賃貸オフィスマーケット各プレイヤーに与える「環境規制対応」について
はじめに
2009年9月、政権交代後の鳩山由紀夫首相による「温暖化ガスの25%削減宣言」により、「環境対策」というキーワードがますます注目を集めるものとなりました。これまでの麻生政権の目標や、東京都の目標をも上回る国を挙げての宣言により、CO2の削減は、より多くの企業や個人に対して影響が出るものと考えられます。当社(シービー・リチャードエリス総合研究所、以下CBRE総研)は、賃貸オフィスビルを中心とした事業用不動産のコンサルティングを主な業務としていますが、ビルオーナー・テナント・投資家・PM会社等、オフィスマーケットをとりまく色々なプレイヤーの方から「環境対策」についてのお問い合わせを受けることも多くなりました。
本特集記事の第1回では「東京都環境確保条例」(以下、東京都条例)、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(以下、改正省エネ法)の施行により、オフィスビルにおける「CO2マネジメント」についての義務・責任が生じてくるということが整理されていました。ビルオーナー・テナント共に、CO2排出にかかるデータを細やかに、かつ正確に把握することの重要性が理解できました。
第1回のおさらいとして、とりわけ対応が必要とされている「東京都条例」と「改正省エネ法」についてのポイントを、【図表1】および【図表2】に、賃貸オフィスビルオーナー、テナントの観点からそれぞれまとめてみました。賃貸オフィスビルを対象として見た場合、東京都条例では大型ビルを所有するビルオーナー、またそれらのビルに入居するような大型テナントが対象企業として該当することになります。また、現時点では条例でエネルギー削減義務が定められているのは東京都のみですが、前述の「鳩山イニシアティブ」を受け、他都市で採用される可能性も否めません。
賃貸オフィスビルマーケット規模(CBRE総研調べ:2009年9月時点)で見ると東京都の約1,000万坪に対して大阪は300万坪、名古屋は100万坪のマーケット規模を有しており、日本全体でのCO2排出量規制を本気で考えるのであれば、近い将来、これらの都市ごとにルールが設定されてもおかしくはありません。当然、他都市で拠点を展開する大手企業等も改正省エネ法の対象には該当する可能性がありますし、他都市の使用面積は少なくても、東京でまとまった面積を賃借していれば、東京都条例の対象企業に該当する可能性もあります。複数都市で条例等による規制が本格化すれば、より多くの企業が規制対象として該当する可能性が高まります。
第2回となる本稿では、これらの法規制が実際のビルオーナー・テナントにとどまらず、主に賃貸オフィスマーケットにおける各プレイヤーに対してどのような影響を与えるのか、また各プレイヤーがどのようなことを想定して動かなければならないのかポイントを整理することにチャレンジしたいと思います。まずは次々ページ【図表3】に、総論的に各プレイヤーに求められる各環境規制法への対応・注意点をまとめてみました。
【図表1】 ビルオーナーサイドから見た改正省エネ法・東京都環境確保条例
東京都環境確保条例 | |||
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「エネルギーの使用の合理化に関する法律」 (改正省エネ法) |
都内大規模事業所を対象とした 「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」 |
中小規模事業所を対象とした 「地球温暖化対策報告書制度」 |
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対象となるビルオーナー |
所有・設置している全ての工場・事業所のエネルギー使用量の合計が原油換算で年間1,500kl以上のビル所有企業(個人) |
年間エネルギー使用量が1,500kl以上のビル(建物単位:隣接区画建物は1棟と見なす)所有企業(個人)➡「大規模事業所」該当ビル |
30kl以上1,500kl未満の事業所について合算した結果、年間エネルギー使用量が3,000kl以上となる複数ビル所有企業(個人) |
ビル規模の目安※ (概ねのビル規模) |
