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ダイソン株式会社

ケーススタディ

2014年4月16日

コールセンターも自社内に併設。社員同士の連携を重視し、新たな価値を生み出す、
“エンジニアの会社”としてのオフィスづくり。

外観

ダイソンは昨年12月、二つの建物に分かれていた東京の拠点を統合する移転を実施した。“エンジニアの会社である”というアイデンティティを大事にし、それを具現化するオフィスをつくることで、新たな発想や価値を生み出すのがその狙いだ。日本での存在感を急速に拡大してきた外資系家電メーカーが、次なる飛躍のために行った日本オフィスの移転を取材した。

社内連携を強化するため 本社オフィスの移転を決意

玄関ショールーム

革新的な技術に基づく製品を世に送り出し、急成長を遂げてきたイギリスの家電メーカー・ダイソン。今では一般的になったサイクロン式掃除機を初めて開発・販売した会社としても知られる。本国は1993年に創業し、日本には1998年に進出。東京・半蔵門に拠点を置き、約150人体制で主に販社としての機能を担ってきた。

同社は昨年12月、東京の拠点を同じ半蔵門エリア内にある別のオフィスビルに移転した。企業が成長するにつれ、スペース不足が問題になってきたことが理由だ。加えて他にも課題があった。以前はオフィス機能とコールセンター機能を一つの建物に集約していたが、数年前、やはり人員の増加に伴ってオフィス機能を近隣のビルに移していた。対症療法的な増床によりオフィスが分断された結果、社員同士のコミュニケーションが不足し、社内連携を阻害することになっていたという。また、ミーティングルームはコールセンターとともに元のビルに残したため、社員は会議のたびに、もう一方のビルに歩いて行かなければならないという不便も生じていた。

コールセンターは、コスト削減のため郊外に設置されたり、外部に運営が委託されるケースも多いが、同社ではここで吸い上げた顧客の声をウェブサイトでの情報発信や営業活動に反映させるなど、コールセンターと他部署との連携を非常に重要視している。同社コミュニケーションズ統括マネージャーの神山典子氏は「部署の垣根を越えて建設的な意見交換を行い、ビジネスを進化させていくことを私たちは求めていましたが、実際には物理的な距離が生じたため、それがやりづらくなっていたのです」と話す。

会議室

コールセンターのスタッフが感じる疎外感も、モチベーションの低下を生じさる要因だったという。例えば、イギリス本社からの訪問者の土産話も、別の建物に入居するコールセンターのスタッフまでは届かないことも多かった。同じ会社に働く仲間としての連帯感を高め、モチベーション向上を図るためにも、オフィスの統合は待ったなしの状態だったのだ。

移転成功の肝は コストとスケジュールの管理

オフィス

移転の直接の引き金になったのは、前述の通り、旧オフィスにおけるスペース不足だった。同社では毎年夏に翌年の事業計画および人員計画を策定しており、「2013年中に何らかの対策を講じなければ、2014年には人員オーバーが避けられないことが予測されていた」(HR統括マネージャーの佐野裕也氏)状態だったという。この事態に最も危機感を抱いていたのが、代表取締役社長の麻野氏だった。役員会でオフィス移転が決議された後、イギリス本社の承認を経て、移転に向けて本格的に動き出すことになった。

移転プロジェクトの担当には、神山氏と佐野氏が就いた。両氏ともオフィス移転を担当するのは初めてであり、「正直なところ、何をすればいいのか分かりませんでした」と佐野氏は当時を振り返る。まずは複数の不動産会社への情報収集から始

めたところ、移転成功の鍵はコストとスケジュールの管理にあると知ったという。そこで、コストとスケジュールの管理を任せられるプロジェクトマネジメント会社を決めるコンペを実施し、その結果、CBREが採用された。プロジェクトマネジメント会社の起用について佐野氏は、「自分たちの専門外の領域について外部のプロの力を借りることは、社内で一致した意見でした。私たちの規模のオフィスを移転するには、どれくらいのコストとスケジュールになるのかを明確に示してくれたのが、CBREだったのです」と話す。

オフィス

立地の選定に当たっては、「移転によって通勤アクセスが悪くならないよう、社員への影響を最小限に抑えることを最優先に考えました」と佐野氏。通勤アクセスの良し悪しが社員のモチベーションに大きく影響し、極端な場合は社員の流出をも招きかねないと懸念したからだ。従って、これまで通り半蔵門線沿いで、しかも半蔵門から近い駅を中心に移転先を検討。結果的に半蔵門に決めたのは、ワンフロアにオフィス機能とコールセンターを集約でき、さらに1階部分を広々としたショールームに使用できる今回の物件に巡り合ったことが決め手だった。同社にとってショールームは、家電量販店など取引先企業に対してダイソンの製品や考え方をプレゼンする場所である。それまでオフィスに併設されていたショールームより格段に広いスペースが確保できることは、魅力的だったという。また、日本に進出して以来、英国大使館が所在する半蔵門に拠点を構えてきた同社にとって、半蔵門は馴染みのある場所であることも、立地の選択に少なからず影響を与えていたようだ。

