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オフィス市場におけるBCP、その経緯と構築に向けた留意点

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2014年6月13日

震災前からBCP意識の高かった金融機関や外資系企業

事業継続計画、いわゆるBCPが、世の中で大きく注目され始めたのは、2004年に起こった新潟県中越地震がきっかけだったと言える。この地震では、自動車部品メーカーの現地工場が被災し、それにより部品の一部を調達できなくなった大手自動車メーカーが、完成車の製造を一時停止する事態となった。この時、サプライチェーンのバックアップ構築などBCPの重要性がクローズアップされた。とはいえ、当時は製造や物流などの分野でのBCPが話題の中心であり、一般のオフィスにBCPの考え方を取り入れようという動きはほとんど見られなかった。

2007年頃になると、金融機関を中心に、老朽化したビルから新築ビルへ、さらには、より事業継続を意識した耐震や電力供給面で信頼性の高いビルへと移転する動きが出始めた。弊社がBCPの観点を織り込みながらオフィス仲介を手がけるようになったのも、ちょうどこの頃であったと記憶している。背景には、行政から金融機関のBCPに関する指針が相次いで出されたことが挙げられるだろう。中央防災会議で決定された「首都直下地震対策大綱」において、決済機能を持つ金融機関は「重要な金融決済機能を当日中に復旧させる体制をとれるようにする」ことが明記された。また同時期、日本証券業協会が「会員の緊急時事業継続体制の整備に関するガイドライン」をまとめている。

国内では金融機関の動きが先行していたが、それ以上にBCPに対する意識が高かったのが、外資系企業である。例えば、2008年に弊社が仲介したある外資系企業の担当者は、機械室がビルの2階より上層にあることを移転の条件に挙げた。当時、機械室は地下にあるのが一般的で、また、日本企業からもそのような要望が出されたことはなく、担当した営業マンはかなり戸惑ったと聞いている。また、別の外資系企業のケースでは、担当者を港区のある大型ビルに案内したところ、はるか遠くの海岸線、しかもその間には幾重にも建物が建っているにもかかわらず、「津波が来たらこのビルはのみ込まれる」との理由から、担当者は首を縦に振らなかった。

どちらのケースも、東日本大震災を経験した今となっては、外資系企業のBCPに対する意識の高さがうかがえるエピソードである。他にも、ビルに電気を供給する発電所や変電所の位置、水道水の水源、土壌汚染の可能性、周辺の犯罪発生率、エリアの過去100年における災害履歴などの情報を仲介営業時に求められたケースもあった。

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「免震」や「制震」もさほど語られてはいなかった

では、オフィスにおけるBCPを構成する要素の1つである、ビルの耐震性についてのテナントの認識はどうだったであろうか。

新耐震基準が導入されたのが1981年。また1995年には阪神淡路大震災が発生し、建物の耐震性に対する関心が高まったものの、当時はまだ、オフィス仲介の現場で耐震性が話題に上ることはほとんどなかった。建物の耐震性をテナントが意識するようになったのは、物件に関する重要事項説明に変更が加えられた2006年以降のこと。この変更により、物件が新耐震基準を満たしているかどうかを、重要事項説明書に記載することが義務付けられた。

耐震性を気にする企業が増えたとはいえ、当時は何がなんでも新耐震でなければならないという空気にはならなかった。折しも2006年から2008年にかけては需給バランスが逼迫していった時期で、賃料高騰により旧耐震ビルでも賃料が安ければ借りたいというニーズが存在していた。免震や制震など耐震技術に対するテナント側の認識も低く、免震と制震の区別がつかない総務担当者も多かった。また、オーナー側も「免震」や「制震」がテナント誘致のための重要なキーワードであるとは意識しておらず、高機能な耐震性能を備えたビルであっても、募集用パンフレットにそれらを記載しないケースもあったほどである。

1995年の阪神淡路大震災、2004年の新潟県中越地震、2006年の重要事項説明の変更を経て、耐震性に関する認識は少しずつ広まってはきたものの、その浸透の広がりや深まりは緩やかだった。それに対して、東日本大震災後は、耐震性を求める機運が一気に広がったのはご承知の通りである。その違いは、政治・経済の中枢、主要企業の本社が集まる東京が被災したかどうか、という点が大きかったと思われる。2011年に東日本を襲った大震災は、東京にとってもはや「対岸の火事」と悠長に構えていられるものではなかった。非常時に備えて対策を取らなければ事業継続が危ぶまれるという東京の実体験は、国や企業の耐震性に対する意識を一変させ、さらに国や企業をBCP対策へと駆り立てていった。

震災後、注目されるようになった非常用発電機とハザードマップ

東日本大震災では東京でも建物がかなり揺れたために、震災後は旧耐震ビルから新耐震ビルへ、また新耐震ビルのなかでも安全性がより高いビルへとオフィス移転したり、所有する建物に耐震補強を施したりする企業が増えた。

耐震強化はもちろんだが、BCPの観点から一気にクローズアップされたのは、安定した電力供給の重要性である。たとえ免震ビルにオフィスを構え、什器の崩壊が少なかったとしても、電気の供給が止まれば事業を継続できないことに、多くの企業が気づいたのだ。震災前は、オフィス仲介の現場において、変電所の場所やビルの受電方式、バックアップ電源、非常用発電機の設置場所の有無などが話題になることはほとんどなかったが、震災後はテナントからこれらの点についてよく聞かれるようになった。その中でも特に非常用発電機の設置場所があるかどうかを気にする企業が増えた印象だ。一定グレード以上のビルには、このテナント用非発スペースが設けられていることが多いが、BCPに対する意識の低かった震災前、同スペースはほとんど活用されていなかった。ところが当時、複数のデベロッパーが口を揃えるには、「震災直後から非常用発電機設置の要望が殺到し、場所が足りなくなりそうだ」ということだった。

