多様な資金ソースを組み合わせ、ロジスティクス事業を資金面からサポート
ラサール インベストメント マネジメント株式会社
投資執行役員
物流施設担当 中嶋 康雄 氏
日本進出当初から物流市場に着目
2000年に日本に現地法人を開設し、様々なタイプの不動産に投資してきましたが、機が熟したところで物流施設に投資したいと考え、常に日本の物流市場を研究してきました。物流施設は商業施設と並んで大変興味深い投資対象であり、当社はこれまでも、世界各国の物流施設にエクイティ投資を行ってきています。現在のところ、アメリカ圏で総額2300億円規模、ヨーロッパ圏でも2300億円規模の物流施設を所有しており、アジア・太平洋地域でも700億円規模の投資を進めてきました。
しかしながら、日本に進出した2000年当時の物流市場は、大手の機関投資家が投資を実行するには様々な面で環境が整っていませんでした。ちょうど5~10年前のアメリカの物流市場に似た状況にあったといえるでしょう。意外に思われるかもしれませんが、アメリカやヨーロッパにおいても、物流市場の投資環境が整ったのは比較的最近のことなのです。
欧米では、物流市場に機関投資家の資金が流れ込み、物流施設の所有者が、運営者から機関投資家に移行していきました。アメリカを例に挙げるならば、現在では物流施設の65~70%を機関投資家が所有しています。こうした過程で、金融商品としての市場データ等が整備されたのはもちろん、物流の面からも施設の標準化やロジスティクス革新が急速に進みました。物流施設の投資商品としての魅力や安定性はさらに高まり、期待投資利回りに対するリスクプレミアムも、今ではオフィスビルとほぼ変わらない水準になっています。
所有から利用へ投資機会が拡大
日本の不動産市場も、1990年代後半、外資系企業の参入をきっかけに大きく変わりました。この時期に日本に進出した外資系企業の多くは金融プレイヤーであり、不動産を金融商品として扱ってきました。しかし、私どもは「不動産を不動産として判断して投資する」というスタンスで不動産に投資します。この点が先発組の外資系企業と当社が違う点です。
私どもはこれまでの経験から、欧米と同じような変化が日本の物流市場でも起こるものと予測しています。日本の物流市場には独特の商慣習があり、閉鎖的だといわれていますが、こうした部分が改善されていくのも時間の問題でしょう。
また、私どもは世界的な視野で物流施設への投資を進めています。前述のように、欧米はもとより、ソウルや香港などのアジア・太平洋地域の主要都市周辺でも大規模な投資を進めています。現在の投資対象は大消費地周辺ですが、将来的には製造拠点やハブの物流施設への投資も検討することになるでしょう。物流は国境を越えたシステムであり、一つの国のなかで完結するビジネスではありません。その点でも、世界的な規模で資金を提供できる当社が、貢献できる領域であると思います。
2年以内を目処に1500億円投資
日本においては、今後おおむね2年以内に、東京・大阪・中部など大消費地周辺の物流施設に1500億円程度の投資を考えています。ただし、「目標金額ありき」ではなく、あくまでもテナントニーズ次第であり、「クライアントのロジスティクス戦略に、私どもが資金面でどのようなサポートができるか」という視点で投資判断をしていきます。
当社にとって1500億円という投資額は高すぎる目標とは考えていません。日本の物流市場の中で機関投資家が所有している割合は非常に少なく、私どもの投資機会はより多く残されているからです。業界内において「所有から利用へ」という意識転換が順調に進むならば、当初計画を前倒しで達成できる可能性も高いといえるでしょう。実際に、2004年は当初目標を上回るハイペースで物件を取得することができました。
この背景として、日本の物流企業の多くが、製造拠点の海外シフトや消費者の嗜好の変化、物流コストの削減ニーズ、会計基準の変更など多くの課題に直面していることが挙げられます。私どもはそうした物流企業に対し、新たな選択肢を提供していきます。「所有から利用へ」という潮流の中で、改革を行う物流企業に様々な形で資金的なバックアップを行うこと。それが当社のフィロソフィーです。
