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繊維化学メーカー H社

ケーススタディ

2012年4月19日

オフィス環境改善を目指すも、「移転計画は見送り」・・・。
賃料コスト削減と業務効率の向上に向けて、“経営陣が納得する定量的データ”がほしい。

オフィスマーケットが停滞する現在は、賃料コストを削減しながらオフィス環境を改善させることも十分可能であり、執務スペースの拡張・集約などによ る業務効率の向上や社内コミュニケーションの活性化を図る好機といえる。とはいえ、オフィス移転の必要性を感覚的に認識していたとしても、社内のコンセン サスを得るためにその根拠となる課題やメリットを定量的に明確化する作業は非常に困難であり、担当者の思いだけで終わってしまうケースが少なくない。

今回は、現場から発した移転ニーズを、自社の経営戦略の一環として昇華・明確化することで経営陣の意思決定へと結びつけ、結果として賃料コスト削減やオフィス環境の改善を果たした好例を紹介したい。

悪化するオフィス環境と割に合わない賃料コスト・・・オフィス移転を決断

H社は東京・日本橋エリアを拠点とする繊維化学メーカー。衣料用テキスタイルの企画・製造・販売業務を中心に、近年は高機能繊維の開発・製造にも乗 り出し、事業範囲を拡大している。同社が現エリアに本社を構えたのは20年ほど前であるが、年数の経過に連れて執務環境は悪化しており、社内には兼ねてよ りオフィス移転を望む声が存在していた。

というのも、人員増加や組織変更に対して、同じビル内でのフロア借り増しで対応してきた結果、最終的にオフィスはビル内の2フロア(4階と7階)に 分散してしまった。しかも4階のフロアは、一部が保管倉庫として使用されており、合計80名の従業員が実際に使用できる執務スペースは非常に窮屈な状況で あった。こうしたオフィス環境は社内コミュニケーションを阻害し、また業務効率を下げる原因となっていたのである。

加えて、賃料コストの高さもたびたび問題視されていた。同社総務部長のD氏はこう語る。

「賃料は30,000円/坪と、周辺相場と比べてかなり割高でした。ビルオーナーにはこれまでも何度か減額の要望を伝えたのですが、難色を示すばかりで一向に交渉は進展しませんでした」

賃料交渉はあきらめざるを得ず、また以前より社内中からオフィス環境への不満を耳にしていたD氏は、オフィス移転に本腰をいれるに至り、物件情報の収集を始めたのだった。

経営判断は「移転見送り」。オフィス課題と移転メリットを“明確化”できず、どうすれば・・・

ほどなく、D氏はとある近隣の物件に目を付けた。賃料は現ビルよりも割安で、分散したオフィスをワンフロアに集約する面積も確保できる。「これならば賃料コスト削減とオフィス環境改善が可能である」と考えたD氏は、さっそく経営陣に移転を提案することに。

しかし、この案は役員会議にかけられた後に否決されてしまった。確かに月々のランニングコストは削減できるが、“移転に要するイニシャルコストの回収計画”をはじめ、肝心な“現状課題”や“移転メリット”の洗い出しは具体性に乏しく、感覚的なイメージの域を出なかった。
結果として、移転費用や内装工事/原状回復工事費用などのイニシャルコストばかりが目立ってしまい、「多額なコストをかけるほどの懸案事項ではない」と判断されてしまったのである。

「移転の必要性そのものは、上層部も漠然と認識しているようでしたので、意思決定を後押しするデータさえ揃えれば、移転実現は不可能ではないという 手ごたえは得られました。しかし、オフィス移転の根拠やその有効性の明確化にあたり、何から始めればいいのか、どう定量化すればいいのかといった手順が分 からず、着手したくてもできない状況でした」(前出D氏)

オフィス課題の分析・洗い出しや移転メリットの定量化には専門的な知識・ノウハウおよび情報を必要とする部分が多く、実際のところは担当者の手に余るケー スが少なくない。移転による賃料コスト削減、およびオフィス環境改善を考えていたD氏もまさにそうした状況にあった。そこでD氏は単独での計画推進は難し いと判断し、シービーアールイー(以下CBRE)に相談を持ちかけた。以前、H社別部門に倉庫物件の仲介を行った際の高い評価を聞きおよんでいたことが きっかけとなった。

現状課題を洗い出し、移転の必要性を明確化

相談を受けたCBREは、まず、移転の必要性を明確化するため、H社のオフィス環境について調査・ヒアリングを行い、改善すべき現状課題を洗い出した。

H社の現状課題

  • レイアウト効率が悪く、狭小なオフィス環境(面積:200坪 従業員一人当たり面積:2.5坪)
  • 分散フロアや集中できない環境下における、業務効率の低下
  • 社内コミュニケーションによる情報共有を誘発できず、チームワークが不足
  • 周辺相場に比べて大幅に高い賃料コスト

