株式会社岡村製作所
オフィス研究所
山田 雄介 氏
今話題の“消費エネルギーの見える化”だが、システムを導入しただけでは意味がない。結果を分析し行動に移すという運用面での取り組みがあって、初めて効 果が期待できる。本稿は、㈱岡村製作所で実際に行われた省電力への取り組みとその検証データをもとに、オフィスにおける省エネの最前線を紹介する。
第1章 企業を取り巻く電力問題と「見える化」システム
改正省エネ法と震災により、省エネルギーの必要性がクローズアップ
企業を取り巻くエネルギー環境は、年々厳しさを増している。2010年の改正省エネ法施行は、オフィスにおける省エネの必要性を大きくクローズアップした。これまでの工場・事業所単位から、企業単位のエネルギー管理に規制体系が変更され、オフィスビルにおいては、オーナーだけでなく入居テナントについても、エネルギー管理が求められるようになったのである。
そして2011年3月、東日本大震災に起因する計画停電の実施が、企業活動に大きな影響を及ぼしたことは記憶に新しい。その夏、危機的状況にあった電力不足を乗り越えられたのは、これまで省エネを意識していなかった企業が、積極的に節電に取り組んだからと言えるだろう。天井の蛍光灯を間引き、LED照明に切り替える。さらにはサマータイムの導入や空調の室温設定を上げるなど、これまでにない取り組みを行ってきた。
一方、電力供給が不安定な状況は未だ続いており、これを背景に各電力会社は値上げを検討。12年9月に東京電力が値上げを実施し、他の電力会社もこれに追随する動きを見せている。さらに政府は、「グリーン政策大綱」として、2030年までに1,100億kWhの節電を目指すことを本年度末を目処に発表する構えだという。
つまり企業は、環境保護の観点はもちろん、社会要請、経営存続の視点からも、将来にわたる継続的かつ効率的な省エネルギー活動が求められているのである。
そのような状況下、オフィスビルでは省電力対策として、電力会社と利用者を通信で結び、消費電力量のデータをやりとりする「スマートメーター」や、ビルの機器や設備の運転管理によってエネルギー消費量の削減を図る「BEMS(Building and Energy Management System)」など、消費電力の「見える化」を実現するシステムに注目が集まっている。
それでは、オフィスに入居するテナント企業にとっては、消費電力の「見える化」を導入することで、どのようなメリットが期待できるだろうか。また「見える化」システムはどのように運用すれば、より高い効果が得られるのだろうか。㈱岡村製作所 オフィス研究所 山田雄介氏にお話を伺った。
闇雲な省エネ行動は業務の効率化を阻害 ~「見える化」は削減目標を明確にするペースメーカー
「消費電力の“見える化”は、我慢する節電を快適な省エネに変えるためのペースメーカーです」(山田氏)
2011年の夏は、いきなり節電と言われても、そもそも自分たちのオフィスがどれくらいエネルギーを使っているか、また具体的に何をしていいか分からないという企業がほとんどだったろう。目標数値ばかりが先行し、できることは全てやるという闇雲な省エネ活動の結果、30~40%もの消費電力削減には成功したものの、いわゆる“過節電”によって、ワーカーの心理的不安、モチベーション低下、体調不良を招くケースがあったのも事実である。
消費電力の「見える化」は、このような状況から脱却するための手法の一つ。いつ、どこに、どれだけの電力を使っているかという現状を把握し、課題を見つけ出し、状況を確認することで、省エネ行動の効率化を実現。“我慢の節電”から、継続できる“快適な省エネ”への進化を可能とするという。
では、「見える化」とは、具体的にはどのようなものなのだろうか。
消費電力の計測によるデータベースの構築 ~省電力PDCAをサポートする“OfficeNavi EcoViz(オフィスナビ エコビズ)”
「見える化」ツールには様々なタイプがあるが、ここでは岡村製作所が開発した「OfficeNavi EcoViz(オフィスナビ エコビズ)」(以降「EcoViz」)を例に説明する。分電盤にセットした計測器からサーバーにデータを蓄積し、モニターにリアルタイムで消費電力を表示するシステムである。メイン画面に表示されるのは「空調」、「照明」、「コンセント」、そして合計の「電力全体」の4項目で、インジケーターや棒グラフ、折線グラフで可視化する。また、それぞれの項目に関して、より詳細な数値も表示できる。このシステムでは、オプションで水道、ガス、太陽光発電の発電量の計測なども可能であり、オフィス以外では店舗や研究施設などへも展開している。
