1.契約書に貼付する収入印紙
(1)土地建物の譲渡契約書
土地建物の売買契約の締結に際して契約書を作成した場合には、第1号の1文書(不動産の譲渡に関する契約書)となり契約書に収入印紙を貼付する必要があります。
契約書に貼付する収入印紙の金額は、契約書に記載した土地建物の売買代金に応じて【表1】のようになります。
【表1】不動産の譲渡に関する契約書の印紙税額

(2)土地の賃貸借契約書
土地の賃貸借契約の締結に際して契約書を作成した場合には、第1号の2文書(土地の賃借権の設定に関する契約書)となり契約書に収入印紙を貼付する必要があります。なお、この契約書における契約金額とは、権利金、名義変更料、更新料等で後日返還されることが予定されていないもの(以下「権利金等」といいます。)のことをいい、土地の地代は権利金等には該当しません。したがって、契約書に貼付する収入印紙の金額は、契約書に記載した権利金等の金額に応じて【表2】のようになり、契約書に土地の地代の記載だけで権利金等の記載がなければ貼付する収入印紙は200円となります。
【表2】土地の賃借権の設定に関する契約書の印紙税額

(3)建物の賃貸借契約書
建物の賃貸借契約の締結に際して契約書を作成したとしても、建物の賃貸借契約書は不課税文書であり収入印紙を貼付する必要はありません。ただし、建物の賃貸借に関する事項の他に保証金等として受取った金銭を、その建物の賃貸借期間に関係なく一定期間据え置き後一括返還又は分割返還することの記載がある場合には第1号の3文書(消費貸借に関する契約書)となり契約書に収入印紙を貼付しなければなりません。この場合の印紙税額は一括返還又は分割返還する金額に応じて【表3】のようになります。
【表3】消費貸借に関する契約書の印紙税額

なお、建物の賃貸借契約の締結に当たって、建物の賃貸人が賃借人から敷金を預かる際に敷金の預り証を作成することがありますが、この預り証は第17号の2文書(売上代金以外の金銭の受取書)となり敷金の金額が3万円以上となる場合には200円の収入印紙を貼付しなければなりません。
(4)収入印紙を貼付しなかった場合等
契約書に収入印紙を貼付しなかったとしても、契約が無効になるわけではありません。契約自体は有効です。しかし、印紙税の課税もれとなるため罰金が科せられます。
印紙税の納付は、契約書に収入印紙を貼付し印章または署名で消印することで行うのですが、契約書に収入印紙を貼付しなかった場合には納付すべき印紙税額の3倍に相当する過怠税(罰金)が徴収されます。また、貼付した収入印紙に消印をしなかった場合には消印をしなかった収入印紙と同額の過怠税が徴収されることになります。
(5)留意点
契約の締結に際して実際に使用される契約書は全てが同じ内容ではなく、個々の契約毎に異なった内容になります。そのため、ある一文を入れたことによって印紙税の課税文書になってしまうことも少なくありません。
したがって、実際に契約書を作成した場合には契約書の名称だけで印紙税の課税文書か否かを判断するのではなく、契約書の内容に応じた判断をする必要があります。不課税文書かと思ったら課税文書だったということも少なくありませんので、判断が難しい場合には専門家に確認してもらったほうがよいでしょう。
2.土地建物の売買に際して行われる公租公課の分担金
土地建物の売買が行われる場合、売主と買主との間で土地建物の公租公課を分担するケースがよく見受けられます。主なものとして固定資産税・都市計画税(以下「固定資産税等」といいます。)があげられますが、その分担の方法は、
例えば
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土地建物引渡しの日・・・5月末
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土地建物の固定資産税等の年税額・・・120,000円
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公租公課の起算日・・・1月1日
のようなケースでは、固定資産税等のうち50,000円(120,000円×5ヶ月/12ヶ月)は売主の負担とし、70,000円(120,000円×7ヶ月/12ヶ月)は買主負担として行われます。
しかし、固定資産税等の納税義務者は、その年の1月1日に土地建物を所有していた人であって、その後その年中に土地建物の所有者が代わったとしても納税義務者が代わるわけではありません。
つまり、公租公課の分担として買主が売主に支払った固定資産税等の分担金は、固定資産税等を支払っているのではなく土地建物の売買代金を支払っているということになります。
したがって、固定資産税等の分担金のうち買主負担分は、売主からすると土地建物の売却代金となり、買主からすると土地建物の購入代金となります。
3.建物の賃貸借契約に伴い授受される資金の消費税の処理
(1)礼金
建物の賃貸人が礼金等の入居一時金で返還を要しないものを受取った場合、その礼金等は建物を賃貸したことの対価に含まれ消費税の課税対象となります。ただし、その賃貸が居住の用に供する住宅の賃貸である場合には非課税となり消費税はかかりません。
(2)敷金・保証金
敷金・保証金は建物の賃貸借契約に伴い建物の賃貸人が賃借人から預かっている金銭であり、建物を賃貸したことの対価ではないため消費税の課税対象とはなりません。ただし、敷金償却など敷金・保証金のうち賃借人に返還を要しないものについては建物を賃貸したことの対価に含まれ、礼金と同じような取り扱いになります。
(3)中途解約の違約金
建物の賃貸人は賃貸借の契約期間の途中に賃借人から解約の申し出があった場合に数か月分の家賃相当額を受取ることがありますが、これは、賃貸借契約が契約の途中で解約されたことによる賃貸人の被った損失の補填として受取るもので、建物を賃貸したことの対価として受取るものではないため、その受取額は消費税の課税対象とはなりません。
(4)契約終了後に賃借人が立ち退かない場合の割増賃貸料
建物の賃借人が賃貸借の契約期間の終了後においても立ち退かない場合に、賃貸人は通常の賃貸料よりも多い賃貸料(割増賃貸料)を受取ることがありま すが、この割増賃貸料は、賃借人が正当な権利無くして使用していることに対して受取る割増しの賃貸料であり、建物使用の対価として徴収するものと考えられ るため消費税の課税対象となります。
(5)原状回復に要する費用
建物の賃借人が退去する場合に行う原状回復工事を賃貸人が行い、その原状回復費用のうち賃借人が負担すべき金額を敷金等の預り金から差引いて精算するケースがあります。しかし、原状回復工事は本来賃借人が行うべきもので、賃貸人が賃借人に代わって行う原状回復工事は賃貸人の賃借人に対する役務の提供に該当します。したがって、賃貸人が賃借人から受取った原状回復費用は役務提供の対価として消費税の課税対象となります。
著者プロフィール
木村 篤志(きむら あつし)氏
木村会計事務所 代表
1973年生まれ。1999年税理士登録。大手会計事務所を経て2005年に独立開業
※免責事項
本稿の内容について、契約の内容や事実関係によって結論が異なってくる場合がありますので、実際の事案では、必ず専門家に相談することが必要です。
なお、本稿に記載されている事項については平成22年4月に施行されている税制および同時点で一般的に妥当と認識されている事由に基づき執筆しており、今後税制その他の事由に変更があった場合には記述内容が変わることがあります。
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