取材日:2024年10月17日
進出国でのM&Aや合弁企業の設立で体質強化し、真のグローバルロジスティクス企業に発展。
日立製作所の物流部門を源流として、業界に確固たる地位を確立してきたロジスティード(旧日立物流)。1990年の上場で親会社に依存していた経営戦略から脱却し、日本ではまだ黎明期であった3PLという事業モデルを基軸に積極的に一般企業に営業攻勢をかけてきた。同時に1970年代に進出した海外事業でも、合弁やM&Aという手法を駆使して、各地域での優位性を持って市場を拡大してきた同社の、これまでと、そしてこれからの戦略をグローバル営業開発本部長の名取一茂氏に訊く。

ロジスティード株式会社
業務執行役員 グローバル営業開発本部長
名取 一茂 氏
荷主企業の海外進出を足がかりに、約50年の歴史を有する海外事業展開
当社は1950年に創業し、国際物流は日立製作所の重電やインフラ系の製品を運ぶ業務から始まりました。その後、1976年には家電や電子部品の現地生産・販売が開始されたことから、シンガポールに最初の合弁会社を設立。さらにはコモディティ化した製品の工場なども進出するにあたり、輸送だけでなく、エンドトゥエンドですべての付加価値を備えた物流サービスへと拡大していきました。
当社では以前から、VEC活動(バリュー・エンジニアリング・フォー・カスタマーズ)という、顧客課題に対してエンジニアリングを通じてバリューを提供する取り組みがありました。さらに1990年9月の東証一部上場を控え、親会社に依存しない物流企業へ変貌するため、一般のお客様を増やすための戦略を実行していきました。トライネットと呼ぶ情報システムと倉庫、配送業務の三つの機能を包括パッケージにしたシステム物流で、それが今日の3PLの基礎ができた瞬間であり、これこそが当社の海外進出における大きな強みとなりました。事実、1986年の運用開始以降、アメリカや中国、ヨーロッパ、インド、台湾、韓国、タイを含むAPACなどにグループ会社を設立しています。
世界における戦略を明確に提示、実現に向けた最適な組織を組成
日本市場ではバブル崩壊後の「失われた30年」、さらには人口減少に伴うGDPの減少が顕著になり、海外進出の重要性はますます高まっていました。そこで当社では、2010年頃から、海外市場における事業に付加価値をつけて競争優位性をさらに高めるために、海外企業をM&Aで積極的に連結化してきました。これにより顧客の日系・非日系に限らず、グローバルで戦える環境基盤作りができました。さらには日系顧客が海外進出する際にも大きなアドバンテージとなっています。
そうしたなか、長期的なめざす姿として「LOGISTEED2030」において、グローバル3PLリーディングカンパニーへの成長を掲げています。具体的には売上収益1.5兆円、CO2排出量の2013年度比50%削減、海外比率50%以上といったところになります。
その目標を実現するためには、世界中28の国と地域に広がった805の拠点すべてが、一つのチーム「ONE LOGISTEED」になることが必要なのは言うまでもありません。そこで2024年4月に組織改編を実施し、海外部門を統括するロジスティードインターナショナルカンパニーの社長に、CIBO(チーフ・インターナショナル・ビジネス・オフィサー)としてクリストファー・ローガンが就任しました。海外における3PLおよびフォワーディングの戦略的成長を推進する体制を構築したのです。これにより意思決定のスピードが速くなり、全体のアラインメントが取りやすくなったわけです。就任後の半年間で、すでにすべての国・地域の視察を終え、グローバルでシナジーを出すためのマトリクス組織を作り上げるなど、意欲的に活動しています。
世界の市場を四つのエリアに分類、特性に応じた戦略が進行中
当社グループでは、海外拠点を四つのエリアに分け、その地域特性に応じた強化策を定めています。例えば北米地域では二つの会社が個々の強みを通じて各々顧客へサービスを提供していますが、コロナ以降さらに顧客サプライチェーンが複雑化・高度化し、一気通貫ロジスティクスの提供が求められています。具体的には国内外サプライヤーからの調達、工場構内作業、クロスドック倉庫運営、サプライヤー間のミルクラン、倉庫間輸送などです。特に国際輸送では、米国からメキシコに荷を運び、メキシコで加工したものを米国に戻す加工貿易など、アメリカ経済圏を網羅する物流を進めているところです。