現況把握の次のステップとして、各項目別の現況消費量・日積算量・月積算量等の目標値の設定や、的確な対策を立てるため、時間別・日別・月別・年別の変化、また計測ポイント別(オフィス内の各エリア別)の推移や分布・比較といった蓄積したデータのグラフ化なども可能となっている。
「このデータをベースとして、様々な分析、対策立案、その効果確認というサイクルを作ることができ、効率的な省エネ活動を生み出します」(山田氏)
第2章 見える化と結果分析で 明確になるオフィスの特性
拠点ごとの消費電力量を比較し、個々の事業所の特性を把握
同社の「EcoViz」は、環境省の平成22年度「温室効果ガス排出量『見える化』評価・広報事業」に採択された。その報告の中から、異なる地域にある3つの拠点における、2010年11月から11年1月までの3ヵ月間の消費電力データを見ながら、「見える化」で何ができるのかの一例を紹介しよう。これらはまだ節電という意識がない東日本大震災前に計測したものなので、ある意味、システム導入による純粋な効果を表すデータと言える。
■空 調
まず〔図1〕は、11月の1週間における時間帯ごとの空調の消費電力状況について、電力を㎡単位に換算して比較できるようにしたものである。A、B、Cの3拠点とも、テナントビルのワンフロアに入居しているオフィスである。このデータを見ると、A、B拠点に比べ、C拠点は明らかに空調の使用量が少ない。これはA、B拠点がビルセントラル空調であるのに対し、C拠点はテナントが温度設定などを個別に管理できる個別空調であるからと推測できる。テナントが自由に設定を切り替えられる個別空調は、テナントの節電対策の意向を即時に反映することができる。
また、〔図2〕は、B拠点における1週間の空調の消費電力と室温の関係を調べたグラフ。ビルセントラル空調で、通常は19時に空調を停止する契約だが、室温が25°Cを下回るのは約5時間後の24時であることが分かる。24時まで業務をしていることは少ないため、対策として、空調を止める時間を2時間早め17時にするよう、ビル側と交渉することができた。このように、テナントオフィスでは対策が立てにくいビルセントラル空調においても、ビルの特性に合わせた運営方法を探ることも可能となる。
■照 明
拠点Aの時間ごとの照明電力を見ると、昼休みもほかの時間帯と消費電力が変動していない〔図3〕。始業前の時間帯も、消費電力が多いことに気付く。こうした状況に対して、昼休みの消灯、および始業前は出勤した場所だけ点灯する対策を促進したところ、2ヵ月後の1月には、省エネ対策が浸透し、同時間帯の照明電力は53%削減した。
■コンセント
計測の結果、コンセントからの消費電力量はB拠点が一番少ないことが分かった。この拠点だけがフリーアドレスを採用しており、ノートブックPCを使っているため、消費電力および待機電力が抑えられていると判明した。 一方、㎡当たりの消費電力量が一番多かったのはC拠点である。これは面積が狭いにもかかわらず、機器が多いうえに、自動販売機が複数設置されていたことが理由と考えた。
「消費電力量を見るだけでも、その拠点の働き方が分かります。消費電力量がなぜ多いのか、あるいは少ないのか、省エネ活動により削減できたのか、あるいは増加したのか、その原因や結果を分析、把握しやすくすることが、見える化の大きなメリットの一つなのです」(山田氏)
環境配慮型オフィスで実現した、マイナス15%の大きな削減効果
さて、この検証からは、別の課題も浮かび上がった。山田氏はこう続ける。
「環境省の事業による3拠点での調査時に、まずエントランスや執務エリアにモニターを設置して、ワーカーに対する消費電力量の“見える化”だけを行いました。ワーカーが見える化した消費電力量を見ることにより節電意識が高まり、電力の削減につながることを期待しましたが、ほとんど削減効果が現れませんでした。次に、ワーカーへの見える化プラス、消費電力のデータを分析し、対策を立て、ワーカーへ具体的な省エネ行動を促進したところ、削減効果が徐々に生まれました。単純に見える化システムを導入、設置しただけでは省エネ効果は生まれにくく、“運用”してこそ効果が出てくることが改めて分かりました」
そこでもう一つのデータをご紹介しよう。対象となったのは、岡村製作所の「オフィスラボ」である。同社の実験・検証施設であるオフィスラボでは、同社ワーカーが各自の業務を行いながら、環境に配慮しつつ働きやすいオフィスを実現するために様々な省エネの取り組みを実施している。2010年には、前年と比較して51%もの消費電力削減を実現していた。 だが、東日本大震災後の2011年夏、同社は社会状況に配慮して、テナントオフィスにおいても目標を各職場が管理できる電力の15%削減とし、節電に取り組んだ。同オフィスも例外ではない。
