日本のストリートファッションの先駆者が、原宿から東京ブランド、そして世界への進化を託した、二つの新ショップを展開。
ベイプ シンク、ベイプストア銀座
株式会社ノーウェア
1993年の創業以来、30年以上の長きにわたって、日本のストリートファッションをけん引してきた、「裏ハラ」系スタイルのパイオニアであるノーウェア。その代名詞ともいえる「A BATHING APE」は、時代のカルチャーや音楽、アートとコラボレーションしながら原宿を飛び出し、東京、ひいては世界を見据えるハイブランドに成長しようとしている。CEOであるシモーネ・ウゴリーニ氏に、今後の目指す姿と出店戦略を訊いた。
日本のストリートファッションをリードし続ける「裏ハラ系ブランド」
ストリート系ファッションとは、繁華街などに集まる若者によって、自然発生的に誕生したファッションのこと。1960年代に大流行した、定番と呼ばれるアイテムによる制約が多かったIVYルックに対して、 個性を出しながらも、ラフでリラックス感のあるファッションを指す。特に1990年頃からファッション界に強い影響力を示してきたと言われるが、時代に合わせてそのトレンドは常に変化しているため、明確な定義があるわけではない。
そうした中、1993年の創業以来、いわゆる裏原宿(裏ハラ)系と呼ばれるムーブメントをけん引してきたのが株式会社ノーウェアだ。社名のNOWHEREは「NO WHERE (どこにもない)ものがNOW HERE(ここにはある)」という意味。当初はセレクトショップとして開業したが、周辺に競合店が増えたことから業態をファッションブランドに転向。「A BATHING APE(ア ベイシングエイプ:通称ベイプ)を立ち上げた。ブランド名は「ぬるま湯に浸かった猿」の意味で、エイプヘッドと名付けられた猿の顔がトレードマークになっている。1993年4月にTシャツのプリントデザインを中心に販売を始めると、瞬く間に人気を呼び、裏ハラ系ストリートファッションをリードすることになった。
現在はメンズ、レディース、キッズとラインを拡充させ、国内では東京を中心に大都市圏に、海外ではアメリカ、イギリス、フランス、香港、中国およびアジア諸国にベイプストアを展開し、世界中の幅広い層からの高い支持を得て、2024年には過去最高の売上高を達成している。
ブランドポジションを確立・強固する “4P”から“4C”へのシフトチェンジ
その同社が2024年、新たなステージへと踏み出した。その仕掛人となったのが同年2月にCEOに就任したシモーネ・ウゴリーニ氏だ。ヴァレンティノやアルマーニ、ケンゾー、アミ・パリといった名だたるハイエンドブランドを成長させ、20年以上にわたり日本のマーケットでラグジュアリー業界とプライベートエクイティ、ベンチャーキャピタルの両分野に精通した、豊富な経験を持つ人物だ。「就任した時、ブランドのDNAやコード、歴史を勉強し、その製品や店舗が素晴らしいことは理解できました。一方で、日本の消費者が求めている価値を掘り起こすコミュニケーションとマーケティングが不足していると感じました。そこで、日本のコンペティティブなマーケットにおけるベイプのポジションを明確にし、より高める必要性を理解したのです」(シモーネ氏)。
そこで、店頭やSNS、各種媒体を通じた顧客との対話を求めて、様々なイベントを企画したのである。もともとベイプはカルチャーやミュージック、アートとの親和性が高く、以前から名だたるミュージシャンや著名アーティストと、さらにはインターナショナルなブランドや飲料メーカーとのコラボレーションを数多く成功させてきた経緯がある。それにLINEのアカウントを活用した情報発信や、 ECの強化など、より細やかなアプローチも取り入れることで、顧客との接点を模索してきた。一方、11月には渋谷のミヤシタパークのアートギャラリー「SAI」で、国内外のアーティストやブランド25組とのコラボによる。アート展「ベイプギャラリー トーキョー」を開催するなど、大掛かりなイベントにも取り組んできた。「従来のブランドマーケティングはプロダクト、プレイス、プロモーション、プライスの『4P』が重視されてきました。ですが2024年からは、私 がこれを、コンシューマー、コミュニティ、カンバセーション、コンシダレーション(思いやり)の『4C』に切り替えました。よりお客様とのつながりを意識するためです」(シモーネ氏)。
もちろん新店舗の展開も、売上アップとともにブランド力の強化に欠かせない。同社では2022年には新店舗の出店がなく、 2023年も1店舗のみ。だが、2024年には3月に10~20代の若者をターゲットにした「エーエイプ」京都店を、4月には「ベイプキッズ」の阪急梅田本店と、京都髙島屋S.C.店を次々にオープンさせた。そして8月と12月には、従来とは異なる特筆すべき店舗を東京で展開したのである。
