株式会社イデー
取締役
川渕 恵理子 氏
カフェや生花も手がけるライフスタイル企業の先駆け
イデーは、インハウスを含む内外の著名なデザイナーによる300アイテムを超えるオリジナル家具を中心に、国内外からセレクトした雑貨やデザイングッズ、書籍、フラワーなどを販売するライフスタイル企業です。「生活の探求」をテーマに、美意識をもって日々の生活を楽しむというライフスタイルを総合的にご提案しています。
単に商品をご提供するだけでなく、住空間やオフィス空間、店舗の内装やリフォームなど、日常生活の空間コーディネートを総合的にお手伝いできるのが当社の強みです。また、インテリアとしての花や植物を販売するフラワーショップや、イデーの家具や雑貨で空間を演出したカフェを手がけるなど、インテリアから派生した幅広いビジネスを展開しています。
当社は1975年に、西洋アンティークの輸入販売会社としてスタートをし、1982年、その一事業部としてイデーを立ち上げました。当時、創業者の黒崎(輝男氏)がヨーロッパを訪れた際に、日常生活を楽しむ海外の人々の暮らしぶりと、それが文化として根づいている様子を目の当たりにし、日本でもそういったライフスタイルを築き上げていきたいと設立したブランドがイデーなのです。当時のインテリア業界では、ライフスタイルを提唱する企業はまだ珍しかったため、私どものブランドは業界に相当のインパクトを与えたようです。
その後、ライフスタイルに着眼した大小さまざまのインテリア企業が登場し、ここ30年ほどで業界全体はかなりの成長を遂げています。家具の販売だけを考えると、市場は成熟し非常に競争が激しい業界ですが、ライフスタイルを提案するという視点からみれば、まだまだ可能性のある領域と言えるでしょう。
ブランドの世界観を表現する旗艦店を自由が丘に出店
去る3月20日、イデーの旗艦店となる自由が丘店をオープンしました。この店舗は、商品を販売する小売店であると同時に、イデーの世界観を表現するショールームとしての役割を担っています。
イデーの家具や雑貨でコーディネートされた空間をお客様に体験していただくことで、「こんな風にグリーンを取り入れてみよう」とか、「こういう色の組み合わせもあるのね」とか、その人自身の暮らし方に対するインスピレーションが刺激されることがまず大切なことだと考えています。
その結果として、ご自宅でイデーの家具をお使いいただいたり、我々の事業のもう一つの柱であるオフィスや店舗、ホテル、マンションなどの内装や空間デザインの仕事についても、今まで以上に獲得をしていくというのが狙いです。
実は2年前まで、その役割を果たしていた店舗が青山にありました。しかし、不動産再開発のために閉店することになり、それに代わる物件をずっと探していたのです。イデーの世界観を総合的に表現し、また、来店されたお客様におくつろぎいただけるようカフェを併設することを考えると、少なくとも200坪の広さは必要です。当初は青山界隈で探していましたが、あの辺では条件に合う物件を探すのは非常に難しい。そのため、対象エリアを少しずつ広げ、持ち込まれる案件をベースに、イデーの旗艦店を作るにふさわしいかどうか一つずつ検討していきました。
この間2006年の8月には、良品計画の傘下に入り経営基盤の強化を図り、そのうえで旗艦店の物件探しと並行して、新規に東京ミッドタウン、神宮前、新丸ビルと新たな店舗を出店していきました。ただ、すでに出店していた二子玉川・高島屋内の店舗も含め、これらは広くても120坪程度。家具や雑貨を販売するだけならば陳列スペースとしては充分なのですが、空間デザインやインテリアコーディネートのビジネスにつなげるためには、この面積では不足しています。世界観を総合的に表現できる店舗がどうしても必要との判断の中めぐり合えたのが、今回の自由が丘の物件だったのです。私たちにとっても、恐らくはお客様にとっても、待ち望んでいたものでした。
背後に良質な住宅地を配した街のポテンシャル
