事業間のシナジーを生み出し、新たな領域へチャレンジ。
いつもを支える。いつかに挑む。
2025年2月、2030年度末までの成長戦略である経営計画[2025-2030]を発表した三菱倉庫株式会社。社会や暮らしを支える物流事業と不動産事業を展開してきた同社だが、その新たな成長戦略のもと、組織体制を改編。グループ資産の価値向上に向け、CRE部を立ち上げ、2030年度にはROE10%達成を目指すという。成長戦略の柱として、「物流不動産ビジネスへの参入」「海外不動産ビジネスへ進出」「資産回転型ビジネスへの本格参入」を掲げ、不動産事業の進化に挑むという三菱倉庫。CRE担当役員の取締役 常務執行役員 山尾聡氏と、不動産事業担当役員の常務執行役員 向井隆氏に、成長戦略や展望をお聞きした。
経営計画[2025-2030]を掲げ、非連続な成長を実現する
倉庫業を祖業とし、138年の歴史を有する三菱倉庫。時代の変化とともにその活動の舞台は広がりを見せ、現在は倉庫業、国際輸送、港湾運送を担う物流事業と、オフィスビル、商業施設、マンションの開発を手掛ける不動産事業を、事業の両輪としている。
今年2月には、2025年度から2030年度末までの経営計画[2025-2030]を策定。2019年3月公表の「MLC2030ビジョン」も発展的に見直し、そのビジョンを、「トータルロジスティクスと街づくりを世界で展開し、社会のいつもを支え、非連続な成長を実現する」と再定義した。これらの方針のもと、物流事業と不動産事業のシナジーをより一層高め、2030年度には事業利益630億円程度を目指すという【図01】。
※【図01】2024年度の構成割合はベトナムITL社のれんの一括償却額を除く
6年をまたぐこの成長戦略に伴い、経営基盤の強化を目的に社内の組織体制も改編。コーポレート部門には、工事管理や施設管理などの専門職部隊であった従来の工務部に、ファイナンス分析機能を付与するかたちで、今年4月にCRE部を開設。三菱倉庫およびグループ全体における、資産の価値向上に取り組む部門とした。
三菱倉庫が関わるマーケットを見ると、物流業界では、過当競争や多重下請け構造のほか、2024年問題に起因する拠点の再配置やサプライチェーンの再構築、カーボンニュートラルといった環境対応など、課題が山積。加えて、外資系企業や異業種からの参入も増え続けている。一方、不動産業界も同様に、資材費や人件費など、建築費の高騰が叫ばれて久しい。もちろん、顧客側の視座も高まってきており、トータルで見渡した時に何が最良のソリューションとなるのか、それぞれの業界や立場で模索が続けられている。
「これまではモノの動きがあるところに我々のビジネスがあったわけですが、昨今は、できるだけ動きが生じないような拠点の配置やルートの選択が求められるようになったと感じています。そのような状況に対して、ただ受け身になるのではなく、改めて物流と不動産のシナジーを高め、会社を活性化していくのが、今回掲げた成長戦略です【図02】。
※【図02】2024年度の構成割合はベトナムITL社のれんの一括償却額を除く
当社の不動産事業は60年以上の歴史がありますが、これまでは物流用地を他の用途に再開発することはあっても、基本的に物流事業には関わらないスタンスでやってきました。それを今後は会社の総合力としてシンクロさせ、不動産事業の観点も織り交ぜた物流事業を国の内外で進めていく。それが当社のCRE戦略、つまりは資産の活用効率の向上にもつながると考えています」(山尾氏)
“3つの柱”を掛け合わせ、国内外でビジネスを展開していく
三菱倉庫は、経営計画[2025-2030]の成長戦略のひとつを「不動産事業の進化」とし、次の3つの柱を掲げている。それは「物流不動産ビジネスへの参入」、次に「海外不動産ビジネスへ進出」、そして「資産回転型ビジネスへの本格参入」だ。このどれかに比重を置くのではなく、この3つを掛け合わせるかたちで、今後のビジネスを進めていきたいという【図03】。
今年5月には、この3つの柱をマッチさせた三菱倉庫初の海外不動産開発プロジェクトとして、タイ・バンコク近郊で物流施設「バンナKM23プロジェクト」の開発に取り組むことを発表【写真01】。
