次世代たばこの認知・理解促進を目指し、
体験スペースとオーナー向けラウンジで構成。
世界有数のたばこメーカーが仕掛ける旗艦店戦略。

ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパンは、加熱式たばこ「glo™(グロー)」の発売に伴い、消費者がglo™を体験できるフラッグシップストアを全国主要都市で展開している。消費者と直に接する店舗を出店するのは、同社初の試みである。たばこメーカーが自ら店を持つ狙いは何なのか、また、どのような店を作ろうとしているのか。世界有数のたばこメーカーが仕掛ける店舗戦略と東京都心での出店事例を取材した。
事業存続とたばこ愛好家の未来をかけた一大プロジェクト

ケント(KENT)やクール(KOOL)などのたばこブランドで知られるブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)は、世界の200以上の市場でたばこ事業を展開するグローバル企業である。日本市場には1985年に参入し、たばこ税や消費税の増税、健康意識の高まりなどにより市場が縮小傾向にあるなか、着実にシェアを伸ばしてきた。2016年時点での国内市場シェアは13.0%、業界3位である。
BATの日本支社、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパンは、2017年10月、これまで仙台や東京、大阪など一部地域で先行販売してきた加熱式たばこ「glo™(グロー)」の全国販売に踏み切った。加熱式たばこは、たばこの葉を燃やして煙を吸う従来の紙巻たばことは違い、たばこの葉を加熱して蒸気を吸い込むことで、有害性物質を約9割削減※できるのが特徴。同社NGPアクティベーショングループのマネージャー、高木義長氏は、「近年、たばこの先から出る副流煙が非喫煙者に及ぼす影響に注目が集まり、公共の場所での喫煙制限が進んでいます。我々たばこメーカーとしても、今後企業として生き残っていくためには、たばこ愛好家に対してはもちろんのこと、非喫煙者へも配慮したリスクの少ない製品を提供していく必要があると考えました」と話す。BATは、glo™など有害性物質を低く抑えた革新的なたばこ製品を「次世代製品」と位置づけ、多くの時間 と巨額の開発費用、大勢の研究者を投入してきた。glo™はまさに、BATとたばこ愛好家の双方の未来をかけた一大プロジェクトなのである。
地域限定での先行販売 体験型の旗艦店を初出店
glo™の発売に際し、同社は新しい販売方法にも挑戦している。先行販売した仙台、東京、大阪の各都市で、フラッグシップストア「glo™ストア」をオープンしたのだ。「glo™が提案するのは、まったく新しいたばこの楽しみ方です。従来のように、コンビニエンスストアや個人経営のたばこ専門店で販売するだけでは、なかなか消費者の方に手に取っていただけません。製品の特徴や使い方、ベネフィットを正しく理解し、気軽に試してから購入いただける場所として、glo™ストアを作り ました」(高木氏)
ストア構築において重視したのは、人通りの多さや入店しやすさなどの立地条件である。加えて、フラッグシップストアに相応しい広さを持ち、2フロア以上を確保できることも必須条件とした。その理由は、製品を理解し、試したうえで購入してもらうフロアと、利用者が自宅のリビングルームのようにglo™を楽しむためのフロアを設けるためだ。店には受付を設置し、来店客の要望を聞きながら、個別に案内するスタイルを採用している。消費者1人ひとりに対する対応に力を入れるのは、同社でも初めての試みだという。
2016年12月、仙台市で先行販売を開始すると同時に、市中心部にあるアーケード街に「glo™ストア仙台」をオープンした。仙台を選んだのは、「流行に敏感な東北随一の都市であり、東京からのアクセスも良く、全国展開に先駆けて必要な販売データが取れるマーケットサイズであることが理由」と高木氏。また、コンビニエンスストアやたばこ専門店など小売店の構成が全国平均に近く、日本の小売業態の縮図を成している。さらに言えば、仙台は加熱式たばこで先行する競合他社の製品が強いエリアでもあり、「競合環境を検証するうえでも有効」との判断が働いたという。
東京都心の一等地に世界トップクラスの旗艦店を作る
全国発売に向けた第2弾の拡販エリアに選んだのが、東京と大阪である。ここからは、2017年7月、東京でのglo™発売に伴い青山の一等地に誕生した「glo™ストア青山」オープンまでの経緯を詳しく見ていきたい。
都内で物件を探し始めたのは、2016年9月のことだ。物件情報の提供や仲介サポートをCBREが行った。glo™ストア青山は、日本のみならず、世界でもトップクラスのフラッグシップストアになるはずであり、土地の知名度やステータス、建物のデザイン性には特にこだわった。ただし、都心の一等地で、人通りに面した1階に入口を設け、さらに2フロアを確保できる物件は滅多になく、物件探しは難航。半年後にようやく、青山の商業施設「ザ ジュエルズ オブ アオヤマ」に空きを見つけることができた。ここはすぐ隣にプラダが店を構えるほか、モンクレールやアレキサンダー・マックイーンなど高級ブランドが軒を連ねる通りである。「glo™のブランドバリューを訴求するのに相応しい場所に巡り合えました」と高木氏は希望通りの物件を見つけられたことに満足している様子だ。
CBREが調整役としてサポートし、契約にこぎつけたのはGW明けのこと。そこから具体的な設計や材料調達に取り掛かるのだが、東京でのglo™発売日は7月3日に迫っていた。「理想を言えば、発売の5日前までにglo™ストアをオープンしたかった」(高木氏)とはいえ、それを実現するには、あまりも時間が足りなかった。
発売月のストアオープンが至上命令 社内外から成るプロジェクトチームが奮闘
