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Vol.6 株式会社スタートトゥディ

  • 2006年12月6日

配送センターは対顧客の最前線"カッコよく"するのは当然の帰結

一般的には、暗い・汚いというイメージが付きまとう物流倉庫。だが、煩雑な発送作業が伴う通信販売業において、「物流を制するものがビジネスを制す」との言葉どおり、物流倉庫を顧客との架け橋としてCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の最前線基地と捉える企業がある。今、eコマース業界で急成長を遂げる、株式会社スタートトゥデイだ。最先端ビルにオフィスと"カッコいい倉庫"を併設。既存の配送センターの常識を覆し、さらに社員教育の場としても活用する、「ZOZOTOWN」の運営企業・スタートトゥデイの取締役、山田潤氏に、倉庫運営とオフィスを両立させた独自の拠点戦略についてうかがった。

株式会社スタートトゥディ
取締役 山田 潤

マンションの一室で産声を上げた通販ビジネス

まずはどのような経緯でビジネスがスタートしたのでしょう?

山田:1995年頃、当社代表である前澤友作がバンドを組んでおり、その売り込みで渡米した際、自分が欲しいCDを買ってきてライブで売り始めたのがきっかけです。それを繰り返すうちに反響が大きくなり、「これは商売になる」と、チラシのようなカタログを作り、千葉県鎌ヶ谷にあった自宅を拠点にCDの通信販売を始めたわけです。

個人的な商売からビジネスへの転機はいつ頃だったのですか?

山田:売上が上がるとともに在庫も増えてきたため、98年に(有)スタートトゥデイを設立。事務所兼倉庫を江戸川区の小岩に構えたのが本格的なビジネスへの転機ですね。商材もCDやレコードに加え、バンドのTシャツやスウェットなどを、コネクションを通じて輸入するようになりました。私が参加したのもこの頃で、4名でのスタートでした。

他の通販とは違うぞ、という意識はあったのでしょうか?

山田:自分の好きなものを好きな人に紹介したい、届けたいという気持ちが強かったです。そのスタンスは今も変っていません。

その後、業務内容には変化があったのですか?

山田:以前はカタログ通販でしたが、インターネットの普及をきっかけに2000年1月には「STMonline」を立ち上げ、オンライン通販へシフトチェンジしました。カタログはコストや時間がかかってしまいますが、ネットならメール配信で告知もできるし、サイトもリアルタイムで更新できるので、スピード感がありました。また、同年10月にはアパレル商材を中心としたオンラインセレクトショップ第1号として「EPROZE」をオープン。最初は、「試着できないネットで洋服を売るなんて」と言われていましたが、音楽とファッションは関連が深い、成功するはずだとチャレンジしたわけです。これ以降は、アパレルが完全に主力になりました。

ZOZOTOWN

若者に高い支持を得るネット上のショッピングタウン「ZOZOTOWN」。主なショップは「UNITEDARROWS」、「BEAMS」、「吉田カバン」、「JOURNAL STANDARD」、「WR」等。まるで現実に存在するかのようにネットショップをCGで再現し、そのデザインには、著名な建築家やインテリアデザイナーを起用。商品販売だけでなく、街並みやショップ、商品、情報等を復元的に詰め込み、商品を好きな人が楽しむ空間や情報を提供している。さらに、居住型SNS「ZOZORESIDENCE」により、お客同士のコミュニケーションも生まれている。

現在、ZOZOTOWN・ZOZOTOWER合わせてショップ数76、ブランド数599、月商11億円、月間1億7千万PV。常時取り扱い品目数は約2万点で、毎日500以上の新商品がサイトにアップされる。

臨海副都心「幕張」への進出がさらなる発展の契機に

順風満帆にスタートした後、幕張へ進出することになったのですね。

山田:売上がさらにアップし、同時に在庫も人も増えてきた。マンションではさすがに狭く、移転先を探そうということになりました。その時、現在のWBG(ワールドビジネスガーデン)にあるベンチャー企業支援施設「幕張VCサポートセンター」が、格安でオフィスを貸してくれることを聞きつけ、紹介してもらったのです。最先端ビルですし外見もいい。主要メンバーのほとんどが千葉出身だったこともあり、違和感なく決まりましたね。これが01年1月のことで、スペースは35坪でした。

本社オフィス

幕張のワールド・ビジネス・ガーデン16階に位置する本社オフィス。徹底してこだわった内装の執務空間に、若くファッショナブルなスタッフが集う。

都内のビルは考えなかったのですか?

