マンションすべての駐車場に、
EV充電コンセントを標準装備。
やがて来る電気の暮らしを現実に。
集合住宅向けEV充電サービス「WeCharge」を提供するユビ電株式会社。大規模なシステムを低コストで提供できる仕組みをビジネスにしており、大手デベロッパーの開発案件に相次いで採用され、現在はオムロンとの共創で、後付けできる個別充電の普及に向けて実証実験中だ。目下急伸中のEVビジネスに早期から注目し、準備を進めてきた共同創設者・CFOである大西氏に、EV事業への参入のプロセスを訊いた。
ユビ電株式会社
CFO & Co-founder
大西 周平氏
現在のEVの普及と充電サービスの問題点
私たちユビ電は、主に大規模集合住宅に特化したEV向けの充電サービス「WeCharge」というシステムを提供しています。私たちのサービスは、駐車場の全車室に充電コンセントを設置する、という他社にはない特長を持っています。これまで、車室のすべてに1台ずつの充電設備を設置しているマンションはありませんでした。一般に、マンション一棟に1、2台の設備があり、予約をしてチャージをするのが、ほとんどではないでしょうか。2023年5月時点でEVの新車販売シェアは3.72%ほど。現段階では、これでも供給を賄うことができますが、東京都は2030年までに新車販売する乗用車の100%非ガソリン化を発表していますし、急激なEVの増加は間違いないところでしょう。その時、現状のままの充電体制では、EVそのものの拡大を阻害してしまうのは確実です。そこで私たちは、デベロッパーやマンションの管理会社を通して、一気にシステムを導入していただくことを提案しています。長期的に見てコストメリットが高く、さらに今なら地方自治体の助成を受けることができ、国からの補助金を合わせ、導入工事費のおよそ8割を賄うことが可能だからです。
これまでにない視点で低コスト化を実現
現在主に使われているEV充電器には、スタンド自体に様々な機能が備わっています。通信機能やカードを読み込む認証機能など、それはとても高価なものとなります。私たちでは、「WeCharge」のシステムへ接続するプラグ部分を充電コンセントと呼んでいますが、この接続部分には、市販で簡単に購入できる普通のコンセントを使用しています。では、どこで認証や制御を行っているかと言えば、裏の分電盤。この分電盤は、車室1区画につき一つではなく、だいたい20区画につき一つの割合になり、理論上では約200区画まで制御可能です。複数の車室を分電盤で制御することにより、高価な充電器に対して大幅なコストダウンが期待できるわけです。
実は全車室への充電システム設置が注目され始めたのは、この1年ほどのことです。これまでは見向きもされませんでしたが、自動車のEV化に伴いマーケットの需要が大きく変わりました。マンションに入居する方々に対し、「実際にEVを所有したら充電はどうするのか?」という問題が具現化したのだと思います。EVに乗る方が自分専用の充電場所が欲しいと思うのは当たり前のこと。「では、補助金が出るうちに施工しよう」という流れに乗ったのだと思います。
普及させるには「どんどんバラ撒け⁉」
ユビ電の始まりは山口典男、白石辰郎、そして私、大西周平の3名でした。当時、山口と白石はソフトバンクの社員で、私は事業コンサルとして業務をお手伝いしていた形です。2010年、ソフトバンク社内で行われたビジネスモデルコンテストに応募し、結果、見事ダントツトップの評価をいただきました。コンセプトとしては「誰が発電した電気を、いつどこで誰が充電したか、エネルギーがどのように移行したのかをデータ化すればお金になるんじゃないか?」という発想です。もともとEV事業をやろうと思っていたわけではなく、EVが一番マネタイズしやすいと考えた結果です。プラットホームにデータが蓄積されることが価値になり、流れていくデータをビジネスにする。ここは他のEV充電サービス会社とは目的が違うかもしれません。
コンテストで評価され、当時、孫さんから「こういうものは、世の中にどんどんバラ撒け!」と、コメントをいただきました。お墨付きをもらい、GOサインが出た訳ですから、早速、バラ撒く事業化計画書を起こしたわけです。そうしたら予算が100億円になってしまい、そのまま管理部に書類を提出したら「お前らは馬鹿か?」と言われたのは、いい思い出です(笑)。
2019年にユビ電を設立するのですが、それまでは社内の事業部として稼働していました。ビジネスモデルとして成功させるには、最初に挙げた事業計画書通り莫大な資金がないと不可能なのはわかっていましたから、機が熟すまで知見を深めておこうと準備していました。社内の予算と国のプロジェクトに参加することでなんとか進めてはみましたが、社内での理解は得られず予算を確保することさえ困難な状態。このままでは埒があかない、ということで会社の設立を決めました。
オフィス選びのポイントは柔軟性
事業所には初めからフレキシブルオフィスを利用しています。創業当時は六本木に居を構え特に不便はなかったのですが、コストがあまりにも高額なため1年ほどで移転。次に移ったのは、日本橋小舟町です。立地にこだわりはなく、空いていて廉価だったという理由だけです。その後は従業員の増加や、場所の利便性を考えて、やはり渋谷のフレキシブルオフィスへ。確かにランニングコストは高いですが、イニシャルコストはかからないので、私たちのように成長段階の会社が、状況に合わせて選ぶには適していると思います。現在入居しているのは、セットアップオフィスの「BizFlex麻布十番」。こちらも、ベンチャー企業向けに事前に内装をしつらえて貸し出しているものですから、快適な執務環境を低廉なイニシャルコストで確保できるものと考えています。
プラットホームの貸し出しをビジネスに
競合他社が増えてきていますので、この1、2年が勝負になってくると考えています。拠点は東京ですが、営業の拠点は全国に作っていこうと思っていますし、この夏大阪にもオフィスを構えました。現在力を入れているのが、ホワイトレーベル戦略で、提携いただいた企業が「WeCharge」の仕組みを自社のブラントとして販売する、というものです。私たちがプラットホームを貸し出すという仕組みで、提携企業は一からシステムを構築するよりも早く安く導入できますし、私たちは今までアプローチできなかったところにまで同システムを展開することができます。今、東京ガス様が展開している「EVrest」は「WeCharge」と同じものです。もともと私たちは、立派な充電器を販売して粗利をガッツリ儲けるビジネスモデルではないですから、プラットホームを貸し出すことで、デベロッパーやマンション管理会社のみならず、旅行先のホテルや大型商業施設など、全国に展開していくことを期待しています。