125年の長きにわたって世界の医薬品業界をリードしてきたアボット ラボラトリーズから、2013年に分社する形で誕生したアッヴィ。その日本法人であるアッヴィ合同会社は、2016年に策定した「5-YEAR FOCUS」(5カ年計画)で「ビジネスの成長」と「社員のエンゲージメント」を2本柱として重点項目に注力し、飛躍的な成長を遂げている。アッヴィでは、組織と個人が一体となり、ともに成長するためには、多様性のあるインクルーシブな職場環境づくりが欠かせないという。2019年2月の東京本社移転を機に、同社の働き方改革を本格的に始動させた。多様性のあるインクルーシブな職場環境を具現化したワークプレイスとはいかなるものか、その詳細を探る。
多様性のあるインクルーシブな職場で自主性のある柔軟な働き方を実現し、
持続的な成長を目指す、ABWを核とした革新的なワークプレイス。
新社長肝入りの5カ年計画により 業績を飛躍的に拡大するアッヴィ
1888年に米国イリノイ州シカゴで、Dr. ウォレス・C・アボットが医薬品の生産を開始してから125年後、アボット ラボラトリーズ社は、2013年に医薬品事業部の新薬部門を分社化し、AbbVie Inc.を設立。同社では、従来からの主力製品分野に加え、2015年のバイオ医薬品企業を皮切りに、2016年のがん医薬品のスタートアップ企業を買収。2020年5月にはグローバルヘルスケア企業のアラガン社との統合が完了し、現在は、免疫疾患、がん、神経疾患、アイケア、ウイルス、ウイメンズヘルス、消化器疾患、さらにアラガンエステティクスポートフォリオの製品・サービスが、その主要領域である。60を超える疾患を対象に30を超えるブランドを有し、世界175ヶ国以上で製品を販売している研究開発型のグローバルなバイオ医薬品企業である。
その日本法人であるアッヴィ合同会社も、2013年に事業を開始。自己免疫疾患、新生児、肝疾患、神経疾患、がんの領域で医療用医薬品の開発、輸入、製造販売に従事している。東京本社に加え全国に営業拠点を有し、1,200人以上の社員が働いている。
売上高の推移をみると、分社当時の約600億円に対し、2019年は2倍超の1245億円に達しており、2018年に続いて2年連続で1000億円超を達成。「当社では2016年に『5-YEAR FOCUS(5カ年計画)』を策定し、ビジネスの成長と社員のエンゲージメントという二つの柱に注力して重点項目に取り組んできました。ビジネスの成長においては、自己免疫疾患領域における主力製品の適応拡大等に加え、5年間に新たな成長エンジンとなる五つの新製品を上市しました。新製品上市の成功と既存製品の価値の最大化、そして新たな領域への参入により、多様な製品ポートフォリオで強固なビジネス基盤を構築したことにより、2016年からの4年間で売上高は49%増加しています」。広報部のマネジャーである児玉典子氏は、急成長の要因をそう説明する。
組織が成長する中、持続的な成長を目指し、満を持してオフィスを移転したのは、 2019年2月のことだった。
人員急増によるスペース拡大が急務 社員の移転ストレスにも配慮して
オフィス移転の話が現実味を帯びてきたのは、2016年のこと。分社当時は、JR田町駅徒歩10分ほどのオフィスビルに入居しており、分社を機に、借りていた5フロアのうちの2~3階をアッヴィ、4~6階をアボットジャパンと分けて使用していた。オフィス内は、外資系企業にありがちな個人デスクの周囲を1,500㎜ほどの高さのパーテーションで囲った、キューブ型のレイアウトがほとんどだったという。
そこにメスを入れたのが2015年に新たに社長に就任したジェームス・フェリシアーノ氏だ。従来の固定席のレイアウトは、コミュニケーションやコラボレーションを重視し、ワン・アッヴィを強く訴える社長の眼鏡には適わなかった。そしてもう一つの理由が、業績の拡充に伴う社員の大幅な増員だ。独立当時は約600人ほどだった社員が、7年後の現在は2倍の1,200人を上回る。まるでベンチャー企業を思わせるような急拡大といえる。「最初は従来のパーテーションを取り払い、さらに同じビルの別フロアを増床したのですが、それでもスペースが足りない。オフィス拡大を計画するそばから、それを凌ぐ増員で、まるで間に合わない状況でした」と当時を振り返るのは、今回の移転の総責任者である、財務本部総務部部長の齋藤敏哉氏である。
