前職での原体験をもとに「eラーニングを面白くする」ために起業
当社は、社会人向け学習コンテンツをオンラインで生放送する「Schoo(スクー)」を運営しています。内容はビジネススキル、ITスキルをはじめ、働き方、お金、健康、経済ニュースまで幅広く発信し、生放送は無料で受講できます。また、先生の話を聞くだけでなく、チャット機能を使って先生と受講生がコミュニケーションを取りながら学びを深められるのが特長です。
起業のきっかけとなったのは、今から約10年前、前職のリクルートで体験したeラーニングでした。講師がカメラ目線でずっと話し続けるのを聞いているのが苦痛で、「自分ならもっと面白いものが作れそうだ」と思い立ち、次の日には会社へ退職届を出していました。会社に引き留められたので半年だけ残り、その間に「スクー」という社名と、「世の中から卒業をなくす」というミッションコピーを考えました。今でこそ、リカレント教育の重要性が言われていますが、当時はそれを意識してミッションを作ったわけではありません。具体的なサービスが決まっていない段階だったので、拡大解釈できて、かつ、「え?そうは思わないよ」と突っ込みたくなるような、引っかかりのあるコピーにしたいと思いました。
僕のやろうとしていたことがビジネスとして成功する確信があったかと問われれば、成功しようとか、儲けようと思って起業したわけではありません。社会に対して負(課題)が存在し、それに困っている人がいるなら、それを埋めるためにビジネスがあると僕は考えていて、eラーニングに関しては、僕の原体験として負が確実に存在しました。それを解消するサービスを作りたいという思いで始めたのです。
会社を辞めて、一人で起業したのが2011年10月。そこから、友達のエンジニアにソフトウエアの作り方を教えてもらったり、生放送を使った双方向の仕組みを考えたりしました。生放送の仕組みにしたのは、eラーニングを10倍面白くするには、動画の撮影方法を変えるといった小手先の工夫ではなく、根本的にやり方を変える必要があると思ったからです。当時僕がすごく好きだったニコニコ動画を参考にして、単なる動画配信サービスではなく、動画を軸に人と人がつながることのできるコミュニケーションサービスとして、スクーをリリースしました。また、当時のeラーニングにはなかった新しいサービスを作ったことで、それを面白がってくれた超一流の人たちが講師を快く引き受けてくれました。教育の品質を担保するには、一流の講師陣を集めることが必須でしたが、生放送の仕組みにしたことでそれもクリアすることができたわけです。
増員に伴い移転を繰り返しコロナ禍直前に新オフィス設立
当時住んでいた恵比寿のワンルームマンションが最初の仕事場でした。といっても、自宅のローテーブルでは仕事に集中できず、そのうち広尾の図書館に通うようになりました。ただ、この図書館も夕方5時には閉館。起業したばかりなのに5時で仕事を終えるのはマズイだろうと思い、2012年に入ってすぐ、渋谷のコワーキングスペースに移りました。3月には、僕の始めたことを面白がってくれた友人たちが、会社を辞めて合流してくれるようになり、1期が終わるまでにさらに3人が加わり、そのうち2人は今も会社に残っています。
渋谷のコワーキングスペースには3年ほどいて、その後、増員に伴う2回の引っ越しを経て、2020年2月に渋谷にある現在のオフィスに移ったところです。前のオフィスは約70坪のスペースに50名以上が働き、まさに“ウサギ小屋”さながらに手狭になっていました。想定以上に事業が伸びるスピードが速く、元々あったコミュニケーションスペースや会議室を潰してデスクを置いても、追いつかない状態だったのです。新たにオフィスを構えたこの場所は、元々、音楽学校の跡で、「世の中から卒業をなくしたい」と思っている僕たちにピッタリだな、エモいな、と思い、ここに決めました。ただし、移転してすぐ新型コロナの感染が広がり、3月末から全員リモートワークに切り替えたので、実はこのオフィスはほとんど使っていません。
多職種のスタッフが連携して働けるハイブリッドワークモデル構想
しかも、大きな誤算だったのは、コロナ禍の環境変化によりオンライン教育事業が急スピードで拡大し、計画以上に増員の必要に迫られていることです。今の採用計画を充足してしまえば、すでにこのオフィスでは収容しきれないかもしれない。そのような中、当社は5月18日に、アフターコロナの働き方として、リモートとオフィスの良いところを組み合わせた「ハイブリッドワークモデル」の確立を目指すと発表しました。実はあれも、採用強化を念頭に置いています。つまり、僕たちが今後どのような働き方を目指すのかというスタンスを、早急に表明する必要があったのです。
ソフトウエア産業に従事する当社は、どちらかといえば、リモート化しやすい業種だと思います。その一方で、当社にはデザイナーやエンジニアだけでなく、学習コンテンツを作る部隊などいろんな職種の人たちがいて、連携して働くことで価値を生み出すことを大切にしています。そう考えると、おそらくすべてをリモート化することは難しいでしょう。生放送のスタジオもなくならない。かといって、これからもコロナ禍が続けば、オフィスに出社したくても出社できない状況が続きます。その中で大事なことは、多職種のメンバーが適切な信頼関係を作り、お互いに気持ちよく働ける環境を作ること。そのためのワークスタイルを、ハイブリッドで作っていこう、というのが当社の方針です。
すでに数ヶ月間のフルリモートを経験して、見えてきた課題もあります。例えば、メンバーの顔が見えないから管理職は大変だとか、対面営業のほうが売れる人と、オンライン営業のほうが売れる人といった差も出てきています。次の段階としては、これらの課題に対して、オンラインで解決できるのか、それともオフラインでないと解決できないのかを、一つひとつ考えていきます。このプロセスを通して、当社独自のハイブリッドワークモデルが確立されていくのだろうと思います。
「世の中から卒業をなくす」ために自治体や教育機関との連携を強化
最近、当社では、地方自治体や官公庁との連携を積極的に進めています。教育マーケットを俯瞰してみると、資格の学校や英会話学校などプライベートなセクターよりも、学校法人や官公庁などパブリックなセクターの方が、圧倒的に規模感が大きいんです。「世の中から卒業をなくす」という我々のミッションを実現するには、より規模の大きなパブリックのセクターに対して影響力を与えていく必要があります。コロナ禍でデジタル化やDXに注目が集まっている今こそ、教育マーケットで当社が先陣を切れるように事業展開していきたいと考えています。その場合、自治体や教育機関に密着して、それぞれの課題に対応していくことが重要になるでしょう。我々のオフィスも、東京一極集中型から、各地への分散型になっていくとイメージしています。オフィスは問題を解決する手段の一つなので、その時々の状況に合わせて柔軟に変えていくつもりです。
そして、我々のミッション実現は、国内だけに留まりません。世界の77億人から卒業をなくしていきたい。77億人のうち、3分の1はインターネット回線もない人たちです。泥臭いこともやっていかないといけないし、そのための人員もまだまだ必要ですね。
注:インタビューは2020年10月に実施