また、震災後は、オフィス立地を選択する際に、テナントがハザードマップを参照する機会が圧倒的に増えた。震災では新浦安(千葉)や新木場(東京)などの埋立地で液状化現象が起こり、液状化のリスクも立地選択における重要なチェック項目となった。それに伴い、ビルオーナーがテナントを募集する際に、ハザードマップを駆使して立地の安全性をアピールする例も見られるようになった。

例えば、豊洲で開発中のオフィスビルの説明会が先日行われたが、会場では何種類ものハザードマップがパネルで展示されていた。そこには液状化現象の予測はもちろん、豊洲エリアにかかる橋の耐震補強工事の有無や工事予定、万が一橋が崩落した場合にヘリコプターがホバリングできるスペース、避難用の船が着岸できる船着き場などが示されていた。

当該デベロッパーの担当者によると、「テナント企業がこれらの情報を要望する場合に備えて、用意できるものはすべて用意しておく」とのことだった。テナント側からすれば、物件に関して開示される資料や情報が以前よりも格段に増えたことは間違いないだろう。

BCP対策の実態には企業によってバラツキがある

こうして、震災後はオフィス移転に際して、耐震性やバックアップ電源などBCPに関する要素が必ず検討されるようになった。旧耐震レベルの建物は移転候補の対象外と考える企業も圧倒的に増えている。そもそも「BCP」という言葉を知らない総務担当者がいなくなったという点において、BCPに対する意識の高まりが感じられる。それに伴い、ビルオーナー側も、建物の免震・制震技術、バックアップ電源の有無や容量など、建物のBCP機能を積極的にアピールするようになった。

では、企業のBCP対策の実態はどうだろうか。先の震災を経験してBCP対策の重要性を認識するとともに、企業の総務担当者が気づいたことがもう1つある。それは、建物自体の安全性が高まっており、災害時にすぐに建物の外に避難するよりも、建物の中に留まることが最も安全な方法であるということだ。3.11の東京において、道路は渋滞で身動きが取れず、鉄道などの交通機関も軒並みストップしているのを見て、「むやみに外に出て右往左往するよりも、館内で待ったほうがよい。建物内で社員が2〜3日過ごせるための備えを持つことが大切」という考え方を持った人も多かったようだ。

そうなると、建物に滞在する間の電源ぐらいは欲しい、トイレや空調が使えたほうが安心であるし、パソコンも使えたほうがいい、ということになる。逆に言うと、多くの企業にとって、これらは「あったら安心」というレベルであり、絶対的な優先事項というほどでもない。BCPとは事業継続性であるのだが、少なくともオフィスビルに関しては、事業継続という面よりも施設の安全性や信頼性といった観点で語られることが多いと感じられる。その証拠に、前述のテナント用非常用発電機の設置場所について言えば、確かに設置を検討する企業は増えたものの、実際に設置するには想像以上にコストがかかるため、見送られるケースも多かった。そう考えると、最近のオフィスビルにおけるBCP機能の充実は、借り手側のニーズに直接応えたものというより、供給側がその機能をアピールするようになったという側面が強いのではないだろうか。企業のBCP対策への意識が高まったとはいえ、オフィスにおいて本格的に取り組む企業は、まだ少数派であるという印象である。

一方で、金融機関や外資系企業を中心に、本気でBCP対策を考える企業も確かに存在する。彼らは、建物の耐震性や発電容量などはBCP対策の一部と捉えており、建物の維持だけでBCP対策が完成するとは考えていない。その建物が使えなくなった場合にも、業務を継続できるバックアップ体制を確保することがBCP対策の本質である。

東京にある本社が機能不全に陥った場合、大阪や九州、さらには海外のオフィスが本社機能を担える体制の構築は、多くの企業が検討しただろう。加えて、金融機関の担当者からよく聞くのは、例えば本社が東京・丸の内に所在するとして、丸の内で爆弾テロが発生した場合にどうするかということ。丸の内エリアが立ち入り禁止になったとして、そのことで本社機能を遠く離れた大阪や九州に移すのはナンセンスである。この場合、本社から徒歩圏内の都内にバックアップ機能を持つことが、事業継続のためにはより有効だということになる。このようにBCP対策への意識の高い企業は、リスクを何層にも分けて対応を準備しているようである。

災害において自社が入居する建物だけが大丈夫でも、例えば近隣地域が液状化現象で被害に遭い、建物にアクセスできないという事態も起こり得る。BCP機能の優れたビルに入居することも大事だが、近隣エリアのハザードリスクを考慮することはもちろん、必要とあらばオフィス分散も選択肢として出てくるだろう。近年は、コスト削減や効率化、社内コミュニケーションの活性化の面からオフィスを集約する傾向が強まっていた。しかしながら、今後は都心部の賃料高騰も視野に入れ、フロントオフィスを都心部に、バックオフィスを郊外にという機能別再配置を実践する企業も増えてくるのではないだろうか。この流れを後押しする理由の1つに、拠点分散化によるBCP強化といったキーワードも付け加えられよう。さらに、震災時、離れ離れになった社員の安否確認に手間取ったことや、都心部への通勤が困難になったという経験から、災害時に強い安否確認システムを採用したり、衛星電話を各拠点に配備したり、在宅勤務等ワークスタイルの変革に取り組むといった流れも見受けられる。1拠点の安全性から、拠点分散・機能分散を念頭に置いた企業全体としての事業継続性の強化、そしてソフト面や働き方をも含め、さまざまな選択肢から自社のオフィスにおけるBCP対策を検討していただきたい。

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上記内容は オフィスジャパン誌 2014年夏季号 掲載記事 です。本ページへの転載時に一部加筆修正している場合がございます。

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