そこで移転候補となるオフィスビル探しが始まり、いくつかの候補が上がってきた。その中で最有力候補となったのは六本木のビルだった。ほぼ決まりかけていた段階で待ったをかけたのは社長だった。アッヴィのヘルスケア企業としてのカルチャーに、よりフィットする立地条件や環境を追求したい、というのがその理由だったという。そうした中、もう一つの候補として残っていたのが、2018年5月に竣工した、これまでと同じJR 田町駅を最寄駅とする「msb Tamachi田町ステーションタワーS」であった。従来のオフィスは、設備は申し分なく、駅から徒歩10分以内だったが、途中に大きな交差点がある。当時はちょうどゲリラ豪雨や積雪も多く、従業員の利便性の向上を訴える声が高まっていた。対して今回のビルは、東京ガスが三菱地所と三井不動産とともに開発した、地上31階の高層ビルで、JR田町駅から屋根付きのペデストリアンデッキで直結した徒歩1分の距離。低層階には、飲食店や物販の店舗が多数入居しており利便性が高い。近くには病院や保育所、スポーツセンターなどがそろっているほか、緑地もあって静かな環境が広がっている。開発区域内に、フランスに本社を置くホテルグループが運営する「プルマン東京田町」があることもプラスのポイントだった。従来のビルの近くにはホテルがなく、海外からの客や地方勤務者は、品川のホテルからタクシーを利用していた。さらに、飛行機や新幹線が利用しやすいのもメリットだ。アッヴィの事業活動では、地方への出張も多く、新幹線の駅や空港へのアクセスが悪いとビジネスに影響を及ぼす。「本来なら、立地的には品川がベストですが、同エリアのビル群は駅から例えば徒歩3分と言っても実は駅構内での移動に時間がかかります。また、利用客が多すぎて、歩くのにもストレスがかかる。その点、田町のビルは最寄駅がこれまでと同じなので、社員にとっての移転ストレスもないばかりか、近くなっただけ実質的なバリューは高まりました。こちらの条件のすべてにバランスが取れた文句のつけようがない物件です。社長以下関係者で決定し、米国本社の説得に当たりました」(齋藤氏)。
次世代リーダーが練り上げた コンセプトに導き出されたABW
オフィスビル選定と同時に、移転に向けたコンセプトづくりも進められていった。S(素敵)K(快適)Y(よくできた)オフィスづくりを目指す「Project SKY」の名のもとに、「WE CAN FLY」を合言葉とする社員の働き方を多角的、かつ積極的に支援するものである。そこでまず構築されたのが、これからのアッヴィは、その働き方はどうあるべきかというコンセプトであり、その結果として「健康と活気の促進」「より高い生産性」「協働が生むイノベーション」「フラットな企業カルチャー」という四つのオフィス移転ゴールを定めた。この選定にあたったのが、責任者である齋藤氏を支えるために、会社側が次世代リーダーとして指名した、9名のメンバーによるプロジェクト・チーム(以下PT)だった。本格的なPTを立ち上げたのは移転を9ヶ月後に控えた、2018年5月だったという。
この移転ゴールに基づいて新しいオフィスのコンセプトとデザインが決められたのだが、そのキーファクターとなったのがActivity Based Workplace(ABW)だった。もともと同社の本社では、マーケティングのほかに臨床開発ために病院を回るスタッフなどが多く、昼間は空席になることが多い。一方、開発やスタッフ部門の在席率は90%を超え、慢性的にスペースが足りない状態が続いていた。そのため、パーテーションを取り払った後も、よくある島型や製品ブランド別のレイアウトを試したが、うまくいかなかった。「移転を計画する際、グローバルのファシリティ・プランニングチームが、オーストラリアのオフィスに導入したばかりのABWの話を持ってきました。また、これまでのオフィスでも、営業部門を近隣の別のビルに移し、空いたスペースに自由に使用できるコミュニケーションスペースを作ってみたところ、人が自然発生的に集まりだし、社内のコラボレーションが生まれました。海外からの最新情報と、自社内で手探りで始めた成功体験から、新オフィスではABWを導入しようということになったのです」(齋藤氏)。このPTはABW推進委員会と呼ばれ、 ゴール決定後は彼らを中心にオフィス全体の基本設計が行われ、さらにそれらを具現化するために、工事施工管理をするファシリティチーム、ネットワークやIT環境を構築する情報システムチーム、法に基づく各種変更手続きを遂行する実務担当チームが、動き出していった。