そして、これら課題のひとつひとつを改善していくことを軸に、移転計画の青写真を具体化していった。一方で、D氏が挙げていた移転先の条件は以下の通りである。

移転条件

  • 立地:近隣エリア
  • 面積:230坪~250坪
  • 賃料:20,000円台前半/坪

上記の移転条件は、十分な執務スペースの確保、および賃料コスト削減の希望が盛り込まれたものであった。移転先の立地を近隣エリアとしたのは、通勤 コストの増加を避けるためである。しかし、近隣物件に対して、移転コストシミュレーションを用いて検証を進めたが、条件に適う物件は見つからなかった。

移転&通勤コストシミュレーションで移転メリットを定量化し、別エリアへの移転を示唆

そこで、CBREは、選択エリアを拡げれば、現在より賃料削減によるコストメリットを最大化しつつ、好立地・高グレードのビルへの入居が可能であることを示唆。現エリアに限定してしまうと、移転効果も限定されたものになってしまうからだ。

CBREはまず、事前にヒアリングしたH社の業務内容をもとに、移転候補エリアおよび候補物件をいくつかピックアップし、「移転コストシミュレー ション」でエリア・物件ごとのランニングコスト削減効果およびイニシャルコストの回収プランの概算を算出していった。特に、経営陣のネックとなっていたイ ニシャルコストに関しては、引越し費用や新オフィスでの入居工事費用、退去後の原状回復費用など、その内訳を細分化し、総コストと回収可能時期を精緻に割 り出していった。
また、D氏が心配していた別エリアへの移転による通勤コストの変動に関しても、「通勤コストシミュレーション」を実施し、通勤交通費や通勤時間の増減を比較していった。

こうして積み重ねたシミュレーション結果をもとに、CBREはH社の移転メリットを最大限に引き出す移転先として、以下の物件を提案した。

提案物件

  • 立地:青山・表参道エリア
  • 面積:ワンフロア250坪
  • 賃料:20,000円/坪

この提案はD氏らを驚かせた。ビルのスペックや面積、賃料などは十分に希望を満たしていたが、青山・表参道エリアという立地は予想外であり、しかも平均通勤時間と通勤コストは増加してしまう。
しかし、CBREが注目したのは別のポイントにあった。“営業交通費”である。実は、日本橋は通勤の利便性に比べ、主要営業先へのアクセスは決して良くな い。青山・表参道エリアには主要取引先が多く、営業交通費の大幅削減が可能となり、通勤コストの増加分を補えるとシミュレーションされたのである。

移転コストシミュレーション(サンプル)

移転コストシミュレーション(サンプル)

営業交通費コストシュミレーション(サンプル)

営業交通費コストシュミレーション(サンプル)

「実際の数字をもとに説明していただくことで、この物件の優位性はすぐに納得できました。通勤コストにこだわるあまり、選択肢を狭めて多くのメリットを見落としていたことに気づかされましたよ。やはり、数字の説得力は大きいですね」(前出D氏)

コストメリットとともにオフィス環境改善も可視化、経営陣の意思決定を後押し

現状課題を明確化するとともに、移転メリットの定量的データを確保したD氏らは、ほどなく役員を前にCBREとともに、再度プレゼンテーションを 行った。CBREはレイアウトイメージ図面を作成して移転先の執務環境の改善イメージを具体化するなど、引き続き経営陣への説得材料を提供し、D氏らのサ ポートに努めていった。

こうして、定量的に明確化された移転メリットは、経営陣を納得させるに十分な説得力を持ち、後日、役員会は移転を正式に決定した。

H社のコスト的移転メリット

  • 賃料コストの削減:30,000円/坪→20,000円/坪
  • 年間削減効果:12,000,000円
  • 営業交通費の削減:年間30%
  • イニシャルコストの早期回収:5年目
  • 執務環境の改善:一人当たり面積2.5坪→3.1坪

オフィス環境の改善により、業務効率向上とワークスタイルの変革に貢献!

こうして、本社移転を無事実現させたH社。移転後は、取引先へのアクセスが良くなることで営業効率が飛躍的にアップし、営業社員はより緊密な取引先との連携が図れるようになった。

また、オフィスのワンフロア化は業務効率の改善と社内コミュニケーションの活性化に大きく貢献した。2つのフロアを行き来する煩雑さは不要になり、 さらに共有スペースを見直して、会議室の他に間仕切りのないコミュニケーションスペースを設けることで、部門間のちょっとした打ち合わせや情報共有などが 円滑に行えるようになった。
窮屈だった執務スペースの拡大に加えて、こうしたオフィス環境の改善は、従業員のワークスタイルの変革にもつながりつつあるようだ。

そして、数値で表すことのできない副次的な移転効果もあった。ファッション業界に携わるH社として、流行の発信源である同エリアの近隣環境は、企業のブランディングイメージの向上および各従業員へ好影響をもたらしているという。

「最初は漠然とした思いにすぎなかった移転計画を、数々の客観的数値データによって明確化していくことで、理想的なオフィス改善効果に結び付けるこ とができました。CBREにはマクロな視点から、我々の考えの及ばなかった移転メリット、さらにその根拠までを具体化していただき、大変満足しています」 (前出D氏)

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