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電気機器製造業 D社

ケーススタディ

2011年10月21日

耐震補強とオフィス環境改善を目指した「リノベーション計画」。
見極め難いコスト・品質の“妥当性評価”と、複雑な“プロジェクト管理”をいかに・・・?

過日の東日本大震災をきっかけに、ビルの耐震補強工事や建替えを検討する動きが、デベロッパーはもちろん、自社ビルを保有する企業の間でも広がって いる。こうした自社ビルの建替え・改修といったタイミングは、ワークスペースの機能性を鑑みた“オフィスの環境改善”を図る絶好の機会として捉えることが できるだろう。

とはいえ、「リノベーション計画」にはさまざまな施策や要素が複雑に絡み合うため、その取り組みは容易ではない。専門知識がなければ、全体を俯瞰した適切な判断を下すことは難しく、過剰投資や不足をはじめ“部分最適”で終わってしまうケースも少なくないようだ。

自社ビルの老朽化対策が求められるも・・・「耐震補強工事」の妥当性を判断できず

パソコンやデジタル家電向けの周辺機器の開発・製造・販売を手掛ける電機メーカーD社は、自社保有の本社ビルについて大きな課題を抱えていた。

その一つは「老朽化対策」である。
本社ビルは竣工から40年あまりが経ったいわゆる「旧耐震ビル」。社員の安全確保と事業継続の観点から、かねてより危機感を抱いていた経営陣は、長年保留にしてきた「耐震補強」について本格的に検討を始めることに。

しかし、その取り組みは困難の始まりでもあった。まず、一口に耐震補強と言っても、そもそもどの程度まで補強すべきかの基準が分からない。同社は、 元施工をはじめとしたいくつかの建設会社に見積もりおよび工事提案を依頼したものの、その工法や工事規模および所要コストは各社各様。どの業者の提案内容 が適切か、また所要コストは妥当なのか判断することができなかったのである。

旧態依然たるオフィス環境の改善もプラスした「リノベーション計画」が要件を複雑に・・・

また、同社では「オフィス環境の見直し」も改善要求として挙げられていた。
というのも、長年のうちにオフィスの仕様が現在の業容とワークスタイルに合わなくなってきており、業務効率に悪影響を及ぼしていたからである。

特に、レイアウト効率が悪く、一人あたりの占有スペースが狭い点や、会議室の慢性的な不足には、多くの従業員から不満の声が寄せられていた。同社の ビルが竣工したのは40年以上前であり、当時と現在の人員計画および業務計画とでは、明らかに事情が異なる。全体的なゾーニング計画の見直しを行わない限 り、その過密度や利便性に大きな偏りが生じてしまう。
さらに、こうした現状は業務効率低下という問題だけでなく、部門間のコミュニケーション低下という問題にも発展していた。

同社の経営陣は、こうした旧態依然とした現状を憂慮し、「耐震補強」と「オフィス環境改善」を目的とした、本社ビルの「リノベーション計画」を決定したのである。

しかし、ここで同社は最大の難問にぶつかってしまう。プロジェクトの指揮を任された管理本部総務部部長のN氏はこう語っている。

「耐震補強工事とゾーニングの見直しを含めたオフィス内装工事、この2つの工事は施工期間中の仮移転も考慮すると同時進行せざるを得ず、相互の実施 計画が複雑かつ密接に関連するであろうことは予想できました。しかし、当社には私を含めて、不動産の管財的な業務知識を持っている人間はいても、建築・設 計やレイアウトに精通した人間はいません。適切な要件定義や、そのために必要とされる工事・コストについてベストな判断を下せるかは大いに疑問でした。ま た、仮にこれらをクリアできたとしても、工事に参画する多数の業者のハンドリングを含めた、複雑な進行管理を遅れなく遂行することなど、不可能に近いもの でした」

工事期間中に一部の社員を移動させる一時移転先オフィスを探す必要もあり、同社のリノベーション計画は様々な要素が複雑に絡み合うため、普段の総務業務を遂行しながら実施するには、あまりにも負荷が高いことが容易に予想された。

