフラを有効活用して、生産性や業務品質を高めていってほしい」と石原氏は期待する。

移転による最も顕著な変化は、立地環境の変化だという。新本社のすぐ隣には小学校やイトーヨーカドーなどがあり、大手町では見られなかった家族連れの姿も多い。地元に密着した銀行として、"よりお客さまに近い環境で働く"ことへの意識が高まっているのを感じるという。実際に、これまで以上にあいさつやマナーに気をつける社員が増えているそうだ。

本社移転を機に、社員の働き方の変革も意図した今回の移転プロジェクト。金融機関の常識にとらわれない大胆なオフィス構築の工夫と、綿密な事前準備によるリスクコントロールが、成功の秘訣だったといえる。

※当該記事中の部署、役職等は、平成22年6月25日取材時の名称を使用しています。

上記の記事の内容は オフィスジャパン誌 2010年秋季号 掲載記事 掲載当時のものです。

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