私たちの暮らしになくてはならない社会インフラの一つ「物流」。
経済活動の始点である「生産」と終点である「消費」の間を繋ぐこのシステムによって、私たちの暮らし、そして日本、世界が支えられていると言っても過言ではありません。
つまり、物流を考えることは、私たちの未来を考えることになります。
この連載では、世界100カ国以上で事業用不動産サービスを展開するCBREグループの日本法人であるシービーアールイー株式会社が、日本国内の注目すべき物流用不動産をご紹介しつつ、そこから見える私たちの未来を考えていきます。
「新A棟」https://www.trc-logistics-building-a.jp/
連載の第四回目は、東京都大田区平和島にひとつの「街」を形成している、三菱地所グループの「東京流通センター」に伺いました。東京流通センター(以下、TRC)といえば、首都の一大物流拠点であり、日本を代表する物流拠点のひとつですが、そのうちもっとも歴史のある旧A棟が現在、建替えの真っ最中です。
竣工から50年を経て建替えに至った経緯、そして次の50年をTRCはどう見ているのでしょうか。
東京、そして日本の物流拠点としての誇り
― 小山さん、今日はよろしくお願いします。まずは、今回建替えとなる「旧A棟」を中心としてTRCの歴史についてお聞かせください。
小山氏:はい。TRCがこの大田区平和島に物流拠点を構えるに至った経緯には、まず1960年代の高度経済成長による首都圏への人口集中、それにともなう物流ニーズの高まりがあります。当時は、トラックなどが幹線道路に集中することによる渋滞といった 問題もあったそうです。
そういった問題を解決するために制定された「流通業務市街地の整備に関する法律」の施行にともなって、東京都から「南部流通業務団地」として倉庫やトラックターミナルなどの物流関連施設しか建てられない専用エリアに指定されたのが、現在TRCが立地しているこの場所です。
― なるほど。そういった経緯で、この地で50年以上の長きに渡って物流関連事業を運営されてきたのですね。
小山氏:そうです。TRCは設立当初から倉庫を中心として、オフィス、展示場の運営・管理をしています。
1971年に旧A棟、センタービル(オフィスビル)、第一展示場、1973年に旧B棟、そしてそれらに続く形で第二展示場、アネックス(オフィスビル)、C棟、D棟が竣工して、今の形になっています。また、2016年には三菱地所株式会社の連結子会社となり、三菱地所グループの一員として現在に至ります。
― そしてこの度、竣工から50余年を経て旧A棟が建替え中ということですね。
小山氏:はい。竣工当時、旧A棟は日本全体で見ても一流の倉庫だったと思っています。そのまま今の物流業界でも通用する部分はあるでしょう。しかし、また次の50年もこの東京と日本の物流を支えていくことができる「最良のスペック」を備えた倉庫にするため、建替えを進行中です。
歴史の蓄積と顧客視点を活かした構造
― 今回の旧A棟建替えよりも前に、旧B棟は2017年竣工で建替え済みですが、そこから学ばれたことも多いのでは?
小山氏:旧A棟の建替え計画には、旧B棟建替えで得られた知見を取り入れて、さらに進化させています。
小山氏:特に近年、お客様が求められているのが「安心・安全」です。
BCP(※ Business Continuity Planning:事業継続計画)の観点からも、免震構造については新B棟と同様に採用しました。さらに水害を考慮し受変電設備を2階に設置、また、台風対策で外装材の風荷重を建築基準法で定める値以上の設定としています。
― 働く人の安全という点から「歩車分離」を徹底しているのも、今のニーズに合わせた構造ですね。
小山氏:マンションの外廊下のような「歩廊」に加えて、建物の四隅には専用エレベーターも設置し、人がトラックの通る場所を歩くことなく各区画へアクセスできる構造になっています。
また、万が一のトラブルの際にはTRCの専門スタッフがすぐに駆けつけられる体制も整えています。これは、特にお客様にご安心頂ける点ですね。
― TRCの専門スタッフが常駐しているということですか?
