アパレルのものづくりと販売の連携強化を目指し、新たな価値を創造し発信する拠点を構築。
先進オフィスビルへの建替プロジェクト。
東京・芝浦に4ヶ所の拠点を有するアパレル企業・オンワード樫山。これまで商品企画・開発・販売の各部門が4つのビルに分散して執務していたが、このたび社内連携強化を図るため、所有ビルの1つを先進のオフィスビルに建て替え、人員を1ヶ所に集約した。創造性と機能性を兼ね備え、かつアパレルメーカーらしいオフィスづくりの全貌に迫った。
築40年以上を経たビルを最新ワークプレイスに建て替え
「23区」「組曲」「自由区」をはじめ多数のアパレルブランドを擁するオンワードグループ。主にホールディングス機能を担う東京・日本橋の本社と、アパレル事業部門であるオンワード樫山が拠点とする東京・芝浦の4棟のビルを含む、全国の百貨店への営業拠点として7支店を構える。
同社は2014年11月、日本橋のホールディングス本社社屋を建て替えたのに続き、2016年、芝浦ビル(第1から第4まで)のうち、第1ビルを建て替えた。芝浦のビル群は、営業担当者、MD(マーチャンダイザー)、デザイナー、パタンナーなどの担当が4棟に分かれて執務していたが、今回、築年数を経て主に倉庫として使われていた第1ビルを最新のオフィスビルに建て替え、人員を集約させることになったのだ。
建替話は、以前から出ていたという。オンワード樫山が芝浦に拠点を置くようになってから長く、古いものでは築40年以上経つビルもあった。
引き金になったのは、2011年3月の東日本大震災だった。しばらくすると第1ビルのすぐ脇を通る湾岸通りが災害避難指定道路となり、建物の耐震補強が必要となった。折しも隣接する土地を購入することができ、土地の拡張が可能になった。第1ビルの荷物を一時的に別の貸倉庫に移し、ビルの建て替えが行われたのである。
建物のコンセプトは「パーク」 アパレル会社らしさを随所に表現
新オフィスビルは、目の前に東京湾とレインボーブリッジを望む立地に建つ、ワンフロア1,000坪の6階建である。3階から6階までが執務スペースで、2階には来客スペースと会議室、食堂がある。「人が自由に行き来でき、自由な過ごし方ができる公園のようなワークプレイス」というコンセプトから、「オンワードベイパークビルディング」と名づけられた。このコンセプトは、ホールディングス本社「オンワードパークビルディング」から引き継いでいる。
建物の設計には、アパレルメーカーらしいデザインが随所に取り入れられている。外観は「まとう」をキーワードに、伝統と個性を編み込んだ大きな布をまとったイメージを表現した。内装は、働く人やサンプル・素材が引き立つよう、白を基調とした優しい空間。共有部には、柔らかい布のように見える曲面の壁面を採用したほか、階段室には自然光を取り入れ、自然を感じられるよう工夫している。点線で表現された案内表示は、ミシンの縫い目をイメージしたものである。
こうしたデザインを含め、新オフィスビルには馬場昭典社長(当時)の強い思い入れが反映されていると総務部総務二課課長の高井豊和氏は話す。「社長もずっとものづくりに携わっていましたから、いいものをいい環境でつくりたいという思いが強い。デザインに関しても、社長が信頼するデザイナーの方々に直接依頼し進めていきました。そのこだわりの1つが、各階をつなぐ内階段に設けられた『ステップテラス』です。気軽にコミュニケーションが取れ、会話の中からクリエイティブなアイデアが生まれるような空間をつくりたいという思いから着想しました。湾岸の景色が一望できる踊り場に、椅子やテーブルが置いてあり『パーク』というコンセプトを象徴する場所になっています」。
柔軟な執務空間の実現でものづくりと販売の連携強化
分散していた人員を1ヶ所に集めることで、ものづくり部門と販売部門の連携を高めることも狙いの1つだった。これまで、MD、デザイナー、パタンナーといった生産・企画部門は主に第3ビル、営業部隊は主に第4ビルで執務していた。第3ビルと第4ビルは渡り廊下で連結しているとはいえ、同じビル内やフロア内にいる場合と比べればどうしても距離が生じてしまう。「販売とものづくりは互いに密接に連携すべきだというのが社長の考えでした。ただ、これまではスペースの問題で全員を1ヶ所に集約することが難しく、MDと営業を近くに配置したり、生産と組み合わせてみたりと、試行錯誤を繰り返してきました。今回、新たなオフィスビルの完成を機に、MD、営業、デザイナーがブランドごとに集まって仕事ができるようにレイアウトしました」〔高井氏〕。