経営陣も含めて社内協議を重ねた上で、「密接にリンクする2つのプロジェクトを成功に導くためには、プロジェクトマネジメント(以下、PM)の専門 的な知識とノウハウが必要不可欠」と判断したD社は、独立系で中立的な不動産サービス会社として定評のあったシービーアールイーグループ(以下、 CBRE)へ依頼することに。CBREはかねてより、同社が保有する複数の不動産についてのアドバイザリー業務を行っており、社内事情をよく把握していた ことも契機となった。

依頼を受けたCBREは、管理本部総務部部長N氏をはじめ、同社役員・総務部スタッフおよびCBREのスタッフからなる「本社ビルリノベーション推 進委員会」を設け、情報共有・指示系統の一元化を図った。そして以降、「スケジュール」「コスト」「クオリティ」「リスク」「リソース」の各マネジメント を通じて、リノベーション計画を牽引していくことになる。

「オフィス環境改善」との相関を踏まえながら、耐震設計とコストの“妥当性”を評価
~耐震補強コンストラクションマネジメント~

まず着手したのは、耐震診断・設計・補強工事を行う施工業者の選定である。CBREは数社のゼネコンに対して見積もりと工事提案を募り、工事コストと技術的提案の“妥当性”を客観的に鑑みた上で、同社の要件に最適と思われる1社を絞り込んだ。

「複数社に対してコンペ形式で見積もりと提案依頼をしたことで、工事コストを大幅に抑えることができました」(前出N氏)

ブレースの例

いよいよ、施工業者による耐震診断が始まった。この際にCBREは、竣工当時の構造計算書など、施工業者が適正に診断する上で必要となる情報の提供、および実施計画と現地調査に関して監修を実施。そして、続く耐震設計では、施工業者の提案内容・仕様の精査を行った。

その結果CBREは、提示された補強設計は施工業者の目線による「施工性の良さ」を優先する設計であり、D社の使い勝手や要望を優先するプランではないと判断し、設計内容の見直しを要求した。
すなわち、「オフィス環境改善」プロジェクトとの相関を踏まえ、ワークプレイスのゾーニングを阻害しないことを最優先に耐震設計の監修を進めたのである。 たとえば、当初の設計では、執務エリアの真ん中に耐震補強のブレースを設置する設計であったが、レイアウト効率が低下するため、執務空間に影響のない外壁 の近くに移動させたり、建物のコア周辺における壁の補強で対応させることとした。

また、エレベータホールにおけるセキュリティラインの構築が要件に挙がっていたことから、新たに耐震壁を設けることで、2つの要件を同時に満たすことができた。この後、実際に耐震補強工事に着手することとなるが、CBREは引き続き、工事の監修・検査などを遂行していく。
これらは、施工業者の判断・提案だけに委ねず、プロジェクトの全体を見据えたPMだからこそ実現できたと言えるだろう。

コスト抑制に加え、「客観的な視点」でベストな選択肢を調整
~オフィス環境改善プロジェクトマネジメント~

一方の「オフィス環境改善」についても、クオリティの高いインテリアデザインと業務効率およびコミュニケーション効率の向上を図れるレイアウトを期すため、複数の業者に対してRFP(提案依頼書)を提示の上、選定することとした。

  • 内装設計者(レイアウトインテリア)
  • 各種ベンダー(什器、ネットワーク、セキュリティ、オーディオビジュアル等)

内装設計において4社から見積もりと提案を受けたCBREは、内容を精査した上で絞り込みを実施。いざプロポーザルを実施してみると、同じ打診をしているにも関わらず、各内装設計者から見積もられた金額およびその設計提案には大きな開きが見られた。
特にレイアウト設計を重視していたCBREは、同社の限られた予算内で効果の最大化を図るため、慎重に内装設計者の手腕・設計提案の精査を進めた。「業務 効率・コミュニケーション向上」という要件を満たせるゾーニングおよびレイアウト設計かどうかを判断し、内装設計者を決定した。

「各内装設計者の提案内容は、非常にユニークで選択肢も豊富でしたが、過剰投資ではないか、またはオフィス環境の改善に本当に寄与できるかどうかの 見極めは、当事者である我々にはかえって判断しづらいものでした。CBREは各プロポーザル参加者との結びつきを持たない独立系なので、客観的な視点から 冷静に、当社にとってベストな設計内容を選択していただきました」(前出N氏)