小山氏:そうです。これはなかなか、他に例を見ない体制だと思います。先日も新B棟で法定による全館停電作業を行いましたが、TRCの技術スタッフが待機して、万が一お客様にトラブルがあった際には急行できる体制を整えていました。
― きめ細かいフォロー体制まで含めての「最良のスペック」という考え方ですね。
小山氏:はい、おっしゃる通りです。フォローといっても、今お話したようなアフターフォローに限りません。入居時のテナント工事でもTRCのフォロー体制は群を抜いたサービス体制を整えていると自負しています。
たとえば、新A棟では全ての区画に天井インサート(※1)を設置し、なおかつパイプシャフトに隣接させることで空調設備、事務所区画の形成などの造作がしやすい仕様としたほか、全区画で給排水対応が可能なように設計しています。 これまでのお客様からの要望や経験から、あらかじめテナント工事内容を想定し、設計段階から準備をすることで、お客様の工事コスト軽減と工期の短縮につなげているのです。
― なるほど。他には新A棟で取り入れられた新しい工夫はありますか?
小山氏:大田市場が近いという立地特性から冷凍・冷蔵倉庫のニーズが高いのですが、そうしたお客様向けに1階の倉庫では通常バースの高さが1.0mのところ、0.8mに設定しました。冷凍・冷蔵設備造作時における0.2m程度の断熱層設置を考慮したもので、より倉庫内を効率的にご活用いただきたいという思いに基づいています。
このように、長年培ったノウハウを織り込んでお客様が新しい物流拠点で希望することを可能な限り実現させていくための助けをさせていただき、さらに専門スタッフが常駐して入居後もサポートする。快適に、そして効率的に利用できることが新A棟の大きな特徴です。
― 歴史の積み重ね、その中で蓄積した顧客の声を活かして計画されたのが、新A棟だということですか。
小山氏:そうです。ただ「箱」として倉庫を貸すに留まらない、TRCならではのサービス、そしてお客様が理想とされる倉庫を提供すべく知恵を絞って計画してきました。
新たなニーズに応える「超小区画からの賃貸バリエーション」とラストワンマイル
― フロアプランを拝見していて気になったのが、2階の小区画エリアです。
TRC新A棟には、都内有数の広さを誇る1フロア7,800坪の大区画から、2階北側の一角にあるように145坪と超小区画エリアまで設けられている。
小山氏:145坪と、都心エリアの倉庫の中でも特に小さい「超小区画」と言ってもいい倉庫を用意しています。特にスマート物流系のスタートアップ企業様や精密機器、IT関連機器、医薬品など比較的小型で高価な製品を扱うお客様より多く関心を頂いています。
― 立地の良さも活かせますね。
小山氏:はい。たとえば精密機器のお客様は、製品やパーツの保管をされる場合がありますが、その配送先は都内に集中している上、緊急配送のニーズも高いことから、物流拠点を都内に構える必要があります。
郊外の倉庫であれば1日1往復しかできないところ、TRCであれば平和島ICまで約5分、環状7号線が至近という立地なので、複数回の配送が可能です。 もちろん精密機器に限った話ではなく、食品のお客様にも大きな強みとなりますので、ビジネスの拡大に一役買えるはずです。
また、TRCは羽田空港まで車で約15分の場所に立地しているため、全国配送のお客様にも評価頂いています。他の倉庫と比べると、受注締め切り時間を1~2時間遅く設定することができたというお声もあり、これもお客様にとって大きな強みになるはずです。
― 「ラストワンマイル」から全国配送までカバーできるわけですね。
小山氏:はい。一般的に「ラストワンマイル」という言葉を使うときは「BtoC」がイメージされると思うのですが、「BtoB」にもラストワンマイルのニーズはあります。
先ほどお話しした精密機器のお客様は言うまでもなく、医薬品、アパレル、食品など、ありとあらゆるものの消費中心地である東京はもちろんのこと、羽田空港も近いとなれば、その可能性はさらに広がっていくでしょう。