所有する複数ビルの延床面積が20,000~30,000㎡を有す場合は該当する可能性あり。賃貸ビルのみでなく、店舗・住宅等他用途物件を有す、あるいは賃借する企業も年間使用エネルギー1,500kl以上になると対象となる。 |
延床面積20,000~30,000㎡を有すビルは該当する可能性あり(同一事業者・エネルギー管理連動性を有す建物の合計・隣接建物に単棟で1,500kl以上使用建物を有す場合も合わせて報告対象ビルとなる)。 |
20,000㎡未満の建物を複数棟有し、総計40,000㎡以上有すビルオーナー企業は該当する可能性あり。 |
削減計画の期間・義務 |
2009年4月~2010年3月の1年間についてエネルギー使用量を把握。2010年4月以降、以下の義務が生じる。
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◎削減計画期間 以後、5年ごとの期間
◎削減義務率
◎削減義務の履行手段 |
各ビルの地球温暖化対策報告書の取りまとめ、提出を義務付け報告内容を公表する義務。 |
罰則 |
義務不履行の場合
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削減義務未達の場合、不足量を削減するよう措置命令 措置命令違反の場合
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義務不履行の場合
|
出所:東京都ホームページ・経済産業省資源エネルギー庁HPより抜粋・一部加工
※実際は原油換算で測定し、基準値を超える事業者が該当するため、面積での表示はあくまで目安となることにご注意ください。
【図表2】 ビルテナントサイドから見た改正省エネ法・東京都環境確保条例
東京都環境確保条例 | |||
---|---|---|---|
「エネルギーの使用の合理化に関する法律」 (改正省エネ法) |
都内大規模事業所を対象とした 「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」 |
中小規模事業所を対象とした 「地球温暖化対策報告書制度」 |
|
対象となるテナント企業 |
所有・設置(賃借)している全ての工場・事業所のエネルギー使用量の合計が原油換算で年間1,500kl以上の企業 |
◎年間エネルギー使用量が1,500kl以上のビルに入居する全てのテナント ◎上記ビルに入居し、面積5,000㎡以上を使用するテナント事業者または、1年間の電気使用量が600万kwh以上の事業者(特定テナント等事業者) |
30kl以上1,500kl未満の事業所について合算した結果、年間エネルギー使用量が3,000kl以上となる複数拠点賃借テナント |
テナント規模の目安※ (概ねのテナント賃借規模) |
賃借する拠点の延床面積が20,000~30,000 |
延床面積20,000~30,000㎡を有すビルに入居するテナントは該当する可能性あり。特に、その中でも5,000㎡程度を使用するテナントは特定テナント事業者となる可能性がある。 |
20,000㎡未満の賃借拠点を複数有し、総計40,000㎡以上賃借するテナントは対象となる可能性がある。 |
削減計画の期間・義務 |
2009年4月~2010年3月の1年間についてエネルギー使用量を把握。
平均1%のエネルギー消費原単位〈エネル |
◎大規模事業所該当ビル入居企業すべて
◎特定テナント事業者
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各事業所の地球温暖化対策報告書の取りまとめ、提出を義務付け報告内容を公表する義務。 |
罰則 |
義務不履行の場合
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義務不履行の場合
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出所:東京都ホームページ・経済産業省資源エネルギー庁HPより抜粋・一部加工
※実際は原油換算で測定し、基準値を超える事業者が該当するため、面積での表示はあくまで目安となることにご注意ください。
賃貸オフィスビルをとりまく主要なプレイヤーの整理
