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ジボダン ジャパン株式会社

ケーススタディ

2015年9月29日

R&D施設は重要な営業拠点。
徹底した安全・環境対策で実現した都心の本社オフィス兼R&D拠点構築。

エントランス

世界的香料メーカーの日本法人であるジボダン ジャパンは、今年5月、R&Dを併設した本社オフィスを大崎駅前に移転させた。「匂い調合」というR&Dの特殊性から物件への要求が極めて高いうえに、外国企業ゆえ日本国内で最終決裁ができないことが、移転プロジェクト遂行の難しさとして立ちはだかった。スケジュールとの闘いのなか、いかにして本社兼R&D施設の拠点構築を成功させたのか。

研究開発施設を 都内本社に併設する理由

ジボダン

ジボダン ジャパンは、スイスに本部会社を置く世界トップの香料メーカー、ジボダン・グループの日本法人として1970年に設立された。加工食品や飲料向けのフレーバー事業と、ファインフレグランスからファブリックソフナーや香料原料まで幅広く手がけるフレグランス事業を展開している。国内拠点としては、東京・大崎の本社兼研究開発施設、静岡県・袋井工場、栃木配送センター(以上、フレーバー部門)、横浜事務所(フレグランス部門。R&D含む)がある。

外観

一般に国内の香料メーカーの研究開発施設は、本社・営業部門とは別に都心から離れた場所に設置されるケースが多いが、同社では都内の本社オフィスに併設されている点が特徴的である。香料という製品の性質上、研究開発施設を顧客の近くに配置することが営業戦略として重要だと同社顧問の千葉信一郎氏は話す。

「当社のお客様は大手の食品メーカーや飲料メーカーですが、以前は営業担当と開発者が一緒にお客様の開発部門を訪問して営業活動を行っていました。最近はさらに一歩進んで、お客様に我々の研究開発拠点に来ていただき、その場で匂いや味の調合をしながら打ち合わせするやり方に変わっています。その方が一度に複数の試作品を比較評価できますから、お客様にとっても我々にとっても効率がいいのです。研究開発拠点は、単なるラボではなく、営業拠点でもあります。お客様の開発部門が集中する東京近辺にあることが重要だと考えています」。

旧本社ビルに安全性の懸念 2年半かけて本部を説得

エントランス
廊下

現在の本社オフィスは、今年5月、目黒から大崎に移転したばかりだ。それまで目黒の2棟のビルに構えていた本社オフィスと研究開発施設を、大崎に統合移転させた。

きっかけは、東日本大震災だった。旧本社と旧研究開発施設は堅牢な建物だったが、ともに築40年近い旧耐震ビルであり、「震災前から安全性が気になっていた」(千葉氏)という。また、ジボダン本体の度重なる合併統合で日本法人においても人員が増え、両拠点とも手狭になっていたという事情もあった。折しも震災が発生し、それを機に外部の専門機関に依頼して国内拠点のリスク調査を実施したところ、本社と研究開発施設の安全性に問題があることが判明。早速、BCPと従業員の安全確保の観点から両拠点の移転をスイス本部に掛け合ったが、事はすんなりとは進まなかった。移転の承諾を得るまでに、実に2年半を要したのである。

「我々と本部では危機意識のレベルが違っていたのが大きな理由です。本部を説得するために、地震の専門家に依頼したリスク調査結果を用いたり、気象庁発表の公式データを駆使したりして、首都直下型地震のリスクと本社移転の緊急性を訴えました。すると今度は、現状の建物を耐震補強すればいいという意見が出る。それに対しては、研究施設の耐震補強は移転よりもコストがかかることを、大手ゼネコンの公開情報等を使って説明していきました。説得を地道に繰り返した結果、ようやく2013年12月、移転の同意を取り付けることができたのです」(千葉氏)。

困難を極めた物件探し 都心での「匂い調合」がネックに

ラウンジ

本部の了承を得、千葉氏の主導で移転プロジェクトがスタートした。ただその後も、移転先のビル選定は一筋縄ではいかなかった。ビルオーナーにとって、これまで受け入れた経験もなく、客観的評価も難しい「匂い」というファクターに対して、前向きな判断がしづらかったのは想像に難くない。今回移転のプロジェクトマネジメントを依頼したCBREに要請しリストアップした約300件の候補物件のうち、実際に足を運んだのは約50件。そのうち条件に適合し、かつオーナーから好意的な返答を得たのは、最終的に移転先に決まった大崎の物件ただ一つだった。

「最初のアプローチで感触が良くても、実際に目黒の研究開発施設を見てもらうと、皆一様に首を横に振りました。建物内の匂いにまず驚かれますし、匂い対策のために大がかりな改装が必要であること、匂いが建物の外に漏れれば隣近所からクレームが来るだろうということを考えると、難しいと判断されるのです」と千葉氏。都心という立地や建物のクオリティにこだわらなければ、物件探しはこれほど難航しなかったかもしれないが、あくまで「顧客の近くの立地」と「質の高いラボ施設の確保」にこだわった。都心近くの沿岸部や東部の工場跡地には比較的手頃なコストで入居可能な物件もあったが、BCPの観点からは適しているとは言えなかった。

