“言うは易く行うは難し”の社風改革
日本社会の多くの組織で「働き方改革」が花盛りです。 残業削減、ワークライフバランス、有給休暇取得促進、同一労働同一賃金、子育て支援、リモートワーク...等のスローガンが唱えられていますが、本来は、そうした取組施策を議論するだけではなく、組織で働く人々にとって、価値創造活動としての「仕事の意味」や「働く意味」、そして「生きる意味」にも意識を向ける事が大切です。
また、社会常識的な「就業」とは何か、「働く」とは 、そして、会社員になる意味を「雇用・被雇用」という視座から考察することも重要です。
「働き方改革」の原点は、それぞれの組織が持つ「風土」、つまり組織集団の暗黙的な意識や、歴史がつくり上げてきた特有の常識感、さらには、「組織の流儀」や「組織内価値観」といった組織の内的集団意識を変える「組織経営の意志」です。
組織の内的集団意識を変革してゆくには、「組織風土」や「組織プラクティス」そして「組織意識」をいかに変えていくか、という明確な戦略と戦術を持つことが大切です。
しかしながら、言うは易く行うは難しであり、「どうやってやるのか!」はなかなか明確な答えがありません。
体育会的という悪しき風土が創造力を潰す
そこで、まずは組織集団の意識特性を考えてみたいと思います。
「組織風土」とは、組織が持つ「暗黙の知的習慣」です。「組織のプラクティス」とも言えます。「組織風土」に類似した概念に「組織文化」という概念がありますが、私は「風土」とは人間社会(集団、組織等)において、無意識の「習慣」によりつくられている事に対し、「文化」とは、組織が意図的に構築してゆく組織の「人格」であり組織の「魂」的なものと思っています。
「組織風土」は「社風」と言われる事もあります。“ジェネレーションギャップ”で象徴されるように、世代毎の価値観差や仕事観の違い、そして暗黙的に申し送りされてきた“伝統”と勘違いしている悪しき慣習を、ベテラン世代が若い世代に押し付け「服従」させる雰囲気が「社風」を作り出す一面でもあります。
もちろん、良き伝統を適切に世代送りできている素晴らしい組織もありますが、話題に上る企業では、いわゆる「体育会的」とか「軍隊のような...」といった個への尊重が欠ける「命令・服従」の風土があるようには感じます。
一例を挙げてみましょう。
私がコーチングをしている、ミレニアル世代の営業担当者のケースです。
この方は、大手企業で営業職を10年の中堅どころの方ですが、営業ノルマ達成至上主義の会社で、数字が未達成の状況では、昼食すらもとらせずに、上司から叱咤激励のハラスメントオーラが漂い、特にジェネレーションX世代上司は、「俺は〇〇だ! お前たちは数字が出来るまで死ぬ物狂いで働け!さもなくば......」と言ったスタイルでチームマネジメントをしています。
日常的に怒声を発し部下を威嚇する言動は、「レッド組織」と呼ばれる恐怖で支配する組織そのものであり、いわゆる「体育会風土」と呼ばれる典型的なケースです。
人は、このようなプレッシャーに晒されている風土では与えられたことを「処理」してゆくはできても、「自立的創造力」を発揮できません。
よそを知らないと難しい、組織の意識改革
部下の強みや努力を認め、適時に褒め称えながら心の炎に火をつける事でやる気を誘発し、部下が予算達成をした時は、共に喜び、共に励まし、一層の成果を上げるマネジメントスタイルへの変革、言い換えれば「組織の意識変革」が「働き方改革」の本義とも言えます。
しかしながら、人事部門や経営者から「組織の風土を変革したいけど、なかなか難しいんです」いう話しをよく聞きます。また、現場のマネジャーには、「そんな事は理想に過ぎない。人は恐怖心の環境下でしか本気を出さない」と思っている管理職がまだまだ多いのも現実です。
アメリカンフットボールの話題は正に象徴的です。
では、どのようしてゆけば風土を変え「組織集団意識の変革」に繋げていけるのでしょうか。
私が取り組んできた「場」つくりの視点は、働く人々が、働く環境下で常識と思い込んでいる「習慣」を変えてゆく「仕掛け」をいかに創り出すか、との認識があります。
ダライ・ラマの言葉に
『絶えず慣れ親しみ、訓練する事で、簡単にならないものはない。訓練を通じて人は変わる事ができる。私たちは自分を変えることができる。』
そして、古アリストテレスの言葉
『人間とは、その人が繰り返し行っていることそのものである』
と古代から示唆しています。
集団や組織の「習慣」を演出していく事が、良き風土を創り出し定着させる有効な手法の一つだと思います。
ただし、一つ示唆しておくべき大切なポイントがあります。
「組織集団意識変革」は、自組織しか経験の無い内的人材のみで取り組んでも限界があるということです。多様な組織風土で働いた経験を持ち、変革を自分事として考え実行できる「チェンジマネジメントファシリテーター」や「経営総務」を熟知したプロフェッショナルをインハウスに取り込むことが大切です。
今こそFMプロフェッショナルの出番です。
著者プロフィール
岡田大士郎 氏
日本興業銀行(現・みずほ銀行)において、ストラクチャードファイナンスなどの投資銀行業務や海外業務(ロンドンに勤務)、ならびに国際税務業務を20年にわたり経験後、ドイツ銀行グループでDirector, Head of Taxesとして国際税務統括の業務に従事。
2005年にスクウェア・エニックスに入社し、2007年まで米国Square Enix, Incの社長(COO)として米国事業に携わった後、2007年に本社に帰任。「組織風土並びに働き方改革」をミッションとして総務部長に就任。
その後、ミッションであるクリエイティブワークプレイスの構築を進め、2012年に本社スタジオの全面移転や2015年には大阪事業所の移転プロジェクトに関与。クリエイティブワークプレースダイナミクスの実践と、コンテンツ制作業務における価値創造支援を行う「場」作りに取り組んできた。
2018年3月にスクウェア・エニックスを退社後、一般社団法人ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアム並びに一般社団法人日本ライフシフトの理事として、幸福社会創造の活動に取り組んでいる。
2015年のJFMA優秀オフィス賞を受賞。
2014年1月より一般社団法人ファシリティ・オフィスサービスコンソーシアム(FOSC)の理事・東京支部長として総務人事FMの普及活動に取り組んでおり、2016年1月には副代表理事に就任。
また、ニューオフィスマネジメント研究会の参与として、総務ネットワークの拡大に取り組んでいる。
2017年11月には一般社団法人日本ライフシフト協会理事に就任。
■岡田大士郎のFM日記 http://blogs.yahoo.co.jp/daishiro_okada
■一般社団法人ファシリティ・オフィスサービスコンソーシアム(FOSC) http://www.fosc.jp/