一般的に賃貸オフィスビルをとりまく主要なプレイヤーは下記図表のイメージで示されます(義務・対応の一部を示したもので、全てを網羅しているものではありませんのでご注意ください)。特に「改正省エネ法」、「東京都条例」は、ビルオーナー・テナントに大きな影響(対応・義務)を与えますが、例えばプロパティマネジメント会社(以下PM会社)・管理会社(以下BM会社)や、各設備メンテナンス会社は日々のオーナー・テナントとのやり取りの中で、環境規制に関連した対応を求められることも想定されます。また、仲介会社には、紹介するテナントが各規制対象企業かどうか、あるいは紹介するビルが規制対象かどうか等、ビル選定に際して新たな視点が加わってきます。また、投資家については投資ターゲットとなるオフィスビルが規制対象かどうかで、エネルギーマネジメントに対応しているか、クレジット購入の必要性があるか等、新たなリスクポイントが加わってきます。
このように、ビルオーナー・テナントのみではなく、とりまく主要なプレイヤーは少なからず法規制について見識を求められたり、あるいは実務対応を求められたりする機会が今後急速に増えてくる可能性があります。それぞれの視点で求められる対応を、定性的ではありますがポイントを整理してまとめてみます。
賃貸オフィスビルオーナーへの影響
1. 大型ビル・複数棟保有ビルオーナーとしての対応
エネルギー管理統括者・企画推進者の選任を行い、各ビルのエネルギー使用量を把握し、ビルオーナーとしての報告義務を果たす必要が出てきます。
また、東京都条例に該当する場合には、排出量削減目標をクリアできないときには他者の削減量の取得(各種クレジットの購入)を視野に入れて、中長期的なエネルギー削減計画を構築する必要があります。
2. 入居テナントが改正省エネ法対象の場合の対応
入居テナントが改正省エネ法対象企業の場合は、テナント専用部のエネルギー使用量を細かく算出し、テナントに報告する必要があります。空調・照明・OAコンセント等でそれぞれのエネルギー使用量を原油換算したうえで提供できれば、テナントサイドの報告書作成の際にも活用が可能です。
また、東京都条例に該当するテナント企業の場合でも、専用部ごとのエネルギー使用量の把握は不可欠であり、テナントサイドの省エネ意識を高めるためにも、どの部分でどの程度のCO2が排出されたのかが把握できれば、ビル側からの協力依頼も行いやすく、テナントサイドも対応がしやすくなります。
ビルとしてのエネルギー削減対策を策定し、テナントに対して協力体制を構築することも必要となってくるため、テナントサイドが協力しやすいエネルギー使用量の把握状況を整備することが重要となってきます。一部の大手ビルオーナー企業では、Web上でテナントへのエネルギー使用量等の情報を提供するサービスを行っている例も見られるようです。
ビルオーナーにとって環境規制への対応は、優良企業(大型企業・高い信用力を有す企業)を誘致するうえでも今後は非常に重要な項目となる可能性があります。特に、遵法性に関わってくるポイントでもあるため、ビルの信用力に直結することになります。
入居テナント企業への影響
1. すでに入居しているビルについて
改正省エネ法の特定事業者である場合には、エネルギー管理統括者・企画推進者の選任を行い、各事業所のエネルギー使用量を把握しておく必要があります。このため、事業所の規模の大小を問わず、入居しているビルオーナーから賃借部分のエネルギー使用量のデータを収集する必要があります。また、テナント努力によるエネルギー削減を判断するため、オーナー側設備・テナント側設備でのエネルギー使用量を分けて提示してもらうことが必要となります。
東京都条例により、東京都のオフィスビルに入居する場合には基本的には削減協力義務が生じるほか、5,000㎡以上を使用する場合等には、ビルオーナーに対して温暖化対策計画書を作成・提出し、対策を推進する義務が生じます。
2. 今後移転を検討するビルについて
改正省エネ法の事業者に該当する場合や、東京都において一定の面積を使用するオフィス拠点を有す場合には環境規制を受けることは確実です。移転先ビルを選定する要素として、テナントにとってランニングコスト削減にもつながる省エネ機器の導入はもとより、オーナー側から開示されるエネルギー関連の資料の充実や、オーナーサイドのエネルギー削減に対する意識の高さは、今後非常に重要なポイントとなると考えられます。エネルギーマネジメントがしっかりとなされているビルに入居することは、テナント事業者サイドに求められる各義務をクリアすることを強くサポートするものとなるためです。
