貸ビル仲介のパイオニアである生駒商事を前身とし、一部では「オフィスの賃貸仲介会社」というイメージが根強いCBREですが、今日では事業用途の様々な不動産を取り扱う、トータル・ソリューション・プロバイダーに成長しています。
その中でも当社には、有名ブランドショップやナショナルチェーンをはじめ、様々な商業店舗の賃貸仲介を手掛ける「リテールチーム」があるのはご存じでしょうか?テナントを探す物件所有者と、店舗を探すリテーラーとの最適なマッチングを目指し、ときには専門的なアドバイザリーも行う、業界屈指のエキスパート集団です。主に企業の店舗開発部門の方々からのご依頼が多い一方、意外にも、普段は自社オフィスの管理・運営に携わっているような総務系の方々が、店舗探しのご相談にくるケースも少なくないのだとか。そこで、今回はリテールチームのメンバーに、オフィスと店舗の賃貸借契約や商習慣の違いについて聞きました。

堀内 愛美(ほりうち まなみ)
シービーアールイー株式会社
アドバイザリーサービス|リーシング
リテール
コンサルタント
堀内 愛美プロフィール
2021年入社後、オフィスに配属。その後店舗出店の部署に興味を持ち、リテールへ移動。以降はナショナルチェーンの出店から海外ブランドの初出店等をインターナショナルチームとしてサポート。
―― 堀内さんは入社時にオフィスの賃貸仲介部門にいたと聞いています。そもそも、オフィスと店舗では、物件選びの勝手はどのように違うのでしょうか?
オフィスは駅からのアクセス・床面積などで、似た条件の物件がいくつか見つかる場合が多いと思いますが、一方で、店舗は何よりも立地がビジネスに直結することから、そもそも候補となり得る物件が非常に限られます。また、リテール業界のトレンドや周辺テナントの状況にも影響されるなど、考慮すべきポイントが数多くあります。特に昨今では、リテーラーの旺盛な出店需要や、店舗において特に重要な内装工事のコスト高といったトレンドを念頭に置かなければなりません。
我々リテールチームでは、小売業界や店舗の賃貸仲介に精通した全国拠点のメンバーが、空き店舗情報・賃料相場をはじめとしたCBREの豊富なデータベースをもとに、多様な視点からお客様の店舗出店をサポートしています。リテーラーのお客様は、欧州のラグジュアリーブランドや米国のライフスタイルブランド、東アジアのストリートファッションといったブランドショップのほか、生活に根差した飲食やコンビニ、ドラッグストアをはじめとしたナショナルチェーン、さらにはクリニックやスポーツジム、アンテナショップなど多種多様です。
当然、中には初めて店舗を探すご担当者様や、普段は自社オフィスの管理・運営をご担当されているような総務系のご担当者様が、店舗開発のご相談に来られるケースも少なくありません。ファシリティマネジメントという点ではオフィスの管理・運営に通じる領域ではありますが、店舗ならではの商習慣の違いに驚かれる方もいらっしゃいます。
―― 具体的に、店舗の賃貸借契約はオフィスとどのように違うのでしょうか?
まず、挙げられるのが契約期間です。オフィスであれば、普通借家契約※1で2年間、定期借家契約※2だと3~5年間の契約が比較的多く見られます。これは一定期間で賃料改定等の契約内容の見直しをしたい貸主と、安定した事業継続とともに移転の柔軟性を持たせたい借主、双方のニーズのバランスをとるための落としどころとして、広く採用されています。
店舗の賃貸マーケットもこれと似たような構図ではありますが、リテーラーと物件所有者双方のニーズは大きく異なります。まずリテーラー側には、少なくとも10年程度の比較的長期にわたって物件を借りたいというお客様が多いです。業態によっては15~20年は契約期間として絶対に確保したいという場合も。開店までに相当の初期投資を行い、敷金等の償却期間を経て利益をあげていくうえでは、3年、5年といった比較的短期の賃借では割に合わないケースが多いからです。
しかし、実際の成約事例はそれよりも短い契約期間となることが多く、5~10年の定期借家契約がよく見られます。これは物件所有者の意向によるところが大きいです。かつてはテナントに有利な普通借家契約が店舗でも見られましたが、定期借家契約とする場合がほとんどです。
※1:契約更新を原則とする賃貸借契約。貸主からの解約には正当事由が必要。
※2:契約期間満了により、確定的に契約が終了する賃貸借契約。契約期間中は原則解約不可。
―― 物件所有者としては空室リスクを減らすために、より長期的な契約を結んだ方がいいように思います。なぜ多くの物件所有者は5~10年といった、ある程度限られた契約期間を望むのでしょうか?
