競争力あるREIT設立で、地方経済活性化の起爆剤となる
株式会社福岡リアルティ
代表取締役社長 松尾 正俊 氏
国内初の地方発J-REIT誕生
私どもは2005年6月、福岡リアルティを資産運用会社とする投資法人「福岡リート投資法人」を、J-REIT市場に上場させました。その最大の特徴といえるのが、福岡を中心とする九州地域に特化した、国内初となる地方発のREITだということです。
当ファンドの設立をひも解くと、その発端となったのは、数年前の福岡ドームの買収劇です。九州はオランダやオーストラリアといった国々に匹敵するGDP規模を持っており、人口も1000万人以上。その経済や商業の中心である福岡都市圏は、国内四大都市圏の中で人口成長率が最も高い活気溢れる街であり、しかも位置的には東京と上海のほぼ中間に位置するアジアのゲートウェイたるに相応しい地理的特性を持っています。こうした恵まれた経済力と地域特性を備えた都市であるにもかかわらず、そのスポーツインフラの中枢ともいえる福岡ドームが海外資本に買収されたことは、地域の経済界にとっても地元市民にとっても大きな衝撃でした。当時、リーマンブラザーズに在籍していた私は、同社のファイナンスを活用して福岡ドームを九州財界で買収するよう働きかけ、多くの地元大手企業のトップと会談していたのですが、実はその中で、地元に貢献できる不動産投資会社設立の構想が育ち始めたのです。いわば郷土愛が生んだREITといえるでしょう。
あまり知られていませんが、先にも述べた通り、福岡は経済のポテンシャルが高く、中長期的に見て不動産の需給バランスに優れていることから、安定したキャッシュフローが期待できるエリアです。このメリットを説明し、正当な評価を得られれば、公正なマーケットであるREITにおいて、十分、投資家の方々に利益を提供できると自負しています。
地元企業が一体となった取り組み
米国には、こうした地域特化型のREITは数多くあり、しかも高いパフォーマンスを発揮しています。不動産はもともとローカルなビジネスですから、地元に密着した優れた土地勘と情報収集力を持ち、市場環境を熟知した人間の方が地域にコミットしやすいのです。私どもはこれを「Act Local」と呼んでいます。
当ファンドのスポンサーには、九州最大のデベロッパーである福岡地所や、九州電力をはじめ、福岡銀行、西日本鉄道、西部ガス、九電工など錚々たる企業が名を連ねています。特に福岡地所とはパイプラインサポートを、九州電力とは物件情報提供に関する覚書を締結しています。こうした企業のサポートにより、地元で不動産に関連した課題を抱える人や企業にとって、その解決を手助けする身近な存在として、私どもの存在価値が高まっているといえるでしょう。
こうした「Act Local」に加えてもう一つ、当ファンドでは「Think Global」と名づけたグローバルスタンダードの投資理論や資本市場のトレンドなどを加味することで、投資主の利益の最大化を実現しようとしています。
設立当初、市場でどれだけの評価をいただけるか予想できなかったのですが、このところ続いていた東京への投資の一極集中から、この1~2年、大阪や名古屋など地方の大都市にも資本流入が起き始めた状況に加え、東京近郊物件を中心とする既存REITへのリスクヘッジの観点から、おかげさまで、国内だけでなく、特に海外の投資家の方々から、地域特化型REITに対して高い評価をいただいています。その意味では、目論見書などで繰り返し訴えてきた、福岡を中心とした九州の地域特性やポテンシャルを、十分に理解していただけたと思っています。
地域密着が可能にした経営戦略
次に、当ファンドの経営戦略についてお話しましょう。今回の上場に向け、福岡地所が所有していた国内最大級のエンターテインメント型商業施設である「キャナルシティ博多」、九州最大級のスーパーリージョナルモールである「パークプレイス大分」に、九州最大手のSMチェーン、サンリブから購入した「サンリブシティ小倉」を加えた三つの商業施設と、「キャナルシティ・ビジネスセンタービル」、「呉服町ビジネスセンター」という二つのオフィスビルの計5物件を取得しました。上場当初ということもあり、最初はわかりやすい、地域でも1・2を争う競争力のある物件をそろえようという戦略に立っての決断でした。これが可能となったのも、スポンサーを含めた地元でのネットワークの賜物だと思います。