単なるアメニティに留まらない、TRCという「街」
― 最近の物流施設は、アメニティにも力を入れていますよね。TRCはいかがでしょうか。
小山氏:働きやすさという点では、まず駅から徒歩でアクセスできるというだけでも特筆に値すると思います。TRCの敷地までは流通センター駅から徒歩1分ですからね。
アメニティの面で言えば、ここTRCは1つの「街」として機能していることがポイントでしょう。24時間営業のコンビニは夜間勤務の方にとって嬉しい施設の1つとして評価頂いていますし、郵便局、レストラン、喫茶店、診療所、歯科、ATMなどのサービス施設も敷地の中にそろえています。さらに、新A棟ではコインシャワーも設置する予定です。
一例ですが、倉庫の一部をデモルームにしているお客様であれば、招いたクライアントと敷地内でそのまま会食することもできます。
1つの倉庫に付けられるアメニティは限られますが、これだけの規模の「街」を形成しているTRCには、他では体験できない便利さがあるはずです。
― なるほど。なかなか真似できるものではありませんね。その上で、新A棟に新設したものなどあるのでしょうか?
小山氏:TRCの「街」としての価値が上がるような、時代の流れに応じた新しい設備も新A棟には多く備えています。
たとえば、EV充電スタンドや壁面緑化といった環境に配慮した設備は新A棟の大きな特徴でしょう。オールジェンダートイレも、これまでの倉庫ではあまり見ることのなかったものですが、より快適な労働環境を考えて新設しました。
小山氏:また、屋上にはお客様の従業員に憩いの場としてご利用いただけるアメニティスペースも設けています。
TRCが見る「次の50年」は?
― では最後に、新A棟が支えていくであろう、物流の「次の50年」はどうなると考えていらっしゃるか、お聞かせください。
小山氏:「物流」の本質的な部分は変わらないと思っています。
倉庫内作業の自動化や、一部ではトラックからドローンなど次世代型の輸送手段へ置き換わるなど、時代に合わせた様々な変化は起こりうるでしょう。それでも「物流」という人から人へモノが動くという行為は無くなりません。
消費のニーズがあれば、そこに物流のニーズは必ず生まれます。モノが生産されれば、それを保管する倉庫も必ず必要になります。これは不変であるはずです
一方で、前述の通り物流業界ではマテリアルハンドリング(※2)やシステム等が日々進化をし続けていることも事実です。
そこで、TRCでは物流に携わる方々が抱える課題解決に向けて、何か当社から発信はできないかという思いから「TRC LODGE」という物流TECHを集積したショールームを設けています。
たとえばAIによる配車システムや在庫管理システム等といった省人化・効率化に資する物流TECH企業様の出展や、SDGsやBCP対応などを含む物流業界の課題解決の場を提供しています。
お客様の理想とされる倉庫の提供、並びに物流テックとの両輪によって、お客様をサポートしていきたいと考えています。
(ショールームイメージ 「TRC LODGE」https://www.trc-lodge.jp/)
次の50年も東京と日本の物流を支えたい。その思いをもって、これから新しく生まれるニーズにも耐えうるよう、考えられる限り最良のスペックで倉庫をご用意することを真摯に考え、計画したのが新A棟です。
― 今日は大変興味深いお話、ありがとうございました。完成が楽しみです!
※1 天井インサート:空調や部屋の仕切り壁を設置するために天井面のコンクリートに固定するボルト受けのこと。通常は入居時に必要に応じてインサート敷設工事を行う必要があるが、TRCの新A棟では標準で設置されている。
※2 マテリアルハンドリング:物流業界において、倉庫内での物資(材料・製品など)を運搬すること全般を指す言葉。「マテハン」と略されることが多く、フォークリフトやソータ―(自動仕分機)、ベルトコンベアなどを「マテハン機器」と呼ぶ。