オフィス
オフィス

候補物件が極端に少ないなかで、日本法人に最終的な決定権がないことも苦労した要因だと千葉氏はふり返る。「我々が物件を探していた2014年頃は、不動産業界が活発な時期で、いい物件があっても、2週間もすればテナントが決まってしまう状況でした。時間との闘いのなかで、どうすれば本部を説得して物事を動かしていけるかは大変苦慮しました」。

本部の説得と、物件選定からオーナーとの協議という難しい調整をCBREの仲介やプロジェクトマネジメントのメンバーと進めつつ、研究開発施設の責任者と実務者、スイス本部のエンジニアおよび設計施工を担当する鹿島建設の設計本部の応援を得て、オーナーに納得してもらえる匂い対策を検討。オーナーには匂い対策への徹底した取り組みと投資を約束し、最終的に大崎駅西口にある「トキワ新ビル」に本社移転が決まったのである。

匂いを上に集めて排出 何重もの対策で万全を期す

ラボ
ラボ

地上8階建の2~8階、延床面積1,230坪の新本社ビルに、約200名の従業員が移ることになった。目黒の旧拠点2棟を合わせた1,150坪と比べると面積の増加は7%に過ぎない。しかし、「ワンフロア面積が広く、しかも整形で柱がなく空間を無駄なく使えるため、実際に入居してみても閉塞感はあまり感じません」と千葉氏は話す。1階にコンビニが入居するほかは同社の1棟借りとなり、洒落た造りのエントランスには、まるで自社ビルかのようなグレード感が漂う。

懸案の匂い対策については、下層階(2階から4階の一部)を匂いとは無関係のオフィスフロア、中層階から上層階(4階から8階)は研究開発のラボ階とし、上に行けば行くほど強い匂いが発生するラボを配置した。下層階の空調済のきれいな空気が順次上層階に向かって流れて行き、上層階で取り入れ・空調された空気と共にラボ階の換気に利用される。

ラボ階には多数のドラフトチャンバー(局所排気装置)を設置したほか、フロアをパーテーションで細かく区切り、気圧制御や逆流防止ダンパー等で空気の流れを徹底的に制御することで、ラボから出る匂いの拡散を防いでいる。

ラウンジ
会議室

匂いのついた空気は最終的に空調機械室に集められ、脱臭して屋上から排出される仕組みだ。外気温が高く無風状態の場合は、空気を加熱して排出することで、匂いが確実に上昇・拡散するよう万全を期している。匂いの排出に関しては、本社ビルと周辺建物の高さや形に、年間の気象データを加味し、コンピュータでシミュレーションを行う程の念の入れようである。

新本社ビルは顧客が訪れる営業拠点であるため、来訪者の対応にも配慮した。5階にキッチン併設のプレゼンルームを設けたほか、4階には一般消費者によるモニタリングを実施できる評価ブースも用意している。また、オフィスとしての快適さも考慮し、2階の大会議室に隣接してラウンジを設け、従業員がランチを食べたりリフレッシュしたりできるようにしている。ラウンジと大会議室は通常は2つに仕切られているが、間仕切りを可動式にすることで、イベント等も開催できるような広いスペースも確保できる。

大がかりな引越作業 説明会&マニュアルで周到に準備

モニタリングブース
モニタリングブース

改装工事が始まったのは、2015年1月。研究開発施設の匂い対策のため、賃貸ビルへの入居としては非常に大がかりな工事となった。業務の中断を避けるため、5月の連休を引越のゴールに設定。通常6~7ヶ月かかる工事を、緻密な工程管理と各工事業者の連携により4.5ヶ月で完成させることができた。4月以降、工事が早く終わった低層部のオフィスフロアから順次引越を進めていった。

大変だったのは、何千何万ものアイテムを抱える研究開発施設の引越だ。「細かな試薬ビンやサンプルビンが何万本もあるわけですから、他人任せにはできません。すべて社内でパッキングしました。大型機器は、目黒ではクレーンを使って下ろしましたが、移転先のビルは窓が開閉できない仕様だったため、運送会社の力を借りてエレベータと階段で上層階まで運びました」(千葉氏)。引越前には、ラボの責任者が中心となり、機器の専門家による説明会を何度も開いたり、マニュアルを作成して配布するなど周到に準備。その結果、大きな混乱もなく引越を終えることができたという。

移転前にはスペースの狭さを危惧する声が聞かれたものの、移転後、社員のほとんどが新本社に満足しているという。タイミングを同じくして、6月には日本法人の新社長就任もあった。これまで30年近く日本人社長が続いていたが、イタリア人社長が新たに着任したのである。「拠点が新しくなったところで、人事も一新しました。ジボダン ジャパンがさらに発展していくための器は用意できました。社員には器に合った働きをしてもらいたい」と千葉氏は抱負を語る。新たな場所からの新生ジボダン ジャパンのさらなる発展に期待したい。

プロジェクト詳細
企業名 ジボダン ジャパン株式会社
拠点部門 本社・研究開発施設
所在地 東京都品川区大崎3-6-6
施設 トキワ新ビル
移転時期 2015年5月
CBRE業務 本社・研究施設移転の物件仲介プロジェクトマネジメント

 

上記の記事の内容は BZ空間誌 2015年秋季号 掲載記事 掲載当時のものです。

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