「オフィスラボで重要視したのはピークカットでした。需要量が供給量を上回るとブラックアウト、つまり停電が起こるのですから、全体を削減するのはもちろんですが、その時間帯にどれだけ減らせるか、時間ごとのピークと比較して考えることにしたのです」(山田氏)
すでに導入されていた「EcoViz」により、2010年の夏に最も電力を消 費したのは、8月第3週の3~4時の時間帯で、13.5kWであることが分 かっていた。そこで、その数値から15%の削減となる11.4kWを上回ら ないことを節電の目標にしたのである。 ハードルが高いことを考慮して、6月から試験的に実施したところ、9月 までの節電期間の成果として対前年比のピーク電力で16%、ピーク時間 帯(平日9~20時)の消費電力量23%という目標をクリアしつつも無理 のない削減に成功した〔図4〕。
図4:節電活動の成果〔実施期間:2011年6月~9月〕
ではなぜ、このような成果を上げることができたのだろうか。
第3章 ワークスタイルの改革を支える「省エネマネジメント」
省エネ効果を生み出しやすい、環境配慮型のオフィスづくりとは
ここで改めて同社オフィスラボの詳細を紹介しておこう。オフィスラボはテナントビルにあるワンフロアのオフィスで、200坪強(約710㎡)の面積に、営業職やスタッフ職合わせて約50名が勤務。2010年から同社の提唱する、人と環境にやさしいオフィスづくり“グリーンワークプレイス”として、「エネルギーセーブ」「ワークプレイス」「グリーンIT」「マネジメント」のカテゴリーで、下記のような取り組みにより、前述したとおり働きやすく快適な省エネ型ワークプレイスを実現していた。
■エネルギーセーブ
空調や照明をメインとした省エネ対策。執務エリアはビル既存の照明器具を外してLEDを天井に照射する間接照明とし、各人の必要に応じて手元のライトを利用する、いわゆるタスクアンビエント照明方式を採用。これには、時間とともに変化する人間の体内リズム(サーカディアンリズム)に合わせて照明の色調や光量を変える同社の照明一体型のワークステーション「次・オフィスライティングシステム(TOLS)」という照明システムを使用している。そして窓際スペースでは、自然光の活用により照明をオフにしている。またエントランスには、人感センサーで必要な時だけ点灯する調光センサーを採用。単なる電力削減だけではなく、ワーカーの特性や働き方に合わせた最適化による省エネを実現している。
■ワークプレイス
レイアウト、ワークスタイルによる省エネ対策。オフィスラボでは、自然光を積極的に取り入れた空間づくりや、フリーアドレスの運用を下支えするペーパーレス化(紙を出さない・持たない・増やさない)を促進した働き方を実施している。
■グリーンIT
IT機器・ICT活用による省エネ対策。打ち合わせや会議では、ペーパーレスを実現するためにモニターを活用など。
■マネジメント
ワーカーの運用・管理による省エネ対策。エネルギーの見える化をペースメーカーとしたPDCAサイクルの実践と、省エネ管理者やファシリティマネージャーによる適切な指示で、快適な省エネを継続している。
これに加えて、さらなる省電力を要求された2011年の夏には、以下の3つの具体策を掲げた。
- フリーアドレスによるゾーン節電
- アンビエント照明の照度を減光
- 電力の見える化 削減から最適化
■フリーアドレスによる「ゾーン節電」という働き方
オフィスラボでもともと実践されていた「人が“考え・動く”ワークスタイル」という考え方に省エネ行動を加えたもの。フリーアドレスに対応した大型テーブルは今回「節電するゾーン」として設定し、通常は照明を点灯せず、暗いと感じる場合は自然光の入る窓側のフリースペースかワークステーション(右写真)で仕事をする。さらに暗くなり自然光が活用できなくなる時間帯になったら、ワークステーションに移動する運用にした。もちろん、PCの作業で暗さを感じないなら、そのまま仕事をしていても構わない。運用をつくりながらもあくまで最終的な座席の判断はワーカー個人に任せた。これは座席が固定されていないフリーアドレスだからこそできたことだ〔図5〕。この対策により、7~9月の3ヵ月間を前年度と比較すると、大型テーブルで35%、フリースペースで80%、ワークステーションで29%の各エリアの照明電力削減が実現できた。
■アンビエント照明の照度を減光
