今回は「賃貸借契約の見直しのススメ」と題して、シービーアールイー株式会社、アドバイザリー&トランザクションサービス オフィス部門の橋本裕美子に話を聞きました。コロナ禍を経てオフィスの役割が多様化する中、社員の働き方に応じたオフィスを模索する企業も増えてきたものの、何から始めていいかわからないという企業のご担当者の声も聞きます。そこで、オフィスの賃貸借契約の見直しから、現在のオフィスの課題解決のみならず、将来の事業計画、人材採用計画に沿った理想のワークプレイスの構築を始めるためのポイントについて、プロならではの視点をご紹介します。
橋本 裕美子(はしもと ゆみこ)
シービーアールイー株式会社
アドバイザリー&トランザクションサービス
オフィス
ディレクター
橋本 裕美子プロフィール
日本、アメリカで19年に渡り、日系および多国籍企業へ仲介、更新アドバイザリー、ポートフォリオ戦略策定など多岐にわたるサービスを提供。2024年からはシービーアールイー株式会社オフィス部門の部長に就任。

現状把握できていますか? 賃貸借契約見直しのご相談はこちら
− 契約内容の見直しとは具体的に何をするのでしょうか?
橋本:オフィスの賃貸借契約の内容を詳細に把握しているテナント様は少ないと思います。ですが、オフィス環境の課題になっているポイントを洗い出し、改善策を策定するためには、まずは契約を見直してみることが重要です。オフィスの面積は十分なのか、それとも余っているのか、また、移転を検討するならいつから始めるのが適切なのかなど、将来の事業計画に基づいたオフィス戦略を導き出すための最初の一歩と考えてみると良いかと思います。
一般的にご紹介しやすいのが契約更新ですので、一例として概要をお話しします。オフィスの賃貸借契約は永続的なものではないので、定期的に更新され、その際に協議が発生します。そのタイミングで、ご要望に応じて契約期間や面積の変更など、またその手法をアドバイスするのが我々の業務です。
もちろん賃料の適正化も重要なポイントです。ここではテナント様目線のお話をしますが、賃料が市場相場と乖離している場合は減額の要望を申し入れるようアドバイスすることもございます。もちろんオーナー様も同様の理由で増額を希望されることもあります。
− 契約を見直す理由というのは、現在のオフィスの賃貸借契約が企業のオフィス戦略に合っているかどうかを確認し、合致していないのであれば是正をする、という理解で正しいですか?また、どういったタイミングで見直すべきでしょうか?
橋本:はい、オフィスの賃貸借契約には普通借家契約という賃貸人・賃借人の双方意義が無い場合自動で更新されるものと、定期借家契約という契約期間が決まっていて期間内に再契約を締結しないと契約が終了してしまうものの2種類があります。
どちらにおいても契約の更新時期というのが一般的には適切な見直し時期ですね。また、テナント様の事業方針の変更、急激な社員の増減などの個々の状況によって、オフィス契約の改訂の検討を余儀なくされる場合もあります。そういった場合は契約期間内であっても、オーナー様の了承のもと、改訂協議を実施することもあります。
一例ですが、働き方の多様化に対応するためのリノベーションや設備投資を実施した、もしくは計画がある場合、資金を償却する期間を確保するという観点での助言を求められることがあります。その場合は、設備投資を行うタイミングでご相談していただくと、財務的な観点から契約期間を相応に延長できるようなアドバイスをさせていただきます。軽微な内装投資は別として、投資を行うということは現オフィスの賃借を継続するということですので、投資のタイミングは契約を見直す絶好の機会だと思います。
− 見直すポイントはどういった点が重要ですか、また、面積によってポイントは違いますか?
橋本:当然ですが、面積、契約期間、賃料、退去の際の通知期限、違約金の有無、更新(再契約)の際の手続き、特約条項などが代表的なポイントです。また、契約見直しとは多少ずれますが、退去の際の原状回復費用の概算は定期的に把握しておくべきかと思います。何故なら、通常ですと原状回復費用というのは、賃借期間中に積み立てている企業が大多数なのですが、現在工事費用がどんどん高騰していますから、積み立てた費用では不足してしまうという事態が起こっています。そういった事態を避けるためにも、オーナー様にご協力をいただき費用を把握していただくことを強く推奨しています。
面積でいうと、期間中または更新時に部分的に解約することができるかどうか、は重要なポイントです。そのような条項がなくても、必要以上に大きな面積を使用している状況では、部分解約の余地についてオーナー様にご相談頂くことをお奨めします。なぜなら、必要な面積が変わっても、本来であれば移転の選択しかない場合でも、部分的に解約することができれば、賃借を継続することができ、移転コストをかけずに適正な面積のオフィスを維持することができます。ですから、そういった条項を確認しておくこともお勧めします。
− 契約書を見直してみることのメリットを教えてください。また、見直しをしないデメリットはありますか?
