IFRS(国際会計基準)に関するニュースが新聞、雑誌などで取り上げられることが増え、書店ではIFRS(国際会計基準)に関連した書籍が十数種類も平積みされているような光景が見られるようになってきました。
そういった状況の中、「内部統制」の時と同様にIFRS(国際会計基準)の導入は、「財務・経理部門」そして「IT部門」の問題であると、まだ先の話(日本では最短で2015年の強制適用)と考えている方が多いのが現実ではないでしょうか?
既に対応の検討を始められている会社においても、IFRS(国際会計基準)の特徴の一つが「原則主義」のため、何から始めたらよいか?そして、具体的に何をしたらよいか?と考えられている会社が多いのが現状と考えております。

企業においてCRE(企業不動産)、FM(ファシリティマネジメント)に携わる人々も「財務・経理」の問題としてとらえ、「財務・経理部門」から何か指示があれば動こうと考えている方も多いのではないかと思います。果たして、それで来るべき会計基準への対応として十分でしょうか?
まず、CRE(企業不動産)、FM(ファシリティマネジメント)に携わる人が知っておくべき会計基準について述べます。
右記の中でも、今回はオフィス賃料に焦点を当て、3番目の「リース」について取り上げます。
リースに関する会計基準の最新動向
昨年8月中旬「リース」に関する会計基準の公開草案が発表され、賃料を資産計上しなければいけなくなる、という案に驚かれた方も多いかと思います。その後の海外での動きについて説明させていただきます。
昨年12月中旬に公開草案に対するパブリックコメントが締め切られました。IASB(国際会計基準審議会)とFASB(米国財務会計基準審議会)は継続的に会議を続けており、パブリックコメントの結果も公表されました。
現在(2月18日時点)発表されている資料によりますと、IASB(国際会計基準審議会)とFASB(米国財務会計基準審議会)は「リースの定義」の検討と「リース」と「サービス契約」の違いについての検討に時間をかけている状況です。
会議での二つの契約の違いを検討する事例として挙げられたものの中に賃料は入っておりません。そういった意味で、「オフィス賃料の資産計上」はすでに既定の事実として受け止められている可能性があります。
「オフィス賃料の資産計上」が実行された場合の影響
では、「オフィス賃料の資産計上」が実行された場合、どのような影響がでるでしょうか? 会計基準が決定しますと、2013年に「新リース会計基準」が採用され、すべての「リース取引」を資産計上しなければならなくなります。日本においても同様の会計処理が行われるようになるかと思われます。
すでに、我が国においても、2008年4月以降「リース会計基準」が改正され、それまで「賃貸借処理」であったリース取引が「売買処理」となりました。財務諸表上に資産計上する「オンバランス処理」が求められ、「貸借対照表」に計上されるようになりました。
会計上、「リース資産」は、定額法を使用しリース契約期間に渡り減価償却を行い、管理上は自社資産として厳密なリース資産管理も求められております。「賃料」も資産計上すべき項目になった場合は、従来経費処理をしてきた賃料が財務諸表に計上されます。
「新リース会計基準」において、「セールス&リースバック」も「リースの一形態」として存続しますが、やはり「リース契約総額」は貸借対照表への計上が求められます。「賃料」も同じように「賃料総額」を「負債」に計上し、「使用権」を「資産」に計上し、契約期間にわたって減価償却することが求められます。

新会計基準の結果何が起きるでしょうか?先ず、「オフバランス化」が出来なくなります。資産をオフバランス化することによって、資産規模圧縮をするのみならず、資産価格の変動リスクから解放されるというメリットを享受していた企業は、このメリットの恩恵を受けられなくなります。
すべての「リース取引」が「オンバランス化」されることにより、資産計上されれば総資産が増加した結果、ROA(総資産利益率)や自己資本比率が低下する可能性があります。
ROA(総資産利益率)や自己資本比率が低下する事によって、投資家がその会社への投資を控え会社が資金調達の新たな道を検討する必要性に迫られることが考えられます。

「賃貸」から「所有」へ?
現在、景気の動向に機敏に対応するため「賃貸オフィス」を利用し、不動産、建物を持たないという方針でオフィス運用を行われている企業も賃料を資産計上するのであれば、賃貸オフィスではなく自社オフィスを所有しようと考えるのも一つの選択肢と考えられます。
賃貸オフィスを継続するとしても、総資産を増加させないため長期間のリースを短縮する、もしくは、定期借家契約の回避、または従来のリース契約を短縮するのも選択肢の一つとなりうると思います。オフィス所有形態がCRE(企業不動産)、FM(ファシリティマネジメント)の戦略を左右します。
また、少々厄介なものとして店舗の賃貸契約があげられます。基本賃料に売上の何%かを賃料として支払うという方式ですが、仮に店舗賃貸契約を3年としますと、借主側はリース期間における3年間の売上予測をたて、それに基づいた金額を賃料として資産計上することが求められます。
数字を正確に処理することが求められていた、言い換えれば正確に処理していれば問題がなかった「経理・財務部門」は「経済予測」、「売上予測」という新たな能力を求められるか、もしくは、そういった部門との連携がさらに必要になるのは明白です。
2011年第2クォーター(4月から6月)に注目
リース契約の終了時のオプションの扱いや、「サービス契約」との差異の明確化など検討中の部分はありますが、2011年6月に発表予定の「リース会計基準」はオフィス賃貸に関連する企業のみならず、CRE(企業不動産)、FM(ファシリティマネジメント)に携わる人間にとって、注意を払うべきなのは当然かと思います。
今回は「リース」について述べましたが、CRE(企業不動産)、FM(ファシリティマネジメント)に関わる会計基準は簡単に言うと7項目ありますし、今後IFRS(国際会計基準)の特徴である「公正価値会計」への対応が重要になってまいります。
さらに、IFRS(国際会計基準)の特徴として「連結会計」がありますので、企業グループとして「資産管理」のためのマネジメントシステムの確立が必要になります。
そのためにもCRE(企業不動産)、FM(ファシリティマネジメント)のみならず様々な専門家と連携し、早めの情報収集、対策の検討、人材育成を進め、固定資産の取得から廃棄にいたるまでのマネジメントシステムを確立し、企業グループの資産の保全に努め新しい会計の波を乗り切りましょう。
最新情報
2011年3月度IASB(国際会計基準委員会)とFASB(米国財務会計基準審議会)の会議において、すべてのリースに「使用権」を適用することという公開草案を支持する決定が下されました。貸主側の「使用権」については次回の会議において話し合いが行われる予定です。
著者プロフィール
木村 篤志(きむら あつし)氏
木村会計事務所 代表
1973年生まれ。1999年税理士登録。大手会計事務所を経て2005年に独立開業
※免責事項
本稿は当然のことながら、IFRS(国際会計基準)やリース会計基準等の全てについて説明したものではありません。
また、本稿で述べた内容は、2011年2月現在、関係機関にて協議途中の内容であり、確定された事項ではないことにご留意いただきますようお願い致します。
当社は本稿の説明についていかなる責任も負うものではありません。