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クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業

ケーススタディ

2017年9月26日

個室を廃止し、オープンレイアウトを採用。
ビジネスの環境変化を成長への強みに変える、 グローバル法律事務所の移転プロジェクト。

執務室

世界有数の法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所は、2016年11月、東京オフィスを赤坂から丸の内に移転させた。個室型のオフィスを構える法律事務所が多いなか、弁護士同士の協働を促すため、「オープンレイアウト」を新たに採用。法律事務所としては革新的なオフィス環境を実現した移転プロジェクトを取材した。

赤坂から丸の内・パレスビル、クライアントの近くへ事務所移転

エントランス

イギリスにルーツを持つクリフォードチャンス法律事務所は、世界23ヶ国に33のオフィスを構え、約3,300人の弁護士を擁する世界有数の法律事務所。日本では、外国法律事務所の設置が許可された1987年に、東京オフィスを開設した。その後の規制緩和に伴い、2005年からは日本法と外国法の両方をカバーする法的サービス(外国法共同事業)を提供している。現在、約50名の弁護士(うち約3分の1が外国法資格の外国人弁護士)を含む96名が所属する。

同法律事務所は、2016年11月、東京オフィスを赤坂から丸の内・パレスビルに移転した。赤坂のオフィスは入居から15年が経過しており、施設が時代に合わなくなったことが理由の1つである。そしてもう1つは、近 年、クライアントが丸の内への移転を加速し始めたことであった。東京オフィスで外国法事務弁護士を務めるレン・フォン・ライ氏はこう話す。「以前はクライアントの多くが赤坂近辺に拠点を置いており、私たちがオフィスを構える場所として赤坂は適切だったと思います。ただ、過去5~6年の間に、金融機関や日本の大企業が丸の内近辺に拠点を移し始め、私たちの主要クライアントも丸の内へ移転していきました。打ち合わせのたびに丸の内へ通う必要が出てきたため、移動時間短縮のためにも、私たちがクライアントやビジネスセンターの近くへ移るべきではないかと考え始めたのが移転のきっかけです」。

移転先としては、クライアントに近い丸の内周辺を中心に、「世界有数の法律事務所としてのステータスと評判に相応しいオフィスビル」を探した。また、オフィスビルが林立する丸の内エリアにおいて、眺望や外光をいかに確保するかも重要なポイントだった。ジェネラルマネージャーのモーリーン・マ氏は、「パートナー(マネジメント層の弁護士)たちは、オープンで協働を促すような、ワクワクするワークスペースを望んでいました。パレスビルの眺望の良さや、外光が差し込む明るいオフィス空間は、私たちが求めるワークスペースの条件に合致していると思いました」と話す。

法律事務所特有の「個室」が弁護士間の協働の妨げに

オフィス

事務所移転にあたっては、ワークプレイス戦略の見直しも行った。現状のオフィスの利用状況を把握し、移転後のあるべきオフィスの姿を探るため、2015年2月からCBREによるオフィス利用実態調査を実施。調査から分かったことは、法律事務所特有の「個室」と「壁」が、そこで働く人たちの情報共有やコミュニケーションを妨げているという事実だった。ライ氏は言う。「赤坂の事務所では弁護士が二人部屋に分かれて執務していたので、ときには隣の部屋の同僚が何をしているのかも良く分からない状態でした。ちょっとした情報も隣の部屋をノックしないと得られないし、忙しそうな同僚を手助けしたり、大きなプロジェクトで知恵を出し合うといった協働もしにくい。また、シニアメンバーから若手メンバーの仕事の様子が見えないため、仕事の割り当ても不均等になりがちで、それが同僚たちの間での不満や仕事効率悪化の原因にもなっていました」。

弁護士同士のコミュニケーション不足は、外国人弁護士と日本人弁護士が共同事業を行うグローバル法律事務所では致命的な問題である。なぜなら、外国法を扱う外国人弁護士と、日本法を扱う資格を持つ日本人弁護士が緊密に連携し、日本国内外の法的サービスを提供することが同法律事務所の存在意義であるからだ。「私たちの役割は、クロスボーダー取引に関するすべての事柄にビジネス面を踏まえた法的ソリューションを提供することにあると考えています。日本企業が海外で事業展開する際のアウトバウンド業務だけでなく、日本で事業展開する外資系企業のインバウンド業務も行えることが当事務所を差異化する大きな要素なのです。そのためには、外国人弁護士と日本人弁護士がより緊密に協働し、誰もがグローバル水準のサービスを提供できることが重要でした」(ライ氏)。

グローバル初のオープンレイアウト、業務に応じて選べるスペースも用意

カフェスペース

移転プロジェクトを率いたのは、ライ氏を含むパートナー3名、弁護士2名、マ氏ともう1人のスタッフの総勢7名から成る「オフィス移転委員会」である。彼らはCBREのサポートを受けながら、同法律事務所が目指すべきビジネスゴールと、それを実現するためのワークプレイス戦略を策定し、それらをオフィスレイアウトに落とし込んでいった。ビジネスゴールは、「ベストチーム」(=クライアントにサービス提供するための最適な人材)と、「ベストデリバリー」(=最も生産性が高く、クライアントが望むようなやり方でサービスを提供すること)を2つの大きな柱とした。