一般企業が行った蛍光灯の間引きの代わりに、TOLSのLED照明の照度を一律80%に落とし、20%の減光制御を実施した。パソコンからの無線による一括制御が可能。時刻によって自動的に光量調整ができ、間引きのように明るさにばらつきがなく、また間引きする作業や外した蛍光灯の管理などが発生しないためワーカーの負担が少ないのがメリットである。
■電力の見える化
バックグラウンドとなる消費電力データはすでに見える化システムで蓄積されていたので、目標数値の設定が容易であったとともに、現在の使用状況や対策、行動の効果をリアルタイムで詳細に把握できる。その結果、ムリ・ムダのない効率的な省エネ行動が可能となる。
こうした対策により、23%もの消費電力量削減が実現されたのだが、山田氏は言う。
「省エネ・節電の目標を100%システムだけで実現するのは好ましくないでしょう。例えば、8割はシステムに頼り、2割くらいは人の意識と行動で変えていくことが理想ではないでしょうか。つまりワーカー自身も積極的にワークスタイルを改革することで、初めて実現されるのです。そしてそのために重要なポイントは2つあります。消費電力を“見える化” するだけでなく、分かりやすい“見せる化”も実施すること、そしてワーカーの意識とモチベーションを高めることです」
先にも触れたとおり、エントランスや執務室に消費電力状況を示すモ ニターを置いても、そこを通らなければ見ることができないようでは、 ワーカーの注意を喚起しにくい。また、見てもすぐに理解できないようで は興味を示してもらえない。
「そこで、皆が見る社内イントラネットのPC画面や、室内に設置した大 型モニターにグラフを表示したりすることで、いつでも、誰もが見られる 環境を作りました」 数値だと分かりにくい、警告音はうるさいなどといったワーカーの意見 をもとに現在は、新しい取り組みとして、目標値を超えるとシンプルに色 で知らせるセンサーを組み込んでいる。利用したのが次世代照明として 注目されている有機EL照明だ。壁面に埋め込んだ有機EL照明は、目標値 を超えると赤く光るようになっている。光るとかなり目立つので、ワー カーは注意を払うようになるという。消費電力の見える化システムと有機 EL照明という別の技術との応用による試みである。 このようにワーカーの仕事を阻害するものでなく、各自が意識、認識し やすい“見せる化”の仕掛けが重要である。
見える化から管理者とワーカーによる運用へ~次なるステップに踏み出すために
“見せる化”の仕掛けに加えて重要なのが、省エネを促進する施設管理者による指示、つまり人による「マネジメント」だ。節電、省エネと言われても、具体的に何をすればいいのか分からない人は多い。
「管理者によるマネジメントは、いわば最適化への道筋を翻訳するよ うなもの。データを分析して対策を考えることはもちろん、効果的な施 策をワーカーに伝え、さらにはその成果をきちんと伝達・啓蒙・促進する ことが重要です。“見せる化”と“管理・指示”がワーカーのモチベーション を高める。システムとマネジメントによる組織的な活動があって、初めて 大きな効果が得られるのです〔図6・7〕」(山田氏)
現在は、見える化のためのツールやシステムの導入という、第一段階 が始まったばかり。大規模事業所だけでなく、中小規模のオフィスにも普 及すると同時に、マネジメントできる人材を育成することが今後の課題で あるという。
だが、ここで重要なのは、それぞれにとっての最適化をいかに実現する か。ビルやテナント、オフィスの規模、部署の働き方によっても取り組みは 変わるので、一律に全てが同じ活動をすればいいというわけではない。 「削減」から「最適化」へ、データを検証し、特性を把握して実行するのが 最も効率的であり、それが結果的に、ワーカーが無理なく継続できる快 適な省エネ行動と、実際の省エネ効果へとつながっていくだろう。
参考URL
■消費電力の見える化システム「オフィスナビ エコビズ」
http://www.okamura.co.jp/product/others/officeecoviz
■人と環境にやさしい照明システム「次・オフィスライティングシステム」
http://www.okamura.co.jp/product/others/theofficelightingsystemz
■環境省 温室効果ガス排出量「見える化」評価・広報事業
『オフィスの電力消費量を「見える化」することによる電力消費量削減効果の検証』
http://www.env.go.jp/council/37ghg-mieruka/r372-01/mat01.pdf
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