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騒音&振動厳禁、納期厳守!
細心の注意と 密なコミュニケーションが鍵となる稼働中ホテルの大改修プロジェクト

宴会場

これまで当企画は「移転プロジェクトケーススタディ」と題し、主に企業のオフィス移転を取り上げてきたが、事業拠点は何もオフィスに限った話ではない。CBREでは、店舗、物流施設、そしてホテルと、様々な拠点構築プロジェクトにおいて、その専門性の高さをいかんなく発揮し、クライアントの手助けを行っている。今回のケーススタディはそんな例の一つ、「ヒルトン大阪」が実施した大規模改修プロジェクトを取材した。

日本進出50周年の節目を機に、大規模改修で新たな集客戦略を打ち出す

外観

「ヒルトンホテル」の歴史は、1919年に創業者であるコンラッド・ヒルトンが、米国テキサス州の小さな町にあった、客室40室のホテルを購入したことに始まる。1925年にはその名を冠した初めてのホテル、ダラス・ヒルトンがオープン。以来、約90年間で世界90ヶ国に12のファミリー・ブランドによる4,000の施設を持つ、世界的にも有名な一大ホテルチェーンへと成長している。これらのホテルを束ねるのがヒルトン・ワールドワイドである。そのヒルトンが、国内初の外資系ホテルとして日本に進出したのは、今から50年余り前の1964年。永田町に建設された「東京ヒルトンホテル」から、西新宿に今も所在する「東京ヒルトン インターナショナル」(後に「ヒルトン東京」に改称)、その後、大阪、名古屋、福岡などの大都市、および小田原やニセコなどのリゾートや観光地にも進出し、2014年7月に開業した「ヒルトン沖縄北谷」を含め、現在11のホテルを運営するに至っている。日本進出から半世紀を経て、外資系高級ホテルとして抜群の知名度と老舗のポジションを獲得している。

このヒルトン・ワールドワイドが、国内の直系ホテルである「東京(東京・新宿)」「大阪(大阪市)」「名古屋(名古屋市)」「小田原(神奈川県小田原市)」「東京ベイ(千葉県浦安市)」の5つの既存ホテルについて、2013年から3年間をかけて、大改装に乗り出すことを発表した。予算総額は実に200億円超に上るという。

「これらのホテルはどれも、建設からすでに25~30年が経過していましたが、その間、大きな改装は一度も行われていませんでした。ヒルトンは海外はもちろん、日本においても初の外資系ホテルとして、そのブランドを維持していく必要がありますから、今回の大改装は、競合ホテルに対して50周年を機に新たなアドバンテージを保つことが狙いです」。そう語るのは、アジア・パシフィックエリアにおいて、こうした改修プロジェクトの責任者となっているマイケル・ウィニック氏である。

多くのステークホルダーの調整に不可欠なプロジェクトマネジメント

宴会場

日本において最初に改修工事がスタートしたのは、国内におけるフラッグシップといえる「ヒルトン東京」。2013年はじめから客室の改装に着手し、2014年11月には飲食店フロアの大刷新が終了。双方の設備投資総額は約70億円以上に達するという。そして現在、急ピッチで工事が進められているのが、1986年に関西地区初の外資系ホテルとして開業し、今年で28年目を迎える「ヒルトン大阪」である。地上34階建ての吉本ビルディングに入居する同ホテルは、大阪駅前のシンボルとして高い知名度を誇っている。

「ヒルトン大阪」の改修プロジェクトで最初に着手されたのは、4・5階にある宴会場と結婚式の相談・打ち合わせ用スペース、およびオフィススペースである。

「特に大阪に限ったことではないのですが、宴会場などのパブリックスペースは、ホテルの評価に大きく影響を与えるポイントです。老朽化が見られましたし、競合ホテルへの優位性を保つためには、まず最初に手を打つ必要があったと言えます」(同氏)。ホテル業界における婚礼の売上比率は思いのほか高く、場合によっては売上全体の4割に上ることもあるという。「ヒルトン大阪」でも多くの披露宴が行われており、その競争優位性を維持するためにも、さらなるバリューアップが急務であったと言える。

従来のヒルトンでは、こうした改修工事は各ホテルの総支配人を責任者として実施していた。だが、今回のプロジェクトから、アジア全体の統括責任者を置くようにプロセスが変更された。その責任者であるウィニック氏がヒルトン・ワールドワイドに入社したのが2013年3月。その時点ですでに、工事着工は同年7月15日と決まっていた。ホテルの改修は営業を止めて行うことができないため、事前に年間の運用状況に合わせて予定が組まれていたのだ。そのため、着工予定が先行していたのだが、それにもかかわらず、3月時点で未定の部分も多かったという。

宴会場

課題の一つは予算管理とスケジュールの調整だった。改修工事に関しては、米国本社はもちろん、社内不動産部門、シンガポールにある設計監修部門、そして日本のホテルマネジメント部門など、何と言ってもステークホルダーが多い。そのため各部門の調整のためにコミュニケーションを密にして、全体のコンセンサスをとる必要があった。また、改装デザインについては、ホテルのデザインを数多く手がける香港在住の有名なデザイナーに依頼されていたのだが、日本での経験が全くなかったため、調達できる資材や法規制等、マーケットに対する知識が万全とは言えなかった。そのためのガイダンスにも時間を取られ、加えてこの短い期間に、まとまったプランをビルオーナーと折衝して、改修工事の承認を得なければならない。こうした状況を踏まえて、ウィニック氏から、ホテル改修に多くの経験とノウハウを有するCBREにプロジェクトマネジメントが依頼された。

