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キリンホールディングス株式会社

ケーススタディ

2013年9月2日

生活の賑わいと消費活動に溢れる街・中野へ、17グループ企業の本社機能を統合・移転。
グループ連携強化に向けたオフィスづくりで、社員の働き方を大きく進化させる

キリンホールディングスは、今年5月、東京・中央区や渋谷区に分散していた17のグループ企業の本社機能を、中野に新たに竣工した中野セントラルパークサウスに統合・移転させた。執務空間ではグループ間の連携を強化するため、企業別ではなく機能別のレイアウトを採用するなど、社員同士のコミュニケーションを活性化するための数々の仕掛けが施されている。本社移転を機に社員自らが働き方について考える気運をつくり、新天地への移転を成功させたプロセスを取材した。

主要2社の集約だけでは シナジー効果は限定的

執務スペース

キリンビールやキリンビバレッジ、メルシャンなど国内有数の飲料会社を擁するキリンホールディングスは、今年5月、東京・中央区(新川)や渋谷区(原宿)など12拠点に分散していたグループ17社の本社機能を、中野の新築大型ビル中野セントラルパークサウスに移転・統合させた。事業環境の変化に迅速に対応するため、部門や組織を超えた連携強化によりグループシナジーを創出し、国内綜合飲料事業の基盤を強化する狙いがある。

グループ間の連携強化は、近年、キリングループにとって重要な経営課題の一つとされてきた。実は4年前にも、グループの二枚看板であるキリンビールとキリンビバレッジの本社機能を集約することで、シナジー効果を狙ったことがある。当時、キリンホールディングスは新川と原宿に自社ビルを保有しており、新川にシステムや物流などを担う専門会社とホールディングス機能を、原宿に前述の二つの事業会社を統合したのである。この施策により一定の効果は見られたものの、2社のみではやはり限定的であることは否めない。それを踏まえ、さらなる進化を狙って今回の移転に至ることになる。

本社機能の再編とオフィス統合の構想が再び浮上したのは、2010年後半のこと。綜合飲料事業の推進を目的にしたグループ企業間の会議も様々な部門で頻繁に行われており、そのたびに発生する移動コストや移動時間のムダも無視できない状況だった。固定資産の圧縮による経費削減も考慮し、グループ会社の本社機能が一堂に会することのできるオフィスの“器”探しが始まった。物件選定においては、コスト削減、アクセスの良さ、災害時のリスクマネジメントおよびBCP対応を条件とした。とりわけ重視したのは、従業員の働きやすさである。

「グループシナジーを発揮するには、従業員同士が会社の壁を超えて、顔を突き合わせて話し合える環境が不可欠です。本社の統合移転に当たっては、多数階に分断される高層ビルではなく、ワンフロア面積の広さが絶対条件でした」と語るのは、今プロジェクトの中核となったキリン株式会社総務部グループ本社移転プロジェクトチームの井上宏氏である。このような理由のもと、1,500坪という都内でも最大級のフロア面積を有する中野セントラルパークサウスが移転先として選定された。

フロア中央の中階段

具体的な移転に向けた動きとしては、まず8人から成る移転プロジェクトチームを立ち上げ、その傘下に、設備面を検討するオフィス環境ワーキンググループと、ITインフラを担当するグループを置いた。プロジェクトマネジメントを担当したのはビル仲介に引き続きCBREである。引っ越し完了の日程としては、準備期間を考慮し、本社機能の再編が完了する2013年1月のキリン株式会社設立から遅れること半年後の、2013年6月を最終的に目指すことになった。

機能別レイアウトの採用で グループ間の連携を強化

コミュニケーションスペース

グループ間の連携を強化するため、最も工夫したのがオフィスレイアウトである。一般的なオフィス統合に見られる会社別の人員配置ではなく、機能別レイアウトを採用した。例えば、営業やマーケティングといった機能ごとにグループ社員が席を並べ、協働で仕事に取り組めるようにした。会社の壁を取り払うためとはいえ、別会社の社員が隣同士に座るレイアウトは極めて斬新である。しかし、「ビールも清涼飲料もワインも、ターゲットとなるお客様は同じ。お客様を主語で考えれば、商品開発もマーケティングも一緒に考えたほうが知恵が出ます。このレイアウトに全く違和感はありません」と井上氏は話す。

とはいえ、社内には反発もあったようだ。「管理しにくいという理由で、特に管理職からは新オフィスでの業務を心配する声が上がっていました。しかし、当社においては従来の強い管理志向こそが意思決定を遅らせる原因であり、機能別レイアウトの採用により顧客志向の組織風土へと変える狙いもあったのです。また、本社機能の連携不足に誰よりも危機感を抱いていたのが、ホールディングス社長の三宅占二です。2012年春頃の基本設計の段階から、トップの意思として機能別レイアウトの採用を明言していました」。