山田:一応、候補にはしていましたが、都心のビルは家賃が高いし、小さなビルにしか入れない。逆に千葉でも、我々のような若い世代がグレードの高いビルでがんばっていると、箔がつくというか(笑)。

マンションの一室から一足飛びの印象ですが、なにか変わった点は?

山田:それはもう、なにからなにまで違いましたね。一番感じたのは、ビジネス街の第一級のオフィスビルですから、いい意味のプレッシャーですか。仕事にもメリハリが付くし、スタッフを集めるのにも求心力があり、助かりました。

大好きな街、幕張街への社会貢献も会社の使命

01年以降はずっと幕張に。

山田:ええ。VCサポートセンターにいられるのは2~3年で、その後は成長して通常のテナントになることが最初の条件だったため、02年4月の株式会社への組織変更後もそのまま移転しませんでした。06年3月に現在の600坪のオフィスに移るまでに、同じビル内で90坪、150坪のスペースに移り、そのたびに賃料負担は大きくなったのですが、他所に移ることは考えませんでした。

一般的には、成長するにつれ都心の街に移転したがるものですが。

山田:鉄道でも自動車でもアクセスはいいし、海も近いし緑も多い。通販ですから都心である必要性はありませんし、何より好きな街なので、一般にいわれる地域のバリューにはこだわりはまったくなかったですね。

逆に、社員の幕張在住者には手当てが出ると聞きましたが。

山田:幕張手当と呼んでいるのですが、好きな街は活性化させたいし、そこに住めば当然、地元でお金を使うことになり、周辺が潤いますよね。会社としての社会貢献もありますが、やっぱり街が好きだからというのが一番の理由です。

発送業務もビジネスの一部 倉庫がカッコいいのは当然のこと

御社のオフィスのカッコよさは評判ですが、いつ頃からこだわり始めたのですか?

本社オフィスエントランス

山田:会社の設立当初から"こだわるところにはこだわる" 気持ちはあり、家具や机などのインテリアは厳選してきたのですが、会社が大きくなるとともに、オフィス全体にも気を遣い始めました。社員の服装も、スーツを着る必要はないので、TPOに合わせて着たい服を着ているだけです。

オフィス空間を作り込むにはかなりコストがかかると思うのですが。

本社オフィスの会議室

山田:出勤すれば、だいたい1日の3分の1以上は会社にいるわけで、もしかしたら自宅にいるより長い。そして、社員は家族のようなものですよね。その家族と過ごすのですから、できるだけいい環境を作りたいと思っているのです。机のレイアウトや全体の意匠にはスタッフの声も反映させて、居心地をよくするように心がけています。

配送センターもオフィス同様のカッコよさを求める理由は何ですか?

山田:基本は、営業も物流もそこで働く人は同じメンバーだということ。例えば、オフィスと倉庫が離れ、オフィスはきれいなのに、倉庫だけ汚なかったらモチベーションが下がってしまうでしょう。我々にしてみれば、単純に会社の一部だからカッコよくすべきだと思うし、なぜ他社さんがコストをかけないのかが不思議なくらいです。

ただ、あえてオフィスの一角を倉庫にしていた理由はなんでしょう?

山田:もともとは、好きなものは傍においておきたい、近くにあれば安心できるし、離しておく必要もないという単純な発想でした。ですが、近年はそれだけでなく、コストをかけてもお金には変えられないものがあると感じています。

具体的にはどのようなことなのでしょう?

