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オリジン電気株式會社

ケーススタディ

2016年3月14日

長年居を構えた自社ビルからの移転を機に、
社員の意識改革も狙った6年越しの本社移転プロジェクト。

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社員の安全と事業継続性の確保、また事業部間のコミュニケーション不足を解消するため、築50年を超える老朽化した本社ビルからの移転が急務だったオリジン電気。しかし、老舗企業であるがゆえ、その地で業務を続けてきた社員の理解を得られず、移転計画は持ち上がっては消えていたという。2015年11月、同社は東京・高田馬場にあった本社機能を、さいたま市をはじめ4ヶ所に分散移転させた。移転検討が始まってから、6年にも及んだ本社移転プロジェクトを取材する。

築50年以上の建物の老朽化と事業部間の“壁”が問題

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外観

電源機器やシステム機器、合成樹脂塗料などの製造販売を行うオリジン電気は、昨年11月、本社および本社工場を、創業の地である東京・高田馬場から、本社さいたま新都心オフィス、南与野の国道17号沿いに土地を購入し建設した本社事業所、その他自社工場隣接地に建設した2施設、計4拠点への分散移転を果たした。

同社は現在、4事業部+2本部制で事業展開している。電源機器を主軸とする「エレクトロニクス事業部」、システム機器や電気溶接機などの「メカトロニクス事業部」、プラスチック製品用塗料を中心とする「ケミトロニクス事業部」、半導体パワーデバイスと精密機構部品の「コンポーネント事業部」、そして、これら4事業部と連携した基礎研究を進める「研究開発本部」および「管理本部」である。エレクトロニクス事業部では開発・設計から製造まで行っているが、その他の事業部は開発・設計に特化し、関連会社等へのファブレス化が進んでいる。このうち、旧本社のあった高田馬場を拠点としていたのは、主にエレクトロニクスとメカトロニクスの2つの事業部、研究開発本部、管理本部と社長直轄部門を含む間接部門である。全社員約730名のうち、約400名がここに所属する。今回の移転で、2事業部と研究開発本部(約300名)は南与野の新本社事業所へ、間接部門と2事業部の営業部門(約100名)はさいたま新都心の新本社オフィスへと分割移転したのである。

引き金となったのは、2011年の東日本大震災だった。旧本社ビルは築50年を超えて老朽化が進んでおり、応急処置的な耐震工事は施していたものの、「震災ではかなり揺れた」と代表取締役社長の妹尾一宏氏は話す。「BCPと社員の安全確保の観点から、早急に移転する必要がありました」。

しかし、実は震災のかなり前から、移転は検討されていたという。旧本社の敷地には、エレクトロニクス事業部と間接部門が入居する本館、メカトロニクス事業部が入居する別館、そして研究開発本部が入居する研究棟があった。問題は、各事業部と研究開発本部の技術者同士の交流が乏しかったことだ。別々の建物で研究開発を行う彼らには、部門の壁を越えたコミュニケーションがほとんどなかった。技術者をワンフロアに集結できる建物への移転が急務──。こうした認識が経営陣にはあったという。

本社さいたま 新都心オフィス

社員の理解を得るため移転計画は3年以上も頓挫

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社内で初めて移転計画が公になったのは、2009年、前社長が年頭挨拶で移転に言及してからだ。当時は、コンポーネント事業部が拠点を置く栃木県・間々田工場敷地内の余剰スペースを活用し、本社ビルを建設する案が有力だった。しかしその場合、本社勤務の社員の6割弱が120分以上かけて通勤しなければならないことになるため、社員の猛反対にあったのだ。社内には移転推進チームも作られてはいたが、「誰も移転が短期間に進むとは思っていなかったと思います。何年もかかるだろう、とあきらめムードが漂っていました」と妹尾社長は振り返る。その後、移転計画は2年以上も進展しなかった。そして、あの大震災を経験したのである。「社員も、予想を遥かに超える揺れに身の危険を感じたのでしょう。社内は、移転を真剣に考えなければならない、という雰囲気に変わっていきました」(妹尾社長)。

移転へ向け具体的に動き出したのは、2012年6月、妹尾社長が就任してからである。社長自らが主導する形で、管理部門を中心に移転検討を具体化させていった。移転先の選定に当たって重視したのは、前述のとおり、技術者をワンフロアに集めることのできる広さである。要件を満たす土地をさいたま市南与野に確保し、両事業部の技術開発・製造部門が入居する本社事業所を建設することにした。営業部門については、将来は市場である都心に近い立地へ移る可能性も視野に入れ、本社事業所から切り離し、間接部門と一緒にさいたま新都心の賃貸オフィスビルに移転することになった。

2013年2月、移転実現に向けた妹尾社長の決意表明とともに、さいたま市を中心とする移転先候補が社員に発表された。ここにきてようやく、社員の賛同を得るに至ったのである。