自由が丘は、良質な住宅地と緑に囲まれ、日々の生活を楽しむことを知る人々が集う成熟した街です。東京発のライフスタイルショップの草分けとして、イデーの世界観を表現するのに相応しいと感じ、同地への出店を決めました。また、従来からのお客様が城南エリアに多くお住まいであることや、東急東横線沿線にマンション開発が進んでいることから、ターゲットとする客層を呼び込める可能性が高いことなども、出店の一因と言えるでしょう。
こうした街のポテンシャルに加え、自由が丘の中でも人通りが多い立地に今回の物件を見つけることができたことも、大きな決め手となりました。黒川紀章建設都市設計事務所によって設計されたこの建物は、全面ガラス張りのデザインがクールでモダンな雰囲気を醸し出し、商業ビルとしては非常に魅力的な物件です。ただ、イデーの世界観を表現するにはクールすぎるのではないかという懸念も一方ではありました。また、ガラス張りで壁の面積が少ない建物では家具を配置するにも工夫が必要ですし、お客様が自宅の雰囲気をイメージしにくいというデメリットも考えられます。
しかし、私たちはこれをチャレンジと捉え、あえて取り組んでみることにしたのです。結果的には、壁紙やウッドパーテーションを活用することでインテリア空間を効果的に創出することができましたし、ガラス張りの空間は室内が明るく、新しい見せ方の発見もありました。
自由が丘店では、以前の青山での店舗を踏襲し、書籍やCDを販売するカルチャーコーナーや、写真やアートなどを展示するギャラリーを設置しています。社内での企画段階では、"ハレ"の街である青山とは違い、生活圏が身近な自由が丘では、こうしたコーナーにどこまで反応があるかを懸念する声もありました。しかし、自由が丘にこうしたスペースがほとんど存在しないことを考えると、イデーがこの街にご提供できるものとしてギャラリーをオープンさせることに意義があるのではとの判断のもと、設置を決めました。
実際に開店してみると、近所にお住まいの方が散歩がてらにギャラリーにお寄りくださるなど、予想以上にお客様に足を運んでいただける場所になりました。今後、このコーナーを実売にどう結びつけていくかは課題ではありますが、自由が丘に潜在するカルチャーへのニーズの高さが浮き彫りになったことは、確かな手応えとして感じています。
日常生活の延長でショッピングを楽しめる街
自由が丘店は住宅地に隣接した立地のため、小さなお子様連れの主婦の方や近所を散歩する年配の女性など、日常生活の延長でお店を訪れてくださるお客様が多いことが特徴です。併設のカフェやパティスリーを目当てに、週に何度も通ってくださるお客様もいらっしゃいます。
こうした客層の特徴は、商品の売れ行きにも表れています。ちょうど1年前にオープンした東京ミッドタウン内の店舗と比べると違いがよくわかるのですが、同店舗では、オープン当初から雑貨の売れ行きが好調だった代わりに、家具やインテリア関連の商品に動きがでるまでには少し時間がかかりました。一方、自由が丘店では、オープン当初から家具の売れ行きが好調だったばかりか、リフォームやインテリアコーディネートなど住まいに関するご相談も多かったのです。
これは恐らく、東京ミッドタウンに遊びにくるお客様の気分が"よそ行きモード"であるのに対し、自由が丘店を訪れるお客様は"日常生活の延長"として店舗を訪れていただいているからではないかと思うのです。このように自由が丘には、オンとオフを自由に行き来する環境があります。日常に近い雰囲気でショッピングを楽しめる街というのは、私たちのようなライフスタイルを提案する業態にとっては適した立地だと思います。
今後の当社の店舗展開としては、旗艦店である自由が丘店においてイデーの世界観を表現しながら、ここを中核に、集客が見込める人気エリアや商業ビルなどに、そのニーズを見越した衛星的な店舗を出店し、より多くのお客様にイデーを知っていただける環境を整えていきたいと考えています。
首都圏以外のエリアについては、過去に一度京都に出店したことがありますが、現在では都心に集中する戦略をとっているため、すでに退店をしています。今も大阪や神戸、福岡などの主要都市への出店の話が持ち上がることもありますが、単発で離れたエリアに出店するとオペレーションの負荷が高くなりますので、店舗運営や物流などのバックヤード体制の整備とセットで、具体的に検討していきたいと思っています。