橋本:まずはオーナー様のメリットですが、収益性を重視するオーナー様の場合、現在の相場より安価な賃料で入居しているテナント様がいて、尚且つそのテナント様が面積を縮小するための移転を検討しているとします。契約期間中での解約はデメリットになり得ますが、敢えて引き留めることをせず、後継テナントを探すという選択をする方が、現在の相場で入居するテナントを確保することで収益が増加する可能性があります。
また、今後新規に竣工するビルが多く見込まれ、相場に値崩れが起きることが想定される状況の場合は、契約期間の延長に応じることで、長期の入居テナントを確保、つまり退去リスクを減らして安定的な収益を確保することができます。
テナント様のメリットとしては先ほども申し上げたように、ワークプレイス戦略によって、または事業の成長や戦略によって、オフィスのあり方は多様化しています。現在のオフィスの契約がそれぞれの企業様の事業計画を反映しているのか、今後の選択肢を確認することだけでもメリットと言えます。
いずれにせよ総じてケースバイケース、またマーケットの状況に左右されますから、一概に契約期間が長い方が、もしくは短い方が良いと断定はできません。それぞれの事業計画に応じた最善の方法を探るスタートと考えていただくのがよろしいのではないでしょうか?
オフィス契約に手を付けずに放っておくことのデメリットとしては、不利な条件、事業計画を体現していない契約を継続していくことかと思います。
− ここで疑問なのですが、普通借家契約でも見直しはできるのですか?また、したほうが良いのですか?
橋本:普通借の場合は先ほどご説明した通り、貸し手、借り手双方の異議がない場合、現在と同じ条件での契約継続、いわゆる自動更新です。ただ、特約の有無にかかわらず、近隣の同レベルのビルと比較して賃料に大きな乖離がある場合は、契約期間内でも改定協議を申し入れることができる、ということが賃借人には借地借家法の権利として認められています。ですから、ご相談にいらっしゃる際に現在の契約が定期借家契約か、普通借家契約かをご存じない方も多くいらっしゃいますので、今一度契約書を見直してみることが大切になります。
− 契約面積が小さくてもメリットはありますか?
橋本:面積の大小に関わらず、オフィスのコストは会社の支出の中でも大きな部分を占めますから、その資金が適切に利用されているかの確認は大切なことだと思います。特に自動更新の場合は、なおざりになっているテナント様も多いのですが、非常に重要なコストとして着目していただきたいと思います。
− 見直した結果、契約の改訂をする場合、入居者自身で行うことはできますか?
橋本:直接オーナー様と協議をしているテナント様もいらっしゃいますよ。ただ、昨今契約内容がどんどん複雑化している傾向がありますし、オーナー様の賃貸スキームも非常に複雑になっている中ですから、私としては当然ですがプロに相談することを推奨します!(笑)
オーナー様としても、賃上げの強行によってテナントの入れ替えが発生し、大きなコストを負うことになったり、機会損失が起こってしまう事もあります。また、テナント様にとっては、一見有利な条件に見えても、長期的に見るとリスクを内包していることも往々にしてあります。もちろんプロに依頼すると費用は発生するので、二の足を踏むテナント様もいらっしゃるのですが、複雑な契約内容すべてをきちんと把握し、大きな損害が発生するリスクを回避するという観点では、プロの視点が必要なのではと考えます。
− お話を伺っていると、不動産の契約はマーケットの環境に非常に左右されるという印象を持ちました。その中で、通常業務に追加して総務の方が担当するのは難しいのではという疑問を持ちました。
橋本:もちろん自社で対応されてうまくいっているケースもあるとは思いますが、一度我々に相談していただくことで、戦略策定などのノウハウを蓄積していくこともできるので、一度はご相談いただけると嬉しいですね。実際にご依頼いただいて、「初めてプロに頼んでみたけど、やはり違うね」と嬉しいお言葉をいただき、契約更新の度にご依頼いただくテナント様も多数いらっしゃいます。毎日不動産に携わっていない方にとって、自社の契約が適正かどうかも測りかねると思います。その時々の需要と供給のバランスなどで、マーケットの環境は常に変化しますし、オーナー様の状況やテナント様の個別の事情等を加味したカスタマイズされたアドバイスを提供できるのは不動産のプロならではのサービスです。
− ここで何か興味深い事例をお話しいただくことはできますか?