現在のポートフォリオを見ると、全体の67.8%を商業施設が占め、残り32.2%をオフィスビルで構成していますが、今後はこれらを中心としながらも、ホテル、物流、公共施設や住宅などの施設も視野に入れていく考えです。規模についても、これまでの都心繁華街の大型店舗であるアーバン型や、郊外の大型モールを中心としたリージョナル型に加え、生活に密着したコミュニティ型のカテゴリーに入る、10億円からのロードサイドモールにも力を入れていく予定です。この規模のモールは、全国的に見ると集客力の面が懸念されがちですが、車社会である九州では、テナント構成や配置に考慮したクオリティの高い施設であれば、競争力の高い施設に仕上げる余地は十分にあります。敷地面積で数千坪、駐車台数数百台レベルのこうした施設は、仮にテナントが悪くなっても入れ替えが可能で、時代に応じた競争力が維持できる点でも優れているわけです。こうした案件を展開していくのも戦略の一つでしょう。
外部成長としては、このような戦略に基づき、今後3年間で2倍、つまり総資産で1600億円程度まで拡大していきたいと思っています。
また、内部成長については、一般的に賃料を上げるか経費を抑えるかしかないといわれていますが、商業施設ではイベント運営やテナントリーシングが重要であり、単純に経費を削減すればいいというわけにはいきません。反面、商業施設は景気変動による影響が大きいですから、景気が上向き、売上がアップすれば、賃料もそれに合わせて上昇するという仕組みは、収益性を考えた場合おもしろい。もちろんリスクとの兼ね合いを考慮してですが、現在18.9%のテナントに採用している変動賃料を、今後、さらに積極的に活用していこうと考えています。
こうした仕組みも、地元に根づいて市場動向やトレンドを熟知しているからこそ、柔軟かつ的確に組み込めるものであり、その点も地域密着を旨とする私どもの強みといえるでしょう。
地方活性化の尖兵を目指す
最後にもう一つ、地域特化型REITの特徴的な取り組みとしてご紹介したいのが、サンリブとの連携です。同社は、福岡、大分など九州一円で167の店舗を運営するトップクラスのスーパーチェーンで、単体でも約1700億円、グループ全体では約2800億円の売上高を誇っています。歴史のある企業なので、ロケーションのいいところに小さな店舗を所有しているのですが、時流の影響から全国チェーンに対抗する大型店舗の展開が必要になってきました。しかし、それを行うには、自社への銀行ファイナンスだけでは限界があります。そこで私どもがバランスシートのパートナーとして、同社が建てた物件を購入してリースバックしました。それが「サンリブシティ小倉」です。こうした取り組みは、優良物件を取得できる当ファンドにとってはもちろん、地元企業であるサンリブの発展にも寄与する、地元ならではのスキームだと思います。
繰り返しになりますが、地域に根づくということは、その地の市場や立地を熟知しているということであり、それが強みとなります。その強みを活かすことで、パートナー企業のバランスシートの改善や、会社の格付けアップなど、経営の改善にも寄与できるわけです。今後は地元企業だけでなく、全国チェーン店の九州における店舗展開にもこうしたスキームを応用していくことで、九州全体の経済活性化にも貢献していきたいと考えています。
また、私どもが不動産関連企業の出口戦略の一つになることで、銀行からの借り入れもしやすくなり、結果的に開発が活発になるという効果も期待できます。それによって人口がさらに増加し、経済全体が活性化する。まさに今、東京で起こっていることが地方でも起こり得るのです。
当ファンドは、これまで地方で活かされなかったこうしたスキームを導入し、地方と資本市場を繋ぐ役割を果たそうとしています。この試みの成功を目の当たりにすれば、他の地域でも同じようなコンセプトで、REITを立ちあげる動きが出てくるでしょう。それにより不動産の流動化が進み、ひいては日本経済の再生に繋がることが、私どもの願いでもあるのです。