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株式会社オルツ| 成長ベンチャーに訊く

ケーススタディ

2021年7月27日

AI事業の分野に、独自開発のデジタルクローン技術によるP.A.I.(パーソナル人工知能)で立ち向かうオルツ。従業員一人ひとりが、自身のライフスタイルに合わせた業務環境づくりに取り組むことを宣言した同社が行き着いたのは、完全リモートワークの確立だった。新型コロナウイルス感染拡大以前から在宅勤務を推進した、その理由と軌跡をうかがった。
代表取締役 米倉 千貴 氏

体裁へのこだわりや無意味なルールを排除。
自分たちにとってのワークスペースとして
何が最適かを突き詰めることが、
創造性と効率、そして成果を最大化する。

株式会社オルツ
代表取締役
米倉 千貴

株式会社オルツ

AI分野のパイオニアとして、業界をリードするベンチャー企業

オルツは個人のデータを集積して作り出すデジタルクローン技術によるP.A.I.(パーソナル人工知能)の研究開発を通じて、様々なソリューションを提供することを目指しています。具体的には、例えばあなたのTwitterやFacebook、LINEなどのSNSでの音声やチャットのデータをクローンエンジンに接続し、個人のクローンを作ることで、質問者からのクエリに自動的に回答する「Nulltitude」があります。その他、これに付随したAIソリューションとしては、2020年1月にローンチした、35の言語に対応するミーティングの音声を認識して自動的にテキスト化する「AI GIJIROKU」。同12月にリリースした、カメラの映像にリアルタイムで翻訳をかけて、表情やしゃべり方、内容を35の別言語に切り替える「AI通訳」などがあります。

私はこれまで、2003年の他社ITサービスのプロデュース代行企業を皮切りに、三つの企業を立ち上げてきました。その中でAIに興味を持ったのは、3社目の社長をしていた時です。毎日、10名程度の応募者とチャットで面接していたのですが、そのやり取りがルーティン化してきたことで、これを自動化できないかと考えたのです。そこで研究を重ね、社員には内緒でそのBotを試したところ、本人が対応していないことに誰も気づかなかったのです。それがAIにのめり込むきっかけでした。

そこで、それまでの事業を売却し、AIのビジネス化に取り組み始めたのです。この分野には、すでにGoogleやAmazonなどの大手IT企業が参入していましたが、対抗できる目算は立っていました。と言うのも、大手IT企業が開発するのは自社が勝者として利益を上げるための手段ですが、当社が手がけているのは個人の作業を代替してくれるクローンであり、目指している方向性がまったく違うのです。また、この領域を専門とする研究者が、ビジネスとして取り組める環境が整っていませんでした。現実が、彼らの研究成果に追いついていなかったのです。つまり日本はもちろん、広くアジア全体でくすぶっている彼らに活躍の場を提供すれば、すごいものができるという確信があったのです。

まずは横浜のみなとみらい21にあるシェアオフィスで、私一人で準備をはじめ、カタチが整い始めた段階で、現在の副社長と常勤監査役の2人を正式に招聘し、オルツをスタートさせました。2014年11月のことです。

自由な開発者にとっての快適なワークスペースの模索

株式会社オルツ

会社設立にあたり、最も苦労したのがベンチャーキャピタルとの交渉でした。これまで立ち上げた3社は、いずれも自己資金で運営してきたのですが、今回は個人の資金で何とかなるような規模ではありません。ですから、最初から投資家を集めようと考えていたのです。そのため、前の会社に出入りしてくれていたベンチャーキャピタルの方に、「次はよろしくお願いします」と事前に声をかけており、比較的早く話が進みました。ですが、実際には苦労したのも事実。ファイナンスに携わる方々との付き合いがなかったため、その文脈の違いに戸惑いました。ビジネスにおける言葉や感覚、リズム感のすべてが違っていたのです。

例えば当社は創業の際、お台場のthe SOHOというコワーキングスペースに移転しました。マシンラーニング用の大型コンピュータが必要だったのですが、騒音と熱風が凄まじいため、みなとみらい21のシェアオフィスでは収まらなかったからです。