現地の不動産デベロッパーであるSena Development Public Company Limitedとの共同事業で、合弁会社も立ち上げた。完成した施設は一定期間リーシングした後、最終的に売却し、資産として流動化させるという。「このプロジェクトで弊社は賃貸倉庫のリーシングも担当し、物流不動産ビジネスへ参入することになります。タイでは、以前から現地法人のMitsubishi Logistics Thailand(MLT)が物流事業を行っていますし、その知見を活かしたリーシングに対するサポートも得られることになります。物流施設をつくり、満室で運営し、売却をする。経営計画で掲げた3つの柱を融合したこのようなビジネスを、今後、国内外で展開していく予定です」(向井氏)
海外展開としては、タイを含むASEAN加盟国のほか、北米など、すでに三菱倉庫の拠点があり、現地の物流ノウハウや顧客情報を数多く持っている国を優先。物流のみならず、住宅やオフィス開発なども含め、利益の見込めるアセットを増やしていくという。一方、国内では、すでに複数の物流不動産を取得。選定に際しては、不動産事業と物流事業の知見を活かすことで、資産としてより大きな利回りが見込めるものを選んだという。
また、三菱倉庫はこれまで手掛けてきた「神戸ハーバーランドumie」【写真02】や「横浜ベイクォーター」【写真03】のような自社で保有する倉庫跡地の開発に限らず、昨年オープンした「神戸須磨シーワールド」【写真04】など、他社との協業プロジェクトにも積極的に参画。「現在、当社のアセットで動いているプロジェクトについては、CREの観点を反映していますが、今後は工事費のさらなる高騰などを受け、再開発の成立性や採算性が見込めないケースが生じることも否めません。また、我々の所有する土地にも限りがあるため、自社のアセットに限定せず、既存の施設などに関与していくことも視野に入れています。資産回転型ビジネスへの本格参入のため、2027年度を目途に300億円規模の不動産ファンドを組成し、保有不動産だけでなく新規物件も含めたアセットマネジメントビジネスにも取り組み、2030年度までには800億円まで資産規模を拡大することを目指しています」(向井氏)
あらゆる“資産”をフル活用し、三菱倉庫という企業を活性化する
CRE戦略を進めていくにあたり、三菱倉庫はまず、物流事業と不動産事業、さらには各支店など、それぞれで管理していた土地や施設を、新設したCRE部で一元管理することにした。物流施設には社内賃料を設けるなど、グループ全体のアセットの財務的な価値を明確化し、資産を適正に維持管理していく体制に組み替えたという。そのように体制を整えた上で、2030年度の財務目標達成に向けて動き出した。経営計画[2025-2030]では、この6年間の成長に向けた投資として4,750億円を計上。そのうちの3、4割ほどを海外の物流事業と不動産事業に振り分けるという。
この成長戦略のもと、不動産事業や物流事業におけるDXにも注力し、スタートアップ企業との協業で現場のオペレーション改革やサービスの強化を進めているとも。一昨年には、コーポレートベンチャーキャピタルを立ち上げ、総額50億円の予算を計上したという。「会社として新たな挑戦をしていくことは、若手の社員にはもちろん、三菱倉庫の仕事に固定観念を持つ社員にも刺激になるはず。さらに新しいビジネスアイデアが生まれるきっかけになるかもしれません」(向井氏)
倉庫業に始まり、物流を手がけ、物流事業と不動産事業のシナジーのもと、新たな領域へチャレンジしていく。これまでは三菱倉庫のそのような姿が、社の内外に伝わりにくい側面もあったというが、今後はアピール施策にも力を入れ、個人投資家からも注目されるような成長著しい企業を目指したいという。
「三菱倉庫の138年の歴史の中で、実に様々な資産が蓄積されてきました。CREの観点で見れば、我々がベストオーナーと思えるアセットは引き続き自社で有効に活用し、そうでなければ手放して利益をより稼げる別の資産に入れ替えることを考えていかなければなりません。また、目には見えない資産として長年の知見とノウハウがあり、顧客との関係もまた資産と言えます。それらも含め、資産をフル活用しながら、三菱倉庫という会社を活性化していきたいです。古いものを整理しながら新しいことに取り組み、2030年に向かって、新陳代謝の6年間になるのではないかと思います」(山尾氏)

![【図01】経営計画[2025-2030]の位置づけ](https://image.cbre-propertysearch.jp/img/images/real_estate_strategy/mitsubishi_zu_01.jpg)