ただし、新オフィスビルで確保できる執務空間は、従来の4棟の倉庫部分を除く執務空間を合わせた面積の65%にしかならないという問題があった。限られたスペースでオフィスをどうレイアウトすればよいのか。そこで導入したのが、CBREから提案されたABW(アクティビティベース・ワークプレイス)である。これは、スペースの共有と多様化を進めることで、場所にとらわれない働き方を実現するという考え方である。
新オフィスを構築する前に、CBREに執務空間のコンサルティングを依頼。そこで行われた従来の執務環境について社員に尋ねたアンケート調査や観察調査から、次のようなことが明らかになった。個人デスクの使用率は平均で58%と低く、ピーク時でも70%。また、「不足している」と不満の声が多かった会議スペースについては、実際の使用率は21%と低い数値だったのである。この調査結果を受け、席の固定を部分的に解除した、よりフレキシブルな環境への移行、また会議室やミーティングスペースの大きさと数の見直しが検討された。
その結果、管理部門とデザイナーの固定席を残す一方で、MDと営業は完全フリーアドレスとした。ただし、椅子は人数分を用意し、不使用時には部屋の隅に片づけておくこととした。同時にパソコンの無線化やPHSの導入などモバイル環境を整備し、場所を選ばず仕事できる環境を整えた。また、会議室やミーティングスペースは必要最小限に抑えつつ、ミーティングスペースをL字型の執務フロアの真ん中に置くことで、どの席の人も利用しやすく、フロア内で人の行き来が生まれる配置を工夫した。会議室の不足は、第2ビルと第3ビルにも会議スペースを取ることで解消。また、食堂をおしゃれなカフェ風にし、14時以降は執務でも利用できるようにしている。
執務空間を効率的に利用するには、書類とモノの削減も不可欠だった。アパレル会社に特有な事情として、素材やサンプルなど「リアルなもの」はどうしても多くなりがちで、スペースも占領する。そこで素材やサンプルはできるだけ削減し、かつ第2ビルに収納スペースを確保することで対応した。書類に関しては、電子文書と電子化した紙文書をパソコン上で一元管理できるDocuWorksを導入し、ペーパーレスを促進。新オフィスビルで業務を開始して約1年が経過した現在、書類は前年比75%にまで削減されている。
社内の人・モノ・情報は財産 セキュリティ強化で財産を守る
セキュリティ向上も重要な改革の1つだった。従来は、取引先を含め部外者が自由に社内に出入りできる状況だったという。新オフィスビルでは、受付と来客スペースが設けられた2階で来客対応するようルール化した。
また、震災が建て替えの直接のきっかけになっただけに、新オフィスビルはBCP対応も万全である。基礎免震構造を採用した高い耐震性を持ち、万が一に備え72時間対応の非常用発電機を設置している。非常食は社員用の500人×3日分に加え、周辺エリアの帰宅困難者用に1,000食以上の備蓄もある。
引っ越しは、2016年2月8日までの約1週間で行われた。サンプルや素材などものづくりに関するものが多いぶん、引っ越しにも難しさがあると思われたが、「今回は規模が大きく、大変ではありましたが、特に大きな混乱やトラブルもなく無事に完了しました」〔高井氏〕。
新たなオフィスビルに移って約1年が経つ。フリーアドレスの導入やセキュリティ強化に伴う働き方の改革に対しても、「最初は社員に戸惑いもあったが、少しずつ慣れてきた様子」だという。
機能性と創造性を兼ね備え、またオンワード樫山の価値観とコーポレートカルチャーを発信する場所として誕生した「オンワードベイパークビルディング」。今後はMDやデザイナー、パタンナーと営業が自由に意見を交換し、価値観を共有しながら、一丸となって商品を生み出し世界へ発信していく拠点へと進化していくだろう。
プロジェクト詳細 | |
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企業名 | 株式会社オンワード樫山 |
施設 | オンワードベイパークビルディング |
所在地 | 東京都港区海岸3丁目9-32 |
稼働開始日 | 2016年2月 |
規模 | 地上6階建 |
CBRE業務 | ワークプレイス戦略コンサルティング |