「オフィスリニューアルの完成がゴールではない」。
働き方改革をオフィスづくりから波及させるNECの本社大改革。
日本電気株式会社
人事総務部 不動産管理部 シニアエキスパート
坂本 俊一氏
日本電気株式会社
人事総務部 不動産管理部 エキスパート
中野 智行氏
新たな経営方針のもとで始まったオフィスリニューアルプロジェクト
現在、私たちNECグループは、情報通信技術を用いて社会に不可欠なインフラシステム・サービスを高度化する、「社会ソリューション事業」に注力をしています。お客様やパートナー、市民、行政や国際機関などとの「共創」により、新たなビジネスモデルの創出に積極的に取り組み、ICTの力を最大限に活用した社会価値の創造を目指しています。生体認証やAI、5Gなど、デジタルによる解決策は構想するだけでなく、世の中へ実装し、全ての人に価値を体感してもらうことが重要です。社会の隅々までデジタルシフトが浸透し、世の中が確実に変化していくなかで、NEC自身も変化に対応していく力を身につけ、変わっていく必要があります。現場の一人ひとりが自ら深く考えて行動をする。そのためにNECのカルチャーを変革し、変化に対応していく力を身につけ、スピードをもって動いていくことが求められています。
このようななか、1990年竣工、30年にわたり弊社の象徴となってきた当社の本社ビル「NECスーパータワー」で進めている執務階25フロアに及ぶオフィスリニューアルも、カルチャー変革に向けた戦略の一つです。NECのカルチャー、従業員一人ひとりの意識を変えていくならば、職場環境の在り方も非常に重要なファクターであるとして“オフィス改革”を始めたわけです。
本社に勤務する従業員約6,000名に対し、このプロジェクトに携わる主たるスタッフはおよそ30名。全体を管理、推進する我々の他、デザインや施工、IT、ユーザーサポートなど様々なスタッフが一丸となって取り組んでいます。古くなったオフィスを順に新しくするというだけでなく、オフィスづくりを通して社員の意識や行動を変えていくことを目標に取り組んでいます。
そのために、まずは経営方針に対して、オフィス改革を通じて我々が果たすべき役割を考え、遂行に向けた明確なコンセプトを打ち立て、「そもそもなぜ経営はオフィスを新しくしようとしているのか?」という素朴な問いに対して、様々な観点から整理を始めました。そして、各フロア検討の都度、社員と取り組みの意義を共有していくとともに、どのように考え、挑戦、運用していくかをともに考えていくことが、このプロジェクトを遂行するうえで大きなポイントになっています。
オフィス刷新の意義と目的を伝え、挑戦意欲を高めたワークショップ
具体的には5回程度のワークショップを通じて、取り組みの意義や目的、目指すべきビジョンの共有を行い、何にどれだけ挑戦をするか、といった問いかけをします。そして、各ビジネスの「働き方」の棚卸しを行い、それからレイアウトプランへの落とし込みを行いました。
私たちは「オフィスの秘める力」を信じていますが、日頃フロアで業務に勤しむ社員にとっては、単に綺麗になれば良い、なかにはそもそもオフィスにあまり関心のない社員も大勢います。しかし、どんなオフィスならビジネスにとって有効なのか、自身の持てる力を発揮できるのかを知っているのは、日頃そこを舞台に活躍をしている社員たち自身です。そのため、ワークショップを通じて「これから」の議論を重ね、「どうありたいか」を顕在化させ、これをきっかけに変えていこう、という流れを作り出すことが大事でした。
とはいえ、最初は戸惑いや疑問、想定される手間などから歓迎ムードで始まることはまずありません。しかしながら丁寧に質問に答え、過去事例を提示しながら説明を積み重ね、ある程度腹落ちをしていただけるとワークショップは自然と議論が活発化するようになり、時には我々がブレーキを掛けるほど変化に向けた挑戦をするマインドが醸成されていきました。ワークショップに参加している社員は、性別や世代バランスをもとに選出された各フロアの代表者ですが、そのバックにはそれぞれのフロアで働く2,300名の社員たちがいます。彼らの真意を的確に汲み取るため、私たちもことあるごとにフロアに出向き、働く姿を観察し、従業員たちにヒアリングを行ったりしました。
正直、非常に手間の掛かるプロセスではありますが、この手間を惜しんでいたら社員一人ひとりにまでオフィス改革の目的が伝わらず、大きな変化を前向きに受け入れてもらうことはできなかったかもしれません。多くの社員を巻き込み、事業に寄り添うコミュニケーションに時間とエネルギーを注いだことは、今回のオフィス改革を意義あるものにしていくために必要だったと考えています。
更新され続ける計画書をもとに緻密な大移動を展開