欧州では域内3PL事業の拡大をテーマにしており、その中でもインターモーダル事業の広域化をめざしています。欧州は人件費が高く、なおかつ環境問題に対する意識が高いエリアです。そのため、トルコや中東・東欧などの製造拠点で低コストで生産し、完成品を欧州まで輸送しますが、その際、トラックだけでなく、鉄道や船舶などを活用するインターモーダル輸送が重要だと言えます。併せてEV・低燃費車両・ダブル連結トラック導入も積極的に行っています。
中国は、かつては日本メーカーの工場が数多く進出してきましたが、今は巨大な消費地となりました。ですから工場間だけでなく、小売りなどの流通業に合わせた物流のあり方が重要です。また、消費地となり経済が発展すると人件費も高騰するため、中国では自動化・省力化設備の導入加速が重要なテーマです。また、高付加価値物流サービスの強化も併せて行っています。
そして四つ目がアジア地域です。世界の生産工場だった中国からシフトするインド、タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナムなどの成長市場への投資及び事業の拡大は急務です。一言でアジアと言っても各国で文化も法律も規制も言葉も違うため、一括りにはできませんが、だからこそ同地域で勝てるかどうかが真のグローバル企業への試金石となると思っています。主な取扱製品は自動車部品、食料品、日用品などになりますが、付随して経済の発展とともにコールドチェーンのニーズも高まると思われます。食料品だけでなく電子部品製造のための高機能素材などでも必要とされる設備で、当社でも2024年の12月、タイに冷凍冷蔵機能を持った倉庫が竣工します。
成長著しいインド全域をカバーする、4ヶ所の拠点を積極的に展開
成長著しいアジア地域の中でも、もっとも注目度が高いのがインドでしょう。人口ですでに中国を追い抜いたといわれるだけに、生産地としても今後の消費地としてもまだまだ成長できると期待が高まっており、日系のみならず非常に旺盛な投資があります。
かつてのインドは、州を移動するたびに課税されるため、節税対策として各地に小さい倉庫を多数用意しておく必要がありました。しかしモディ政権になると、2017年7月にGST(General Sales Tax)という新しい税制ができ、ようやく一つの国として統一されました。これを機に、当社では2023年以降、チェンナイ、ムンバイ、バンガロ ール、デリーの4拠点に大型多機能倉庫(MPLC:Multi Purpose Logistics Center)を持つことで、インド全域をカバーする構想を掲げ、現在2拠点が稼働しております。2023年3月稼働のムンバイと、2024年9月に竣工したチェンナイは自社倉庫です。インドの高い経済発展下でもお客様に寄り添った柔軟な対応ができると考えています。 チェンナイ物流センターの建物は平屋で天井高13m程度、スプリンクラーを設置した、日本と同等かそれ以上のスペックを有した最新鋭のグレードA倉庫で、雇用の創出などの面で地域の活性化に貢献しており、特に女性を積極的に採用したことで市から表彰を受けています。
外国人材の重要ポストへの登用など、強みを最大限に活用した未来戦略
当社では、「日本で勝ち、世界で伸ばす」を戦略目標として掲げ、GAP(グローバルアカウントプログラム)を策定しました。アカウントマップを精緻化し、既存のお客様へのきめ細かな対応とホワイトスペース(未受注部分)を明確にすることで、アカウントの責任者が適切・迅速な判断を行える営業体制とし、よりお客様に寄り添った営業活動を実現していきたいと考えています。同プログラムを活用して既存顧客のホワイトスペースを獲得することだけでなく、新規のお客様へも同プログラムのポリシーに沿って営業拡販しに行くつもりです。加えて海外拠点を交えたインターナショナルリーダーシップチームによって考案された新たな施策を浸透させ、実施していく予定です。
また、M&Aによりグループとなった海外現地法人から外国人材を日本本社の営業部長に迎えるなど、人材のグローバリゼーションにも取り組んでおり、目標達成に向けて外国籍企業にも積極的にアプローチしていきたいと思います。
