立ち上げ時の苦しい時代には身の丈に合ったオフィスが基本。
質実剛健に爽やかさをプラスして金融ベンチャーらしさをアピール。
クラウドクレジット株式会社
代表取締役
杉山 智行氏
日本の投資家を世界につなぐクラウドファンディング事業
当社クラウドクレジットは、資金需要が大きい国の個人や事業者と、魅力的な運用先を探す日本の投資家をつなぎ、日本の余剰資金をローン投資という形で融資するクラウドファンディングの仕組みを提供しています。この会社を立ち上げる前、私はイギリスのロイズ銀行東京支店に勤務していました。そこで経験したのは、日本では貸付が増えずに預金ばかり増えているのに対し、イギリスでは旺盛な資金需要に対して貸すお金がないといういびつな状況でした。成長ポテンシャルによって資金需要がある、クレジットにも問題がないにもかかわらず、国内に原資がないために苦労する企業に対して、資金を届ける事業を始めたら面白いんじゃないか。そう考えたのが起業のきっかけです。2013年1月のことでした。
起業当初は、六本木のレンタルオフィスに共同創業者と2人で机を並べていました。その3ヶ月後、社員が増えるのを見越して北青山のオフィスに引越すのですが、それまでに紆余曲折がありました。当初、私たちは費用の感覚が甘く、賃料17万円の物件に入ろうとしていたため、「ベンチャーなら最初は我慢して、売上が立ってからちゃんとしたオフィスに移るもんだよ」と、オンライン証券をはじめ、数多くのベンチャーの創業に携わってこられた起業支援の専門家でもあるシード投資家の方に諭されました。次に、六本木の飯倉片町交差点にある月7万円の物件を見つけ、この投資家の方に見てもらうと、こちらもダメだしをいただきました。理由としては、首都高の高架橋からの低周波音がメンタルに悪い影響を与える等が挙げられました。数々のベンチャー企業を支援してきた経験から、空気の淀んだ場所にオフィスがあると、ただでさえ立ち上げの苦しい時期にチームの雰囲気も悪くなり、失敗する――これが、この投資家の方の持論でした。
探し回って行き着いたのが、8坪で10万円の北青山の物件です。外苑前駅から徒歩1分という便利な立地の割に、大通りから1本入った路地裏にあるので賃料が手頃でした。ここでおよそ1年間、投資商品の販売に向けた開業準備を進め、メンバーも5人程度まで増えました。
身の丈以上のオフィスがもたらした倒産危機、チームの雰囲気も悪く
開業に向けて一気に採用を増やしていくため、2度目の引越しをするのですが、実はここから、私たちが“なかったこと”にしてきた黒歴史の1年が始まります。10人強が執務できる広さで賃料20万円程度を想定していたのですが、ちょっとした流れから有楽町でレンルオフィスを契約することになったのです。なんと坪単価10万円、7坪で賃料70万円です。窓がない密閉空間はまるで潜水艦のようで、チームの雰囲気はどんどん悪くなっていきました。それ以上に恐怖だったのは、まともな売上もない状態で、想定を50万円も上回る出費を毎月強いられたことです。採用サイトの登録費用の月3万円が払えず、いつも「お金がない」と追い立てられていました。かといって、社員に手弁当を強いるわけにもいかず、毎月の給料は支払わないといけない。正直な話、開業を前にして倒産の危機に陥りました。
地獄のような1年が過ぎ、2015年4月、私たちは麹町の古い雑居ビルの一室に引越します。25坪で賃料35万円。有楽町時代の失敗があまりにも鮮烈だったので、コストを徹底的に抑えた質素なオフィスを作りました。会議室用のテーブルを6人で使い、椅子はアマゾンで購入した5000円の安物。引越しを機に、チームの雰囲気は逆に良くなりましたね。その後も、会社の方向性に共感した人たちが加わってくれたので、9ヶ月ほどでスペースが足りなくなり、ちょうど空きが出た下の階を増床しました。これで50坪、賃料70万円。地獄だったあの頃と同じ家賃水準に戻ったぞ、と感慨深いものがありました(笑)。
事業ステージの進展に伴い、ブランディングを意識したオフィスへ進化
現在の茅場町のオフィスに移転したのは、2017年7月です。事業ステージの進展に見合ったオフィスが必要だと感じたのが一番の理由です。麹町のオフィスにはエントランスがなく、雑居ビルのドアを開ければすぐ執務スペースで、事業が拡大するにつれ、商談を行わせていただく方々にオフィスにお越しいただく機会も増え、これではマズイだろうと思ったのです。
当時にしては多少の背伸びもありましたが、オフィスの3分の1をエントランスや接客スペースに充て、内装も施しました。お客様に好い印象を持ってもらうだけでなく、広く世の中に対するブランディングも意識しています。勢いのあるベンチャー企業らしく、若々しさと爽やかさの感じられる空間を目指しました。
一方、執務スペースには余計な予算はかけず、質実剛健を貫いています。私たち金融事業者は、お客様のお金をお預かりし、たった一つのミスでそのお金が吹っ飛ぶというリスクの高い事業を行っているわけです。そうした緊張感を忘れないためにも、金融事業者の執務空間は立派である必要はないというのが私の考えです。ですから、私たちは「立派なオフィスだから入社したい」という人を求めていません。それに、金融業で働く人はそもそも立派なオフィスを望んでいません。なにしろ、計算が得意な人たちばかりですから、「オフィスに予算をかけるくらいなら、給料を上げてほしい」という声を、若い時から業界でよく聞きました(笑)。そうは言っても、働きやすい環境をつくる責任が私にはあります。20~30人が集まって社内勉強会を開いたり、社内交流やランチ、休憩にも使えるフリースペースも設けています。
茅場町に移ってから、社員の通勤の便がかなり良くなりました。東京メトロの東西線と日比谷線が通っているので、首都圏の東西南北どの方向からもアクセスしやすいのは大きな利点です。採用数も一気に増え、そのうち執務スペースが足りなくなり、偶然空いた下の階を借り増しました。現在、約55人がこのオフィスで執務しています。
次にオフィス移転するとしたら、さらに売上が伸びた時でしょう。エンジニアの数も今の15人より大幅に増員しているはずですから、集中スペースやスタンディング・デスクなど、エンジニアの人たちが望む要素も取り入れながら、新しいオフィスをつくっていくことになると思います。すべてをワンフロアに集約できれば、フリースペースも今より有効活用できるかもしれません。金融事業者としての質実剛健を基本に、ベンチャーらしさのアピールと、社員の働きやすさをバランスしたオフィスを、これからも模索していきたいと思っています。