このように考えると、一定規模以上のテナント事業者、または東京都にオフィス拠点を構える事業者にとって、エネルギーマネジメントがしっかりなされているかどうかという項目は、オフィス選定要件として重要度の高い項目として位置付けられます。【図表4】に当社にて2年に1度実施しているテナントアンケートの結果を一部掲載していますが、2005年の個人情報保護法施行以降、テナントサイドのセキュリティ対応がしっかりとなされているビルに対する人気が高まり、オフィス選定の際の要件に「セキュリティ対応」が挙げられるようになったことが分かります。同時期のように、今回の省エネ規制法の施行により、「オーナーサイドのエネルギーマネジメントの充実」がビル選定時の重要な要因になるものと推察されます。2008年時点ではまだ環境規制について大きなニュースとなっておらず、各テナント企業の意識は低水準ですが、2010年に行うテナントアンケートで環境対応に対しての重要度がどの程度まで高まるかが注目されます。
ちなみに、㈱ニッセイ基礎研究所が2009年10月に実施した「不動産市況アンケート」の中の、「環境規制が不動産投資に与える具体的な影響について」の回答結果【図表5】を見ると、過半数の回答者が、「投資において不動産の環境性能を的確に評価する必要性が高まる」と判断しています。また、次ページの投資家から見た環境規制についての対応でも述べていますが、環境規制強化は投資家にとってはリスクとしての要素が大きいことが同アンケート結果からも読み取れます。テナントも同様に、移転先ビルの環境性能を的確に評価することが、オフィス拠点決定の際の材料として大きな要素になってくるものと思われます。
環境規制強化が不動産投資に与える具体的な影響
仲介会社への影響
仲介会社は、テナント企業が改正省エネ法もしくは東京都条例の該当企業であるかどうか確認を行うと共に、紹介するビルあるいはビルオーナー企業が、改正省エネ法もしくは東京都条例の該当企業にあたるかどうかを把握し、オーナー・テナント双方に説明する必要性が生じると予想されます。将来的には重要説明事項の項目にも挙がってくる可能性もあると考えられます。
あるテナントが移転を行うことで、ビル事業者にとって新しい義務が生じたり、もしかしたら設備投資が必要になるかもしれません。例えば、築年数が経過したビルに改正省エネ法の対象企業が入居する場合には、ビルオーナー側に同テナントの専有部分のエネルギー計測対応が必要となります。その際にかかる手間や、計測のための設備機器・システムの導入等、コストが生じる可能性もあります。
また、改正省エネ法・東京都条例のいずれの対象にもならない企業を大手ビルオーナーのビルに紹介する際には、テナントサイドにとっては省エネに対する取り組みへの協力等、これまで入居していたビルではなかった作業が生じる可能性もあり、紹介ビル自体が、あるいはビルオーナー企業が環境規制の対象となっているかどうか事前に確認、把握し、必要となる対応をあらかじめテナントに伝える等の作業が必要となってくると考えられます。
今後は、テナント・オーナーに新たな対応義務が生じる可能性があることを伝えたうえで、各交渉をすすめていく必要性が高まると言えます。
また、ファシリティマネジメントの視点から見た場合には、エネルギー消費量・コスト削減を結びつけた、オフィス移転をきっかけとする各企業のエネルギーマネジメントの提案も、特に環境規制対象企業にとっては有効であると考えられます。
投資家への影響
不動産への投資リスクとして、東京都条例・改正省エネ法の施行により、投資対象となるビルの遵法制が保たれているかどうか、また小規模ビルであってもファンド物件に組み込まれることにより、同一事業者の所有ビルの1棟として、新たにエネルギー量の測定・入居テナントへのデータ開示・エネルギー量削減についての対応が必要とされる可能性も出てくることになります。
ビルとしての設備対応・管理体制の強化等は、実際にコストの発生を伴うものであり、エネルギーマネジメントにどこまで対応しているビルなのかを事前に見極めることが重要となります。
