法人が支出した寄附金は、単純に損金(法人税法上の経費)になるのではなく、無条件に損金になるものや一定額までしか損金にならないものなど、その支出の内容によって処理方法が異なります。また、その仕組みも単純なものではないため処理方法を誤ると多額の税負担が生じる可能性があります。
したがって、寄附金の制度に関する正確な知識を身につけておくことは予想外の税負担を生じさせないようにするためにも有用になります。
1.寄附金とは
法人税法上における寄附金は一般的にいう寄附金よりも範囲が広く、贈与契約だけではなく資産の低額譲渡や金銭の低利融資などによる経済的利益の供与も寄附金の対象となっています。
法人が支出した寄附金は、税務処理方法の相違により次の3種類に区分されます。
(1)については無条件に損金となり、(2)(3)については一定額(損金算入限度額)まで損金となり、それを超える部分については損金となりません。
このような処理方法をとっているのは、通常、寄附金は事業との関連性の有無の判定が困難となります。そこで、一定の形式基準によって便宜的に損金算入限度額を定め、その範囲内までは損金として認めることで実務上の無駄な紛争を起こさないようにするためです。
【参考:法人税法に規定されている寄附金の範囲(法人税法第37条第7項の一部)】
寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。
2.損金算入限度額
1)一般の損金算入限度額
普通法人の損金算入限度額は以下のようになります。
考え方として、会社の利益(所得金額)が資本の10%と考えると資本の2.5/1,000と利益の2.5/100が同じような金額となり、その平均額が損金算入限度額となります。
2)特定公益増進法人等に対する寄附金の特別損金算入限度額
特定公益増進法人等に対する寄附金がある場合には、一般の損金算入限度額とは別に特定公益増進法人等に対する寄附金用の特別損金算入限度額があります。
3.具体例
ケース1:特定公益増進法人等に対する寄附金が20万円・その他の寄附金が0円ある場合
(1)支出した寄附金の額:20万円
(2)特定公益増進法人等に対する寄附金の特別損金算入限度額
- (イ)特定公益増進法人等に対する寄附金:20万円
- (ロ)特別損金算入限度額
- (ハ)(イ)と(ロ)のいずれか少ない金額 ∴87,500円
(3)一般の損金算入限度額
(4)損金不算入額:(1)-(2)-(3)=62,500円
ケース2:特定公益増進法人等に対する寄附金が0円・その他の寄附が20万円ある場合
(1)支出した寄附金の額:20万円
(2)特定公益増進法人等に対する寄附金の特別損金算入限度額
- (イ)特定公益増進法人等に対する寄附金:0万円
- (ロ)特別損金算入限度額
- (ハ)(イ)と(ロ)のいずれか少ない金額 ∴0円
(3)一般の損金算入限度額
(4)損金不算入額:(1)-(2)-(3)=15万円
4.寄附金の支出の効果
寄附金の支出は税務上損金として処理されるものであり、税額控除ではありません。したがって、寄附金を10万円支出したとしても、10万円分の税金が減少するわけではありませんので注意が必要です。
例:利益100万円・税率40%の会社について
ケースA:寄附をしなかった場合の合計支出額
(1)寄附金:0円
(2)税金:利益100万円×40%=40万円
(3)合計:(1)+(2)=40万円
ケースB:10万円の寄附(全額損金算入)をした場合の支出額
(1)寄附金:10万円
(2)税金:利益(100万円-10万円)×40%=36万円
(3)合計:(1)+(2)=46万円
ケースC:10万円の寄附(全額損金不算入)をした場合の支出額
(1)寄附金:10万円
(2)税金:利益(100万円-10万円+10万円(損金不算入額))×40%=40万円
(3)合計:(1)+(2)=50万円
(ケースA)に比べて(ケースB)のほうが合計の支出額が6万円多くなります。
これは実際の寄附金の支出額は10万円ですが寄附金が損金になることによって税金を減少させる効果(10万円×40%=4万円)が生じ、実質的な支出額は6万円となります。
一方、(ケースA)に比べて(ケースC)のほうが合計の支出額が10万円多くなります。
(ケースC)は寄附金が損金にならないので税金を減少させる効果がないため実際の支出額と実質的な支出額がともに10万円となるからです。
著者プロフィール
木村 篤志(きむら あつし)氏
木村会計事務所 代表
1973年生まれ。1999年税理士登録。大手会計事務所を経て2005年に独立開業
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