工学部の研究室のようなスタートアップ。志を同じくする技術者集団が世界を目指す。
金属インクを基板に印刷するという独自技術で、電子回路基板を製造するエレファンテック株式会社。従来に比べ低コストで、環境負荷も大幅に少ない革新的な製法で、日本発スタートアップとして世界を目指す。製造業でありながら都心に拠点を設けてきた同社。その変遷と、技術者を惹き付ける職場の秘訣について訊いた。
エレファンテック株式会社
執行役員COO
小長井 哲氏
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電子回路を印刷して生成する、破壊的イノベーション
エレファンテックは、「新しいものづくりの力で、持続可能な世界を作る」というミッションを掲げ、金属インクジェット印刷による電子回路基板の量産化に初めて成功したスタートアップです。社長の清水(信哉氏)と共同創業者の杉本(雅明氏)の2人が2014年に創業。従来の電子回路基板は、基材の上に銅箔などの材料を積層した後、不要な部分を削って回路を生成していたのに対し、当社は最初から必要な回路だけを印刷する製法を開発しました。既存製法に比べて製造工程が少なく低コストであり、原材料ロスやCO2を減らせて環境負荷を大幅に削減できる革新的な技術です。
清水は工学部出身の元エンジニア。東大修士課程修了後、マッキンゼー・アンド・カンパニーで経営コンサルタントとして働いていましたが、優れた日本の技術で世界に打って出られる日本発スタートアップを作りたいと、使命感に燃えていたようです。偶然、ボストンで学生時代の恩師である川原圭博教授と再会し、教授が研究していた、家庭用インクジェットプリンターと市販の銀ナノインクを使った電子回路印刷技術に興味を持ち、学生ベンチャー設立の経験のあった杉本と共同創業しました。
インクジェット印刷は日本のメーカーのお家芸です。にもかかわらず、既存メーカーではなく当社がこの技術を実現できたのは、水平分業が主流の中で、我々はプリンターから金属インク、インクジェットの制御システムまで内製化したことが大きいと考えています。垂直統合によって、最適解を最速で見出せるのが私たちの強みです。
環境負荷の少ない製法だから、都心での基板製造が可能に
最初の拠点は、東京大学に近い文京区本郷のマンションの一室(約70㎡)でした。実用化を目指して家庭用インクジェットプリンターを改造していったのですが、印刷した回路は産業用としては使い物にならず、試行錯誤が続きました。投資家への説明には、清水が家庭用プリンターを担いで行き、実際にデモを見せていたそうです。翌年、同じ本郷のマンション(約200㎡)に引っ越し。実験用水槽や検査装置が所狭しと置かれたこの場所で、現在の製法の基礎となる技術が生まれました。アルバイトに来ていた学生たちは席がなく、床に座ってプログラミングをしていましたが、革新技術を生み出すのだと、生き生きと楽しそうだったと聞いています。
2018年1月、量産に向けた小規模ライン実証を開始するため、現在の中央区八丁堀に移転しました。元は町の印刷所だった4階建の建物で、広さはそれまでの約4倍の800㎡。1階には自動処理のめっき槽、2階にはクリーンルームや検品装置を備え、3・4階が執務スペースです。実はここに決まるまでには紆余曲折がありました。最初は江戸川橋の元出版社だった建物が候補でしたが、新宿区がめっきの取り扱いに難色を示したため、結局、検査をクリアした中央区のこの場所に決めました。当社の製法プロセスはクリーンで、排出される化学物質も少なく、週に一度、回収業者が廃液を回収する程度で済みます。その点が評価され検査に通ったと聞いています。中央区では60年ぶりの化学工場の設立だったそうです。
量産するにあたり、2019年、名古屋に量産工場(2,600㎡)を設立しました。場所を探す中で、東日本大震災を経験した東北地方への進出も検討しましたが、ちょうど三井化学との業務提携が決まり、同社名古屋工場内の3階建の建屋を借りることができました。また将来的には、金属を印刷する装置や、それに係わる消耗品の販売もしていきたいと考えており、その研究のためにつくったのが、2022年に稼働したR&Dセンター(江東区新木場)です。2階建の建屋で1階には印刷装置が置かれ、2階が研究開発スペースになっています。
スタートアップはスピードが勝負、情報伝達しやすいオフィス環境に
今は八丁堀、新木場、名古屋の3拠点に、社員約160名がだいたい3分の1ずつ配置されています。どの拠点も、いわゆる“おしゃれな”オフィスではありませんが、技術者や研究者にとっては自由度が高く、楽しい職場ではないかと思っています。人類の課題解決のために貢献できる環境、しかも日本発でグローバルに打って出るなんて夢があるじゃないですか。採用に際しては、1日インターン研修で実際に仕事場の雰囲気を味わってもらい、当社の社風やカルチャーに共感する人たちが集まってきている印象です。私たちはカルチャーに基づく組織運営を目指していて、毎週1回は清水が企業文化について語るなどして、その浸透に努めています。
また、当社のようなスタートアップが大企業を相手に戦うには、スピードが大事です。オフィス環境としても、情報伝達スピードを上げられるよう、明るくオープンで、会話が生まれやすい雰囲気を意識しています。社員が交流しやすいようにフリースペースにフリードリンクを設置したり、現物を見ながらその場で問題解決できるマイクロミーティングを推奨したりしています。理想は、本社機能と製造、開発が同じ空間にあれば、情報伝達スピードはさらに上がりますから、将来的には全てを一貫してできるようになればと考えています。ゆくゆくは海外も、営業拠点ならアメリカ、製造拠点なら中国などは可能性がありそうです。
当社は、いまだに工学部の研究室のような会社です。新しい製品や実験結果が出るたびに、皆が現物を見て盛り上がる。黎明期の製造業はこんな感じだったのだろうなと思います。これからも企業文化に合ったオフィスづくりを心がけていきたいですね。
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