また、この数年、バブル期に供給された膨大な数の流通施設や倉庫群が相次いで賃貸借契約の終了期を迎え、今後、大量の物流施設が市場に出回る可能性があります。テナントの縛りも外れ、新しい物件にシフトするでしょう。それに伴って、当社が貢献できるフィールドも拡大していくものと思います。
主役は物流企業我々は資金サポート役
2004年は当社にとって実り多き年でした。物流ファンド(ラサール日本ロジスティクスファンド)の組成を完了し、当初の予定より早いペースで有望な物件を取得することができました。
まず、東京湾岸エリア、東京都江東区若洲に敷地面積1万2579m2、延床面積2万5051m2の大型物流センターを建設。物流会社のナカノ商会が20年間の定期借家契約で利用しています。続いて千葉県の市川市塩浜と柏市で土地を取得し、大型物流センターを建設しています。塩浜のテナントは日本通運、柏はマルチクライアント型の物流施設です。
3件ともたまたま開発案件ですが、投資案件は開発、既存を問いません。繰り返しになりますが、私どもの役割は「物流の主役である物流企業を資金面でサポートしていくこと」であり、企業規模の大小を問わず、私どもの資金を活用してコアビジネスを拡大あるいは再構築していただきたいと思っています。
日本でも物流ファンドが増えてきましたが、これは私どもにとって歓迎すべきことです。こうしたファンドを通じて様々な機関投資家の資金が市場に流れ込めば、透明で健全な市場の形成が加速するはずです。多くの新しいプレイヤーがこの市場に参入し、物流市場全体が健全に拡大することを期待しています。
多様な資金ソースを組み合わせ、ニーズに対応
競合他社のファンドと比較した場合、当社の強みは次の点にあります。
第1に資金ソースの多様さ。
リスク・リターン特性の異なる数種類の資金ソースがあり、クライアントのニーズや取るべきリスクに見合った資金プログラムを組むことができます。これは世界最大規模の投資顧問会社である当社ならではの強みです。
第2に長期的視点。
私どもは「物流市場そのものの成長に対して投資する」というスタンスを取っています。短期、中期、長期の投資資金の組み合わせを考えながら、長いスパンでの投資が可能です。
第3に外部のプロとの協力体制。
私どもは外部の様々な企業と協力してビジネスを進める上での柔軟性に長けており、テナントの要望や市場の変化にもタイムリーかつフレキシブルに対応できます。
第4にグローバルな視点とサポート体制。
物流はその性格上、広域的な資金サポートが欠かせません。当社は世界中で物流施設へ投資しており、アジア・太平洋地域にもプラットフォームを構築中です。 次に、投資対象とする物流施設ですが、基本的な選択基準は次の4点です。
第1に用途地域。
将来的にも住居系開発の波が押し寄せず、物流企業が24時間365日稼働できるような工業地域や工業専用地域であること。
第2に道路アクセス。
主要幹線道路や高速道路のICへのアクセスがよく、敷地の接道条件がよいこと。
第3に公共交通機関へのアクセス。
労働集約型の物流企業の増加に伴い、鉄道や地下鉄等の公共交通機関の駅に近いことも、労働力確保に欠かせない要素となっています。
第4にフロアサイズが大きいこと。
加えて、物流施設はそれぞれの企業における事業のプラットフォームですから、長く安定的に利用できるような賃料に抑える必要があります。そのためには土地代もさることながら建築費などのコストコントロールが欠かせません。
物流施設の開発コストは土地代より建築コストのボリュームが大きく、建築コストのコントロールが特に重要です。この点については、長く不動産開発に携わってきた私自身の経験と、グループのジョーンズ・ラング・ラサールのプロジェクトマネジメントチームの知恵を結集し、合理的で総合的なコスト管理を行っています。この点も当社の強みです。
出口戦略の選択肢の多彩さも強みに
J-REITの誕生は、日本の不動産市場の透明性向上に大きな役割を果たしました。近い将来、数本の物流ファンドがJ-REITに上場するといわれています。しかし、出口戦略はそれだけではありません。オープンエンド・ファンドも拡大していくものと思われますし、超長期に保有する投資家に売却するという出口戦略もあるでしょう。
J-REIT、オープンエンド・ファンド、超長期保有の投資家への売却など、出口戦略の選択肢の多さもまた、この業界において私どもがトップであると自負しています。