弁護士同士の協働を促すワークプレイス戦略として、「オープンレイアウトによるスマートオフィス」を採用。これは、個室や壁のない開かれたスペースに多種多様なスペースを設置し、かつモバイルツールを導入することで、業務内容やビジネスシーンに応じた働き方を実現するオフィスである。つまり、同僚弁護士とコミュニケーションを取りやすく、また集中したい時には集中して執務できる環境である。フリーアドレスではないが、個室型が一般的な法律事務所では先進的な取り組みと言える。オープンレイアウトによるスマートオフィスの導入は、クリフォードチャンスのグローバル拠点のなかでも初めてのケースである。

会議室

では、オフィスの特徴を具体的に見ていこう。弁護士のワークステーションは、シニアメンバーを中心部に配置することで、若手メンバーが話しかけたり相談したりしやすい環境を考慮した。ワークステーション以外のスペースとして、2~3人が気軽に集まれるミーティングスペース、4人以上で使える会議室、コミュニケーションスペースとしても活用できるカフェスペースに加え、電話や人に聞かれたくない話、集中したい時などに使える1~2人用の個室を多く確保しているのも特筆すべき点である。全員にモバイルPC(マイクロソフトSurface)を配布し、さらに会議室には大きなモニターを導入することで、場所を選ばずどこでも執務や打ち合わせができる環境を整えた。来客エリアにあるセミナールームの壁は可動式とし、セミナールームとレセプションスペースをつなげることで、イベント用に大きなオープンスペースも確保できるようにした。

チェンジマネジメントを実施し所内の合意形成を図る

個室

新しいオフィスに相応しい働き方に変えていくため、所内の意識改革(チェンジマネジメント)も同時に行った。「この移転は単なる引っ越しではなく、ビジネスの成功に向けた自分たちの強みになる。このことを各メンバーが前向きに受け入れて、移転プロジェクトを遂行していくことが最大のチャレンジでした。そのためには、移転プロジェクトの考え方をオフィスで働く全員に浸透させることが不可欠でした」とライ氏は語る。外国人弁護士、日本人弁護士、サポートスタッフなど異なる階層に対し、メールやイントラネット、会議を通じてメッセージを繰り返し伝えることで社内の合意形成を図った。また、できるだけ多くのメンバーから移転に関する意見を吸い上げ、委員会の検証のもとオフィスレイアウトに反映させることで、メンバーのエンゲージメントを高めていった。「メンバーが移転プロセスの一員である自覚を持つことを確認しながら進めていったので、所内のコミュニケーションには多くの時間を投資しました」(ライ氏)。

チェンジマネジメントでは、次のようなユニークな取り組みも行った。新しい事務所に持ち込む紙の量を減らし、ペーパーレス化を推進するために、「削減目標を達成できたら、その分を事務所がチャリティに寄付する」ことにしたのだ。「法律事務所を訪れたことのある方ならご存知だと思いますが、法律事務所は本や書類でいっぱいです。そこでコンペティションの要素を取り入れ、紙の削減を自分や会社のためだけでなく、社会貢献にもつなげることで、前向きに取り組んでもらおうと考えました」(ライ氏)。

一方、クリフォードチャンスのトップマネジメントにとっても、東京オフィスの移転プロジェクトはビジネスゴールに沿った「かなり説得力のあるケース」(マ氏)だったため、調整はスムーズに進んだという。また、オープンレイアウトへの挑戦といった革新性も、マネジメントの合意を得やすかった理由だとマ氏は振り返る。「どちらかと言えば保守的な法曹界において、私たちはイノベーションに挑戦する組織であることに誇りを持っています。この移転によって、法曹界に革新的な変化をグローバルにもたらす可能性がありました。これもマネジメントにとっては魅力的だったのだと思います」(マ氏)。

個室を廃止した結果、仕事の満足度が13%アップ

ミーティングスペース

移転して半年以上が経つが、新しいオフィスは予想以上にメンバーに好評のようだ。移転前は、守秘義務の観点からオープンレイアウトを懸念する声も聞かれていたが、「実際にそのようなことは全く問題にならず、引っ越し当日から皆楽しそうに仕事をしています」とライ氏。「まず、互いによく話をするようになりました。また、互いの様子が見えるので、困っている若手メンバーにシニアメンバーが手を差し伸べたり、逆に若手メンバーがシニアメンバーに助けを求めたりということもやりやすくなったようです」。移転後のアンケート調査でも、こうした変化を支持する結果が出ているという。マ氏によると、「仕事での満足度」は13%上がり、80%のメンバーが「生産性が向上した」と回答。また、「知識の共有度」「メンタリング率」「仕事の割当率」「組織の一体感」などの数値も向上した。

移転プロジェクトが成功した理由を、ライ氏はこう振り返る。「他社の真似をしてもうまくいきませんから、自分たちのビジネスやメンバーに合ったオフィススタイルを自分たちで考えたことが1つ。そしてもう1つは、リーダー層が移転プロジェクトの成功を信じ、実現を心から願うことです。それがなければ、何も始まらないと思います」。

プロジェクト詳細
企業名 クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
施設 東京オフィス
所在地 東京都千代田区丸の内1-1-1 パレスビル3階
人員 96名
開設時期 2016年11月
CBRE業務 テナントレプリゼンテーション、ワークプレイスストラテジー、チェンジマネジメント

 

上記の記事の内容は BZ空間誌 2017年秋季号 掲載記事 掲載当時のものです。

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