内装設計の決定後も、工事実施におけるベンダーコントロールを行い、現場での追加・変更によるコスト増減の調整や、作業の監修と検査を推し進めていった。

また、コストやクオリティの調整・コントロールに際しては、委員会のメンバー間で常に情報共有を図るとともに、綿密なミーティングを繰り返すことで、同社の意思決定/承認プロセスに必要な判断材料を揃えていった。

煩雑なプロジェクト全体の“スケジュール管理”を徹底し、ユーザ負担を軽減

こうしたコストやクオリティのマネジメントとともに、「リノベーション計画」において重要なのが、全体のスケジュールマネジメントであった。

CBREは、各ベンダーとの間に週に一度の定例会議を設け、全体のスケジュールを念頭に入れながら月間/週間単位の工程を常に確認。ともすると容易 に遅れが発生する各ベンダーの進捗を厳密に管理し、全体スケジュールに支障をきたすことのないようハンドリングすることで、複雑に絡み合う耐震補強工事と 内装工事を調整していった。

「各ベンダーの工程コントロールは考えただけでも煩雑で、我々だけでやるとすると、通常業務との同時進行はとてもできなかったでしょうから、大変助 かりました。また、全社的なプロジェクトなので、社内スタッフからもさまざまな意見が寄せられます。こうした意見に都度対応していてはその分期間が長引 き、それだけコストも増します。第三者のCBREに間に入っていただいたおかげで手戻りもなく、スケジュール管理を徹底させることができました」(前出N 氏)

一方で、CBREは工事期間中のD社オフィスの一時移転先についても手配することで、同社の「リノベーション計画」をワンストップでサポート。「コ ストを極力抑えたい」という同社の希望を鑑み、本社ビルから徒歩10分圏内に位置する物件を提案した。この物件は、近々取り壊しが決定しているため、退去 時の原状回復工事が必要なく、また賃料も周辺相場に比べて大幅に低い設定となっていた。表向きの入居募集は行っていなかったのだが、ビルオーナーは半年程 度の期間限定という条件であれば入居を歓迎しているとのこと。同社もこの提案を受け入れ、ほどなく契約を締結するに至った。

同社にとっては幸運なタイミングであったが、CBREの豊富な物件データベースと日頃からの情報収集が活かされた結果と言えるだろう。

「リノベーション計画」を通じて、耐震補強・業務効率UP・社内交流の活性化に成功!

こうして、プロジェクト始動から1年あまり後、同社は全社を挙げて臨んだ「リノベーション計画」を無事完了させることに成功した。

「耐震補強工事」は無事完了し、最適なコストで耐震基準を満たすことができた。過日の大震災でも被害は見られず、従業員の身の安全を預かる最低限の企業責任を果たしたことで、経営陣もひと安心できたという。

そして、全従業員が待ち望んでいた「オフィス環境の改善」。新しいオフィスにはユニバーサルプランを採用し、人事異動や組織変更へのフレキシブルな 対応とともに、レイアウト効率を大幅に引き上げることに成功した。改善前の一人当たり面積が2坪弱だったのに対し、改善後はスペース拡張がないにも関わら ず2.9坪まで拡大した点を考えても、その効果の程が見て取れる。

また、ビル全体のゾーニングも大幅に見直された。ビルの1階は、来客用のミーティングルーム専用フロアとし、中間に位置する4階フロアには休憩やラ フな打ち合わせに使用できるリラックススペースを配置。各階にも同様のミニスペースを設けた。部署やフロアの枠を越えて、従業員が日常的に交流できるよう にしたことで、社内コミュニケーションは飛躍的に向上したという。

こうした社内環境の活性化は組織の壁を取り払い、個々のポテンシャルや生産性向上、ひいては同社のさらなる企業力向上に大きく貢献していくことだろう。今回のPMについて、N氏はこう語っている。

「中立的な立場のプロジェクトマネージャーとして、CBREにすべての工程をマネジメントしていただいたおかげで、必要最低限のコストで“全体最適化”を図ることができたと感じています」

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