社会的要請だったリモートワーク、導入に多大な貢献を果たしたZoom
Zoom Video Communicationsは、TV会議やWeb会議をはじめPCやスマートフォンなどの各種デバイスを通じて、顔を見せてのコミュニケーションを実現するツールである「Zoom」を提供する企業です。創設者は、今から約20年前にWebexというWeb会議のシステムを開発した4人のキーエンジニアの中の一人であるエリック・ユアン。Webexはその後、シスコシステムズに買収されましたが、ユアンは2011年に同社を退職し米国カリフォルニア州サンノゼに当社を設立。その後の2年間、Zoomの開発に没頭していました。そして2013年1月に営業を開始し、同年5月には100万人超のユーザーを獲得するに至っています。
そのユアンが、早くから市場としてのポテンシャルに注目していたのが日本でした。というのも、当時日本には拠点がなく何の告知もしていないにもかかわらず、アプリケーションのダウンロード数が米国に次いで世界第2位の実績だったからです。日本を代表するEC企業や日系大手航空会社など、直接、米国の本社にアクセスし、Zoom導入に踏み切る企業があるほどでした。
こうした状況を受けて、2018年11月に日本でZVC JAPANを法人登記、翌2019年7月に東京、日比谷のWeWorkにオフィスを開設しました。私が当社に参加した2019年2月時点の社員は10人でしたが、オフィス開設時には25人、現在では50人のメンバーが在籍しています。
業績的には、一昨年と昨年で新規契約企業が2倍。当社のシステムは満足度が高く解約率が低いため、売上は3倍に伸びていました。さらに、オフィス開設時に10ライセンス以上の「ビジネス」というプランのユーザー企業は3,500社、個人用を含めた「プロ」というプランは2万アカウントでしたが、この4月末時点でビジネスアカウントは1万5000超、プロは15万アカウントを超えています。つまり、以前は1年で3倍だった伸び率が、ここ2~3ヶ月で5~10倍のスピードで成長しているわけです。
その背景にあるのは、言うまでもなく新型コロナウイルス感染症の影響です。オフィス開設時の当社最大の懸案事項は認知度の低さでしたが、図らずもこの数ヶ月で一気に知名度が上がりました。この事実から、日本のみならず世界中の様々な企業で導入が急務となったリモートワークの実現に対して、当社がその一助になったという自負は持っています。
最大の差異はZoomの持つ世界観。圧倒的な技術で市場をリードする
Zoomがこれだけ急速に市場に認知された最大の要因、それはZoomが持つ世界観にあると考えています。当社がこだわっているのは「つながりやすく切れづらい」という基本性能と、「相手の顔を見ながら会話する」というコミュニケーションに重要な要件の2点に徹底していることです。
例えばマルチ画面が表示可能といっても、数枚の画面を開くだけで動きがカクカクしてしまっては、「これは使えない」と資料だけを見て会議を続けることになるでしょう。しかし、常にスムーズに動くZoomでなら、資料とともに相手の表情や反応を見ながら会話することができます。当社営業時のデモンストレーションで、最初に社員50人全員が各自・各場所で仕事の手を止めて画面に登場し、一斉に手を振るといった演出をすることがあります。こういったことでお客様を歓迎する雰囲気を醸し出すと同時に、優れた表示機能を実感していただいています。
現在は、こうした優れた機能を単にTV会議の置き換えにとどめるのではなく、社内の少人数の打ち合わせや1対1のコミュニケーション、商談や大人数が参加する会社説明会、新人研修などまで活用範囲を広げる提案をしています。先日は、トヨタの豊田章男社長が、YouTubeを通じて決算報告に活用されたのですが、その際、Zoomを利用することでこの数ヶ月、どれだけの効率化と時間の短縮が実現できたかを語ってくださいました。このように多くの人がオンラインにしようと思っていなかった活用法が可能であることに気づき、まもなく、こうした動きはチャレンジから定着へと変化を遂げることと思います。
さらに、現在は新たに通訳の方を参加させるだけで簡単に利用できる「同時通訳機能」や、しゃべっている言葉をすぐに文字に起こして表示する「クローズドキャプション機能」、さらにはAIを活用して、英語を日本語に翻訳して表示する「オートトランスレーション機能」の搭載など、単なる物理的な距離だけでなく、言語の壁を取り払おうとしています。
またTV会議やWeb会議と同じプラットフォームに、クラウドPBX(社内交換機)を取り込むことで、会社にかかってきた電話に在宅で、スマホで対応するなども可能です。つまり社内の様々な通信インフラをZoomにまとめれば、管理の煩雑さを排除しながら固定電話で対応すれば通話になるし、会議室ならTV会議に、PCやスマホならWeb会議になるということです。これは私どもが目指すビジョンの一つなのですが、その意味では近い将来、「電話をする」ではなく、「Zoomする」という言葉が一般的になるかもしれません。
急成長する企業であるほど象徴としてのオフィスが意味を持つ
当社のオフィスは、現在、コワーキングスペースに設置していますが、独自の自由なつくり込みはできないものの十分満足度の高い空間となっています。そして何より、人員の増加に合わせて、容易に増床できる点がメリットでしょう。実際に、先ごろ増員した際に少し離れた部屋を借り増ししたのですが、大画面のモニターを双方に設置し常時接続することで一体感を保つようにしています。
現在は100%在宅勤務なのですが、いくらZoomとは言え2月までは皆、普通に出社して業務を行っていました。急成長するということは新しいメンバーが日々増えていくことで、そんな彼らとの対面のコミュニケーションは非常に重要であり、また、皆がそれを楽しんでいました。隣のデスクからZoomを使って営業する先輩の姿を見るだけでも、ともにオフィスにいる価値があるのです。現在、在宅でも十分なパフォーマンスが出せることはわかりましたが、オフィスで会話をしながら成長していくことは、さらに重要なことだと考えています。
去年までは、リモートワークは災害時の対策や、オリンピックのための緊急措置といった認識が大半を占めていました。それが今回、十分に平時の業務に活用できることが明らかになったことで、コスト削減の観点から、スペースを削減しようという考えが出てくることは想像に難くありません。ですが一方で、実際に会うコミュニケーションの濃度にはかなわないのも事実。ですから、居心地がよくコミュニケーションがとりやすい、グレード感あふれるオフィスを用意して、週の半分は出社、半分はリモートワークといった、いわゆる普段使いにしておくことで、平時はもとより災害時や緊急時にも強いワークスタイルが確立できるのではないでしょうか。
数千人規模の会社なら別な考えもあるかもしれませんが、当社のような規模では、社員の求心力となるセンターオフィスの意義は重要です。今年末には80人規模に拡充する予定ですし、大阪には新たなデータセンターを新設しますので、その時には社員に、よりよい環境が提供できるよう、努めていこうと考えています。