プロジェクトチームは、高木氏が率いるマーケティングチームを中心に、社内外のメンバーで構成された。社内からは店舗開発担当者、法務担当者、店舗運営チームが加わったほか、社外からは店舗デザインのコンセプトを主導する広告代理店、設計施工を担当する乃村工藝社、契約の推進やコストマネジメントを実施するCBRE、契約や法律関係をサポートする弁護士事務所、店舗スタッフの派遣会社がパートナーに名を連ねた。企画やデザイン、設計施工から契約、店舗運営まで実に幅広い布陣である。早い段階から店舗運営チームもメンバーに加えたのは、「スタッフやお客さまの動線も考えてレイアウトを組むため」(高木氏)だった。
プロジェクトマネジメントに関しては、専門家に依頼する企業が多いなか、今回は自社で行うことにした。店舗開発は未経験とはいえ、「新製品開発ではプロジェクトマネジメントの経験が豊富で、その知見を活かせると考えた」(高木氏)からだという。
乃村工藝社から最初に提示された設計図とスケジュールは、8月末から9月上旬にかけての完成を想定したものだった。それに対して、同社の希望は、「7月3日のglo™発売日に間に合わせるのは無理でも、発売と同じ月にオープンするのが至上命令」であり、スケジュールに妥協の余地はなかった。さらに問題を難しくしていたのは、入居予定の商業施設ですでに営業中の店舗や、裏のマンションの住民に配慮して、騒音や振動の出る工事や夜間工事を控えなければならないことだった。チームではクオリティを落とさず工程を短縮するための方法が幾度となく話し合われ、可能な限り作業員を増やして対応することにした。
緊迫したスケジュールのなかで、「日本支社が主導権を握って進められたことはよかったかもしれません」と高木氏は振り返る。外資系企業の場合、グローバル本社との調整や交渉に時間を要したり、素材の調達や建築基準など本社が決めた詳細なガイドラインを守るのに苦労したりするケースをよく耳にするが、「ブランドの表現としてのガイドラインは持っていますが、店舗デザインに落とし込んだ詳細なガイドラインはなくローカルでの裁量となっていました。従ってイギリス本社との折衝がスケジュールを圧迫するようなことはありませんでした」(高木氏)。毎週の進捗はテレビ会議でマーケティングの上司に承認を求め、さらにボードメンバーに報告する流れで進めていった。
7月21日、ついに「glo™ストア青山」がオープンした。1階の受付と商品ショールーム、2階の体験&購入スペース、4階のオーナー向けラウンジを合わせるとおよそ400坪の広さになる。7月時点では、オーナー向けラウンジを除く1階と2階部分で営業を開始した。
ブランドの世界観を表現しつつ自宅リビングのような空間演出
glo™の商品コンセプトである「brighter future(より明るい未来)」には、たばこ愛好家が未来のたばこを楽しみながら、非喫煙者と共存する社会を創造していきたいという思いが込められている。この思いを具現化するため、ストアコンセプトを「bright & natural」と設定した。
間口を広く取り、全面ガラス張りにすることで、開放感あふれる明るい空間に仕上げた。外に面したガラス一面には、ユーザーの顔写真がたくさん並べられており、「人」にフォーカスしたブランド演出が特徴的だ。また、来店者が自宅のようにリラックスできるよう、店内に設置する植物はすべて天然のものを選び、温かみを意識した。入口のすぐ脇には、複数のモニターを連結させた巨大モニターを設置し、glo™の世界観を表した動画を投影。高木氏は、「将来的には、オーナー向けラウンジでglo™を楽しむ人たちや、広く一般のglo™利用者の顔をモニターに映し出し、非喫煙者と共存する“ジェネレーショングロー(グロー世代)”を表現していきたい」と話す。
glo™の世界観を感じさせる内装の工夫も随所に散りばめられている。1階の製品ディスプレイには、glo™の形をしたディスプレイ台を使用。2階の体験&購入フロアには、ワーキングスペースやカウンターキッチンなど4つの異なるライフスタイルを演出した体験ゾーンを設け、格子状の仕切りで区切って閉塞感を感じさせない空間にした。各ゾーンに設置する椅子のうち、必ず1つはglo™のブランドカラーであるオレンジ色の椅子にすることで、変化のある空間の中でもブランドを意識させるアクセントにしている。
4階のオーナー向けラウンジは、「コンセプトを再考したうえで、後日オープン予定」だという。オーナーが友人を連れて来ることもできる空間として、コーヒーや軽食を提供することも検討している。「気軽に入れるカフェ代わりに使ってもらえれば」と高木氏は期待を込めて話す。
大阪・梅田に誕生した「glo™ストア梅田」は、物件探しや契約締結がスムーズに進み、glo™発売の3日前にオープンを迎えた。1階が受付と体験&購入スペース、2階がオーナー向けラウンジというフロア構成だ。さらに12月中旬には、広島と福岡でもglo™ストアがオープンする予定だ。札幌と名古屋でも検討しているが、「札幌はいい物件が見つかっていないため、現在、簡易的なポップアップストアを出店しています。名古屋も物件次第で考えていきます」と高木氏。どこまでもglo™のブランドバリューに相応しい立地と物件にこだわって、勝負していくという。
プロジェクト概要
企業名 | ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン |
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施設 | glo™ストア青山 |
所在地 | 東京都港区南青山5-3-2 The Jewels of Aoyama |
開設時期 | 2017年7月21日 |
CBRE業務 | 店舗設立に伴う物件仲介 コストマネジメント プロジェクトクオリティチェック |