社長によるメンバーの指名と外部パートナーの起用がカギ

オフィス

社長を委員長とした移転プロジェクトが、移転発表とともにスタート。移転実施予定は、圏央道が開通する時期に合わせ、2年後の2015年11月に設定した。

まず取り組んだのは、社内の体制づくりである。通常のプロジェクトでは各部門からメンバーを選抜するが、今回のプロジェクトでは、リーダーとメンバーを合わせた18名を妹尾社長が指名した。社長の意思を確実にスピーディに反映させるためである。「それまでの4年間で何ひとつ動かなかったものを、2年で終わらせるためには、社長である私の意見が十分伝達可能な体制にする必要がありました」と妹尾社長は話す。社長も出席する毎週水曜日の定例会議で、オフィスづくりに関する議論を進めていった。

それでも最初のうちは、メンバーは2年後の移転に関して半信半疑だったという。「君たちが変わらなければ、このプロジェクトは成功しない」とメンバーを叱咤激励し続けて3ヶ月。ようやくプロジェクトに積極的に取り組むようになった様子を見て、「プロジェクトの成功を確信した」と妹尾社長は話す。

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プロジェクト成功のためのもう1つの“肝”と妹尾社長が指摘するのが、外部パートナーの採用である。プロジェクトマネジメントの専門家として、CBREを起用したのだ。「当社と関係の深い取引先や建設会社に相談しながら進める方法もありましたが、2年という限られた期間で確実かつ合理的に移転を遂行する上で、妥協は絶対に避けたいことでした。かといって、移転や施設建設を経験したことのない私たちに、知識やノウハウがあるわけでもありません。スケジュール管理とコストマネジメントを徹底させるためにも、プロフェッショナルであるCBREさんに加わってもらうのは必須でした」。

社員同士、顧客に対しても開かれた企業を目指す

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オフィスづくりでは、見通しの良い環境を意識した。旧本社は柱とパーテーションで必要以上に仕切られ、多くの死角を生んでいた。これは居心地の良さを生む一方で、作業効率の悪化や、社員同士の意思疎通の欠如にもつながる。新オフィスでは、吹き抜けの活用と、パーテーションをなくした執務空間で、人と人の動きを「見える化」した。また、営業部門にはフリーアドレスを導入し、合理的なスペース活用を促す施策を取った。

ペーパーレス化の徹底も、移転を機に進めたことの1つ。これまでの自社ビルでは保管場所が豊富だったため書類を捨てる習慣がなかったというが、この移転で書類の8割削減を実施した。書類保管基準を定め、紙資料を整理整頓し、検索性の高いデータベース化を行った。同時に、旧本社で使用していた机や椅子、什器もすべて廃棄した。移転費用の圧縮を考えれば、従来からの什器を流用するのが一般的だが、あえて廃棄したのは、過去と決別する狙いもあったという。「あれもこれも持って行こうとすれば、オフィスの環境も働き方も変えることはできません。移転をきっかけに、これまでの習慣は断ち切る必要がありました」。

今回の移転で目指したのは、社員同士、そして顧客にも「開かれた企業」とすることである。事業部の垣根を越えて社員同士がコラボレーションできる環境を整備し、情報や技術の交流を促進して、高いシナジー効果を生み出す。また、応接室や会議室など来客スペースを充実させるとともに、外部パートナーとも連携しやすい空間構成を意識し、「一緒に仕事をしたい」と顧客から信頼され親しまれる事業所を目指した。

社内コラボレーションと外部への発信力強化の実践として、1月にさいたまスーパーアリーナで開催された「彩の国ビジネスアリーナ2016」に、オリジン電気として出展した。過去には事業部単位で出展した実績はあるが、4事業部が連携してブースを出展するのは初の試みである。「当社はこれまで、自分たちのことを積極的に外部に発信してきませんでした。世の中のニーズに合った研究開発を行っていくためには、4事業部が一体となり、オリジン電気として発信していく必要があると考えています。環境が目まぐるしく変化するなか、自分たちも変わっていかなければなりません。今回の移転がそのきっかけになればと思っています」と妹尾社長は話す。

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本社さいたま新都心オフィスと本社事業所の移転は、各地に点在する工場の社員にも影響を与えているようだ。「働く環境として“遅れている”と見られていた本社が、移転を機に他の工場よりも“進んでいる職場”に変わりました。これが他の工場の社員を刺激しており、いずれ他の工場の建て替えにも発展していくと思います。当社には、拠点の移転はもとより、部門間の異動すら経験したことのない社員が約半数在籍しています。“移る”ことで、働き方や意識を変える。移転が社員の自己改革にプラスになればと思っています」。

本社さいたま新都心オフィスと本社事業所の移転はひとまず完了したが、オリジン電気の未来をつくる社員の意識改革はまだ始まったばかり。部門の壁を越えた一体感で、今後さらに進化を遂げるオリジン電気に期待したい。

プロジェクト詳細
企業名 オリジン電気株式會社
拠点部門 本社さいたま新都心オフィス、本社事業所、他2拠点
所在地 ■本社さいたま新都心オフィス
    埼玉県さいたま市中央区新都心11-2 明治安田生命さいたま新都心ビル
■本社事業所
    埼玉県さいたま市桜区栄和3-3-27
移転時期 2015年8月(本社)、11月(本社事業所)
CBRE業務 4ヶ所への本社分散移転および3施設建設のプロジェクトマネジメント

 

上記の記事の内容は BZ空間誌 2016年春季号 掲載記事 掲載当時のものです。

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