2020年に始まったコロナ禍による外出自粛は、ECの需要を急速に押し上げ、人々のライフスタイルと小売業のサプライチェーンに大きな変化をもたらした。ネットスーパー、フードデリバリーが身近になり、欲しいものがすぐに手に入ることに慣れた消費者のニーズに応えるように生まれたクイックコマース(Qコマース)。続くコロナ禍で思うように外出できず、買い物に行く時間がない消費者の間で、食料品や日用品の宅配ニーズが高まり、それを取り込むサービスがすでに始まっている。今回は、日本におけるQコマースのトップランナーである、日本発のダークストアを展開するOniGOと韓国企業のCoupang Japanに取り組みを取材した。
コロナ禍で沸騰した物販系EC市場 ネットスーパーは注文殺到で一時停止も
物販系のEC市場(B to C)は近年、右肩上がりに増加していたが、コロナ禍で拍車がかかり、 2020年の市場規模は12兆2,333億円と前年比21.71%も増大している。EC化率も6.76%から8.08%へと上昇した。また、「食品、飲料、酒類」のEC市場規模も2兆2,086億円と前年比21.13%と大幅に上昇し、EC化率は2.89%から3.31%へ上昇。しかし、物販系全体のそれと比較すると、伸びも割合もかなり低い。〔図01〕
食品等のEC化が進まない理由として、❶生鮮食品は実際に手に取って選びたいという消費者の要望が強い。❷コンビニやスーパーが近所にあり、ネットスーパーより利便性が高い。❸送料や価格などコストが高いことなどが指摘されてきた。このようにEC化に向かない品目であっても、コロナ禍はオンラインショッピングの需要を押し上げた。2020年には、注文が殺到したネットスーパーで、一時、注文を停止する動きが相次ぐほどであった。
消費者のニーズに応えるQコマース ダークストアが成長の鍵
コロナ禍が収束すれば、一時の過熱ぶりも落ち着くと考えられるが、一度その利便性を知った消費者のニーズが減るとは考えにくく、今後も成長が続く可能性がある。
ネットスーパーでは、配達がどんなに早くても当日で、配達時間に幅があり、受け取りづらいという声を聞く。それに応えるものとして、最近注目されているのが「ダークストア」だ。これは、ネットスーパーにおける実店舗とは異なり、独自のネット販売専用の物流センターである。商品が並んでいるコンビニほどの規模の施設は、実際に消費者が足を運ぶわけではないので、ダークストアとよばれる。このダークストアが、オンラインで注文を受けた商品を近隣に短時間(30分程度)で配送するQコマースと結びつき、革新的なサービスを生み出している。配送エリアを限定することで即時配達を可能にしているのだ。
ダークストアのメリットとして、❶鮮度が重要な食品は、即時配達サービスに向いている。❷即時配達は、コンビニやスーパーへ行くよりも早く、利便性が高い。❸ネットスーパーでは実店舗より価格が高い傾向があるが、ダークストアでは、メーカーからの直接仕入れ、アルゴリズムなどの活用でコスト削減を徹底し、実店舗並みの価格を実現している。
また、ネットスーパーは、コンビニなどの実店舗が消費者の近くに多く分布しているため、ネット注文はできても、ラストワンマイルをカバーできていない場合が多い。一方、ダークストアはラストワンマイルまでカバーし、配達圏内であれば、自宅など消費者の望む場所まで配達する。
すでに、海外では2020年からダークストアの領域で多数の新興企業が誕生、Flink(ドイツ)、 Gorillas(ドイツ)のように創業約1年以内にユニコーン企業※となる例も複数あり、今、最も注目されるマーケットのひとつだ。
ECの市場規模を支えるキャッシュレス化 ダークストア成長の後押しに
多くのダークストアのサービスは、専用アプリをスマホにダウンロード、クレジットカードや電子マネーなどの情報を登録し、決済する仕組みになっている。日本のキャッシュレス比率はこの10年で2倍以上になったが、世界の国々と比べるとまだまだ遅れている。〔図02〕〔図03〕日本におけるダークストアも期待されるが、拡大のネックとなっている要因のひとつがキャッシュレス比率の低さとも言われる。政府は2025年までに40%程度、将来的には80%をめざしている。今後、キャッシュレス化が進めば、ダークストアなどの多様なサービスも広がり、EC市場もさらに拡大していくことが予想される。