人員配置の工夫だけでなく、社員同士の交流が自然に生まれるような仕掛けも施した。まず、17階から21階までのオフィスフロアのうち、執務スペースである上層の3階をフロア中央の中階段でつなぎ、上下階の往来をスムーズにした。これは、賃貸ビルを借りるに当たっては異例ともいえる投資だろう。さらに、中階段の周りには、ソファやテーブルを置いたコミュニケーションスペースを設置した。人の流れが多い動線上に、デスクや会議室とは違うリラックスした雰囲気の空間をつくることで、新たなアイデアを生むような活発な交流が生まれることを期待したのである。

多目的ホール

もう一つの目玉は、昼食やパーティー等に使える、キッチンとバーカウンター付きの多目的ホールである。ここでは従業員向けの新商品発表会も行われる。「従来なら事業会社の社員しか目にすることができなかった商品発表会を、この建物ではグループの全社員が目撃することができるので、『キリングループにいるという実感が湧く』という声をよく聞きます」と井上氏。当初は「昼食だけのためにつくるのはスペースの無駄では」という反対意見もあったようだが、「今では顧客向けのプレゼンや社内の宴会や研修のために予約が殺到する人気スペース」(井上氏)だという。こうしたコミュニケーションスペースをフロア全体の20%に増やす一方で、会議室は以前のオフィスから約3割削減している。

新オフィスで実現したい働き方を 社員自身に考えてもらう活動

ポスター

新オフィスが目指すのは、「グループ内の多様性を認め合い、ぶつかり合いながら新たなキリンの文化をつくっていくこと」だという。そのために相応しいオフィス環境が用意されたとしても、社員の働き方が変わらなければ宝の持ち腐れである。そこで、オフィス移転をきっかけに社員自身にも新オフィスで実現したい働き方を考えてもらおうと、移転前から、「Nakano Style」というキーワードで社内向けコミュニケーション活動が展開されてきた。

各部署からメンバーを集めて「Nakano Style 準備委員会」を設置。「新オフィスの機能をどう使いこなすのか」「本社の生産性をどう高めていくか」「社内や顧客・地域との絆をどう育んでいくか」といった三つのテーマを話し合い、提言を小冊子にまとめて社内で配布したり、活動の盛り上がりをPRするため、ポスターを制作したりした。

この活動の狙いについて、井上氏はこう話す。「オフィスのハード面を整備するのは会社ですが、それを使いこなすのは社員自身です。もし使いこなせていないのなら、どうすれば使いこなせるのかを考えるのも、会社ではなく社員自身です。社員一人ひとりが、お互いの多様性を認めながら自分たちの働き方を模索していけるような、従業員参加型の課題解決を目指しています」。また、各部署のメンバーで構成する準備委員会の設置は、移転に対する現場の疑問や懸念を吸い上げ、広く社内に移転コンセプトを訴求する上でも効果があったようだ。

「KIRIN Communication Space ココニワ」

移転先の中野は、キリングループには縁のなかったエリアである。これまでの各拠点は、中央区や渋谷区など山手線内に位置していた。今回はオフィスの機能や働きやすさを考慮した結果、中野に決まったわけだが、「中野という立地に、最初は社員に驚きがありました」(井上氏)。そこで一計を案じたのが、内覧会と称して社員とその家族を招待したイベントだった。当時はまだ正式な賃貸契約の前だったが、「とにかく社員にオフィスを見てもらおうという作戦です。いったん見てしまえば、景色はいいし、環境はいいし、こんなオフィスで働きたいという気持ちに変わってくるものです」と井上氏は話を続ける。

実際に中野に引っ越してからは、消費者に近い街に拠点を構えることのメリットを強く感じるという。中野は都内においても人口集積率が高く、中でも若者が多い。「飲料会社として、消費者から常に刺激を受けることができる環境に身を置けるのは大きな魅力です」(井上氏)。

また、消費者との接点を大切にするため、新本社の受付スペースには「ココニワ」と呼ばれる情報発信スペースをオープンさせた。グループ各社の商品ブランドに関する情報やグループのこれまでの歩みなどを紹介するスペースである。こうしたスペースを設計できることも、中野セントラルパークサウスを移転先に選んだ決め手だったという。情報発信スペースを設置した背景には、移転プロジェクトメンバーの次のような思いがあった。「ビール工場であれば、見学コースを用意することでビールの魅力や企業イメージを伝えることができますが、本社は単なる執務の場ですから、消費者の方にとってはよく理解されないところがあるでしょう。私どもがここ中野に居を構え、そして地元の人たちに当社のことを知ってもらうには、企業ブランドを発信するスペースは必須だと考えました」。

デザイン&テクノロジーウォール

顧客志向で仕事ができる立地とオフィス環境を得た今、社員の働き方を変革するとともに、キリンの企業文化を創造していくことが次なる課題だと井上氏は言う。「最近新たにキリングループになった会社もあり、その結果、以前のような“キリンらしさ”が薄まっているように感じます。いま一度、社員みんなでキリンの企業価値について語り合い、キリンならではの企業文化をつくること。その中で社員一人ひとりが自分の成長を実感できることが、この本社移転の究極の目的だと思っています」。理想的な“器”を得て、これからどのような企業文化を育み、綜合飲料グループとしての発展を遂げるのか。大いに期待されるところである。

上記の記事の内容は オフィスジャパン誌 2013年秋季号 掲載記事 掲載当時のものです。

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