ダイソンらしさの体現と 新たな発想を生み出す空間づくり

オフィス

オフィスづくりで最も意識したのは、ダイソンらしい空間をつくること。ダイソンらしさとは、つまり、創業者であるジェームズ・ダイソン氏のエンジニアとしての思想そのものと言い換えることができる。そのダイソンらしさを体現しているのが、イギリス本社だという。「本社は昔の工場を改装してオフィスとして使っており、天井が高く、ガラス張りで、フロア一面の見通しがいい。transparency(透明性)を重視することで、社員がお互いにアイデアを出し合い、新たな発想や方法でより良いものを生み出していけるような空間を構築しています。日本でも本社と同じような空間を社員に提供し、ダイソンの一員であることを実感できるようなオフィスづくりを第一に考えました」(神山氏)

ワンフロアに集約されたオフィスでは、パーテーションをなくし、島型に机を並べることで「周りの人とすぐに話ができ、わいわいがやがや仕事ができるようにした」(神山氏)。執務室内に設置されたテレフォンブースやミーティングスペースを仕切るパーテーションには、ガラスを使用して透明性を確保。また、社長や役員の個室をなくし、誰でも声をかけやすいようになっている。さらに、1階ショールームの横に設けられた来客用のミーティングルームには、これまで振られていた部屋番号に代わり、ダイソンが刺激を受けてきた歴史的エンジニアやプロダクトに由来する名前をつけた。これもイギリス本社で実践されている、ダイソンらしさの体現の一例である。

このように、これまであったものをなくし、新たな方法を採用する時は、少なからず抵抗が生まれるものである。しかし、「オフィスの目的を達成するために必要な改善であることを丁寧に説明することで、社内の理解を得ることができました。実際に新たな環境に飛び込んでみると、働きやすいと感じてもらえたようで、『以前のオフィスよりも居心地がいい』という評価は得ていると感じます」と神山氏は話す。

グローバル基準と日本仕様 最善策を根気よく探す

オフィス

移転にあたっては、本国との意見交換や調整が重要となる外資系企業ならではの苦労もあったようだ。最も労を費やしたのが、予算獲得のための本社説得である。「本社はイギリスの郊外に位置しているため、東京でのファシリティコストは高く思われがち。しかも当時は円高傾向にあり、コストの説明には苦労しました。そこは私だけでなく、財務のディレクターがCFOと直接話をしたり、東京オフィスの代表が上席であるアジアのプレジデントを説得したり、チームみんなで本社に働きかけることで乗り越えることができました」(佐野氏)

本社が求めるグローバル基準の実現も容易ではなかったという。同社では、内装デザインは本社のデザイナーが作成し、使用する素材やシステムも本社から細かい指示がある。グローバル基準を満たすには必要なことではあるが、問題は指示された素材やシステムが日本国内で入手できない場合だという。一例を挙げると、今回ショールームに設置するテンションファブリック(布製の大型ディスプレイ)に、ヨーロッパで使われているシステムの採用をアドバイスされた。しかし、日本ではそのシステムを取り扱う業者が存在しなかったため、CBREの担当プロジェクトマネジャーが取引業者のツテをたどって代替システムを探し出し、目指すディスプレイを実現することができたという。

移転してまだ日が浅いものの、新しいオフィスの効果はすでに感じられるようだ。ダイソンの世界観を表現するショールームを設置したことで、製品紹介のみならずブランドストーリーも併せて伝えることができるようになった。商談は、これまで顧客企業に製品を持ち込んで行っていたが、顧客に来社してもらうことで、営業の効率化も図ることができる。さらに来客を意識し、1階エントランスの共用部にもダイソンらしさを表現するグラフィック演出を施した。「共用部、しかも1階での演出は通常では考えられないことだと思いますが、来客をいち早くダイソンワールドに引き込むには不可欠だと考えました。私たちの考えを理解し、ビルオーナーとの交渉を引き受けてくれたCBREと、私たちのわがままを聞いてくれたビルオーナーには感謝しています」と神山氏は話す。

オープンスペースを基本に、他部署とも連携しやすいレイアウトが工夫された執務空間も、「居心地が良い」と好評だという。「居心地が良いということは、会社が楽しいということであり、仕事の効率やモチベーション向上にも一役買っているはず。全社が一つにまとまり、ビジネスを推進していける環境が整ったと思います」と神山氏。「エンジニアの会社である」というダイソンのアイデンティティを体現するオフィスを得て、これからどのように新たな価値が生み出されていくのか、期待したい。

プロジェクト詳細
企業名 ダイソン株式会社
拠点部門 ダイソン株式会社 本社
所在地 東京都千代田区一番町8
拠点人員 約150人
移転時期 2013年12月
CBRE業務 移転プロジェクトマネジメント

 

上記の記事の内容は オフィスジャパン誌 2014年春季号 掲載記事 掲載当時のものです。

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