一方で売却を想定した場合には、エネルギーマネジメントに対応したビルであることを明確に示せることはリスクをクリアにすることから、購入を検討してもらいやすくなります。
また、東京都条例の対象となるビルにおいて、削減義務の達成ができない場合には、他のビル・企業で削減できた量をクレジットとして購入し補填することになります。ビルに省エネ対応の設備投資を行うか、または削減目標クレジットを購入するか、投資の観点から考えた環境規制対応のためのコストマネジメントも今後は必要となってくるのではないでしょうか。逆に、目標値を上回る削減量はストックできるため、クレジット売却を行うことで賃料収入以外の利益を確保することも可能となります。クレジットの相場を現状では明確に示すことは難しく、東京都条例の運用の中で決定していくものであることから、その市場規模については言及しがたい部分ですが、注目すべきポイントであることは間違いありません。
省エネ設備の導入は、不動産投資の観点から見た場合、これまではランニングコストの削減という観点でしか主なメリットが見出せませんでしたが、今後は遵法性の観点から必要不可欠な検討ポイントとなります。
PM・管理会社への影響
各規制についての知識・最新事例を研究し、遵法性の観点から適宜アドバイスを進めていく必要があります。
た、エネルギーコストマネジメントについてのレポート作成を、事業主である投資家やAM会社から、業務の中で求められてくる可能性もあります。
ファンド物件については、実際のビル運営はPM会社に委ねられます。つまり、環境規制対象ビルであれば、オーナーに代わって義務の遂行、テナントに対するエネルギー規制の各種取り組みサービスの提供・協力の要請等も行わねばなりません。
設備更新の提案についても環境対応の視点を十分に想定したうえで、各環境規制に対して対応可能であるような提案を行わねばなりません。環境規制に対応できていないビルを既にPM受託、または管理している場合には、早急にその遵法性について確認し、対応を行う必要があると言えます。
同様に、テナントに対してのリーシングマネジメント等を実施する場合にも、テナントに対して、そのテナントが入居することによって生じる義務を事前に伝え検討を行ってもらうよう努める必要が出てくる可能性があります。
ビル設備メーカー・業者への影響
ビジネスチャンスが最も広がる業界であり、具体的なCO2削減手段や消費量把握方法の実質的な提案者、情報発信者でもあります。特に環境対応規制の対象となるビルオーナー・テナントに対しては、早期の打診が望まれます。
一方で、規制の対象となるビルオーナー・テナントの意識は東京都以外ではやや希薄な印象も受けます。啓蒙活動を進めながら、各企業の持ち味を活かした省エネ対策の提案が展開されるものと考えられます。
また、啓蒙活動は、PM・管理会社等、普段よりビルのソフト・ハード面の管理運営を行っているプレイヤーに対しても有効と考えられます。時には、コラボレーションによりビルオーナーにとって最適なエネルギーマネジメント体制の構築を提案することも必要だと考えられます。
特に、東京都条例の大規模事業所については、優良特定地球温暖化対策事業所(トップレベル事業所)に認定されることにより、エネルギーの削減義務率 を1/2、3/4に減少することが可能であることから、コストパフォーマンスを考えながら、大規模ビルオーナー・PM会社に対してはより積極的な提案が望 まれます。
投資家への影響
ビジネスチャンスが最も広がる業界であり、具体的なCO2削減手段や消費量把握方法の実質的な提案者、情報発信者でもあります。特に環境対応規制の対象となるビルオーナー・テナントに対しては、早期の打診が望まれます。
一方で、規制の対象となるビルオーナー・テナントの意識は東京都以外ではやや希薄な印象も受けます。啓蒙活動を進めながら、各企業の持ち味を活かした省エネ対策の提案が展開されるものと考えられます。
また、啓蒙活動は、PM・管理会社等、普段よりビルのソフト・ハード面の管理運営を行っているプレイヤーに対しても有効と考えられます。時には、コラボレーションによりビルオーナーにとって最適なエネルギーマネジメント体制の構築を提案することも必要だと考えられます。