ミーティング風景

山田:社員教育にも有効であるということがわかったからです。まず第一に、受注からお客様に届くまでの流れが見えることで、感謝の気持ちが湧くという効果もあります。それは「ロジスティクスを制するものはビジネスを制する」といわれるとおり、物が流れてお金が入るというビジネスの根本を理解する上でも重要なことだと思います。ですから当社では、どの部署で採用した新人社員であれ、できるだけ配送業務は経験させてきました。そうすることで、例えば経理では、どこでヒューマンエラーが起こりやすいか、どの工程をチェックすれば確認できるかが実感として理解できるといったメリットがあります。

商品発送が業務全般と密接に関連しているということですね。

山田:そうです。それにeコマースで取り扱う数多くの商品に直接触れる分、一般の路面店舗よりも、はるかに多くの情報が入ってきます。お客様に一番近いため今のトレンドやニーズが把握しやすいのです。当社は買取で販売をしている商品も多くあるため、売れ筋がわかり、バイヤーにとっては仕入れロスが少ない。加えて、必要な情報を何時でも取り入れられ、しかもマーケットニーズをどう反映させるか意見があれば、その場で言い合える。これが強みであり、CRMの最もダイレクトな手法になっているのです。

買取分を少なくして、在庫を減らそうとは思わないのですか?

山田:我々は、WEBの中にバーチャルですが「ZOZOTOWN」という街を創ろうとしています。街である以上、お客様が何時でも買えるようにストックを持つことは不可欠だと考えているので、在庫は減らせません。

オフィスビルは物流拠点には向いていないと思いますが弊害は?

山田:エレベータが共同使用なので、作業に時間がかかるとか、ドアが小さくて台車が出しにくい、一時保管できるスペースがないなどの弊害はありますが、それでも商品は傍に置いておきたいというのが正直な気持ちですね。

発展に向けた苦渋の選択 いずれは自社ビルも視野に

それだけ重視していたのに新物流拠点を外部に作られたそうですが。

山田:ええ。06年8月に、約1,000坪の配送センター「ZOZOBASE」をオフィスの近くに確保しました。当社の在庫量がビルワンフロアほどにもなってしまい、保管スペースがなくなってしまったのです。増床も検討しましたが、作業効率やビルや他テナントへの迷惑を考えた上での苦渋の決断でした。

作業状況や雰囲気に変化はありましたか?

山田:内装もファッショナブルで 以前と変らない雰囲気を保っているので賑やかで活気にあふれています。

モチベーションを含め倉庫運営で気をつけていることはなんですか?

山田:常にお客様を考えて仕事をしろといっています。物流は会社と顧客の架け橋。例えば、汚れた商品が届けばお客様は不快になり、悪い評判が立つのはもちろんです。ですから、社員には常に訴えかけており、今後は、10か条の社訓のようなものを壁にかけようと思っているぐらいです。 また、「ZOZOBASE」新設を記念してTシャツをつくったのですが、その中に「We deliver smiles all over the world(世界中をかっこよく、そして世界中に笑顔を!)」という会社のスローガンとともに、社員全員の名前を文字の中に盛り込みました。「ZOZOBASEはみんなで支えているんだ」という意識とともに、物流の重要性をアピールしています。

ZOZOBASEでの作業風景

これを機に物流の分離が進むということは?

山田:いいえ。現在は今後の事業の拡張を見据えた上での暫定的な措置、つまり成長の過渡期だと捉えています。ですから、将来的には自社ビルも視野に入れながら、もう一度、オフィスと倉庫を同じ場所に集約したいと思っています。例えば黒のユニフォームを揃え、さらに業務全体の一体感を強調したいですね。そうした統一感から、当社になにか別のものが生まれる可能性があると思います。

オフィスと配送センターの共存こそが競争力の源泉ということですね。本日はありがとうございました。

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上記内容は オフィスジャパン誌 2006年冬季号 掲載記事 です。本ページへの転載時に一部加筆修正している場合がございます。

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