オルツを設立する前、私は一時期、アメリカのサンフランシスコにいたのですが、同地のシェアオフィスには有名な大企業が普通にそこに存在し、尊敬する社長が、一般の社員とともにそこで働いていました。調度品も一般家庭にあるような気取らないもので、こうしたおおらかで気楽で飾らない雰囲気こそが、自由な働き方の具現化に見え、この感覚をそのまま新会社に持ち込みたいと考えていたのです。the SOHOは、海が一望でき、ラウンジやカフェ、コンシェルジュ付きでフィットネスジムやシャワーまで完備しており、理想に近い環境で気に入っていました。我々の仕事はひたすらPCに向き合う開発だからこそ、静かで気分転換しやすい場所が最適なのです。

また、当社には社員のエンジニアのほかに、研究に賛同して参加してくださる研究者が、国内外を含めて数多くいます。彼らの多くはいわゆる普通の企業勤めではなく、自ら選んで自宅を仕事場としている人です。その彼らが東京に来た時、私がサンフランシスコにいた時と同じように、気軽に立ち寄りたいと思える、感動できるオフィスであることが重要なのです。言い換えれば、各人の自宅を超えるような落ち着きとリラックスができる場であるべきなのです。交通利便性など二の次でした。その意味で、お台場を選んだ理由を「海がキレイだから」と表現しても、投資家の方々には通じません。「なぜこんな辺境の地に?」「仕事をするのに不便では?」という彼らの質問に、これまで自由にやってきた私にはなかなか説明責任を果たすことができませんでした。

当初は20坪くらいのスペースでしたが、10名ほどになったので移転を考えました。コーポレートスタッフが増えたこともあり、場所の選択は総務の担当者に任せたのですが、彼が選んだのはJR浅草橋駅から徒歩5分ほどの普通のオフィスビルでした。そこに4年ほどいる間に20名ほどになり、手狭になったので新たな拠点を探しました。今度のオフィス選択は営業部長に任せたのですが、交通の便を重視したと言って選ばれたのは地下鉄六本木駅から徒歩1分のオフィスビルでした。浅草橋も六本木も、彼らにとっては良い場所かもしれませんが、研究者が集う「憩いの場所」という意味では失敗で、当社のオフィスのあり方を改めて考える、いい機会になったと言えるでしょう。

常識という名の非常識を打破し、自分たちにとっての最適解を追求

株式会社MFS

過去の2度の移転経験から学んだのは、自社の業態に合った場所や働き方とは何かをよく考え、一度決めたら意志は変えない方が良いということでした。一般のイメージに捉われた体裁にこだわったり、ルールに縛られると様々なミスマッチな空間ができることになる。そしてそれは、より大きなミスマッチを生み出す原因となるのです。それぞれの会社には、体質とか方向性などにあるべき姿があって、それに則さないものは淘汰されていくと思います。

現在、当社には約30名の社員がいますが、本社機能があるのは六本木のコワーキングスペースで、昨年の2月、つまりコロナ禍の前からフルリモートに移行しました。社内外の開発者は在宅勤務が多く、自分の好きな調度品に囲まれて快適に仕事をしています。もちろん、子供の声がうるさくて仕事に集中できないというスタッフのためには別の空間が必要ですが、家の方が仕事はしやすいというメンバーが多いのです。元々、高度な技術を持った個人の集まりのような集団ですから、一般的に言われる日常的なコミュニケ―ションはそれほど重要ではなく、Zoomの方が効率的で、これに勝る手段はありません。もう、積極的な採用をする必要はありませんから、立地やオフィスグレードによる求心力は不要ですし、新人社員教育のためのスペースも無駄なのです。ですから当社にとっては、リモート環境こそがベストであり、オフィスは登記のための場所で、たまに印鑑を押すために来るぐらいが丁度いいのです。この体制は、これから事業や売上がどれだけ拡大しても変わらないでしょう。

今後は、この完全テレワークの環境をさらに追及していきたい。例えば肩がこらない椅子とかを、会社の推奨商品として提供することも、本気で考えています。オルツは2017年「TOKYO働き方改革宣言企業」に認定されています。当社のAIソリューションはもちろんですが、働き方に対するメッセージにも注目していただきたいですね。

上記の記事の内容は BZ空間誌 2021年夏季号 掲載記事 掲載当時のものです。

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