ホテル改修最大の課題となる営業中の工事の音と振動

大宴会場

改修工事に音や振動がつきものであることは、容易に想像がつく。特に、コンクリート壁や設備面にも手を加える必要がある大規模改装ともなれば当然だろう。ただし、このプロジェクトは営業中のホテルで行われる工事であり、「音が出るのは当たり前です」では済まされない。お客様に「うるさい」「寝られない」と迷惑をかけるようなことはあってはならないのである。工事箇所階下となったレストランや客室への影響をいかに抑えるか。これが改修工事を進める上で最大の難関となった。また、おりしも近年、ホテルの稼働率が非常に高まってきており、この問題に拍車をかけることとなる。

クレームを極力抑えるために、床のはつりなど、騒音と振動が出やすい工事が、どの程度遠くの客室にまで影響が出るかを確認するために事前にテストを行い、その度合いをもとに客室や宴会場の予約状況と工事箇所・工程が調整された。ただし、そうはいっても稼働中のホテルは“生き物”のようなもの。工事箇所近くの客室にはお客様を入れない、お客様の入っている部屋の近くでは工事をしないと、毎日、工事とホテル運用の双方から調整、予約表とスケジュール表とのにらめっこが続いたという。夜間はもちろん、都市型のホテルでは昼間の睡眠のために客室を活用されるお客様も多く、この調整がいかに大変なものであったのかは想像に難くない。さらにこうした状況下でも、引渡期日である9月4日は絶対に守らなければならない理由があった。工事終了直後の週末には早速数組の婚礼が予定されており、会場の都合で直前キャンセルなど、お客様の人生に関わる事態だ。もちろん、どんなプロジェクトでも納期厳守は当然のことだが、そのプレッシャーたるやすさまじいものであったであろう。

こうして完成した大宴会場は、木目や和紙のイメージを活かしたデザインに、8つの大スクリーンを備えた、コンベンションホールとしても使用できる空間となっている。

ローカルのテイストを加味したデザイン性と使い勝手を高めた客室

客室

宴会場の改修工事着工後に、同時進行で進められたのが全527室ある客室のデザイン。ヒルトンでは、ブランドのスタンダードに、ローカルのテイストを加味したデザインを施している。そのため、同じヒルトンであっても各ホテルごとに内装が異なっている。今回、「ヒルトン大阪」で採用したのは、“和”を意識した木目と日本的な色彩を施したデザイン。同ホテルの利用客が、平日はビジネスマン、週末はファミリー層と分かれるため、その両方に対応する、落ち着いた空間を演出する試みがなされた。

当初の予定では2013年9月時点で図面が完成し、遅くとも着工の2ヶ月前には最終仕様が決定しているはずであった。これだけの期間が必要なのは、客室はお客様がもっとも長い時間滞在し、くつろぐための場所であるからだ。客室の仕様を決める際には、まず“モックアップルーム”と呼ばれるモデルルームを作り、部屋全体の色合いや調度品のサイズ、およびそのレイアウトを、デザイン性だけでなく、使いやすさや耐久性を含めて、細部までチェックされる。そして、あまり知られていないが、ホテルで使用される調度品は、既製品ではなく、ほとんどが特注だ。

客室

しかもヒルトンの場合は海外の商品が多い。そのためサンプルを吟味して、最終決定し、製品が届くまでには非常に時間がかかる。時間は短いながらも妥協を許すことなくこれらの過程を無事にクリアし、現在は着々と工事が進められている。今年中には客室のリニューアルも無事完了する予定だ。そして2015年はじめからのロビー、ミーティングルームの改修工事で、「ヒルトン大阪」の大規模改装は一応の終了を見る予定となっている。

 

大規模改装によるイメージ戦略で競争力を強化し集客力を大幅に向上

宴会場

「私は、世界各国でホテル改修を手がけていますが、日本の工事の精度は世界一だと認識しています。施工者と正確にコミュニケーションがとれれば、後は安心して進行を管理できますし、品質についてもほとんど問題になることはありません。ただし、コスト面については不透明な部分があり、この点の管理が難しいのは事実です。今回、プロジェクトが成功裏に進んでいるのは、コストの情報や改修ノウハウを持つCBREがプロジェクトマネージャーとして参画してくれたからでしょう」と、ウィニック氏は振り返る。オリンピックの観光客を目当てにするような短期的戦略ではなく、長期的なビジョンを持ち実施した今回の改装だけに、2015年の完了時には、関西エリアにおける「ヒルトン大阪」のホテルとしてのポジションは、さらに上昇することは間違いない。すでに完了した宴会場の評判も上々で、ホテルにとっては大きなプラスになっている。

大阪のみならず、27億円を投じて客室やレストランを大幅にリニューアルする「ヒルトン小田原リゾート&スパ」や、450室の客室とラウンジを改装する「ヒルトン名古屋」、さらには「ヒルトン東京ベイ」なども、すでに改修工事がスタートしている。

「ホテルは生き物だから完成はない。常にひそかに改善しているもの」というウィニック氏の言葉通り、これからも競争力を強化するための進化は続いていくのだろう。10年後、20年後のヒルトンがどのような姿になり、国内ホテルの格付けでどのようなポジションを獲得しているか、今から楽しみなところだ。

プロジェクト詳細
企業名 ヒルトン大阪
所在地 大阪府大阪市北区梅田1-8-8
移転時期 2013年~2015年
CBRE業務 改修工事プロジェクトマネジメント

 

上記の記事の内容は オフィスジャパン誌 2014年冬季号 掲載記事 掲載当時のものです。

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