賃料水準と商習慣
現在、日系企業の海外における収益拡大が鮮明になってきている。日本経済新聞社の集計によると、上場企業が2005年度に稼いだ地域別営業損益(連結ベース)のうち、海外であげた営業利益は5兆677億円と前年度と比較して21%増加し、過去最高を更新した。今後、人口の減少が進んでいく日本のマーケットにおいては、急成長が見込めないため、海外での成長に軸足を置く日系企業が、改めて増加傾向を示している。
このような日系企業による海外での再投資の動きを受けて、海外オペレーションを行うための世界各都市におけるオフィス賃借ニーズが高まってきている。日本のオフィス賃借料は高額であるといわれるが、海外主要都市の賃料水準は現在どうなっているのか、また、日本国内でオフィスを賃借する場合と海外主要都市で賃借をする場合に、どのような違いもしくは共通点があるのか。各国のCB Richard Ellis からの情報を基に、明らかにしていきたい。
世界の賃料水準
世界主要都市のオフィス賃借料推移
※賃料は、各年月におけるUS$レートに換算した1㎡当たりの月額賃料
※各都市主要ビジネス街中心地のAクラス以上のビルにおける1,000㎡の空室で想定される瀬尾約賃料の平均値
世界主要都市の入居費用比較
ゴールドマン・サックス社が、今後、成長する市場として位置付けた「BRICs」(ブラジル・ロシア・インド・中国の頭文字を取ったもの)と呼ばれ る新興市場。これらが着実にその歩みを進めていることが、オフィスマーケットにおける賃料水準でも証明され始めている。上のグラフは、世界主要都市のオ フィス入居にかかる費用を、高額な順に並べたものであるが、ロンドンや東京といった世界的にも賃料が高いと認識されている都市のすぐ後ろに、ムンバイやモ スクワという都市がランクインしているのである。各都市において状況に違いはあるものの、このような賃借料の高騰は、主に需給のギャップ(逼迫)によって もたらされている。
新興都市では、国際的な企業が満足できるような設備を整えているオフィスビルがほとんどないため、特定のビルに 入居希望が集中し、結果、賃借料も上昇してしまう。また、物件の絶対数が少ないということもあり、オーナーサイドが強いマーケットを形成している都市が多 くなっている。今後しばらくは、このような新興都市でオフィス開設を計画する際には、物件探しに苦労するケースが多くなることが予測される。
海外のオフィス賃貸借における商習慣
1. 賃料表示
日本では、オフィス賃貸借における募集時・契約締結時の賃料表示については、尺貫法による「坪/月」を標準的な表示単位としており、アジア主要都市ではソウル、台北が同様の表示方法を用いている。
世界の各都市を見ると、欧米文化圏内でも、標準的表示方法は異なる。まずは、イギリス系に多く見られるヤード法による「sq.ft.(スクエアフィート)」の表示。表中に示した都市でsq.ft.を用いているのは、ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドン、香港、シンガポールの各都市である。
もう一つの代表的な単位は、メートル法の「sq.m.(平方メートル)」の表示で、パリ、シドニー、バンコク、上海等の都市がある。?を単位とする都市の中で、特殊なのが上海であり、月毎の表示ではなく日毎の賃料表示が一般的である。また、通貨単位については、今まではUS$の表示だったものが、現在、人民元へと移行しつつある。世界の中でも急激な速さで成長を続ける中国の商業中心都市においては、不動産マーケットの慣習についても速いスピードで変化を続けている。
2. 契約期間・中途解約・サブリース
日本における賃貸借契約において、海外と比較して最も特殊な点といわれるのが、6ヵ月前に予告をすれば契約の中途解約を認めていることであろう。定期借家制度が2000年に施行され、投資家によって所有されているオフィスビルに関しては、原則的に中途解約を認めない定期借家契約が増加しているものの、いまだ多くの契約については、中途解約が可能な従来の普通借家制度によって締結されているという状況がある。
他の主要都市においては、一般的に契約期間内は入居を続けなければならないものであり、途中で退去をする場合には大きなペナルティが課せられることが多い。そのため、サブリース(転貸)に関しては、シドニー、ロンドン、パリ、ニューヨークで一般的な契約条項に盛り込まれており、特にニューヨークにおいては、弊社では通常のオフィスマーケットとは別にサブリースのマーケット数値も四半期毎に発表している。
参考:賃料のネット表示とグロス表示
賃料表示 | 備考 | |
---|---|---|
ニューヨーク | グロス表示 | ビルの個別ロスファクターに左右される |
ロンドン | ネット表示 | 募集賃料と成約賃料に差異がない |
上海 | グロス表示 | 共益費・管理費を含まない |
香港 | ネット表示 | 共益費・管理費・固定資産税を含まない |
シンガポール | ネット表示 | 共益費・管理費を含む、固定資産税は含まない |
東京 | ネット表示(グロス表示もあり) | 共益費・管理費・固定資産税を含まない |
3. 敷金・保証金、フリーレント
敷金・保証金という概念は、日本以外の諸外国においても一般的である。ロンドンなどでは契約期間が長期であるため、預託金の金額も大きくなっている。ただし、特筆すべきはシドニーであり、預託金をテナントから預かるという商慣習は存在しないようである。また、フリーレントについては、表中の各都市で行われており、オーナー側がテナントを誘致するために使うカードとしての意味合いが強いという点では、各都市ともに同様であると考えられる。
4. 内装工事・原状回復
内装工事や原状回復工事は、テナントの費用負担で実施するのが一般的である。ただしアメリカでは、実際は一定限度内でオーナーによる内装工事費用の援助が行われている。すべてオーナー負担というケースも見受けられ、この場合、テナントが、工事期間延長等により発生する入居期限のリスクから解放されるというメリットがある。オーナーとしてはテナントの入居でどれだけ利益が出るかが重要であり、内装工事費用も契約内容のバランスをとるための要素の一つと考えるのが妥当であろう。