現在の賃貸マーケットがこれまで以上に、貸し手市場だからです。銀座や表参道、渋谷などの路面店がわかりやすい例でしょう。こうした主要なハイストリートにおいては空室率が0%ないしは1%を切る(2025年7月時点)タイトなマーケットとなっています。店舗に空きが生まれそうな場合でも、すぐに新たなテナントが見つかりやすい状況です。
これに加えて、最近は地価や建物の維持管理費、固定資産税等が高騰。賃料相場も徐々に上昇しています。このようなインフレ下にあっては、物件所有者としては定期借家契約にて、ある程度限られた期間で契約し、契約期間満了の節目で、市況に応じて契約内容を見直す機会を設けたいのが実情です。例えば、契約期間満了時に既存テナントと賃料の値上げ交渉をしたり、場合によってはより高い賃料で入居してくれる新たなテナントを模索したり。
―― テナントサイドについてもお伺いしたいです。先ほど、長期での契約を望むリテーラーが多いと聞きました。それと同時に、オフィスのように今後の経営環境の変化に備え、柔軟に解約できるようにしたいというニーズはないのでしょうか?
もちろん、そのようなニーズもあります。特にコロナ禍を経て、何らかの不測の事態に備えて解約の柔軟性を持たせたいというリテーラーが多く見られるようになりました。そうしたご希望に応えるため、店舗の定期借家契約においては、契約期間の途中でテナントが解約するかどうかを選択できる「中途解約条項」というオプションを設けるケースがあります。
このオプションは普通借家契約のように任意のタイミングで解約できるようにするのではなく、契約期間において特定のタイミングで、解約する権利を行使できるものです。これもオフィスの賃貸借契約ではあまり見られない、店舗独特の商習慣と言えますね。
ある程度長期で借りたいけれども解約の柔軟性も持たせたいというケースや、場合によってはその逆で、いざというときに備えて短期で借りたいけれども、物件所有者が「それではさすがに短すぎるから、もう少し長く入居してほしい」といった場合に、双方である程度の折り合いをつけるため、このような契約形態をとることがあります。
―― 店舗では5~10年の定期借家契約が多いとお伺いしましたが、その間何回ぐらい、中途解約条項を設けるものなのでしょうか?
例えば10年の契約だと5年目に1回、そのような機会を設けることが多いです。我々リテールチームが携わった案件の中には、5年の定期借家契約で、3年目のタイミングで1回、解約するかどうかを選択可能とする事例もありました。
そのケースでは、とあるリテーラーが自身のプロダクトのリブランディングに向け、銀座での新規出店を計画。我々リテールチームに店舗探しをご相談してくださった事例です。リテーラーのご担当者はあまり店舗開発に携わった経験が無い方で、珍しく3年というかなり短期での賃借を希望されていました。
一方で、候補となっていた物件の物件所有者は「それでは短すぎる」と、最低でも5年の契約を望まれていました。銀座は店舗を出店したい競合企業が非常に多く、そのため我々はリテーラーのお客様に「契約期間3年という条件にフォーカスしてしまうと、店舗は確保できない。だったら、契約期間を延ばし、解約可能なタイミングを3年後に設けましょう」と打診。これにより双方からご了解をいただき、契約が取りまとまった経緯があります。
―― リテーラーと物件所有者の双方が納得して契約するために、そのような細かな契約条件の調整が重要になるのですね。
そのとおりです。私たちは日々、希望に合う物件を探しているリテーラー、そして有望なテナント・契約条件を望む物件所有者、双方の期待に応えられるよう努めているところです。契約交渉においてはどちらか一方に偏ることなく、双方にご満足いただける着地点を探す責任があります。契約後は我々とではなく、テナントと物件所有者の直接の付き合いになるからこそ、その契約が両者にとって実りあるものかどうかに気を配っていますね。