当初は、内勤者が多い部署は固定席にしようという意見もあったが、誰もがオフィス内のどこにいても、同じ環境でそのメリットを享受することこそがワン・アッヴィにつながると考え、役職や部門にかかわらず、オフィス全体で徹底することにした。また、移転の6ヶ月前から、チェンジマネジメントプログラムと称して、専用のイントラネットの立ち上げや、隔週発行するニュースレターによってABWの浸透と計画の進捗状況を公開していった。加えて10月から11月半ばまでの1ヶ月半の期間には、移転説明のためのワークショップを、全体、経営層向け、部下のいるピープルマネジメント層向けや部門別など、合計30回以上開催。管理職や各部門の社員が、よりリアルに仕事のイメージを持てるよう、仲間との議論の時間も設けた。さらにはワークショップを開催しながら、その中で出てくる様々な意見を吸い上げて、疑問や不安に答える形としてオフィスガイドブックを移転直前の2月に発行した。
こうした意識の変革だけでなく、実務面でも混乱が起きないように配慮した。例えば、個人ロッカーは、特注で少し大きめのサイズにし、移転前に実物を展示し、サイズ感を体験できるようにしておいた。また移転に使う段ボールは、このロッカーと同じサイズのものを特注し、私物はその段ボールに収めるよう促した。もちろん紙の資料は70%削減を実現している。こうして2月18日の移転日を迎えたのだが、移転後の調査では60%のメンバーが移転当日から通常業務に戻り、3日後にはその比率が90%に達していたという。
オフィス内部を見てみよう。借りているのは14~16階の3フロアで、そのうち14階は来客エリア、15~16階が執務エリアとなっている。この2フロアは内部階段でつながっており行き来がしやすくなっている。この内部階段は、全フロアをABWにすることになったため、空間をつなぎ一体感を醸成するために特にこだわったものである。
執務エリアは通常のデスクワークを行う「スタンダード」、カジュアルなミーティングやチーム・ミーティングに最適な「コラボレーション」、集中的に仕事ができる「コンセントレーション」、休憩やランチ用の「リフレッシュ」の四つのエリアに分かれており、さらにそれぞれの用途に合わせて合計10のシーンが設けられている。まさに社員が自主的に、その日、その時の作業に最適な働く場所を、その都度選択できるように配慮されているのだ。
働き方改革の実現に向けて 様々な施策で社員の成長をサポート
今回の移転は、社員にどのような変化をもたらしているのだろう。同社が実施したアンケート調査によると、現状の職場環境についての満足度では、移転前の満足・やや満足の合計が51%だったのに対し、移転後の2019年4月では78%、同年11月では実に83%に達している。また以前の職場環境と比較した、移転ゴールの改善度合いに対する意識でも、11月時点で、健康と活気の促進については、よくなった・少しよくなったを合わせると89%、より高い生産性では75%、協働が生むイノベーションは78%、フラットな企業カルチャーにおいては93%が、改善されたと答えている。
また、ABW導入における懸念材料であった上司と部下のコミュニケーションについても、ピープルマネジャーの研修を4半期に1度の割合で実施し、対応しているという。「当社では働くスペースだけでなく、服装についても主体性を尊重し、TPOに応じた快適かつ機能的な服装で業務を行える『Dress For Your Day』を導入しています。これらも含め、多種多様なバックグランドを持った人財が集まり、互いの個性を尊重し、社員一人ひとりが自分に合った働き方、生き方を実現することを目指す『My Journey, My Choice』のもと、社員のワークとライフの両立を支援する様々な施策に取り組んでいます。今後も多様性のあるインクルーシブな職場で、創造性や効率性を発揮できる働き方の実現を目指していきます」(齋藤氏)。
アッヴィがその製品力だけでなく、多くの人財に選ばれる会社企業としても高い評価を得る日は、そう遠くないだろう。
企業名 | アッヴィ合同会社 |
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施設 | 東京本社オフィス |
所在地 | 東京都港区芝浦3-1-21 msb Tamachi 田町ステーションタワーS |
移転日 | 2019年2月18日 |
人員 | 約1,200人 |
CBRE業務 | 専任アドバイザリーサービスによる本社移転仲介 ワークプレイスストラテジーによるABW及びチェンジマネジメントのコンサルティング |
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