橋本:オフィス勤務の社員の減少によって、面積が余ってしまっているものの、定期借家契約がまだ長く残っていて、利用していないオフィスの賃料を払い続けているテナント様からコロナ禍たくさんご相談いただきました。そこで、内装そのままの居抜きで入居していただける後継テナントを探すというご提案をさせていただきました。無事居抜きで入居いただけるテナント様をご紹介し、合意解約が成立しました。もちろんオーナー様の承諾をいただいてのお話ですし、色々な条件が整っての成功事例ですが、こういった事例が増えています。
このケースの場合、テナント様は不要な面積を返却、後継のテナント様は入居工事費用を大幅に圧縮して移転、オーナー様は空室リスクの回避というウィンウィンウィン(?)の結果となりました。余談ですが、居抜きオフィスへの移転が増えている理由のひとつが環境配慮です。退去後にすべて壊して、また作り直すより状態の良い造作をそのまま利用する方が環境にやさしいという意識が浸透してきているのかもしれません。また、内装工事費用の上昇、施工業者のリソース不足ということも一因かと思います。入居工事費用が高すぎて移転を諦めざるを得ないというテナント様にとっては、居抜きというオプションには大変メリットがあります。
− なるほど、大変興味深いです。少し脱線しますが、居抜き移転を成功させることは難しいイメージですが、コツがあれば教えてください。
橋本:わかりやすく申し上げると、骨髄バンクみたいなものかもしれません。ドナーがたくさんいれば、それだけピンポイントで条件がマッチする可能性が上がるじゃないですか。大きい会社の方が、たくさんのオプションがご紹介できるので、要望に合致するものが見つかりやすいです。また、オープンスペースを広く取るなどの汎用性の高いレイアウトだと決まりやすいです。細かく区切られているより、大きなスペースがあった方が後継のテナント様の選択肢が格段に上がります。傾向としてはあまり大きな面積よりは100坪程度の方が、成功している気がします。
− 他に契約を見直す際のポイント、気を付ける点はありますか?
橋本:入居しているビルが老朽化していると、耐震の問題もでてきますし、企業によっては環境配慮への努力義務が課せられている場合があります。そういった課題をクリアするには、設備投資を実施して入居を継続するか、入居ビルのスペックを上げる移転をするのかを検討することになりますね。もちろん専有部分の設備の老朽化というのもポイントになります。
あと、よくご相談いただく際に、調べてみたら契約期間が残り少ないことが発覚し、選択肢が限られてしまったということがあります。契約内容を改訂する場合も、移転する場合もある程度時間がかかるプロセスですし、工事期間や見積り取得にも以前より時間を要するケースが増えています。ですからご相談いただく場合は時間には十分余裕を持ってご相談をいただきたいと思います。
− 最後になりましたが、皆様へメッセージがあればお願いします。
橋本:私自身はこれまでテナント様へのアドバイザリー業務に携わることがほとんどだったのですが、我々の仕事は単純に賃料を安くするためのアドバイスをするわけではありません。賃料より契約の柔軟性を重視するように助言を差し上げることもありますし、テナント様それぞれに最適な契約をアドバイスするように心がけています。また、コロナ禍においては先行きが不透明なため、契約期間を短くする希望が多かったものの、最近はより安定志向の契約を希望されるケースが増加しています。というようにマーケットの変化、世の中の動き、トレンドなども重要なポイントです。そのうえで、業務の特性、人員計画、業務計画などを詳しく伺い、それぞれのお客様に適切な不動産戦略を策定するお手伝いをしています。
是非、簡単なことでも構いませんからご相談ください。
− 本日はお忙しい中お時間をいただきどうもありがとうございました。難解なオフィス契約の見直しポイントをわかりやすく説明いただき、少し理解が深まりました。
今回は普段の業務で馴染みがないであろうオフィスの不動産契約について、契約見直しのポイントを中心にプロならではの視点を聞いてみました。会社員は毎日会社に通勤し、就業するという一律のスタイルが変わりつつあり、ワークプレイス戦略を採用戦略と連動させ、更には事業戦略の中でも重要な位置づけとする企業も増えてきました。今回のインタビューが変化への第一歩としてご参考にしていただけることを願っています。今後も不動産にまつわる素朴な疑問や、課題解決のヒントなど、お役に立てる情報を発信してまいりますので、是非ご期待ください。
賃貸借契約の見直しでCBREがお手伝いできること
- 賃貸借契約全般に関わるお困り事のご相談
- 不動産/オフィス戦略の策定
- ワークプレースストラテジーに関するご相談
- 契約内容を変更するためのアドバイス
- 移転の場合の物件紹介、契約サポート
- 移転の際のプロジェクトマネジメント