いくつかのビルでの先行実施を踏まえ、本社での実質的なフロア移動やオフィスリニューアルが本格化したのは2019年春からでした。まずは2019年度中に10フロア、2020年4月からの1年間で10フロアと残る5フロアの着手まで手がける予定でしたが、様々な事情により現在の進捗具合は全行程の1/3ほど。ワンフロアが大体1,600㎡ほどあるうえに、各ビジネスの状況も刻々と変化していくので、時々の対応を柔軟に行いつつ、フロアのリスタッキングも調整していくため、順に玉突きするだけのフロア移動とは比較にならない時間と工数がかかっています。
常に一時退避のフロアを確保して、必要に応じて社員の皆さんに仮移転をしてもらい、工事を始めるといった作業を複数のフロアで同時進行し、中には最終的な移転先まで何度も移動してもらうケースもあります。できるだけビジネスへの負担を減らし、工程を遅らせず、時々の要望に対応し……というなかで、あの手この手でプランを練り直し、計画書は現在までに40バージョンを超える状況になっています。
より良いリレーションシップを構築するため、事業成長に寄与するため、プロジェクトが終わる頃には各組織がうまくまとまるように計画を立てています。時には新たな要素を盛り込むため、ビジネスから希望のあったオフィス機能を各フロアに均等配分するのではなく、あえて2フロアに振り分けて大きく機能させる、といった仕掛けを設けて、動線から従業員の行動や発想を変えるといったことも提案しています。ただし、こちらの「変えたい」想いが走りすぎて、働きにくいフロアやスペースになってしまっては本末転倒です。ですので、社員がオフィスに本当に求めているものを掘り下げ、真摯に対応することを大切にしました。そうすると、結果として理想を100%叶えることは無理だとしても、社員の皆さんも取り組みの意義に理解を示し、協力してくれます。ビジネスに軸足を置きながら現場と一体となってプロジェクトを遂行し、挑戦していくことも意識改革につながっていると感じています。
プロジェクトを象徴するコワーキングスペース「BASE」
私たちが目指しているのは、自ずと社員たちに意識改革をもたらし、やる気と生産性を引き出すオフィスです。何かを検討する際には「これまで」ではなく、常に「これから」を意識してきました。その意味において、今回の取り組みの一つの象徴となっているのが、NECの今と未来を育む活動基点をコンセプトに掲げ、昨年から運用を始めたコワーキングスペース「BASE」です。
この「BASE」は本社3階に設けていますが、平日の午前7時から午後10時までの間、NECグループの社員であれば誰でも利用でき、時間と場所にとらわれない柔軟な働き方を可能にするスペースです。くつろいだ雰囲気のなかで仕事や打ち合わせができるラウンジスペースをはじめ、ディスプレイやホワイトボードを常設し、セミナーや会議に利用できるホールスペース、さらにはワークショップの開催にも対応するスタジオスペースを設けています。座席は約210席を確保し、カフェや図書スペースのほか、個室の会議室や集中して仕事に取り組める個人用ブースも用意しました。
決められたオフィスフロアで仕事をするだけでなく、いつ・どこで・どのように仕事をすれば自身やチームのパフォーマンスが最大化できるのか、それぞれが考えるきっかけになればと思い、この空間を計画しています。日常の業務のなかで「BASE」を活用することにより、社員たちは心身のリフレッシュはもちろん、新たな気づきや着想、アイデアを膨らませたり、生産性を高めることができます。時にはビジネスユニットやグループ企業間の垣根を越えた、偶発的な出会いも生まれるでしょう。また、社員の健康増進に向け、今後はHealth Techをはじめとする先進ICTを用いた検証やイベント、社員の定期健康診断なども、この「BASE」を舞台に始めていきたいと考えています。
ひと昔前まで「オフィス」と言えば、自席と会議室、だったかもしれませんが、今日ではシェアオフィスや自宅、カフェなど社外で仕事をすることも当たり前になってきています。また、社内でもBASEや各フロアに様々な環境を設けていくことで、「オフィス」の定義を大きく広げていき、「社員一人ひとりのパフォーマンスを出せる環境を選んでいく」に応えられるように整備を進めています。
終わることのない変革のさらなる波及を目指して
当社の様々なカルチャー変革の取り組みが始まって一定の時間が経過していますが、社員から集まった意見のなかには「まだまだ」や「これから」といったキーワードが垣間見られます。それらは決してネガティブな意味合いではなく、働き方やカルチャーを変えるといった目標を社員が共有し、変化に対して前向きになっていること、望んでいること、変化の兆しを認識していることの表れではないかと感じています。
私たちプロジェクトチームは、新しいオフィスの完成がゴールだとは考えていません。オフィスを構築していくことはあくまで手段であり、カルチャー変革、事業成長に寄与することが私たちのミッションです。そのために構築後も継続的にフォローし、事業の変化に合わせて職場環境も変化させていく。そのプロセスの中で本当の意味で価値が問われるのだと思っています。道のりは決して平たんではありませんが、NECの目指す社会価値の創造に向けて、これからも頑張っていきたいと考えています。