原宿ブランドから東京ブランドへ、ポジションアップに向けた新規出店
8月にオープンしたのは、同ブランドとしては世界初となるコンセプトストアである「ベイプ シンク」。場所はJR原宿駅から明治通りに向かい左折したところ。建物は3階建で、大きな窓のある、鉄とガラスでできたモダンな外観だ。3階部分には、季節のプロモーションによってディスプレイが変わる印象的なエイプヘッドのLEDスクリーンがあり、通行人の目を引く。広さはワンフロア約11坪の計35坪(約110㎡)。店内には、伝統的なスタイルにストリートの遊び心を取り入れたコンテンポラリーな「ミスターベイシングエイプ」ラインを中心に、コラボレーション商品やスニーカーライン「ベイプスタ」などが並ぶ。
実はベイプは、原宿・青山界隈にベイプストアやキッズ、エーエイプなど、すでに4店舗を展開していたが、紹介された同物件にシモーネ氏が惚れこみ、この神宮前の店舗は世界初のコンセプトストアという位置づけに方針が決まった。そのためスーツやネクタイなど、大人向けのフォーマルなラインナップである「ミスターベイシングエイプ」が主な取扱商品になっているのだ。
3月末に契約してからオープンまで、デザイン構想に4ヶ月を要しただけあって、インテリアは自社でデザインし、木材やシルバースチールを使った控えめな家具、レトロ調のカーペット、ウォールナット材の天井など、温かみのある居心地の良い空間となっている。最上階はアットホームな雰囲気のV.I.P.ラウンジとし、顧客がショッピングを楽しみながらくつろげるようになっている。
さらに12月には銀座2丁目に「ベイプストア銀座」がオープンした。「ベイプストア銀座は、ベイプの新しいストアコンセプトを採用した世界初の店舗です。銀座の路面店は、ベイプが原宿ブランドから東京ブランドへ、そしてインターナショナルにおいてもハイエンドブランドに成長するうえで欠かせない。特に世界的に有名なラグジュアリーショップが立ち並ぶ中央通り沿いであることが重要だったのです」。シモーネ氏がそう語る通り、銀座における物件探しは、就任直後の3月から始まっている。
エイプヘッドをあしらったウッドウォールが特徴的で、間口が狭いにもかかわらず視認性はバツグンだ。店舗は1階が12坪、2階25坪の2フロア計37坪。3階はバックヤードとして利用される。インバウンドが多い銀座では、在庫をすぐに確認・提供できることは売上アップに直結する。
店内に入るとすぐ右手にらせん階段があり、1階から2階へはここから移動する。取り扱うのは黒を基調としたハイエンドのコレクションである「ベイプブラック」が中心で、個性的な店内は、これまでの店舗のような明快でわかりやすい商品陳列とは一線を画し、高さや幅の異なる棚を使って、より豊かな陳列を試みている。また、中央のヴィンテージ・ディスプレイテーブルは、顧客に宝探しのような体験を提供している。「このような新しいショッピング体験を通して、お客様をもっともっとベイプのコミュニティに引き込むことを目指しています」と、シモーネ氏は説明する。
多様なラインナップを駆使して、バランスの取れた店舗展開を実現
こうした様々な取り組みが功を奏し、同社は昨年対比20%以上の成長を実現した。だが、シモーネ氏は、店舗展開にさらなる可能性を感じている。「ベイプには多様なラインナップがあります。そしてそれぞれがイノベートしなければならないし、それは実現可能です。そしてそれをより多くの方々に楽しんでいただくために、それぞれの物件でオーナーとベストな条件を話し合いながら関係を構築していくつもりです」(シモーネ氏)。
候補として挙げたのは東京だけでなく、大阪やその他、日本の主要都市の主要場所も出店ターゲットにしているという。「ベイプショップだけでなく、キッズやエーエイプなど、バランスよく展開していきたい。2025年は最大で4店舗を考えています」と語るシモーネ氏。
1993年の創業以来、ファッションだけでなく様々なカルチャーやアート、ミュージックとコラボしながら、常に業界の最先端をパイオニアとして走り続けてきたベイプ。5年後、 10年後にどこまで発展しているか、その成長が楽しみでならない。
企業名 | 株式会社ノーウェア |
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施設名 | ベイプ シンク |
所在地 | 東京都渋谷区神宮前3-25-13 |
オープン | 2024年8月8日 |
施設名 | ベイプストア銀座 |
所在地 | 東京都中央区銀座2-6-5 |
オープン | 2024年12月5日 |
CBRE業務 | 施設賃貸借仲介業務 |