特に、東京都条例の大規模事業所については、優良特定地球温暖化対策事業所(トップレベル事業所)に認定されることにより、エネルギーの削減義務率を1/2、3/4に減少することが可能であることから、コストパフォーマンスを考えながら、大規模ビルオーナー・PM会社に対してはより積極的な提案が望まれます。
まとめ
「オフィスビルの環境対策第2回」として、今まさに対応が迫られている「改正省エネ法」、「東京都環境確保条例」について、賃貸オフィスビルを中心とした場合に関係するプレイヤーに対して、どのような影響が想定されるかまとめてみました。定性的な考え方にとどめた部分も多く、詳細部分についてはまとめ切れていないと思いますが、ビルの規模、またはテナントの規模に関わらず、環境規制に対しての対応を求められるべく、マーケットは急速に変化することは確かです。
これまで賃貸オフィスビルの「省エネ」は各テナント企業やビルオーナーにとって、エネルギーコストを下げるというコストメリットの名のもとで広がってきましたが、今回の環境規制の改正・実施により、コスト削減になろうが、コストアップになろうが、「遵法性」という名のもとに否応無く、賃貸オフィスビル事業に携わるすべてのプレイヤーが関わることになります。
今やらねばならないことは、各企業が今回の環境規制について情報を正しく理解、整理し、まずは自身のビルやオーナー、あるいはクライアントが規制に該当するか否かを見極めるという行動です。
現在、各都道府県市町村の中で、明確なCO2マネジメントのための法規制が施行されているのは東京都だけです。しかし、「鳩山イニシアティブ」による「温暖化ガスの25%削減宣言」が明確に打ち出された今、他道府県においても、同様のCO2削減のための条例が検討・施行されてもおかしくありません。特に、大阪・名古屋等のまとまった事務所拠点を有す都市においては今後の展開が注目されます。
各規制の施行により、遵法性・義務の観点から、各企業の対応は絶対的なものとなりますが、一方で、東京都条例と改正省エネ法の相違点(各報告書内容・書式・対応の流れ等)も見受けられ、エネルギー規制自体にも基準の統一が必要と考えられます。今後全国主要都市で条例化が検討されるような場合でも、一定の基本的な基準の設定がなければ、全国展開拠点を有する大手企業等については、複数パターンでのエネルギー計測・報告書の提出義務を負うことになり、企業活動にとって大きなマイナスになりかねません。共通した方針に従ってエネルギーマネジメントを行えば、各規制に対応できるような法整備が期待されます。詳細の考察はまたの機会に譲りますが、環境配慮型不動産(いわゆる、グリーンビルディング)であれば高いレベルで環境関連法規制をクリアしていることが分かるようにするなど、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)と環境関連法規制の連動等の対策も今後の課題であろうと思われます。
オフィスビルの評価から見た場合、エネルギーマネジメントは、これまでは、ランニングコスト(光熱費)が抑えられるという点、もしくは環境対応をしっかりと行っているという世間に良い企業イメージを与えるための戦略の一つという点においては評価されていました。直接的に賃料やテナント誘致力のアップにつながるものではなく、費用対効果が得られ難いものとして認識されてきました。
しかし、各環境規制が実際に運用されれば、エネルギーマネジメントがしっかり行われているビルについては、特に大型テナントを中心とする規制対象テナント企業にとって、大変魅力的なビルとして捉えられ、遵法性の確保・エネルギー削減の実現可能性を求めて人気を集めることもできると考えられます。中期的には、「エネルギーマネジメントへの対応」は、オフィス賃料の増減を左右する要素として、従来の「立地」、「規模」、「躯体・設備」や「管理・運営」といった要素と絡みながら、当たり前の比較評価項目となるのではないでしょうか。
執筆者紹介
シービー・リチャードエリス総合研究所株式会社
大阪支店 シニアコンサルタン
土橋 賢治 氏
1999年 ㈱生駒データサービスシステム(現CBRE総研)に配属。以降、小規 模ビルから大規模複合開発まで、オフィスビルを中心とする事業用不動産のマーケティング・開発コンセプト策定業務に従事。東京勤務を経て、現在は大阪を拠点に西日本エリアのプロジェクトを担当。いつか「オフィスビル100選」的な本を出版することが目標。